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本編
第十四話 朝から電話とかどうなの
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「なんだか凄く緊張しちゃってね、昼間からアロマオイル買ってきてお風呂入ったんだけど全然効果なかったみたい。リラックス効果とか書いてあるけど、こういう場合は効かないんだね……」
お湯を肩にかけてもらいながらずっと喋り続けている私とは反対に、信吾さんは黙ったまま時々“うん”とか“なるほど”しか言わない。もしかして怒ってるのかな? すぐにでもベッドに行きたかったんだよね、きっと。
「あの、もしかして怒ってる?」
「どうして?」
「だって黙り込んでるから、もしかしたらシャワーするの嫌だったかなって……」
「直ぐにでも抱きたかったというのが本音ではあるが、奈緒の気持ちを無視してまでとは思わないよ。緊張しているならリラックスしてからの方がお互いにいいだろ?」
「でも……辛そうだよ?」
チラッと視線を下に向けてから信吾さんの顔を見上げた。彼は苦笑いしている。
「まあ何て言うか体は正直だからな。そいつは本能だけで生きている奴だし」
「……そーなの?」
なんだか別人格があるみたいな言い方だね?って言ったらそれは真理かもしれないだって。女の私にはちょっと理解できない真理かもしれない。
「触ってみる?」
「え……」
自分から触ったことなんて一度もないよ? えっと力加減とか分かんなくても大丈夫なのかな。そんな風に迷っていたら信吾さんの手が私の手を誘ってそれを握らせると自分の手を上から重ねてきた。わあ……
「熱いね……」
「奈緒のせいだよ」
「それに、その、ふ、太いかも……」
ポソッと呟いた私の言葉に反応したのかそれがピクリと震える。思わず手を離してしまうとクスクスと信吾さんが笑った。
「そのうち、奈緒の手で可愛がってやってくれ」
「う、うん……頑張るよ……」
が、頑張れるのかな私……。
経験が無いわけじゃなかったけれど付き合ったことがあるのは高校の先輩が一人だけだし、その一年で経験したことより信吾さんとの一ヶ月にも満たない日々の方がずっと、その……エッチなこといっぱいしてる。私ってこんなエッチな人間だったのかって戸惑ってしまうことも何度かあった。そんな私でも信吾さんのこと気持ち良くしてあげられるのかな。
「そろそろベッドに行くか?」
「……うん」
大きなバスタオルにくるまれると信吾さんはまるで子供にするみたいに優しく丁寧に拭いてくれた。そして自分の体を素早く拭くと、タオルをカウンターの上に放り投げて私を抱き上げる。いつもはタオルかけにちゃんとかけるぐらいの几帳面さなのに今日はちょっと余裕がないみたい。……あ、それってちょっと怖いかも。
ベッドにおろされると信吾さんは私を押し倒して足の間に体を落ち着けた。直ぐにでも入ってくるのかなって思って足を彼の腰に巻き付けたのにそのまま動こうとはいない。あれ? どうかしたの?
「信吾さん……?」
ちょっと戸惑い気味に信吾さんの顔を見上げた。
「奈緒はどうしてほしい?」
もしかして初めての時と同じってこと? “奈緒の望むように”なの? だったら……
「キス、して欲しい。唇に……」
「了解」
最初は啄ばむようなもの、そこから徐々に深いキスへと変わっていく。頬や首筋を優しく撫でている信吾さんの片手を取って、それを自分の胸へと導いた。
「触ってくれる?」
「ここにもキスしていいなら」
「うん、たくさんして?」
指と唇が胸の上を這いまわり紅い痕を残していく。私が信吾さんのモノだっていう証。見えるところにつけられちゃうのは困るけど、痕をつけられるのは嫌じゃなくて、むしろいっぱいつけて欲しいぐらい。
「奈緒?」
お腹の辺りでにキスを落としていた信吾さんが私の名前を呼ぶ。
「なあに?」
「ここにもキスして良いか?」
そう言って足の間にある濡れているところを指でなぞった。途端に電気が入ったみたいな痺れが背中をかけ上がる。
「うん、して?」
指で開かれる感じがしてちょっと恥ずかしかったけど、次の瞬間には信吾さんの唇が覆いかぶさってきてそんな恥ずかしさも吹き飛んでしまった。
