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本編
第四話 変わったイルカもいるらしい
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お話の中に、小説家になろうで公開されている佐伯瑠璃さん作『スワローテールになりたいの』に登場した八神さんと、饕餮さんが公開されている『私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている』に登場する藤田さんのお名前が出てきます。
※お二人には許可をいただいております※
++++++++++
色々な場所に出向いてアクロを披露する日以外は、松島基地上空や基地から少し離れた場所にある、ブルー専用の訓練空域で訓練をする日々が続く。
遠征から戻ってきた翌日も休むことなく、朝一番のフライトに玉置隊長が乗る一番機、それから二番機、三番機、四番機が訓練飛行に出ることになった。天気も安定していて絶好の飛行日和となりそうなので、昼からは全機が上がることになり、キーパーの私達も忙しくなりそうだ。
「不思議に思っていたんですけど」
滑走路に出ていく四機を見送りながら、横に立つ坂東三佐に話しかけた。今日の三番機の後ろには白勢一尉が乗っている。遠征の帰りに乗せられなかったから、あらためて挨拶を兼ねてと、因幡一尉が隊長に許可をもらったのだ。
「なんだ?」
「どうしてジッタさんが、四番機に乗ることになったんですかね?」
ジッタこと藤田一尉は、今年度から飛行展示で飛ぶようになった四番機のパイロットだ。
「どういうことだ?」
「だって、四番機パイロットは現状は二人体制じゃないですか。考えてみれば、あの時に藤田一尉が三番機に乗れば、因幡一尉だって任期をのばすことなく、那覇に戻れたわけでしょ? どうして隊長は、藤田一尉を三番機じゃなくて四番機パイロットにしたんでしょう? その後で、他の候補から四番機パイロットを選んでも、良かったんじゃないかなって」
パイロットには資格や技量とは別に、飛び方やそれぞれ独自のクセがあって、適したポジションというものがあると聞いたことがある。隊長達はそのクセと技量を見極めて、本人達の希望を踏まえたうえで、新しく着任したパイロットをそれぞれの機体に割り振りをしていくわけだけど、ここにやってくるパイロットは全員が優秀なパイロット、誰がどの機体に乗ることになっても、問題なかったと思うのだ。
「そりゃあ、四番機が編隊飛行をするうえで、重要なポジションだってことは理解してますけどね。もちろん、藤田一尉がそれに見合った技量を持っていると、認められたってことも」
私がそう言うと、坂東三佐は顎に手をやりながら首をかしげた。
「さあて。そのへんは、玉置にも考えがあったんだろうとしか言えないな。だが、他の連中は白勢を含めて、俺から見ても四番機って性格じゃないからな」
「性格? それって人柄ってことですか? 資格と技量じゃなくて?」
「飛行展示をする時には、各機それぞれの役割がある。危険なアクロもたくさんあるんだ、資格と技量は当然だが、それなりにその人物の性格も大切になってくるのは当然だろ。それに、相手はあの四番機だからな」
〝あの〟と意味深な言葉に今度は私が首をかしげる。
「四番機になにか問題でもありましたっけ?」
パイロットと同様に、それぞれの機体にも個性があった。それはその機体を操縦するパイロットだけではなく、整備をしている私達でも感じられることだ。というのも、同じレーンで組み立てられた機体でも、その個体によってネジの締まり具合やエンジンの調整加減がまったく違ったりするのだ。
私はここにきてから三番機しかさわったことがないけれど、四番機は扱いにくい機体なんだろうか? 藤田一尉も整備班の先輩達も、なにも言っていなかったように思うけど。
「まあ相性ってやつか」
「相性、ですか」
それも聞いたことがあるような。もちろん『名人筆を選ばず』のことわざ通り、どの機体に乗ることになっても整備することになっても、問題なく対処できなくては一人前ではないんだけれど。
「何年か前に八神が搭乗したあたりから、四番機には妙な属性がついたみたいでな。あれに乗ると、なぜか乗ったヤツ全員が、妙にエロがかるんだよ。だから少なくとも、真面目な白勢に向かないのは間違いないな」
あまりのことに開いた口がふさがらない。
