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本編
第十一話 ドルフィンキーパーのお仕事?
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十二月。
世間では師走はなにかとせわしないと言われているけど、それは私達も同じだ。
ブルーインパルスも先週の築城基地航空祭に続き、来週は新田原基地のエアフェスタと、ホームでの飛行訓練の合間に遠征が続いていた。今回もドルフィン達は浜松基地を経由して新田原へ、私達はここから支援機で新田原へ、どちらも前日に現地に入る予定になっている。
「おはようございます、白勢一尉。今日も風邪はひいてませんね?」
展示デビューに向けて白勢一尉の飛行訓練は始まっていたけれど、イケボが周知されてしまったせいか、相変わらずアナウンスをまかされることが多い。というよりも、会場基地からのご指名が多いといったほうが正しいかもしれない。一尉が三番機の後ろに乗って訓練を始めていることもあってか、飛行展示の科目とアナウンスとのタイミングが神がかっていると、コアなファンの間で評判になっているらしい。
そんなわけで、せっかくのイケボが、風邪をひいてガラガラ声になってしまったら目も当てられないと、朝一で一尉の健康状態にチェックをいれるのが、なぜか私の確認項目の最優先事項となっていた。
「おはよう、浜路さん。ひいていると答えたら、看病しにきてくれるのかい?」
私のいつもの挨拶に、返ってくる一尉の言葉もいつもどおり。鼻声でもなく喉がれもなく、声を聞いた限りは異常なし。
「まさか。うつされたら困るので、遠く離れてすごしますよ。今日も空気が乾燥しているし寒くなってきたので、のど飴をあげます。訓練から戻ってきたらなめてくださいね、予防が肝心なので」
私がそう言って一尉の手にのど飴を差し出すと、一尉は悲しそうな溜め息をつきながら、飴をつまんだ。
「ドルフィンキーパーはドルフィンの整備点検が仕事だろ?」
「そうですよ。だからちゃんと朝一に確認してるじゃないですか。だいたい私の仕事はT-4の整備点検であって、人間の整備点検は含まれていないんですからね。白勢一尉は、T-4と違って自分で健康管理ができるんですから、きちんと自分で健康管理をしてください」
そう言ってから、手をのばして一尉のおでこにさわってみる。うん、熱もなし。
「薄情だな」
「なにが薄情だ。現在進行形で三番機パイロットの俺なんて、今まで浜路から、一度も風邪ひきを気にしてもらったことなんてないんだぞ? それに比べればお前は高待遇だろ、白勢」
因幡一尉が、派手なクシャミをしながらやってきた。
「そうなんですか?」
「みてみろ。今あれだけ俺が派手にクシャミをしたっていうのに、浜路はまったくの無視だぞ? 気づかうそぶりすら見せないじゃないか」
そう言いながらヘルメットを持った手で私を指して、恨めし気な顔でこちらを見る。
「だって因幡一尉の場合、風邪じゃなくて、冷たい風に鼻が反応しただけじゃないですか。あ、鼻水が出たんだったら、ポケットティシュを工具の箱に入れてますよ。使いますか?」
「どうだ、自分が高待遇だってことが分かっただろ」
因幡一尉がそう言うと、白勢一尉はアハハハと笑った。
「因幡さんのそれと比べたら、社交辞令の挨拶まで高待遇になりそうですね」
「笑いごとじゃないっつーの。まったく、そろいもそろって失礼だな、お前達は」
「約束をドタキャンした因幡一尉に言われたくないですよ。それに、その時のおごりだって、まだしてもらってないじゃないですか」
ドタキャンとは、水族館に行ったあの日のランチの件だ。
「だからあれは、土壇場になって隊長に呼び出されたと言ってるだろうが。疑うなら隊長に聞いてこい」
もちろんこれは隊長が、内々に話したことを私達に教えてくれるはずがないことを知っての言葉だ。つまり、本当になにか話があったんだってこと。その後に白勢一尉に隊長から話がないことから、おそらく、因幡一尉の前任地の那覇基地がらみのことではあるんだろうけど、いくらなんでもタイミングが良すぎないかって話なのだ。
「なんだか腹が立ってきたな。腹が立ってきたから、今日の操縦はお前に任せて、俺はふて寝してやる」
「それって隊長から、白勢一尉に操縦をまかせても良いって、お許しが出たということですか?」
半年間の訓練期間は、後ろに座っていることのほうが多いのに、ずいぶんと早いことだ。
「なんだって? 聞こえないなあ、空耳か? クシャミのしすぎで耳がよく聞こえん。白勢、お前は前、俺は後ろ」
「了解しました」
しかも、一尉がコックピットの前に座るとか!
