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本編
第二十一話 プレゼントのお披露目?
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「ししし、信吾さんっ、あ、あのさ、お風呂、入ってきて良いよ? 出来ることならゆっくりして欲しいな……あ、朝まで入っててくれても良いぐらいだけどっ」
きっと忘れていてくれると期待していたんだけどな、朝に話していたことなんて。なのに信吾さんってばシッカリと覚えていた……うん、みゅうさんが私にくれたお祝いのこと。帰ってくる途中で夕飯を食べて自宅に戻った時にニッコリと笑って言ったのだ。
「ここを出る前に言っていたお祝いの品とやら、着て見せてくれるんだよな?」
「え……本当に見たいの?」
「当然だろ」
と、当然なの?
「あのさ、だいたい想像はついているんだよね?」
「ああ、だいたいはな」
「だったらさ、その想像だけで満足しておいて貰えないかなあってお願いするのはダメ?」
「駄目に決まってるだろ」
即答されちゃった。やっぱり見せなきゃいけないの? そりゃ素敵なプレゼントだってことは分かってる。凄く綺麗なデザインだったし肌触りもとっても良かった。だけどそれを自分が着るとなると、かなり勇気を要するのですよ、信吾さん。
クローゼットの奥深くにしまい込んだものを引っ張り出して唸ってしまう。
スリットの入ったナイティの方はちゃんとチェストに片付けてあるんだよね、あれはあれで着るのが勇気要りそうだけど。だけど問題はこのベビードールの方。デザインはそんな過激なモノじゃないんだけどなあ……ただすけすけですよ、ってだけで。
信吾さんが戻ってくるまでに折りたたんだバスタオルに挟んで見えないようにする。お風呂入って、それからこれを着て……ねえ、本当に着なきゃダメ?!
「こ、こういう時こそお酒の力が必要なんじゃないかな……」
「酒?」
「わあっ」
信吾さんがタオルで髪の毛を拭きながら部屋に戻ってきた。
「は、はやいねっ?!」
「は? ゆっくり入ってこいって言ったから三十分も風呂にいたんだぞ?」
憤慨したように言うと壁にかかった時計を指した。あ、本当だ、そんなに時間経ってる。
「えっと、じゃあ、私、お風呂入ってくる……」
「どうぞ?」
手にしたパジャマとちょっと不自然に膨らんでいるバスタオルを見てニヤニヤ笑ってる。……絶対に何かって察しがついているよね?! なんでそれだけで満足してくれないかな? お風呂場で服を脱ぎながらブツブツ。そして湯船につかってもそのブツブツは続いた。
いつもより丁寧にお化粧も落として、髪も丹念に洗って、体も隅々まで洗って……だけどずっとお風呂に閉じこもっているわけにはいかないよね。そのうち焦れた信吾さんが入ってきそうだし。
覚悟を決めてお風呂から出ると、みゅうさんがくれたものを身につける。肌触りは最高。着てみると恥ずかしさはあるものの、すごく女らしい気持ちになれることを発見した。だけどやっぱり恥ずかしいので上からパジャマを着こむ。なんだかモコモコになっちゃった。
寝室をそっと覗き込むと信吾さんはベッドの上に座って本を読んでいる。こちらの気配を察したのか顔を上げてニッコリ笑った。部屋に入った私がベッド横の鏡の前で化粧水をパタパタと肌につけているのをチラチラと眺めつつ、手元の本に目を向けている。
「何の本?」
「夫が妻を喜ばせる十のテクニック」
「?! 冗談じゃなくて?」
「ほら」
本を持ち上げて表紙を見せてくれた。本当だ。何でそんな本を信吾さんが持ってるの?
