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何処かの空で、沖縄の空へ? 2
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「なあ、浜路君や」
「なんでしょう、因幡さん」
モグモグしている私の前に座っていた因幡一尉が、首をかしげながら私のお皿を指さす。
「ここまで追いかけてきたんだから、沖縄でしか食べられないものを頼むのかと思ってたんだが、なんでそこで海老フライなんだ?」
「海老が好きだからに決まってるじゃないですか。こんなに大きな海老フライなんて、本州でははなかなか食べられませんよ?」
私の前に置かれたお皿の上には、大きな海老フライが横たわっていた。
大抵は衣のほうが多くない?!みたいなお店が多いのに、ここの海老フライは、間違いなく衣より海老の身のほうが多い。しかも衣はサクサクしているし、海老の身もプリップリ。それに加えてこの自家製のタルタルソース!! こんなにおいしい海老フライがこの世に存在していたなんて、沖縄に来て本当に良かった!!
「それに私、エビチリをおごってもらおうと思ってたんですよね、あの時。だから海老つながりでこれにしました。これでやっと、カナブンの件は許してあげようって気になったかも」
「なったかもっておい……?」
堅苦しいところなんて知らないから、俺が家族でよく行く店にするからなと言って、因幡さんが私達を連れてきてくれたのは、国際通り沿いにある小さなレストラン。メニューを見て真っ先に目についたのが、この海老フライの写真だった。
お店で使われている写真なんて、たいていが誇張だよね~とそこまで期待してなかったんだけど、テーブルの前にやって来たのは、これはフォークとナイフが絶対にいるよね!て思うほど大きな海老フライ。もう私、那覇基地に転属になったら、毎日ここに通ってもいいかな。
「でもびっくりです。私、伊勢エビって伊勢でしか食べられないものなんだって、思ってたので」
「いいのかこれで?」
因幡さんにそう言われた白勢さんは、笑ってうなづいている。
「俺はてっきり、この海老フライのことがあるから、この店を選んだんだとばかり思ってましたよ」
「まさか」
なんでそんな呆れた顔で見つめられなきゃいけないのか、さっぱり理解できない。好きなものを頼めって言ったのは因幡さんなのに。
「好きなものを頼めって言ったのは、因幡さんじゃないですか。ねえ、追加でもう一皿頼んだらダメですか?」
「おいー……もう少し他のものを食べるとかしないか?」
「付け合せの野菜はちゃんと食べてますよ。ごはんもパンもいらないので、海老フライをもう一皿食べたいです。ここまで待たされた利息分として」
私がそう言うと、因幡さんは呆れたように天井を見上げた。
「あーもう好きにしろ。すみませーん、追加のオーダー、お願いしまーす」
お店の人を呼んで、単品で海老フライを頼んでくれた。やった!! 人様のお財布で食べる海老フライはとてもおいしい。海老フライ最高!!
「なあ白勢。この浜路の海老好きは、一体どこまで深刻なんだ?」
「深刻ってひどいですね、病気じゃないですよ」
因幡さんの問い掛けに、白勢さんが首をかしげる。私の抗議の声はないものとされた模様。
「基地で出る海老に関しては、俺の分を根こそぎかっさらっていきますからね。症状としてはかなり深刻なんじゃ? 俺、ここしばらく海老を口にしてませんから、海老ピラフを除いて」
「白勢さんまで!!」
因幡さんはとんでもないぞと目をむいた。
「おいおいおい。ライダーが栄養失調になったらどうするんだ、手加減しろよ」
「もちろん海老をもらったら他のおかずを渡してますから、バランスはともかく栄養の面では心配ありませんよ。それに、他の人の海老は奪ってないから問題ないと思いますけど?」
最後の一切れをパクリと食べてからそう言ったら、因幡さんが笑う。
「そのツン顔はやめろって。まったく相変わらずだな、浜路は」
しばらくして、お店の人が海老フライを持って来てくれた。あ、なんだかさっきより大きくない? それに小さいのが一尾くっついてる!! もしかしてサービス?!