「は? ちょっと待ってください。パイロットと機体の相性の話をしていたのではないんですか? なんですか、そのエロ属性というのは」
「とにかく、松島の平和のためにも、白勢は四番機ではなく三番機が最適なポジションだ。ただでさえ騒がれるイケボ属性にエロ属性がついてみろ、大変なことになるぞ? いたるところから女がむらがってきて、それこそ大騒ぎだ」
「待ってください。属性付加とかファンタジーゲームの世界じゃないんですから。しかも、むらがってくるだなんて」
またまた御冗談をと笑ってみせたけど、坂東三佐はいたって真面目な顔をしている。え? 本気でそう思っているとか? 妙な沈黙が流れる中、頭上を綺麗なダイアモンド隊形を維持した四機が横切っていく。
「間違いなく四番機には、パイロットにエロ属性をつけるなにかがある」
三佐はそれを見つめながら断言した。どうやら本気らしい。
「マジですか……」
「ああ。もっとも、八神が女にもてすぎるヤツだったから、それがうつったのかもな」
「じゃあそれって、八神さんのせいってことじゃないですか。御本人に、そのエロ属性を引き取ってもらうことはできないんですか?」
「どうやってついたのかも分からないものを、どうしろってんだ」
「それはたしかにそうですけど……」
しばらくして、旋回してきた四機が縦一列になって進入してきた。私達の頭上あたりで高度を上げながら、ダイアモンド隊形へと隊形を変化させてループに入る。これはチェンジオーバーループという課目だ。
「……思うんですけど」
「ん?」
「それって、玉置隊長も知っているんですよね?」
「なにを?」
「四番機のエロ属性」
「まあな」
「ってことは、隊長は藤田一尉にエロ属性を押しつけたってことですか? 因幡一尉を那覇に戻すのを延期してまで」
「……言われてみればそうだな、そこまで考えなかったが」
「なんとまあ」
御愁傷様です、ジッタさん。私は頭上を抜けていく四機をながめながら、ここにいる間、藤田一尉のエロ属性が爆発しませんようにと心の中で合掌した。
+++
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
降りてきた四機がハンガー前で綺麗に並んで停止すると、白勢一尉がコックピットから降りてきた。聞くまでもなく超ご機嫌という顔だ。
「ただい、ま?」
満足げな笑顔を浮かべたまま、機体から離れようとしていた一尉の前に行くと、指を立てる。目を丸くした一尉が立ち止まったところで、そのまま指先を動かした。指先が向いた先には、基地の敷地と一般道路をへだてるフェンスがある。その向こう側に、カメラを持った人達が立っているのが見えていた。いつもブルーが訓練で空に上がるのを待ちかまえている人達だ。
中にはかなり熱心なブルーインパルスファンな人もいて、毎日のようにやってきては、たくさん写真を撮ってSNSにアップロードしていた。たまに私もネットでのぞかせてもらっているんだけど、ブルー愛にあふれた写真がたくさん撮られていて、ますます三番機を綺麗に磨いてやらなければと思うのだ。ま、たまに自分が写っていると、恥ずかしくてパソコン画面に頭を打ちつけたくなる衝動にもかられるけど。
「サービスしなきゃいけないんじゃないですか? せっかくああやって、降りてくるのを待っていてくれたんですから」
「ああ、そうだった」
隊長を含めて全員が降りると、その人達がいる方に向かって手を振った。きっと今日の写真も、夜にはSNSにアップロードされているだろう。寝る前にチェックしなければ。
一尉達が手を振っているのを横目に見ながら、赤羽曹長と共に機体のチェックを始めた。右側の翼を注意深く点検していたところで、変な染みが目についた。
「ん?」
もしかして飛行中に鳥と接触でもしたのかな?と、ちゃんと見ようと顔を寄せたら、横の隙間からなにかが顔めがけて飛び出してきた。
「ぅぎゃあ?!」
思わず悲鳴を上げながらそれを払いのけると、その場にいた全員が慌てた様子でこっちに目を向けた。
「おい、どうした?」
「なんだなんだ?」
白勢一尉が慌てた様子でこっちにかけよる。
「どうした?」
「むむむむ、虫、虫ですよっ!!」
「虫?」
手で払いのけた後に、足元にポトリと落ちた黒い塊を指さす。大抵なものは平気なんだけど、ゴキブリとかカブトムシとか、黒くて光ってる系の虫だけはどうしてもダメなのだ。もう理性が吹き飛ぶぐらい嫌い! ダメ! ムリ! 絶対に共存なんてできない!