「あっ、あああっ、やぁっ」
信吾さん自身のものとは違って柔らかい舌が胎内に入り込んでくる感触に体が跳ねる。足の間にある信吾さんの頭に手をやるけど、押しやりたいのか押し付けたいのか分からないくて髪を掴んだ。
「し、しんごさんっ」
「気持ちいい?」
「う、うんっ、ああんっ、ああぁっ、きもち、いいっ」
その言葉を証明するようにどんどん自分の中から蜜が溢れ出てきて、お尻の下のシーツが湿ってきているのが分かる。小刻みに中で動いていた舌が胎内から出ていくと、入れ替わりに指が入ってきた。以前に苦痛を伴った快感で死んじゃうんじゃないかって思うような絶頂に追いやられたことを思い出す。
「やだっ、信吾さん、やだぁ」
「感じ過ぎるからだろ? 大丈夫だ、今日はあんなことにはならないから」
「でもっ、いやなの、こわい……っ」
奥で蠢いていた指の動きが止まった。
「怖いのは何故?」
「だって、前の時、怖かったの、おかしくなっちゃいそうで……」
「そうか、奈緒が嫌なことはしない約束だからな」
指がゆっくりと引き抜かれた。だけど出ていく途中でクイッと指が曲がり恥骨の裏あたりを撫でていった。電気が走ったような快感が走り抜けて思わず喘いでしまった。
「い、いまのっ、なにっ?!」
「やめるの無念だからちょっと仕返ししたくなった」
ニッと笑うと再びそこへ唇を寄せ、今度は花芯に舌を這わせる。
「あぁっっっ!!」
「そろそろ、イけそう?」
「やあ、そんなところで、しゃべらないでっ」
敏感になったそこは信吾さんの吐息にさえ反応してしまう。
「一度イっておいた方が楽だろ? ここ、どうして欲しい?」
「はっ、あぁんっ、そんなことっ」
「言わないと一晩中このままだぞ?」
「信吾さんのバカぁ、どエスぅっ! 嫌なことはしないって言ったくせにっ」
「本当に嫌がってたらしない」
うわーん、酷いよ、恥ずかしいこと言わせる気満々だよ。ドSだぁ!
「奈緒、どうして欲しい?」
「……って……」
「聞こえない」
ひーん、恥ずかしいよお!! エロ信吾のバカぁ!! 宣戦布告してやるぅ!!
「あっち行ってっ、信吾さんのバカッ!! ドSっ! 変態っ!」
体をよじると横向きになって唖然としている信吾さんに背中を向けた。体は疼いているけどそう言う問題じゃないもん。
「おい、奈緒」
「知らないっ! 恥ずかしいこと言わせようとする信吾さんなんて嫌いっ!」
「……だったらどうして欲しい?」
「……」
「奈緒ー?」
「普通にしてほしい」
そりゃ最初にキスしてって言ったのは私だけど、そこには恥ずかしいことを言わされる予定なんて無かったわけで。そういうのって私にはまだハードルが高すぎる。
「だったらこっち向いてくれ」
「……もう恥ずかしいこと言わせたりしない?」
「ああ、しない」
本当かなと半信半疑のまま信吾さんの方に体を向けた。そして顔を見上げてちょっと驚いた。物凄く困った顔をしている。
「すまん、ちょっと悪乗りしすぎたな。一週間ぶりに奈緒に会えると思ってたから浮かれ過ぎた」
本気で謝ってる……あの信吾さんが。
「……普通に愛してくれる?」
「いいのか?」
「うん。私は信吾さんに愛して欲しいもん」
信吾さんに抱かれるのは嫌じゃないんだもん、ただ恥ずかしいこと言ったりするのは抵抗があるだけ。そう言うと、安心したような顔になって私にキスをすると、再び足の間に腰を落とし今度はゆっくりと胎内にその熱くなったものを挿れてきた。
「ふ、うぅん……っ」
先端が体の一番奥に当たる。この瞬間が一番好き。私の中が信吾さんで満たされて本当に二人が一つになれたって気がするから。体を絡め合いながら再びキスをする。
「奈緒、愛してるよ」
「私も愛してる」
そんな睦言を囁きながら私達はゆったりとしたリズムで体を揺らし、その日は遅くまで愛し合った。
++++++++++
♪♪♪♪
どこかで聞いたことのあるメロディーが鳴ってる。なんだろ……目覚まし? 電話? あ、聞き慣れたゲームのテーマ曲……みゅうさんだ。なんとか手を伸ばしてベッド脇に置いてあった携帯電話を手にする。
「……はぁい……おはよーございますぅ……」
起きたばかりと分かる掠れた声で応対すると、あっちからみゅうさんの笑い声が聞こえてきた。