「当店の海老フライを気に入ってくださったようなので、規格外品が紛れ込んでいた海老もサービスでお付けしました。よかったら召し上がってください」
目をキラキラさせていると、お店の人がそう言ってニッコリと笑う。やっぱり! もうこれは、那覇基地に転属願いを出すべきかも!!
「ところで、こっちに滞在中の予定はどうなってるんだ?」
半分ぐらい海老を食べたところで、因幡さんが尋ねてくる。
「美ら海水族館と首里城ははずせないので、そこは行きますよ。本州と違って移動が車なので、白勢さんがレンタカー借りてくれるそうです。あとはダイビングをする予定だったかな」
「見るだけじゃなくて、泳いでイルカ気分に浸りたいそうですよ、うちのキーパー殿」
私がやりたいこと行きたいことをあれこれあげていたら、いつのまにか白勢さんがきちんとした日程を組み立てて、泊るところやダイビングに連れて行ってくれる体験ツアーを手配してくれていた。さすが白勢さん、空自パイロットを首になっても旅行会社でお勤めできるかも?って言ったら、当分はパイロットをやめる気はないよって笑ってたっけ。
「浜路のことだ、那覇基地の見学をさせろとか言わなかっただろうな?」
「もちろん言いましたよ。彼女は仕事熱心ですからね」
「やっぱり」
だって、他の基地ではどんな整備体制なんだろうって気にならない? 基本の作業は同じでも、それぞれの地域の気候や風土で機体の状態は変わってくるものだ。那覇では機体整備でどんな工夫がされているのか、同じ整備員としては気になるところなんだもの。
「でも却下されちゃったんですよ、白勢さんに。休みの時ぐらい仕事のことは頭から追い出さないと、完全なリフレッシュなんてできないだろって」
とにかくそっち関係はいっさいダメと言い渡されちゃっていて、接触できるのは因幡さんと行き帰りの輸送機だけ。ここ最近休み以外の時間は機体整備に明け暮れているから、目の前に那覇基地があるっていうのに、四日間もなにもしない状態はなんだか物足りないっていうか、手持ち無沙汰っていうか。
あ、帰りの定期便に乗る前の空き時間とか、なんとかならないかな。
「……るい、ダメといったらダメだから。いい加減に諦めろ」
「なにも言ってないじゃないですか」
「いま、帰りの定期便に乗る前に時間を作れないかって算段してただろ?」
あれ? なんで分かったかな。
「あー。三番機の整備手順を算段している時と同じ顔してたな、今」
ええ、因幡さんにまで気づかれてる?!
「大事なのはメリハリだぞ、浜路。ダラダラと仕事を続けていたら良いってもんじゃないんだからな?」
「ダラダラしてませんよ、毎日キビキビとお仕事してます。ちゃんと機体だって綺麗に磨いてますし、ダラダラなんてしてませんから」
松島基地の公式SNSが流している写真見てます? 三番機はどの機体よりもピカピカだと思いません? なのに因幡さんは何故か「ダメだこりゃ」って呟きながら笑っている。
「仕事中のことだけじゃない。ただでさえ、俺とるいは仕事が終わってもついつい会話がそっち関係で偏りがちになる。だからこういう時は、意識して仕事のことは頭から追い出す。オンとオフははっきりと。オッケー?」
そして因幡さんの言葉に付け加えるように、白勢さんが真面目な顔でそう言った。
「……分かりましたよ。那覇基地見学はまたの機会にします。来年度の那覇基地エアフェスタ、ブルーがこっちまで遠征できたら良いんですけどね」
「こりゃ、当分のあいだ諦めそうにないな……」
呆れた奴だと笑う因幡さん。でも日々精進なんだから、仕事熱心なことは良いことだよね? もちろん、時と場合によりにけりではあるんだろうけれど。
「少なくともこれ以降は仕事の話はNGだ。松島に戻るまでは仕事のことは忘れること。以後はそっち系の話を振られても、俺はいっさい答えないから」
こうなると白勢さんが一歩も譲らないのは分かってる。きっとうっかり私が仕事関係の話を振っても、聞こえないふりをするに違いないんだから。
「分かりました~今から仕事のことは忘れます~~」
「……なんだよ、なんでそこで俺をそんな顔で見るんだ」
私にじーっと見つめられて因幡さんが顔をしかめる。
「おい、なんなんだ?」
「えっと、どちらさまでしたっけ?」
「はーん……そうきたか」
「仕事のことは忘れろって言ったのは、白勢さんと因幡さんじゃないですか」
ちゃんと実践してみせたのに、なにか文句でも?と膨れたら、やれやれと溜め息をつかれてしまった。