「一体どこから」
「フラップのすきまから出てきました!」
また顔に飛んでこられたらイヤなので、一尉の後ろに隠れるようにして立つ。
「へえ。いつ入り込んだんだろうな。つぶれなくて良かったなあ、お前」
「なんで触って平気なんですか!」
「だってこれ、そのへんにいるカナブンだぞ? たまに飛んでるの見かけるじゃないか」
「知りませんよ、私、そんなの飛んでるの見たことないですし!」
一尉が、ぶつかってへしゃげることもなく、はさまってつぶされることもなく、地上に降りてこられて良かったなあと虫に話しかけている。そんな時の声もイケボなんだけど、今の問題はそこじゃない。
「ほんと、いつ機体の中にもぐりこんだんだろうな」
因幡一尉が横からのぞきこんできた。
「もしかして、離陸する前に迷い込んで、飛んでいた時もずっとそこにしがみついていたのかもな」
「かもしれませんね。しかし運の良いやつですよ。無事に戻ってこれたんですからね」
「だな」
因幡一尉が、白勢一尉のてのひらの上でコロンとなっている虫をつまんだ。
「ほれ、色も綺麗だし顔もよく見ると可愛いんだぞ」
「 ――――― ッ!!!!!」
後から考えると、職務に対する誇りもなにもかも放り出して、全速力で逃げてしまったのは非常に情けないことではあったんだけど、嫌いなんだからしかたがないじゃない。
しかもその様子、ドルフィンキーパーさんがなぜか全速力で走っていったとSNSで流されてしまうし、私にとっては散々な朝のできごとだった。
※お二人には許可をいただいております※
++++++++++
色々な場所に出向いてアクロを披露する日以外は、松島基地上空や基地から少し離れた場所にある、ブルー専用の訓練空域で訓練をする日々が続く。
遠征から戻ってきた翌日も休むことなく、朝一番のフライトに玉置隊長が乗る一番機、それから二番機、三番機、四番機が訓練飛行に出ることになった。天気も安定していて絶好の飛行日和となりそうなので、昼からは全機が上がることになり、キーパーの私達も忙しくなりそうだ。
「不思議に思っていたんですけど」
滑走路に出ていく四機を見送りながら、横に立つ坂東三佐に話しかけた。今日の三番機の後ろには白勢一尉が乗っている。遠征の帰りに乗せられなかったから、あらためて挨拶を兼ねてと、因幡一尉が隊長に許可をもらったのだ。
「なんだ?」
「どうしてジッタさんが、四番機に乗ることになったんですかね?」
ジッタこと藤田一尉は、今年度から飛行展示で飛ぶようになった四番機のパイロットだ。
「どういうことだ?」
「だって、四番機パイロットは現状は二人体制じゃないですか。考えてみれば、あの時に藤田一尉が三番機に乗れば、因幡一尉だって任期をのばすことなく、那覇に戻れたわけでしょ? どうして隊長は、藤田一尉を三番機じゃなくて四番機パイロットにしたんでしょう? その後で、他の候補から四番機パイロットを選んでも、良かったんじゃないかなって」
パイロットには資格や技量とは別に、飛び方やそれぞれ独自のクセがあって、適したポジションというものがあると聞いたことがある。隊長達はそのクセと技量を見極めて、本人達の希望を踏まえたうえで、新しく着任したパイロットをそれぞれの機体に割り振りをしていくわけだけど、ここにやってくるパイロットは全員が優秀なパイロット、誰がどの機体に乗ることになっても、問題なかったと思うのだ。
「そりゃあ、四番機が編隊飛行をするうえで、重要なポジションだってことは理解してますけどね。もちろん、藤田一尉がそれに見合った技量を持っていると、認められたってことも」