「俺が買ったわけじゃないぞ? 同僚がくれたモノの中に入ってたんだ。ずっと一人身でいたから忘れているんじゃないのかって心配してくれたらしい」
「……そんな心配、必要無いと思うんだけど」
「まあ話のネタとして読んでおいて損は無いだろ?」
「面白い?」
「んー、そうだな、なかなか奥が深い、色々な意味で。で? 見せたいものはそのパジャマじゃないよな?」
きたぁ……ついに来たよ……。
「うん……下に着てるよ?」
「こっちに来い」
自分の横をポンポンと叩いた。ベッドに横に立ってはみたものの何だか恥ずかしいね。
「俺に脱がして欲しいのか? それとも自分で脱ぐのか?」
「えっとー……自分で脱ぐよ……うん。あの、笑わないでね?」
パジャマのボタンをのろのろと外して脱いだ。信吾さんがヒュウって口笛を鳴らす。
「それ、下もあるのか?」
「……うん」
指で脱げって指図しないで欲しいよ。それが分かる私も私だけどさ。ズボンを脱ぐと、信吾さんの視線が上から下まで這うようにして動くのを感じた。は、恥ずかしいよお……。
「なるほど。これはなかなか……」
「変じゃない?」
「変? どうしてそんな発想になるのか分からないが、全然変じゃないぞ? こういうのをセクシーって言うんだろうな」
「よかった、似合わなくて変だと思われたらどうしようかって心配だったの」
信吾さんの言葉に気をよくしてベッドにあがると隣に座った。
「……奈緒それは無いだろ」
「なに?」
「せっかくセクシーだって褒めているのに隣で座るとか、しかも正座って一体どういうつもりだ」
「え……そんなこと言われてもどんな座り方すれば良いかなんて分からないよ」
そんな私の腰をつかんだ信吾さんは、私を自分と向き合うように体の向きを変えさせてから膝に跨らせるようにして座らせた。
「断然こっちの方がいい」
満足げに言うとレースの縁取りを楽しそうに触っている。
「えっと……信吾さん、なんだか元気そうだね……、その子も」
私の足の間でズボンを押し上げている“その子”。そのうち名前がつくんじゃないかって密かに思ってる信吾さんの分身。
「そりゃ自分の妻がそんなセクシーな格好をして膝に乗ってくれていれば喜んで元気にもなるさ」
「そお?」
「ま、俺はその下のものを触るほうが楽しいがな」
首筋の脈打つ場所を手が撫でていく。ゴツゴツしていて普段は武器を持つ手も私を触るときは凄く優しい。もっと触って欲しくて頬を掌に擦り付けた。
「だけど脱がせるのが勿体無いよな、これ」
「気に入ってくれて良かった」
唇が合わさると寝室は衣擦れと時々漏れる吐息だけになった。セクシーだって褒めてもらって気を良くしている私は今夜はちょっとだけ大胆な気分になれそう。信吾さんのパジャマのボタンを外してはだけると、その鎖骨の辺りに唇をよせてきつく吸ってみる。
「痕、つくかな」
顔を上げて自分が吸ったとこを首を傾げながら見詰めた。なんとなく紅くなった? いつもは信吾さんがマーキングするけど今夜は私がつけてみる。
「なんだ、今夜は攻守逆転な気分なのか?」
「ちょっとだけ大胆な気分になれるの、これ着てると」
「じゃあ、その調子で続けてくれ。自衛隊は専守防衛がモットーだから」
そう言われて再び信吾さんの体に唇を這わせたり吸ったりする。いつもどうしてたかな、あ、そうだ、胸の先端とか噛んだりしてくるよね、あれっと男の人にしても気持ち良いかな? そんなことを思いながらそっと舌を這わせて軽く噛んでみた。腹筋の辺りがピクッてなったってことは気持ち良いってことだよね?
そんな反応に嬉しくなってベッドに押し倒すと更に下へと舌を這わせていく。お風呂から出たばかりで石鹸の匂いがつよいけど、その中に私の大好きな信吾さん独特の匂いが混じっているのが分かった。
「一体いつそんなこと覚えたんだ?」
あ、信吾さんの息がちょっと乱れてる。それって私のせい?