「あ、ひどいですね、私の質問は無視ですか?」
「ひどいのはどっちだ。さあ、まずは機体チェックをおっぱじめるぞ。そろそろ隊長が出てくるからな、その前に終わらせておこう。それで? 俺の飴玉は?」
「もちろんありますよ。降りてきてからなめてくださいね。コックピットに飴が転がっていたら、しかられるのは私なんですから」
そう言って、いちごミルク味の飴を渡した。
私が白勢一尉にのど飴を渡すのを見てから、いつの間にか因幡一尉も、俺にもよこせと飴を要求するようになっていた。しかも、私がいつも持ち歩いているニッキ味ののど飴は気に入らないらしく、要求してきたのはいちごミルク味。タックネームのラパンにちなんで、ニンジン味があれば良いのにとあれこれ探してみたけど、残念なことに、今のところそんな愉快な味の飴は見当たらない。
これで私達のいつもの朝の長い御挨拶は終了。飛行訓練に向けて準備を開始する。先に天候確認のために離陸したT-4によると、訓練空域も基地上空と同様に雲の少ない晴天で視界も良好。つまりは今日も、冬空にしては穏やかな飛行日和とのことだった。
「最近は二頭のイルカのエサ係まで兼任しているのか。大変だな、浜路」
それまで黙って機体の後ろにいた赤羽曹長が、ニヤニヤしながら顔をのぞかせる。
「芸をするイルカには、御褒美が必要なんだそうです」
「白勢一尉なら分かるが、なんでいまさらのように因幡一尉まで?」
「赤羽、うるさいぞ。坂東三佐、いくら残りの任期が半年を切ったからって、ここ最近のあなたの部下達の俺に対する態度は、ひどくないですか」
因幡一尉が、電源車の横でパネルのチェックをしていた三佐に声をかけた。
「ん? なにか言ったか? 俺も最近は耳が遠くなってなあ」
三佐がわざとらしく耳に手をあてて振り返る。
「……あなたが筆頭ですか、そうですか、やれやれまったく」
因幡一尉は、がっくりした様子でヘルメットと耐Gスーツをコックピットに放り込むと、白勢一尉とともに機体の点検を始めた。
別に私達は本気で嫌がらせをしているわけではないし、それは一尉もわかっていることだ。このメンバーで、こんな風に練前に軽口を叩き合うのもあと少しだと思うと、寂しいというのが本音だった。だから、ついついいじり方も激しくなってしまうのだ。
「曹長、今日は白勢一尉が前ですって」
ランディングギアをのぞき込んでいた曹長に声をかける。
「浜路、そこで呑気に喜んで笑っている場合じゃないんだぞ?」
「呑気になんて笑ってませんよ。曹長は嬉しくないんですか? 新しい三番機のドルフィンライダーが間もなく誕生するのに」
「それは嬉しいことだが、俺が言いたいのはそこじゃなくてだ。白勢一尉の展示デビューが近づいてきたってことは、お前の展示デビューも近づいてきているってことなんだぞ? わかってるのか?」
稼働範囲の確認をするために、フラップをキコキコ動かしていた手がピタリと止まる。そうだった!