『おはよう、なおっち。もうこんにちはに近い時間だけど、まあ良いわ、新婚だものね』
「みゅうさん……惚気話でも聞きたいんですかぁ?」
『聞いてあげたいのは山々なんだけど、今日はなおっちの旦那に話があるんのよ、彼の方は起きてる?』
「ちょっと待ってて下さいねぇ……」
電話を持ったまま体を起こし、隣でうつ伏せになって寝ている信吾さんの肩を揺すった。
「信吾さーん、みゅうさんが話があるってぇ~~」
はふっと欠伸をしながら言うと信吾さんはパチッと目を覚ました。良いなあ、その寝起きの良さ。少しは私に分けて欲しいよ。
「ハンズフリーの設定にしたらそのままで話せるんだろ?」
「あ、そっか」
ボタンを押す。
「いいよー」
「なんだ、新婚の人間を叩き起すほどの大事件なんだろうな」
『あら、こちらも不機嫌ね。そんなにお邪魔だった?』
「お邪魔すぎて笑えん」
『酷い言われようね、まあ仕方ないか、新婚だものねー』
ほんと、みゅうさんてば信吾さんと対等に会話してるから凄いよ。
「で、一体何の用だ」
『一つ確認しておきたくてね。おじさん、格闘技は得意なのよね、特作の人間なんだし』
信吾さんの顔が何だか怖いものに変化した。なんだろう、トクサクって。
「どうしてそれを知ってる?」
『お子様の情報網は馬鹿に出来ないってことね。そんなことはどうでも良いのよ、問題なのはおじさんが刃物を振り回す人間と遭遇した場合にちゃんと対処できるかってことなんだから』
みゅうさん、何の話をしてるの?
「俺が何処に所属しているか知っているのなら聞くまでも無いってことは分かっているんだよな」
『まあね、一応、確認しておこうと思って。あのバカ、余罪は薬物使用とデートレイプばかりでね、刑務所に長期間ぶち込むにはもう少し必要なわけ。特別国家公務員に対しての傷害罪と殺人未遂なら完璧でしょ?」
「……怖い女だな、君は」
感心したように呟く信吾さん。ねえねえ、一体どういうこと? きっと私だけが話しについていけないだけだよね?
『んで、ちょーっと餌を渡してやろうと思うのよね。ホテル側には申し訳ないけれど一枚噛んでもらったわ。夜にルームサービスを頼む時は用心しなさいね、珍客が現れるわよ』
「後輩を囮に使うのか、君は」
『あら、だって奴を刑務所に閉じ込めればなおっちは安心して結婚生活を送れるわけだし? それにおじさんにもあのバカを殴る機会が出来るサービス付きよ? ちょっとぐらい感謝してもらっても良いと思うけど』
珍客ってもしかして松橋先輩のこと? なんだか話がすごいことになってるの?
「まったく……」
『あ、うちでは逮捕できないからおまわりさんへの通報はよろしくね』
「囮捜査のテストプレイを後輩でするなんて何を考えているんだ、君達は」
『テストプレイってなんのことー? 子供にはね子供の事情ってものがあるのよ、おじさん。じゃ、任せたから油断して刺されないようにね。なおっち、また新学期に会おうね~~。その時までに何か結婚祝い考えておくから!』
一方的に電話を切られて信吾さんは超不機嫌そう。
「あのう、信吾さん? みゅうさんが言っていた珍客って、松橋先輩のこと?」
「らしいな。どうやら俺に一発殴らせてくれるらしい」
薄笑いを浮かべた信吾さんの顔が怖いよ。私が顔を見詰めている事に気がついて表情を緩めたけど。
「大丈夫だ、奈緒のことは俺がちゃんと守るから」
「……うん……って、な、なに?!」
ベッドに押し倒されてしまった。
「せっかく起きたんだ。新婚らしくしないか?」
「え……信吾さん、朝から元気だね……」
「嫌か?」
「そんなことないけど、ぅんっ……っ」
いきなり信吾さんのものが私の中に入ってくる。そこは昨晩の名残で滑りがよくなっていたのか圧迫感で息が詰まったただけで痛みは感じなかった。
「もうっ、いきなりなんだからっ」
「痛くなかっただろ?」
「そうだけど……」
信吾さんが動くたびにクチュクチュと湿った音がしている。
「あっ、ああっ、んっ」
もっと強く突いて欲しくて信吾さんにしがみつく。私の気持ちが伝わったのか優しかった動きが激しくなって奥を突いてきた。そんなところでまた電話がなった。お互いに信じられないと顔を見合わせる。
「やだ、こんな状態で、出れない、よ、ああんっ」
信吾さんが携帯に手を伸ばした。嘘っ、出ちゃうの?! 繋がったままではあったけれど突きあげる動きを止めて通話ボタンを押した。