私がそう言うと、坂東三佐は顎に手をやりながら首をかしげた。
「さあて。そのへんは、玉置にも考えがあったんだろうとしか言えないな。だが、他の連中は白勢を含めて、俺から見ても四番機って性格じゃないからな」
「性格? それって人柄ってことですか? 資格と技量じゃなくて?」
「飛行展示をする時には、各機それぞれの役割がある。危険なアクロもたくさんあるんだ、資格と技量は当然だが、それなりにその人物の性格も大切になってくるのは当然だろ。それに、相手はあの四番機だからな」
〝あの〟と意味深な言葉に今度は私が首をかしげる。
「四番機になにか問題でもありましたっけ?」
パイロットと同様に、それぞれの機体にも個性があった。それはその機体を操縦するパイロットだけではなく、整備をしている私達でも感じられることだ。というのも、同じレーンで組み立てられた機体でも、その個体によってネジの締まり具合やエンジンの調整加減がまったく違ったりするのだ。
私はここにきてから三番機しかさわったことがないけれど、四番機は扱いにくい機体なんだろうか? 藤田一尉も整備班の先輩達も、なにも言っていなかったように思うけど。
「まあ相性ってやつか」
「相性、ですか」
それも聞いたことがあるような。もちろん『名人筆を選ばず』のことわざ通り、どの機体に乗ることになっても整備することになっても、問題なく対処できなくては一人前ではないんだけれど。
「何年か前に八神が搭乗したあたりから、四番機には妙な属性がついたみたいでな。あれに乗ると、なぜか乗ったヤツ全員が、妙にエロがかるんだよ。だから少なくとも、真面目な白勢に向かないのは間違いないな」
あまりのことに開いた口がふさがらない。
「は? ちょっと待ってください。パイロットと機体の相性の話をしていたのではないんですか? なんですか、そのエロ属性というのは」
「とにかく、松島の平和のためにも、白勢は四番機ではなく三番機が最適なポジションだ。ただでさえ騒がれるイケボ属性にエロ属性がついてみろ、大変なことになるぞ? いたるところから女がむらがってきて、それこそ大騒ぎだ」
「待ってください。属性付加とかファンタジーゲームの世界じゃないんですから。しかも、むらがってくるだなんて」
またまた御冗談をと笑ってみせたけど、坂東三佐はいたって真面目な顔をしている。え? 本気でそう思っているとか? 妙な沈黙が流れる中、頭上を綺麗なダイアモンド隊形を維持した四機が横切っていく。
「間違いなく四番機には、パイロットにエロ属性をつけるなにかがある」
三佐はそれを見つめながら断言した。どうやら本気らしい。
「マジですか……」
「ああ。もっとも、八神が女にもてすぎるヤツだったから、それがうつったのかもな」
「じゃあそれって、八神さんのせいってことじゃないですか。御本人に、そのエロ属性を引き取ってもらうことはできないんですか?」
「どうやってついたのかも分からないものを、どうしろってんだ」
「それはたしかにそうですけど……」
しばらくして、旋回してきた四機が縦一列になって進入してきた。私達の頭上あたりで高度を上げながら、ダイアモンド隊形へと隊形を変化させてループに入る。これはチェンジオーバーループという課目だ。
「……思うんですけど」
「ん?」
「それって、玉置隊長も知っているんですよね?」
「なにを?」
「四番機のエロ属性」
「まあな」