「いつも信吾さんが私にしていることだよ? それを真似しているだけ」
「へえ、覚えの良い生徒だな」
「そりゃ三ヶ月の学習期間がありましたから」
そして辿り着いたのはズボンのところ。ウエストのゴムのところに手をかけると、脱がせやすいような腰を浮かせてくれたので、ズボンとトランクスをいっぺんに脱がせちゃいました。こんな私でも大胆になれるなんてベビードールの威力って凄い。そして現れたのは分身君。三ヶ月ものあいだ愛し合ってるけど、こんな間近でまじまじと見たのは初めてかもしれない。
「そいつを可愛がってくれるのか?」
まじまじとその子を見詰めている私の顔を見て信吾さんは可笑しそうに笑いながら尋ねきた。
「……うん、頑張る」
「嫌なら無理しなくて良いんだぞ?」
こんなに脈打っている状態なのにまだそんな風に私のことを気遣ってくれているなんて、本当に信吾さんってば大人の余裕っていうか優しいよね。だからこそ今夜は私も信吾さんのことをちゃん愛してあげたいって思うんだ。一応ね、ネットとか本で予習はしてきたんだよ? 上手く出来るかどうかは分かんないけど。
「今日はね、大胆な気分なの。だからさせて?」
「……分かった、奈緒の好きなようにしてみろ」
お許しが出たので再開。えっと先ずは手で優しく、だよね? 漫画であったみたいに指先を根元から先端へ走らせてから、そっと握ってゆっくりと手を上下に動かすと信吾さんが笑った。あれ? 違うの? 私なにか間違えちゃった?
「奈緒、お前、俺を殺す気だな?」
「え、痛かった?」
「いや、触っただけなのにそんなに気持ち良いのは初めてってことだ」
「そうなの? じゃあ……」
先端にキスをして舌を這わせてみる。呻き声が漏れた。
「これは?」
「なるほど、自覚の無い床上手ってやつだったんだな、奈緒は」
「トコジョウズ?」
「とにかく凄いってことだよ」
「そーなの? よーし、頑張っちゃうからね。 私に任せて信吾さんは楽にしててくれれば良いから♪」
「お、おいおい、うわっ」
えーっと、たしかアイスクリームを舐める要領でとか書いてあったっけ?などと頭の中で考えつつ、普段とは違う信吾さんの反応が楽しくてついつい夢中になっちゃった。全部を口に入れるのはどう頑張っても無理みたいだったから、入り切らなかった根元の方は、信吾さんが私の時にするのを思い浮かべながら念入りに舌を這わせて、再び口に先端を含む。
どのくらいそんなふうに口に入れて愛撫していたのか分からないけど急に信吾さんが私の頭を掴んで腰を動かしてきた。苦しかったけどそのまま信吾さんのものを口に含み続ける。
「ったく、何処でそんなテクを身につけたんだ、奈緒のことを良く知らなかったら浮気を疑うところだぞ?」
「んふふっ」
「笑うなっ……っ!!」
次の瞬間、口の中に苦いものが広がった。信吾さんは慌てて自分のものを引き抜くとティッシュを取って私に差し出した。
「吐き出せ」
「んっ……あ……」
……飲んじゃった。飲み込むつもりなかったのに。しばらく二人で見詰め合ってしまった。
「……不味い、よ?」
「そりゃ、それは飲むためのものじゃないから……」
「そっか……じゃあ次からは気を」
つけるねって言おうとしたら引っ張りあげられてキスをされた。
「最初から無茶して。もう飲んだりするなよ?」
「うん、もう飲まない」
だって不味いんだもんと呟くとキスの合間に笑い声が漏れる。いくら大好きな信吾さんのものでも不味いものは不味いの! 笑わないでよね。
「しかし自分が守りに入るのは性に合わないってことが今のでよーく分かった。当分は無しだ」
「もしかして、よくなかった?」
「よくないどころかよすぎて困る。癖になりそうだ」
「だったら……」
「駄目だ」
そう言って私からシルクを剥ぎ取る。そして胸元にキスをされた。
「まあ痕をつけてくれたのは嬉しいから、それはまた頼むかもしれないが」
「そーなの?」
「だか今は俺がつける番」
くるりと体が入れ替わり、信吾さんが私を見下ろしている。
「やっぱりこっちの方が落ち着く」
「楽しんでくれたと思ったのにぃ……」
「楽しんださ。まさか奈緒より先にいかされるとは思ってなかったけどな。しかも口の中にとは。最初は外に出すつもりだったのに間に合わなかった」
いや参ったと呟きながら次々と痕をつけていく。その後は私が信吾さんにしたことをたっぷりと利息をつけて返されてしまった。やっぱりほどほどにしておかないと後の反撃が怖いと思い知ったゴールデンウィーク最後の夜でした。
+++++
私達がこんな感じで、みゅうさん曰くゲロ甘な新婚生活を満喫している頃、お父さんの周辺では大変なことになっていたみたい。