「はい……誰だ?……そうだが生憎と彼女はいま手が離せなくて代わりに出た。そちらは?」
相手と話しながらも空いている方の手で私のわき腹を優しく撫でてくれている。だけどその優しい手とは裏腹に顔つきが険しい。
「……ああ、片倉議員の……少し待ってくれ」
携帯の下の方を手で塞ぐと私を見下ろした。
「片倉議員の秘書を名乗る男から電話だ。名前は緒方。聞き覚えはあるか?」
「……うん。お父さんの公設秘書の人」
「どうする、出るか?」
頷くと電話を手渡してくれた。深呼吸すると押さえていたところから手を離して声を出した。
「……お待たせしました、奈緒です」
『お忙しい時に申し訳ありません、緒方です』
小さい頃から聞いている緒方さんの声だった。それと同時にあの家での辛い思い出が蘇ってきてちょっと眉間にシワがよってしまった。そんな私の眉間に信吾さんがキスを一つ落としてくる。
『奈緒さん?』
うっとりとそのキスを受け止めていたら、緒方さんの声に引き戻される。そうだった、電話中なんだ。信吾さん、駄目だよ。
「はい、えっと、秘書をされている方ですよね、なんとなく覚えてます。何か御用でしょうか?」
『実は先ほど記者から奈緒さんが近々結婚されるという話を聞きました。先生の方にも何度か質問がありましたので真偽のほどを確かめたいと思いまして』
声は出さずにダメと信吾さんに言ってから会話に集中しようとするんだけど、それが彼の悪戯心に火をつけてしまったみたい。電話を当てているのとは反対側の耳を噛んだり舐めたりしている。今はやめてぇ……。
『奈緒さん、聞こえてますか?』
「は、い。あの、確かに結婚します、と言うか、結婚しましたと言った方が良いと思います」
舐められていた耳を手で塞ぐ。そんなことされたら集中できないよぉ。チッとか舌打ちしないでぇ。
『え? お相手が自衛隊の方だという話もあるのですが、それは本当ですか?』
「そうです。夫になった人、ひゃっ!!」
私の中に留まっていた信吾さんのものが引き抜かれた。やめてくれるのは嬉しいけど突然はやめてほしい。思わず声出ちゃったよ、恥ずかしくて死にそう。睨むと犯人は呑気に笑っている。このドS男めっ!!
『あの、大丈夫ですか?』
「す、すみません、カップ落としましたっ、思ってもみなかった人からの電話に動揺しちゃって」
我ながら苦しい言い訳だけど、相手には見えてないから大丈夫だよね? ね?
『こちらこそ突然の電話で申し訳ありません。それで結婚されたというのは本当なのですか?』
「もう家族ではないと言われていたので、こちらから連絡する必要もないと思ってましたから」
今更なんで連絡してきたんだか。何か議員としての経歴に影響があるとでも思ったんだろうか。くだらない。だったら愛人を母親の葬式に連れてきたことの方がずっと大事じゃない。それまで呑気に笑っていた信吾さんがこちらに手を差し出した。
「奈緒、俺に代われ」
せっかくの新婚気分が台無しだよとぼやきながら電話を渡した。
「片倉議員に伝えておけ。奈緒は既に片倉の人間ではなくなった、これ以上の詮索は無用だと」
信吾さんは相手の話を聞きながら鼻で笑っている。
「まだ高校生だった娘を家を追い出した人間がどんなツラしてそんなことを言うのか、是非とも直に見物させていただきたいものだな。とにかく奈緒にはこれ以上関わるな、彼女は俺の妻だ。いらんクチバシを挟むようならこちらにも考えがあるぞ」
信吾さんの顔、口元には笑っているのに目つきが凄いことになってるよ。
「片倉先生なら直ぐに調べられるんじゃないのか? 自衛隊が無くても諸外国の情勢は手に取るように分かるとか豪語していたお偉い先生のことだ、国内のたかだか一自衛官の情報ぐらいお手の物だろうからな。ではこれで失礼する、妻が待っているので」
言いたいことは言い尽したらしく、電話を切ってしまうと何か操作していた。
「もうあいつからの電話は受ける必要は無いだろ? 着信拒否しておいたから」
「うん、ありがと」
せっかくの朝が台無しだよね……。そう思いながらベッドに座ったままの信吾さんの背中に抱きついた。さすがの信吾さんもやる気が削がれちゃったみたい。
「ごめんね、朝から立て続けに電話かかってきて」