「あれ、本気の本気だったんですか?」
「当たり前だろ。そうでないなら、わざわざエンジンチェックの練習なんてさせないだろうが」
そこで曹長がフムと考え込んだ。
「そうだな、白勢一尉が前に座って飛ばすことになったんだ。今日はお前も俺のかわりに前に立て。よろしいですね、三佐?」
「訓練と飛行前点検に支障が出ないのならかまわんぞ」
「その点は大丈夫です。ここしばらくは、つきっきりで指導していましたから」
「なら問題ない」
わわわ、三佐の許可まで出てしまった!
「えー……」
「なにがえーだ。普段やっていることと、ほとんど変わらないだろうが。なんのために遅くまで練習に付き合っていると思ってるんだ? しかも、俺には報酬の飴玉も出ないんだぞ」
それを聞いたとたんにガックリする。どうして皆そろいもそろって、そんなに飴玉にこだわるのか理解できない。私が渡していたのはあくまでも薬用のど飴なのに、いつの間にか、普通のキャンディーまでもらえると期待しているのはどうして? しかも部下から!
「結局そこなんですか、問題点は」
「当たり前だ。俺にも飴玉よこせ。三佐もたまに袖の下で受け取っているのは知ってるんだからな」
「袖の下じゃありませんよ。三佐の場合は、タバコの吸いすぎで喉がイガイガするって言うから、のど飴を渡してるだけです。だって、何度も近くで咳ばらいされてうるさいんですもの」
しかも「のど飴よこせ」と上官権限で要求してきたのは、三佐のほうからだ。
「それでも渡してるには違いないんだろうが。俺がお前から飴玉を受け取ったのは、いつぞやハークの中で投げてつけてきた、馬鹿みたいに酸っぱいやつだけじゃないか。不公平だ、今すぐよこせ」
「まったくもう、みんなして子供なんだから。はい、どうぞ!」
「おい、それは俺の大切ないちごミルクだろ」
機体の向こう側から文句を言ってきたのは、当然のことながら因幡一尉。
「うるさいですよ、みなさん。さっさと点検して所定の位置についてください。あんまりうるさく言うと、隊長に言いつけますからね!」
一人だけでも大変なのに、だいの大人が四人もだなんて。水族館で五頭のイルカを大人しく従えているトレーナーさんは、本当に偉大だと思った瞬間だった。
世間では師走はなにかとせわしないと言われているけど、それは私達も同じだ。
ブルーインパルスも先週の築城基地航空祭に続き、来週は新田原基地のエアフェスタと、ホームでの飛行訓練の合間に遠征が続いていた。今回もドルフィン達は浜松基地を経由して新田原へ、私達はここから支援機で新田原へ、どちらも前日に現地に入る予定になっている。
「おはようございます、白勢一尉。今日も風邪はひいてませんね?」
展示デビューに向けて白勢一尉の飛行訓練は始まっていたけれど、イケボが周知されてしまったせいか、相変わらずアナウンスをまかされることが多い。というよりも、会場基地からのご指名が多いといったほうが正しいかもしれない。一尉が三番機の後ろに乗って訓練を始めていることもあってか、飛行展示の科目とアナウンスとのタイミングが神がかっていると、コアなファンの間で評判になっているらしい。
そんなわけで、せっかくのイケボが、風邪をひいてガラガラ声になってしまったら目も当てられないと、朝一で一尉の健康状態にチェックをいれるのが、なぜか私の確認項目の最優先事項となっていた。
「おはよう、浜路さん。ひいていると答えたら、看病しにきてくれるのかい?」
私のいつもの挨拶に、返ってくる一尉の言葉もいつもどおり。鼻声でもなく喉がれもなく、声を聞いた限りは異常なし。
「まさか。うつされたら困るので、遠く離れてすごしますよ。今日も空気が乾燥しているし寒くなってきたので、のど飴をあげます。訓練から戻ってきたらなめてくださいね、予防が肝心なので」
私がそう言って一尉の手にのど飴を差し出すと、一尉は悲しそうな溜め息をつきながら、飴をつまんだ。