「なんで俺のことを早々に忘れるんだよ、まったく。ムカついたからもうデザートをおごるのは無しにする。仕事のことを忘れるってことは、カナブンのことも忘れてるってことなんだよな?」
「うわっ、ひどい、カナブンで嫌がらせをしたのは因幡さんじゃないですか。甘いモノは別腹なんです! デザートまでちゃんとおごってくれないと、次の休暇も押し掛けちゃいますからね!」
もちろん白勢さんも一緒ですからね!と言ったら、因幡さんはちょっとだけ怖い顔をして、白勢さんを人さし指でビシッとさす。
「まったく白勢。何度も言うようだが、お前が甘やかし放題にするから、浜路はこんなワガママ娘になるんだろうが。上官としてもう少しなんとかしろ」
「甘やかしているつまりはないんですが……」
「いいや、絶対に甘やかしてる、間違いない。ここまでお前達の砂吐きの話が聞こえてきそうだ」
私は甘やかされているつもりなんてないですよ!と言ったけど、今度の抗議もなかったことにされた。
「あのな、俺達は年上で階級もお前よりかなり上なんだぞ? その辺のこと、分かってるか?」
「デザートはなんですか?」
無邪気な顔をしてみせると、因幡さんが脱力したのが分かった。
「ああもう。好きに選べ。何度も押し掛けられたらたまったもんじゃない。厄介ごとは一度で片付けるに限る」
よっしゃ!勝った!とガッツポーズをすると同時に、お店の人がメニューを持って来てくれた。
そんなわけで、離れ離れになってなかなか会えなくなった三番機の師匠と弟子、それからキーパーの私達だったけれど、こうやって顔を合わせて話してみれば、以前と何も変わってないってことがよく分かった沖縄滞在第一日目だった。
「なんでしょう、因幡さん」
モグモグしている私の前に座っていた因幡一尉が、首をかしげながら私のお皿を指さす。
「ここまで追いかけてきたんだから、沖縄でしか食べられないものを頼むのかと思ってたんだが、なんでそこで海老フライなんだ?」
「海老が好きだからに決まってるじゃないですか。こんなに大きな海老フライなんて、本州でははなかなか食べられませんよ?」
私の前に置かれたお皿の上には、大きな海老フライが横たわっていた。
大抵は衣のほうが多くない?!みたいなお店が多いのに、ここの海老フライは、間違いなく衣より海老の身のほうが多い。しかも衣はサクサクしているし、海老の身もプリップリ。それに加えてこの自家製のタルタルソース!! こんなにおいしい海老フライがこの世に存在していたなんて、沖縄に来て本当に良かった!!
「それに私、エビチリをおごってもらおうと思ってたんですよね、あの時。だから海老つながりでこれにしました。これでやっと、カナブンの件は許してあげようって気になったかも」
「なったかもっておい……?」
堅苦しいところなんて知らないから、俺が家族でよく行く店にするからなと言って、因幡さんが私達を連れてきてくれたのは、国際通り沿いにある小さなレストラン。メニューを見て真っ先に目についたのが、この海老フライの写真だった。
お店で使われている写真なんて、たいていが誇張だよね~とそこまで期待してなかったんだけど、テーブルの前にやって来たのは、これはフォークとナイフが絶対にいるよね!て思うほど大きな海老フライ。もう私、那覇基地に転属になったら、毎日ここに通ってもいいかな。
「でもびっくりです。私、伊勢エビって伊勢でしか食べられないものなんだって、思ってたので」
「いいのかこれで?」
因幡さんにそう言われた白勢さんは、笑ってうなづいている。
「俺はてっきり、この海老フライのことがあるから、この店を選んだんだとばかり思ってましたよ」
「まさか」
なんでそんな呆れた顔で見つめられなきゃいけないのか、さっぱり理解できない。好きなものを頼めって言ったのは因幡さんなのに。
「好きなものを頼めって言ったのは、因幡さんじゃないですか。ねえ、追加でもう一皿頼んだらダメですか?」
「おいー……もう少し他のものを食べるとかしないか?」
「付け合せの野菜はちゃんと食べてますよ。ごはんもパンもいらないので、海老フライをもう一皿食べたいです。ここまで待たされた利息分として」
私がそう言うと、因幡さんは呆れたように天井を見上げた。
「あーもう好きにしろ。すみませーん、追加のオーダー、お願いしまーす」
お店の人を呼んで、単品で海老フライを頼んでくれた。やった!! 人様のお財布で食べる海老フライはとてもおいしい。海老フライ最高!!