「気にするな。どれだけ俺が片倉議員と渡り合っていると思ってるんだ? 秘書との電話ぐらい何て事ないさ」
そう言って回した手をポンポンッと優しく叩いてくれた。
お湯を肩にかけてもらいながらずっと喋り続けている私とは反対に、信吾さんは黙ったまま時々“うん”とか“なるほど”しか言わない。もしかして怒ってるのかな? すぐにでもベッドに行きたかったんだよね、きっと。
「あの、もしかして怒ってる?」
「どうして?」
「だって黙り込んでるから、もしかしたらシャワーするの嫌だったかなって……」
「直ぐにでも抱きたかったというのが本音ではあるが、奈緒の気持ちを無視してまでとは思わないよ。緊張しているならリラックスしてからの方がお互いにいいだろ?」
「でも……辛そうだよ?」
チラッと視線を下に向けてから信吾さんの顔を見上げた。彼は苦笑いしている。
「まあ何て言うか体は正直だからな。そいつは本能だけで生きている奴だし」
「……そーなの?」
なんだか別人格があるみたいな言い方だね?って言ったらそれは真理かもしれないだって。女の私にはちょっと理解できない真理かもしれない。
「触ってみる?」
「え……」
自分から触ったことなんて一度もないよ? えっと力加減とか分かんなくても大丈夫なのかな。そんな風に迷っていたら信吾さんの手が私の手を誘ってそれを握らせると自分の手を上から重ねてきた。わあ……
「熱いね……」
「奈緒のせいだよ」
「それに、その、ふ、太いかも……」
ポソッと呟いた私の言葉に反応したのかそれがピクリと震える。思わず手を離してしまうとクスクスと信吾さんが笑った。
「そのうち、奈緒の手で可愛がってやってくれ」
「う、うん……頑張るよ……」
が、頑張れるのかな私……。
経験が無いわけじゃなかったけれど付き合ったことがあるのは高校の先輩が一人だけだし、その一年で経験したことより信吾さんとの一ヶ月にも満たない日々の方がずっと、その……エッチなこといっぱいしてる。私ってこんなエッチな人間だったのかって戸惑ってしまうことも何度かあった。そんな私でも信吾さんのこと気持ち良くしてあげられるのかな。
「そろそろベッドに行くか?」
「……うん」
大きなバスタオルにくるまれると信吾さんはまるで子供にするみたいに優しく丁寧に拭いてくれた。そして自分の体を素早く拭くと、タオルをカウンターの上に放り投げて私を抱き上げる。いつもはタオルかけにちゃんとかけるぐらいの几帳面さなのに今日はちょっと余裕がないみたい。……あ、それってちょっと怖いかも。
ベッドにおろされると信吾さんは私を押し倒して足の間に体を落ち着けた。直ぐにでも入ってくるのかなって思って足を彼の腰に巻き付けたのにそのまま動こうとはいない。あれ? どうかしたの?
「信吾さん……?」
ちょっと戸惑い気味に信吾さんの顔を見上げた。
「奈緒はどうしてほしい?」
もしかして初めての時と同じってこと? “奈緒の望むように”なの? だったら……
「キス、して欲しい。唇に……」
「了解」
最初は啄ばむようなもの、そこから徐々に深いキスへと変わっていく。頬や首筋を優しく撫でている信吾さんの片手を取って、それを自分の胸へと導いた。
「触ってくれる?」
「ここにもキスしていいなら」
「うん、たくさんして?」
指と唇が胸の上を這いまわり紅い痕を残していく。私が信吾さんのモノだっていう証。見えるところにつけられちゃうのは困るけど、痕をつけられるのは嫌じゃなくて、むしろいっぱいつけて欲しいぐらい。
「奈緒?」
お腹の辺りでにキスを落としていた信吾さんが私の名前を呼ぶ。
「なあに?」
「ここにもキスして良いか?」
そう言って足の間にある濡れているところを指でなぞった。途端に電気が入ったみたいな痺れが背中をかけ上がる。
「うん、して?」
指で開かれる感じがしてちょっと恥ずかしかったけど、次の瞬間には信吾さんの唇が覆いかぶさってきてそんな恥ずかしさも吹き飛んでしまった。
「あっ、あああっ、やぁっ」
信吾さん自身のものとは違って柔らかい舌が胎内に入り込んでくる感触に体が跳ねる。足の間にある信吾さんの頭に手をやるけど、押しやりたいのか押し付けたいのか分からないくて髪を掴んだ。
「し、しんごさんっ」
「気持ちいい?」