「ドルフィンキーパーはドルフィンの整備点検が仕事だろ?」
「そうですよ。だからちゃんと朝一に確認してるじゃないですか。だいたい私の仕事はT-4の整備点検であって、人間の整備点検は含まれていないんですからね。白勢一尉は、T-4と違って自分で健康管理ができるんですから、きちんと自分で健康管理をしてください」
そう言ってから、手をのばして一尉のおでこにさわってみる。うん、熱もなし。
「薄情だな」
「なにが薄情だ。現在進行形で三番機パイロットの俺なんて、今まで浜路から、一度も風邪ひきを気にしてもらったことなんてないんだぞ? それに比べればお前は高待遇だろ、白勢」
因幡一尉が、派手なクシャミをしながらやってきた。
「そうなんですか?」
「みてみろ。今あれだけ俺が派手にクシャミをしたっていうのに、浜路はまったくの無視だぞ? 気づかうそぶりすら見せないじゃないか」
そう言いながらヘルメットを持った手で私を指して、恨めし気な顔でこちらを見る。
「だって因幡一尉の場合、風邪じゃなくて、冷たい風に鼻が反応しただけじゃないですか。あ、鼻水が出たんだったら、ポケットティシュを工具の箱に入れてますよ。使いますか?」
「どうだ、自分が高待遇だってことが分かっただろ」
因幡一尉がそう言うと、白勢一尉はアハハハと笑った。
「因幡さんのそれと比べたら、社交辞令の挨拶まで高待遇になりそうですね」
「笑いごとじゃないっつーの。まったく、そろいもそろって失礼だな、お前達は」
「約束をドタキャンした因幡一尉に言われたくないですよ。それに、その時のおごりだって、まだしてもらってないじゃないですか」
ドタキャンとは、水族館に行ったあの日のランチの件だ。
「だからあれは、土壇場になって隊長に呼び出されたと言ってるだろうが。疑うなら隊長に聞いてこい」
もちろんこれは隊長が、内々に話したことを私達に教えてくれるはずがないことを知っての言葉だ。つまり、本当になにか話があったんだってこと。その後に白勢一尉に隊長から話がないことから、おそらく、因幡一尉の前任地の那覇基地がらみのことではあるんだろうけど、いくらなんでもタイミングが良すぎないかって話なのだ。
「なんだか腹が立ってきたな。腹が立ってきたから、今日の操縦はお前に任せて、俺はふて寝してやる」
「それって隊長から、白勢一尉に操縦をまかせても良いって、お許しが出たということですか?」
半年間の訓練期間は、後ろに座っていることのほうが多いのに、ずいぶんと早いことだ。
「なんだって? 聞こえないなあ、空耳か? クシャミのしすぎで耳がよく聞こえん。白勢、お前は前、俺は後ろ」
「了解しました」
しかも、一尉がコックピットの前に座るとか!
「あ、ひどいですね、私の質問は無視ですか?」
「ひどいのはどっちだ。さあ、まずは機体チェックをおっぱじめるぞ。そろそろ隊長が出てくるからな、その前に終わらせておこう。それで? 俺の飴玉は?」
「もちろんありますよ。降りてきてからなめてくださいね。コックピットに飴が転がっていたら、しかられるのは私なんですから」
そう言って、いちごミルク味の飴を渡した。
私が白勢一尉にのど飴を渡すのを見てから、いつの間にか因幡一尉も、俺にもよこせと飴を要求するようになっていた。しかも、私がいつも持ち歩いているニッキ味ののど飴は気に入らないらしく、要求してきたのはいちごミルク味。タックネームのラパンにちなんで、ニンジン味があれば良いのにとあれこれ探してみたけど、残念なことに、今のところそんな愉快な味の飴は見当たらない。
これで私達のいつもの朝の長い御挨拶は終了。飛行訓練に向けて準備を開始する。先に天候確認のために離陸したT-4によると、訓練空域も基地上空と同様に雲の少ない晴天で視界も良好。つまりは今日も、冬空にしては穏やかな飛行日和とのことだった。
「最近は二頭のイルカのエサ係まで兼任しているのか。大変だな、浜路」