最初は政治資金規正法絡みと思われていた捜査が、贈収賄と外国企業との癒着問題へと発展していた。そして、その頃からテレビのワイドショーでしきりと“外患誘致罪”か“内乱罪”かという話題が上がり始めるようになった。私もそれを見てネットで調べて、こんな罪ってあるんだと震え上がったクチ。
私のことに関しては、それまで片倉の家で居場所がないような生活を送っていたことと高校卒業後に家を出されていたこともあって、少なくとも表向きには話題に上ることはなかった。
ただ何度か法務省の人が自宅を訪れてはいたけど、その時はかならず重光先生か先生のお知り合いの弁護士さんが同席してくれていたのでとても心強かった。その辺りも法務大臣の伊勢谷先生と重光先生との間で連絡が頻繁に取られていたみたいで、訪れた調査官の人達も事実確認をするだけというのが殆どだった。
ただ私のことは良いとして、今回の事件で信吾さんが困ったことにならなければ良いんだけどって私はそっちの方のが心配だったんだよね。信吾さん本人はまったく心配している様子はなかったけど。
「本当に大丈夫?」
ある日、思い切ってその話を切り出した。詳しくは聞いていなかったけど信吾さんが所属している部隊というのは比較的最近に設立された部隊で対テロ作戦を任務とする部隊なんだそうだ。そんな部署にいる隊員の妻の実家が外患誘致罪で告発されるだなんて洒落にならないよ。
「この話が法務省から打診されてきた時に陸自の幕僚本部で検討されたが、ウチでは問題無しと判断された。奈緒は片倉とは既に無関係というのが公式見解だ」
「それも、重光先生のお陰?」
「そういことになるかな。それに俺と結婚して今はもう森永の人間だし、実際あっちとは全く連絡とってないだろ?」
あの日に緒方って秘書が連絡してきた以外には?と信吾さんが付け加える。
「そりゃそうだけど……」
「もちろん身上調査はされていると考えなければならないが、調べられて何か不都合なことでもあるか?」
「ううん、何もないと思うよ? 敢えて言うなら、信吾さんをお持ち帰りしたことぐらいだし」
信吾さんがそれを聞いて笑った。これまで派手に遊びまわったこともないし、勉強ばかりしていた精神的引き篭もりな状態が幸いしたって感じ。もちろん重光先生や甲府のお爺ちゃん達の働きかけもあるんだろうけど。
「縁を切ったとはいえ片倉は奈緒の父親だ。しばらくこの話は出続けることになるが、見届ける覚悟はあるか? 辛いならそれなりに対処するが」
「対処?」
「米軍から打診があってな、誰かあちらで対テロ作戦のノウハウを学ばないかという話が出ている。もし奈緒が父親の件を見続けるのが辛いなら、しばらくアメリカに行くという選択もあるということだ。そうなれば学校は休学しなければならないけどな」
つまり、しばらく二人で日本を離れることも可能だってことみたい。
「……その話は信吾さんに対する辞令なの?」
「いや。今の時点ではあくまでも米軍からのお誘いってところ。誰かが行くにしてもまだ正式に決まったわけじゃない」
「私は別に辛くないよ? 前に言ったよね、どこか他人事に感じるって。私とお父さんってそんな感じなの。だからそんなに心配しなくても良いよ? ほら、新聞社とかが大挙して大学に押し寄せるとかそういうのがあると困るんだけどね」
今のところその気配もないし私の私生活はいたって静穏。騒がしくなるのはみゅうさんが学校で騒いでいる時と信吾さんとベッドの中にいる時ぐらいじゃないかなあ。
「あ、もし信吾さんがアメリカに行きたいなら遠慮なくそう言って? ただし、学校のことがあるから一緒には行ってあげられないと思うけど」
「俺はそういう面倒なことは全部、下の連中に押し付けるから心配するな」
頭をくしゃくしゃと撫でられた。離れるのはちょっと寂しいかもって一瞬だけ考えたのが伝わっちゃったのかな。
「……私生活ではそんなことないのに、仕事では何気に物ぐさだよね信吾さんってさ」
「せっかくここまで昇任したんだ、使えるものは使って楽しないと。何の為に偉くなったか分からないだろ?」
「えー……なんだかそれって信吾さんの下にいる人が可哀相な気が……」
「良いんだよ、そいつらも偉くなれば同じ事をするから」
なんだか自衛隊っていうところも実は普通の会社と大差ないんじゃないかって思った瞬間だった。
きっと忘れていてくれると期待していたんだけどな、朝に話していたことなんて。なのに信吾さんってばシッカリと覚えていた……うん、みゅうさんが私にくれたお祝いのこと。帰ってくる途中で夕飯を食べて自宅に戻った時にニッコリと笑って言ったのだ。
「ここを出る前に言っていたお祝いの品とやら、着て見せてくれるんだよな?」
「え……本当に見たいの?」
「当然だろ」
と、当然なの?