「なあ白勢。この浜路の海老好きは、一体どこまで深刻なんだ?」
「深刻ってひどいですね、病気じゃないですよ」
因幡さんの問い掛けに、白勢さんが首をかしげる。私の抗議の声はないものとされた模様。
「基地で出る海老に関しては、俺の分を根こそぎかっさらっていきますからね。症状としてはかなり深刻なんじゃ? 俺、ここしばらく海老を口にしてませんから、海老ピラフを除いて」
「白勢さんまで!!」
因幡さんはとんでもないぞと目をむいた。
「おいおいおい。ライダーが栄養失調になったらどうするんだ、手加減しろよ」
「もちろん海老をもらったら他のおかずを渡してますから、バランスはともかく栄養の面では心配ありませんよ。それに、他の人の海老は奪ってないから問題ないと思いますけど?」
最後の一切れをパクリと食べてからそう言ったら、因幡さんが笑う。
「そのツン顔はやめろって。まったく相変わらずだな、浜路は」
しばらくして、お店の人が海老フライを持って来てくれた。あ、なんだかさっきより大きくない? それに小さいのが一尾くっついてる!! もしかしてサービス?!
「当店の海老フライを気に入ってくださったようなので、規格外品が紛れ込んでいた海老もサービスでお付けしました。よかったら召し上がってください」
目をキラキラさせていると、お店の人がそう言ってニッコリと笑う。やっぱり! もうこれは、那覇基地に転属願いを出すべきかも!!
「ところで、こっちに滞在中の予定はどうなってるんだ?」
半分ぐらい海老を食べたところで、因幡さんが尋ねてくる。
「美ら海水族館と首里城ははずせないので、そこは行きますよ。本州と違って移動が車なので、白勢さんがレンタカー借りてくれるそうです。あとはダイビングをする予定だったかな」
「見るだけじゃなくて、泳いでイルカ気分に浸りたいそうですよ、うちのキーパー殿」
私がやりたいこと行きたいことをあれこれあげていたら、いつのまにか白勢さんがきちんとした日程を組み立てて、泊るところやダイビングに連れて行ってくれる体験ツアーを手配してくれていた。さすが白勢さん、空自パイロットを首になっても旅行会社でお勤めできるかも?って言ったら、当分はパイロットをやめる気はないよって笑ってたっけ。
「浜路のことだ、那覇基地の見学をさせろとか言わなかっただろうな?」
「もちろん言いましたよ。彼女は仕事熱心ですからね」
「やっぱり」
だって、他の基地ではどんな整備体制なんだろうって気にならない? 基本の作業は同じでも、それぞれの地域の気候や風土で機体の状態は変わってくるものだ。那覇では機体整備でどんな工夫がされているのか、同じ整備員としては気になるところなんだもの。
「でも却下されちゃったんですよ、白勢さんに。休みの時ぐらい仕事のことは頭から追い出さないと、完全なリフレッシュなんてできないだろって」
とにかくそっち関係はいっさいダメと言い渡されちゃっていて、接触できるのは因幡さんと行き帰りの輸送機だけ。ここ最近休み以外の時間は機体整備に明け暮れているから、目の前に那覇基地があるっていうのに、四日間もなにもしない状態はなんだか物足りないっていうか、手持ち無沙汰っていうか。
あ、帰りの定期便に乗る前の空き時間とか、なんとかならないかな。
「……るい、ダメといったらダメだから。いい加減に諦めろ」
「なにも言ってないじゃないですか」
「いま、帰りの定期便に乗る前に時間を作れないかって算段してただろ?」
あれ? なんで分かったかな。
「あー。三番機の整備手順を算段している時と同じ顔してたな、今」
ええ、因幡さんにまで気づかれてる?!