「う、うんっ、ああんっ、ああぁっ、きもち、いいっ」
その言葉を証明するようにどんどん自分の中から蜜が溢れ出てきて、お尻の下のシーツが湿ってきているのが分かる。小刻みに中で動いていた舌が胎内から出ていくと、入れ替わりに指が入ってきた。以前に苦痛を伴った快感で死んじゃうんじゃないかって思うような絶頂に追いやられたことを思い出す。
「やだっ、信吾さん、やだぁ」
「感じ過ぎるからだろ? 大丈夫だ、今日はあんなことにはならないから」
「でもっ、いやなの、こわい……っ」
奥で蠢いていた指の動きが止まった。
「怖いのは何故?」
「だって、前の時、怖かったの、おかしくなっちゃいそうで……」
「そうか、奈緒が嫌なことはしない約束だからな」
指がゆっくりと引き抜かれた。だけど出ていく途中でクイッと指が曲がり恥骨の裏あたりを撫でていった。電気が走ったような快感が走り抜けて思わず喘いでしまった。
「い、いまのっ、なにっ?!」
「やめるの無念だからちょっと仕返ししたくなった」
ニッと笑うと再びそこへ唇を寄せ、今度は花芯に舌を這わせる。
「あぁっっっ!!」
「そろそろ、イけそう?」
「やあ、そんなところで、しゃべらないでっ」
敏感になったそこは信吾さんの吐息にさえ反応してしまう。
「一度イっておいた方が楽だろ? ここ、どうして欲しい?」
「はっ、あぁんっ、そんなことっ」
「言わないと一晩中このままだぞ?」
「信吾さんのバカぁ、どエスぅっ! 嫌なことはしないって言ったくせにっ」
「本当に嫌がってたらしない」
うわーん、酷いよ、恥ずかしいこと言わせる気満々だよ。ドSだぁ!
「奈緒、どうして欲しい?」
「……って……」
「聞こえない」
ひーん、恥ずかしいよお!! エロ信吾のバカぁ!! 宣戦布告してやるぅ!!
「あっち行ってっ、信吾さんのバカッ!! ドSっ! 変態っ!」
体をよじると横向きになって唖然としている信吾さんに背中を向けた。体は疼いているけどそう言う問題じゃないもん。
「おい、奈緒」
「知らないっ! 恥ずかしいこと言わせようとする信吾さんなんて嫌いっ!」
「……だったらどうして欲しい?」
「……」
「奈緒ー?」
「普通にしてほしい」
そりゃ最初にキスしてって言ったのは私だけど、そこには恥ずかしいことを言わされる予定なんて無かったわけで。そういうのって私にはまだハードルが高すぎる。
「だったらこっち向いてくれ」
「……もう恥ずかしいこと言わせたりしない?」
「ああ、しない」
本当かなと半信半疑のまま信吾さんの方に体を向けた。そして顔を見上げてちょっと驚いた。物凄く困った顔をしている。
「すまん、ちょっと悪乗りしすぎたな。一週間ぶりに奈緒に会えると思ってたから浮かれ過ぎた」
本気で謝ってる……あの信吾さんが。
「……普通に愛してくれる?」
「いいのか?」
「うん。私は信吾さんに愛して欲しいもん」
信吾さんに抱かれるのは嫌じゃないんだもん、ただ恥ずかしいこと言ったりするのは抵抗があるだけ。そう言うと、安心したような顔になって私にキスをすると、再び足の間に腰を落とし今度はゆっくりと胎内にその熱くなったものを挿れてきた。
「ふ、うぅん……っ」
先端が体の一番奥に当たる。この瞬間が一番好き。私の中が信吾さんで満たされて本当に二人が一つになれたって気がするから。体を絡め合いながら再びキスをする。
「奈緒、愛してるよ」
「私も愛してる」
そんな睦言を囁きながら私達はゆったりとしたリズムで体を揺らし、その日は遅くまで愛し合った。
++++++++++
♪♪♪♪
どこかで聞いたことのあるメロディーが鳴ってる。なんだろ……目覚まし? 電話? あ、聞き慣れたゲームのテーマ曲……みゅうさんだ。なんとか手を伸ばしてベッド脇に置いてあった携帯電話を手にする。
「……はぁい……おはよーございますぅ……」
起きたばかりと分かる掠れた声で応対すると、あっちからみゅうさんの笑い声が聞こえてきた。
『おはよう、なおっち。もうこんにちはに近い時間だけど、まあ良いわ、新婚だものね』
「みゅうさん……惚気話でも聞きたいんですかぁ?」
『聞いてあげたいのは山々なんだけど、今日はなおっちの旦那に話があるんのよ、彼の方は起きてる?』
「ちょっと待ってて下さいねぇ……」
電話を持ったまま体を起こし、隣でうつ伏せになって寝ている信吾さんの肩を揺すった。