「あのさ、だいたい想像はついているんだよね?」
「ああ、だいたいはな」
「だったらさ、その想像だけで満足しておいて貰えないかなあってお願いするのはダメ?」
「駄目に決まってるだろ」
即答されちゃった。やっぱり見せなきゃいけないの? そりゃ素敵なプレゼントだってことは分かってる。凄く綺麗なデザインだったし肌触りもとっても良かった。だけどそれを自分が着るとなると、かなり勇気を要するのですよ、信吾さん。
クローゼットの奥深くにしまい込んだものを引っ張り出して唸ってしまう。
スリットの入ったナイティの方はちゃんとチェストに片付けてあるんだよね、あれはあれで着るのが勇気要りそうだけど。だけど問題はこのベビードールの方。デザインはそんな過激なモノじゃないんだけどなあ……ただすけすけですよ、ってだけで。
信吾さんが戻ってくるまでに折りたたんだバスタオルに挟んで見えないようにする。お風呂入って、それからこれを着て……ねえ、本当に着なきゃダメ?!
「こ、こういう時こそお酒の力が必要なんじゃないかな……」
「酒?」
「わあっ」
信吾さんがタオルで髪の毛を拭きながら部屋に戻ってきた。
「は、はやいねっ?!」
「は? ゆっくり入ってこいって言ったから三十分も風呂にいたんだぞ?」
憤慨したように言うと壁にかかった時計を指した。あ、本当だ、そんなに時間経ってる。
「えっと、じゃあ、私、お風呂入ってくる……」
「どうぞ?」
手にしたパジャマとちょっと不自然に膨らんでいるバスタオルを見てニヤニヤ笑ってる。……絶対に何かって察しがついているよね?! なんでそれだけで満足してくれないかな? お風呂場で服を脱ぎながらブツブツ。そして湯船につかってもそのブツブツは続いた。
いつもより丁寧にお化粧も落として、髪も丹念に洗って、体も隅々まで洗って……だけどずっとお風呂に閉じこもっているわけにはいかないよね。そのうち焦れた信吾さんが入ってきそうだし。
覚悟を決めてお風呂から出ると、みゅうさんがくれたものを身につける。肌触りは最高。着てみると恥ずかしさはあるものの、すごく女らしい気持ちになれることを発見した。だけどやっぱり恥ずかしいので上からパジャマを着こむ。なんだかモコモコになっちゃった。
寝室をそっと覗き込むと信吾さんはベッドの上に座って本を読んでいる。こちらの気配を察したのか顔を上げてニッコリ笑った。部屋に入った私がベッド横の鏡の前で化粧水をパタパタと肌につけているのをチラチラと眺めつつ、手元の本に目を向けている。
「何の本?」
「夫が妻を喜ばせる十のテクニック」
「?! 冗談じゃなくて?」
「ほら」
本を持ち上げて表紙を見せてくれた。本当だ。何でそんな本を信吾さんが持ってるの?