「大事なのはメリハリだぞ、浜路。ダラダラと仕事を続けていたら良いってもんじゃないんだからな?」
「ダラダラしてませんよ、毎日キビキビとお仕事してます。ちゃんと機体だって綺麗に磨いてますし、ダラダラなんてしてませんから」
松島基地の公式SNSが流している写真見てます? 三番機はどの機体よりもピカピカだと思いません? なのに因幡さんは何故か「ダメだこりゃ」って呟きながら笑っている。
「仕事中のことだけじゃない。ただでさえ、俺とるいは仕事が終わってもついつい会話がそっち関係で偏りがちになる。だからこういう時は、意識して仕事のことは頭から追い出す。オンとオフははっきりと。オッケー?」
そして因幡さんの言葉に付け加えるように、白勢さんが真面目な顔でそう言った。
「……分かりましたよ。那覇基地見学はまたの機会にします。来年度の那覇基地エアフェスタ、ブルーがこっちまで遠征できたら良いんですけどね」
「こりゃ、当分のあいだ諦めそうにないな……」
呆れた奴だと笑う因幡さん。でも日々精進なんだから、仕事熱心なことは良いことだよね? もちろん、時と場合によりにけりではあるんだろうけれど。
「少なくともこれ以降は仕事の話はNGだ。松島に戻るまでは仕事のことは忘れること。以後はそっち系の話を振られても、俺はいっさい答えないから」
こうなると白勢さんが一歩も譲らないのは分かってる。きっとうっかり私が仕事関係の話を振っても、聞こえないふりをするに違いないんだから。
「分かりました~今から仕事のことは忘れます~~」
「……なんだよ、なんでそこで俺をそんな顔で見るんだ」
私にじーっと見つめられて因幡さんが顔をしかめる。
「おい、なんなんだ?」
「えっと、どちらさまでしたっけ?」
「はーん……そうきたか」
「仕事のことは忘れろって言ったのは、白勢さんと因幡さんじゃないですか」
ちゃんと実践してみせたのに、なにか文句でも?と膨れたら、やれやれと溜め息をつかれてしまった。
「なんで俺のことを早々に忘れるんだよ、まったく。ムカついたからもうデザートをおごるのは無しにする。仕事のことを忘れるってことは、カナブンのことも忘れてるってことなんだよな?」
「うわっ、ひどい、カナブンで嫌がらせをしたのは因幡さんじゃないですか。甘いモノは別腹なんです! デザートまでちゃんとおごってくれないと、次の休暇も押し掛けちゃいますからね!」
もちろん白勢さんも一緒ですからね!と言ったら、因幡さんはちょっとだけ怖い顔をして、白勢さんを人さし指でビシッとさす。
「まったく白勢。何度も言うようだが、お前が甘やかし放題にするから、浜路はこんなワガママ娘になるんだろうが。上官としてもう少しなんとかしろ」
「甘やかしているつまりはないんですが……」
「いいや、絶対に甘やかしてる、間違いない。ここまでお前達の砂吐きの話が聞こえてきそうだ」
私は甘やかされているつもりなんてないですよ!と言ったけど、今度の抗議もなかったことにされた。
「あのな、俺達は年上で階級もお前よりかなり上なんだぞ? その辺のこと、分かってるか?」
「デザートはなんですか?」
無邪気な顔をしてみせると、因幡さんが脱力したのが分かった。
「ああもう。好きに選べ。何度も押し掛けられたらたまったもんじゃない。厄介ごとは一度で片付けるに限る」
よっしゃ!勝った!とガッツポーズをすると同時に、お店の人がメニューを持って来てくれた。
そんなわけで、離れ離れになってなかなか会えなくなった三番機の師匠と弟子、それからキーパーの私達だったけれど、こうやって顔を合わせて話してみれば、以前と何も変わってないってことがよく分かった沖縄滞在第一日目だった。
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