「信吾さーん、みゅうさんが話があるってぇ~~」
はふっと欠伸をしながら言うと信吾さんはパチッと目を覚ました。良いなあ、その寝起きの良さ。少しは私に分けて欲しいよ。
「ハンズフリーの設定にしたらそのままで話せるんだろ?」
「あ、そっか」
ボタンを押す。
「いいよー」
「なんだ、新婚の人間を叩き起すほどの大事件なんだろうな」
『あら、こちらも不機嫌ね。そんなにお邪魔だった?』
「お邪魔すぎて笑えん」
『酷い言われようね、まあ仕方ないか、新婚だものねー』
ほんと、みゅうさんてば信吾さんと対等に会話してるから凄いよ。
「で、一体何の用だ」
『一つ確認しておきたくてね。おじさん、格闘技は得意なのよね、特作の人間なんだし』
信吾さんの顔が何だか怖いものに変化した。なんだろう、トクサクって。
「どうしてそれを知ってる?」
『お子様の情報網は馬鹿に出来ないってことね。そんなことはどうでも良いのよ、問題なのはおじさんが刃物を振り回す人間と遭遇した場合にちゃんと対処できるかってことなんだから』
みゅうさん、何の話をしてるの?
「俺が何処に所属しているか知っているのなら聞くまでも無いってことは分かっているんだよな」
『まあね、一応、確認しておこうと思って。あのバカ、余罪は薬物使用とデートレイプばかりでね、刑務所に長期間ぶち込むにはもう少し必要なわけ。特別国家公務員に対しての傷害罪と殺人未遂なら完璧でしょ?」
「……怖い女だな、君は」
感心したように呟く信吾さん。ねえねえ、一体どういうこと? きっと私だけが話しについていけないだけだよね?
『んで、ちょーっと餌を渡してやろうと思うのよね。ホテル側には申し訳ないけれど一枚噛んでもらったわ。夜にルームサービスを頼む時は用心しなさいね、珍客が現れるわよ』
「後輩を囮に使うのか、君は」
『あら、だって奴を刑務所に閉じ込めればなおっちは安心して結婚生活を送れるわけだし? それにおじさんにもあのバカを殴る機会が出来るサービス付きよ? ちょっとぐらい感謝してもらっても良いと思うけど』
珍客ってもしかして松橋先輩のこと? なんだか話がすごいことになってるの?
「まったく……」
『あ、うちでは逮捕できないからおまわりさんへの通報はよろしくね』
「囮捜査のテストプレイを後輩でするなんて何を考えているんだ、君達は」
『テストプレイってなんのことー? 子供にはね子供の事情ってものがあるのよ、おじさん。じゃ、任せたから油断して刺されないようにね。なおっち、また新学期に会おうね~~。その時までに何か結婚祝い考えておくから!』
一方的に電話を切られて信吾さんは超不機嫌そう。
「あのう、信吾さん? みゅうさんが言っていた珍客って、松橋先輩のこと?」
「らしいな。どうやら俺に一発殴らせてくれるらしい」
薄笑いを浮かべた信吾さんの顔が怖いよ。私が顔を見詰めている事に気がついて表情を緩めたけど。
「大丈夫だ、奈緒のことは俺がちゃんと守るから」
「……うん……って、な、なに?!」
ベッドに押し倒されてしまった。
「せっかく起きたんだ。新婚らしくしないか?」
「え……信吾さん、朝から元気だね……」
「嫌か?」
「そんなことないけど、ぅんっ……っ」
いきなり信吾さんのものが私の中に入ってくる。そこは昨晩の名残で滑りがよくなっていたのか圧迫感で息が詰まったただけで痛みは感じなかった。
「もうっ、いきなりなんだからっ」
「痛くなかっただろ?」
「そうだけど……」
信吾さんが動くたびにクチュクチュと湿った音がしている。
「あっ、ああっ、んっ」
もっと強く突いて欲しくて信吾さんにしがみつく。私の気持ちが伝わったのか優しかった動きが激しくなって奥を突いてきた。そんなところでまた電話がなった。お互いに信じられないと顔を見合わせる。
「やだ、こんな状態で、出れない、よ、ああんっ」
信吾さんが携帯に手を伸ばした。嘘っ、出ちゃうの?! 繋がったままではあったけれど突きあげる動きを止めて通話ボタンを押した。
「はい……誰だ?……そうだが生憎と彼女はいま手が離せなくて代わりに出た。そちらは?」
相手と話しながらも空いている方の手で私のわき腹を優しく撫でてくれている。だけどその優しい手とは裏腹に顔つきが険しい。