「俺が買ったわけじゃないぞ? 同僚がくれたモノの中に入ってたんだ。ずっと一人身でいたから忘れているんじゃないのかって心配してくれたらしい」
「……そんな心配、必要無いと思うんだけど」
「まあ話のネタとして読んでおいて損は無いだろ?」
「面白い?」
「んー、そうだな、なかなか奥が深い、色々な意味で。で? 見せたいものはそのパジャマじゃないよな?」
きたぁ……ついに来たよ……。
「うん……下に着てるよ?」
「こっちに来い」
自分の横をポンポンと叩いた。ベッドに横に立ってはみたものの何だか恥ずかしいね。
「俺に脱がして欲しいのか? それとも自分で脱ぐのか?」
「えっとー……自分で脱ぐよ……うん。あの、笑わないでね?」
パジャマのボタンをのろのろと外して脱いだ。信吾さんがヒュウって口笛を鳴らす。
「それ、下もあるのか?」
「……うん」
指で脱げって指図しないで欲しいよ。それが分かる私も私だけどさ。ズボンを脱ぐと、信吾さんの視線が上から下まで這うようにして動くのを感じた。は、恥ずかしいよお……。
「なるほど。これはなかなか……」
「変じゃない?」
「変? どうしてそんな発想になるのか分からないが、全然変じゃないぞ? こういうのをセクシーって言うんだろうな」
「よかった、似合わなくて変だと思われたらどうしようかって心配だったの」
信吾さんの言葉に気をよくしてベッドにあがると隣に座った。
「……奈緒それは無いだろ」
「なに?」
「せっかくセクシーだって褒めているのに隣で座るとか、しかも正座って一体どういうつもりだ」
「え……そんなこと言われてもどんな座り方すれば良いかなんて分からないよ」
そんな私の腰をつかんだ信吾さんは、私を自分と向き合うように体の向きを変えさせてから膝に跨らせるようにして座らせた。
「断然こっちの方がいい」
満足げに言うとレースの縁取りを楽しそうに触っている。
「えっと……信吾さん、なんだか元気そうだね……、その子も」
私の足の間でズボンを押し上げている“その子”。そのうち名前がつくんじゃないかって密かに思ってる信吾さんの分身。
「そりゃ自分の妻がそんなセクシーな格好をして膝に乗ってくれていれば喜んで元気にもなるさ」
「そお?」
「ま、俺はその下のものを触るほうが楽しいがな」
首筋の脈打つ場所を手が撫でていく。ゴツゴツしていて普段は武器を持つ手も私を触るときは凄く優しい。もっと触って欲しくて頬を掌に擦り付けた。
「だけど脱がせるのが勿体無いよな、これ」
「気に入ってくれて良かった」
唇が合わさると寝室は衣擦れと時々漏れる吐息だけになった。セクシーだって褒めてもらって気を良くしている私は今夜はちょっとだけ大胆な気分になれそう。信吾さんのパジャマのボタンを外してはだけると、その鎖骨の辺りに唇をよせてきつく吸ってみる。
「痕、つくかな」
顔を上げて自分が吸ったとこを首を傾げながら見詰めた。なんとなく紅くなった? いつもは信吾さんがマーキングするけど今夜は私がつけてみる。
「なんだ、今夜は攻守逆転な気分なのか?」
「ちょっとだけ大胆な気分になれるの、これ着てると」
「じゃあ、その調子で続けてくれ。自衛隊は専守防衛がモットーだから」
そう言われて再び信吾さんの体に唇を這わせたり吸ったりする。いつもどうしてたかな、あ、そうだ、胸の先端とか噛んだりしてくるよね、あれっと男の人にしても気持ち良いかな? そんなことを思いながらそっと舌を這わせて軽く噛んでみた。腹筋の辺りがピクッてなったってことは気持ち良いってことだよね?
そんな反応に嬉しくなってベッドに押し倒すと更に下へと舌を這わせていく。お風呂から出たばかりで石鹸の匂いがつよいけど、その中に私の大好きな信吾さん独特の匂いが混じっているのが分かった。
「一体いつそんなこと覚えたんだ?」
あ、信吾さんの息がちょっと乱れてる。それって私のせい?
「いつも信吾さんが私にしていることだよ? それを真似しているだけ」
「へえ、覚えの良い生徒だな」
「そりゃ三ヶ月の学習期間がありましたから」
そして辿り着いたのはズボンのところ。ウエストのゴムのところに手をかけると、脱がせやすいような腰を浮かせてくれたので、ズボンとトランクスをいっぺんに脱がせちゃいました。こんな私でも大胆になれるなんてベビードールの威力って凄い。そして現れたのは分身君。三ヶ月ものあいだ愛し合ってるけど、こんな間近でまじまじと見たのは初めてかもしれない。
「そいつを可愛がってくれるのか?」
まじまじとその子を見詰めている私の顔を見て信吾さんは可笑しそうに笑いながら尋ねきた。
「……うん、頑張る」
「嫌なら無理しなくて良いんだぞ?」
こんなに脈打っている状態なのにまだそんな風に私のことを気遣ってくれているなんて、本当に信吾さんってば大人の余裕っていうか優しいよね。だからこそ今夜は私も信吾さんのことをちゃん愛してあげたいって思うんだ。一応ね、ネットとか本で予習はしてきたんだよ? 上手く出来るかどうかは分かんないけど。
「今日はね、大胆な気分なの。だからさせて?」
「……分かった、奈緒の好きなようにしてみろ」
お許しが出たので再開。えっと先ずは手で優しく、だよね? 漫画であったみたいに指先を根元から先端へ走らせてから、そっと握ってゆっくりと手を上下に動かすと信吾さんが笑った。あれ? 違うの? 私なにか間違えちゃった?