それまで黙って機体の後ろにいた赤羽曹長が、ニヤニヤしながら顔をのぞかせる。
「芸をするイルカには、御褒美が必要なんだそうです」
「白勢一尉なら分かるが、なんでいまさらのように因幡一尉まで?」
「赤羽、うるさいぞ。坂東三佐、いくら残りの任期が半年を切ったからって、ここ最近のあなたの部下達の俺に対する態度は、ひどくないですか」
因幡一尉が、電源車の横でパネルのチェックをしていた三佐に声をかけた。
「ん? なにか言ったか? 俺も最近は耳が遠くなってなあ」
三佐がわざとらしく耳に手をあてて振り返る。
「……あなたが筆頭ですか、そうですか、やれやれまったく」
因幡一尉は、がっくりした様子でヘルメットと耐Gスーツをコックピットに放り込むと、白勢一尉とともに機体の点検を始めた。
別に私達は本気で嫌がらせをしているわけではないし、それは一尉もわかっていることだ。このメンバーで、こんな風に練前に軽口を叩き合うのもあと少しだと思うと、寂しいというのが本音だった。だから、ついついいじり方も激しくなってしまうのだ。
「曹長、今日は白勢一尉が前ですって」
ランディングギアをのぞき込んでいた曹長に声をかける。
「浜路、そこで呑気に喜んで笑っている場合じゃないんだぞ?」
「呑気になんて笑ってませんよ。曹長は嬉しくないんですか? 新しい三番機のドルフィンライダーが間もなく誕生するのに」
「それは嬉しいことだが、俺が言いたいのはそこじゃなくてだ。白勢一尉の展示デビューが近づいてきたってことは、お前の展示デビューも近づいてきているってことなんだぞ? わかってるのか?」
稼働範囲の確認をするために、フラップをキコキコ動かしていた手がピタリと止まる。そうだった!
「あれ、本気の本気だったんですか?」
「当たり前だろ。そうでないなら、わざわざエンジンチェックの練習なんてさせないだろうが」
そこで曹長がフムと考え込んだ。
「そうだな、白勢一尉が前に座って飛ばすことになったんだ。今日はお前も俺のかわりに前に立て。よろしいですね、三佐?」
「訓練と飛行前点検に支障が出ないのならかまわんぞ」
「その点は大丈夫です。ここしばらくは、つきっきりで指導していましたから」
「なら問題ない」
わわわ、三佐の許可まで出てしまった!
「えー……」
「なにがえーだ。普段やっていることと、ほとんど変わらないだろうが。なんのために遅くまで練習に付き合っていると思ってるんだ? しかも、俺には報酬の飴玉も出ないんだぞ」
それを聞いたとたんにガックリする。どうして皆そろいもそろって、そんなに飴玉にこだわるのか理解できない。私が渡していたのはあくまでも薬用のど飴なのに、いつの間にか、普通のキャンディーまでもらえると期待しているのはどうして? しかも部下から!
「結局そこなんですか、問題点は」
「当たり前だ。俺にも飴玉よこせ。三佐もたまに袖の下で受け取っているのは知ってるんだからな」
「袖の下じゃありませんよ。三佐の場合は、タバコの吸いすぎで喉がイガイガするって言うから、のど飴を渡してるだけです。だって、何度も近くで咳ばらいされてうるさいんですもの」
しかも「のど飴よこせ」と上官権限で要求してきたのは、三佐のほうからだ。
「それでも渡してるには違いないんだろうが。俺がお前から飴玉を受け取ったのは、いつぞやハークの中で投げてつけてきた、馬鹿みたいに酸っぱいやつだけじゃないか。不公平だ、今すぐよこせ」
「まったくもう、みんなして子供なんだから。はい、どうぞ!」
「おい、それは俺の大切ないちごミルクだろ」
機体の向こう側から文句を言ってきたのは、当然のことながら因幡一尉。
「うるさいですよ、みなさん。さっさと点検して所定の位置についてください。あんまりうるさく言うと、隊長に言いつけますからね!」
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