「……ああ、片倉議員の……少し待ってくれ」
携帯の下の方を手で塞ぐと私を見下ろした。
「片倉議員の秘書を名乗る男から電話だ。名前は緒方。聞き覚えはあるか?」
「……うん。お父さんの公設秘書の人」
「どうする、出るか?」
頷くと電話を手渡してくれた。深呼吸すると押さえていたところから手を離して声を出した。
「……お待たせしました、奈緒です」
『お忙しい時に申し訳ありません、緒方です』
小さい頃から聞いている緒方さんの声だった。それと同時にあの家での辛い思い出が蘇ってきてちょっと眉間にシワがよってしまった。そんな私の眉間に信吾さんがキスを一つ落としてくる。
『奈緒さん?』
うっとりとそのキスを受け止めていたら、緒方さんの声に引き戻される。そうだった、電話中なんだ。信吾さん、駄目だよ。
「はい、えっと、秘書をされている方ですよね、なんとなく覚えてます。何か御用でしょうか?」
『実は先ほど記者から奈緒さんが近々結婚されるという話を聞きました。先生の方にも何度か質問がありましたので真偽のほどを確かめたいと思いまして』
声は出さずにダメと信吾さんに言ってから会話に集中しようとするんだけど、それが彼の悪戯心に火をつけてしまったみたい。電話を当てているのとは反対側の耳を噛んだり舐めたりしている。今はやめてぇ……。
『奈緒さん、聞こえてますか?』
「は、い。あの、確かに結婚します、と言うか、結婚しましたと言った方が良いと思います」
舐められていた耳を手で塞ぐ。そんなことされたら集中できないよぉ。チッとか舌打ちしないでぇ。
『え? お相手が自衛隊の方だという話もあるのですが、それは本当ですか?』
「そうです。夫になった人、ひゃっ!!」
私の中に留まっていた信吾さんのものが引き抜かれた。やめてくれるのは嬉しいけど突然はやめてほしい。思わず声出ちゃったよ、恥ずかしくて死にそう。睨むと犯人は呑気に笑っている。このドS男めっ!!
『あの、大丈夫ですか?』
「す、すみません、カップ落としましたっ、思ってもみなかった人からの電話に動揺しちゃって」
我ながら苦しい言い訳だけど、相手には見えてないから大丈夫だよね? ね?
『こちらこそ突然の電話で申し訳ありません。それで結婚されたというのは本当なのですか?』
「もう家族ではないと言われていたので、こちらから連絡する必要もないと思ってましたから」
今更なんで連絡してきたんだか。何か議員としての経歴に影響があるとでも思ったんだろうか。くだらない。だったら愛人を母親の葬式に連れてきたことの方がずっと大事じゃない。それまで呑気に笑っていた信吾さんがこちらに手を差し出した。
「奈緒、俺に代われ」
せっかくの新婚気分が台無しだよとぼやきながら電話を渡した。
「片倉議員に伝えておけ。奈緒は既に片倉の人間ではなくなった、これ以上の詮索は無用だと」
信吾さんは相手の話を聞きながら鼻で笑っている。
「まだ高校生だった娘を家を追い出した人間がどんなツラしてそんなことを言うのか、是非とも直に見物させていただきたいものだな。とにかく奈緒にはこれ以上関わるな、彼女は俺の妻だ。いらんクチバシを挟むようならこちらにも考えがあるぞ」
信吾さんの顔、口元には笑っているのに目つきが凄いことになってるよ。
「片倉先生なら直ぐに調べられるんじゃないのか? 自衛隊が無くても諸外国の情勢は手に取るように分かるとか豪語していたお偉い先生のことだ、国内のたかだか一自衛官の情報ぐらいお手の物だろうからな。ではこれで失礼する、妻が待っているので」
言いたいことは言い尽したらしく、電話を切ってしまうと何か操作していた。
「もうあいつからの電話は受ける必要は無いだろ? 着信拒否しておいたから」
「うん、ありがと」
せっかくの朝が台無しだよね……。そう思いながらベッドに座ったままの信吾さんの背中に抱きついた。さすがの信吾さんもやる気が削がれちゃったみたい。
「ごめんね、朝から立て続けに電話かかってきて」
「気にするな。どれだけ俺が片倉議員と渡り合っていると思ってるんだ? 秘書との電話ぐらい何て事ないさ」
そう言って回した手をポンポンッと優しく叩いてくれた。
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