「奈緒、お前、俺を殺す気だな?」
「え、痛かった?」
「いや、触っただけなのにそんなに気持ち良いのは初めてってことだ」
「そうなの? じゃあ……」
先端にキスをして舌を這わせてみる。呻き声が漏れた。
「これは?」
「なるほど、自覚の無い床上手ってやつだったんだな、奈緒は」
「トコジョウズ?」
「とにかく凄いってことだよ」
「そーなの? よーし、頑張っちゃうからね。 私に任せて信吾さんは楽にしててくれれば良いから♪」
「お、おいおい、うわっ」
えーっと、たしかアイスクリームを舐める要領でとか書いてあったっけ?などと頭の中で考えつつ、普段とは違う信吾さんの反応が楽しくてついつい夢中になっちゃった。全部を口に入れるのはどう頑張っても無理みたいだったから、入り切らなかった根元の方は、信吾さんが私の時にするのを思い浮かべながら念入りに舌を這わせて、再び口に先端を含む。
どのくらいそんなふうに口に入れて愛撫していたのか分からないけど急に信吾さんが私の頭を掴んで腰を動かしてきた。苦しかったけどそのまま信吾さんのものを口に含み続ける。
「ったく、何処でそんなテクを身につけたんだ、奈緒のことを良く知らなかったら浮気を疑うところだぞ?」
「んふふっ」
「笑うなっ……っ!!」
次の瞬間、口の中に苦いものが広がった。信吾さんは慌てて自分のものを引き抜くとティッシュを取って私に差し出した。
「吐き出せ」
「んっ……あ……」
……飲んじゃった。飲み込むつもりなかったのに。しばらく二人で見詰め合ってしまった。
「……不味い、よ?」
「そりゃ、それは飲むためのものじゃないから……」
「そっか……じゃあ次からは気を」
つけるねって言おうとしたら引っ張りあげられてキスをされた。
「最初から無茶して。もう飲んだりするなよ?」
「うん、もう飲まない」
だって不味いんだもんと呟くとキスの合間に笑い声が漏れる。いくら大好きな信吾さんのものでも不味いものは不味いの! 笑わないでよね。
「しかし自分が守りに入るのは性に合わないってことが今のでよーく分かった。当分は無しだ」
「もしかして、よくなかった?」
「よくないどころかよすぎて困る。癖になりそうだ」
「だったら……」
「駄目だ」
そう言って私からシルクを剥ぎ取る。そして胸元にキスをされた。
「まあ痕をつけてくれたのは嬉しいから、それはまた頼むかもしれないが」
「そーなの?」
「だか今は俺がつける番」
くるりと体が入れ替わり、信吾さんが私を見下ろしている。
「やっぱりこっちの方が落ち着く」
「楽しんでくれたと思ったのにぃ……」
「楽しんださ。まさか奈緒より先にいかされるとは思ってなかったけどな。しかも口の中にとは。最初は外に出すつもりだったのに間に合わなかった」
いや参ったと呟きながら次々と痕をつけていく。その後は私が信吾さんにしたことをたっぷりと利息をつけて返されてしまった。やっぱりほどほどにしておかないと後の反撃が怖いと思い知ったゴールデンウィーク最後の夜でした。
+++++
私達がこんな感じで、みゅうさん曰くゲロ甘な新婚生活を満喫している頃、お父さんの周辺では大変なことになっていたみたい。
最初は政治資金規正法絡みと思われていた捜査が、贈収賄と外国企業との癒着問題へと発展していた。そして、その頃からテレビのワイドショーでしきりと“外患誘致罪”か“内乱罪”かという話題が上がり始めるようになった。私もそれを見てネットで調べて、こんな罪ってあるんだと震え上がったクチ。
私のことに関しては、それまで片倉の家で居場所がないような生活を送っていたことと高校卒業後に家を出されていたこともあって、少なくとも表向きには話題に上ることはなかった。
ただ何度か法務省の人が自宅を訪れてはいたけど、その時はかならず重光先生か先生のお知り合いの弁護士さんが同席してくれていたのでとても心強かった。その辺りも法務大臣の伊勢谷先生と重光先生との間で連絡が頻繁に取られていたみたいで、訪れた調査官の人達も事実確認をするだけというのが殆どだった。
ただ私のことは良いとして、今回の事件で信吾さんが困ったことにならなければ良いんだけどって私はそっちの方のが心配だったんだよね。信吾さん本人はまったく心配している様子はなかったけど。
「本当に大丈夫?」
ある日、思い切ってその話を切り出した。詳しくは聞いていなかったけど信吾さんが所属している部隊というのは比較的最近に設立された部隊で対テロ作戦を任務とする部隊なんだそうだ。そんな部署にいる隊員の妻の実家が外患誘致罪で告発されるだなんて洒落にならないよ。
「この話が法務省から打診されてきた時に陸自の幕僚本部で検討されたが、ウチでは問題無しと判断された。奈緒は片倉とは既に無関係というのが公式見解だ」
「それも、重光先生のお陰?」
「そういことになるかな。それに俺と結婚して今はもう森永の人間だし、実際あっちとは全く連絡とってないだろ?」
あの日に緒方って秘書が連絡してきた以外には?と信吾さんが付け加える。
「そりゃそうだけど……」
「もちろん身上調査はされていると考えなければならないが、調べられて何か不都合なことでもあるか?」
「ううん、何もないと思うよ? 敢えて言うなら、信吾さんをお持ち帰りしたことぐらいだし」
信吾さんがそれを聞いて笑った。これまで派手に遊びまわったこともないし、勉強ばかりしていた精神的引き篭もりな状態が幸いしたって感じ。もちろん重光先生や甲府のお爺ちゃん達の働きかけもあるんだろうけど。
「縁を切ったとはいえ片倉は奈緒の父親だ。しばらくこの話は出続けることになるが、見届ける覚悟はあるか? 辛いならそれなりに対処するが」
「対処?」
「米軍から打診があってな、誰かあちらで対テロ作戦のノウハウを学ばないかという話が出ている。もし奈緒が父親の件を見続けるのが辛いなら、しばらくアメリカに行くという選択もあるということだ。そうなれば学校は休学しなければならないけどな」
つまり、しばらく二人で日本を離れることも可能だってことみたい。
「……その話は信吾さんに対する辞令なの?」
「いや。今の時点ではあくまでも米軍からのお誘いってところ。誰かが行くにしてもまだ正式に決まったわけじゃない」
「私は別に辛くないよ? 前に言ったよね、どこか他人事に感じるって。私とお父さんってそんな感じなの。だからそんなに心配しなくても良いよ? ほら、新聞社とかが大挙して大学に押し寄せるとかそういうのがあると困るんだけどね」
今のところその気配もないし私の私生活はいたって静穏。騒がしくなるのはみゅうさんが学校で騒いでいる時と信吾さんとベッドの中にいる時ぐらいじゃないかなあ。
「あ、もし信吾さんがアメリカに行きたいなら遠慮なくそう言って? ただし、学校のことがあるから一緒には行ってあげられないと思うけど」
「俺はそういう面倒なことは全部、下の連中に押し付けるから心配するな」
頭をくしゃくしゃと撫でられた。離れるのはちょっと寂しいかもって一瞬だけ考えたのが伝わっちゃったのかな。
「……私生活ではそんなことないのに、仕事では何気に物ぐさだよね信吾さんってさ」
「せっかくここまで昇任したんだ、使えるものは使って楽しないと。何の為に偉くなったか分からないだろ?」
「えー……なんだかそれって信吾さんの下にいる人が可哀相な気が……」
「良いんだよ、そいつらも偉くなれば同じ事をするから」
なんだか自衛隊っていうところも実は普通の会社と大差ないんじゃないかって思った瞬間だった。
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「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
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