「ってことは、隊長は藤田一尉にエロ属性を押しつけたってことですか? 因幡一尉を那覇に戻すのを延期してまで」
「……言われてみればそうだな、そこまで考えなかったが」
「なんとまあ」
御愁傷様です、ジッタさん。私は頭上を抜けていく四機をながめながら、ここにいる間、藤田一尉のエロ属性が爆発しませんようにと心の中で合掌した。
+++
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
降りてきた四機がハンガー前で綺麗に並んで停止すると、白勢一尉がコックピットから降りてきた。聞くまでもなく超ご機嫌という顔だ。
「ただい、ま?」
満足げな笑顔を浮かべたまま、機体から離れようとしていた一尉の前に行くと、指を立てる。目を丸くした一尉が立ち止まったところで、そのまま指先を動かした。指先が向いた先には、基地の敷地と一般道路をへだてるフェンスがある。その向こう側に、カメラを持った人達が立っているのが見えていた。いつもブルーが訓練で空に上がるのを待ちかまえている人達だ。
中にはかなり熱心なブルーインパルスファンな人もいて、毎日のようにやってきては、たくさん写真を撮ってSNSにアップロードしていた。たまに私もネットでのぞかせてもらっているんだけど、ブルー愛にあふれた写真がたくさん撮られていて、ますます三番機を綺麗に磨いてやらなければと思うのだ。ま、たまに自分が写っていると、恥ずかしくてパソコン画面に頭を打ちつけたくなる衝動にもかられるけど。
「サービスしなきゃいけないんじゃないですか? せっかくああやって、降りてくるのを待っていてくれたんですから」
「ああ、そうだった」
隊長を含めて全員が降りると、その人達がいる方に向かって手を振った。きっと今日の写真も、夜にはSNSにアップロードされているだろう。寝る前にチェックしなければ。
一尉達が手を振っているのを横目に見ながら、赤羽曹長と共に機体のチェックを始めた。右側の翼を注意深く点検していたところで、変な染みが目についた。
「ん?」
もしかして飛行中に鳥と接触でもしたのかな?と、ちゃんと見ようと顔を寄せたら、横の隙間からなにかが顔めがけて飛び出してきた。
「ぅぎゃあ?!」
思わず悲鳴を上げながらそれを払いのけると、その場にいた全員が慌てた様子でこっちに目を向けた。
「おい、どうした?」
「なんだなんだ?」
白勢一尉が慌てた様子でこっちにかけよる。
「どうした?」
「むむむむ、虫、虫ですよっ!!」
「虫?」
手で払いのけた後に、足元にポトリと落ちた黒い塊を指さす。大抵なものは平気なんだけど、ゴキブリとかカブトムシとか、黒くて光ってる系の虫だけはどうしてもダメなのだ。もう理性が吹き飛ぶぐらい嫌い! ダメ! ムリ! 絶対に共存なんてできない!
「一体どこから」
「フラップのすきまから出てきました!」
また顔に飛んでこられたらイヤなので、一尉の後ろに隠れるようにして立つ。
「へえ。いつ入り込んだんだろうな。つぶれなくて良かったなあ、お前」
「なんで触って平気なんですか!」
「だってこれ、そのへんにいるカナブンだぞ? たまに飛んでるの見かけるじゃないか」
「知りませんよ、私、そんなの飛んでるの見たことないですし!」
一尉が、ぶつかってへしゃげることもなく、はさまってつぶされることもなく、地上に降りてこられて良かったなあと虫に話しかけている。そんな時の声もイケボなんだけど、今の問題はそこじゃない。
「ほんと、いつ機体の中にもぐりこんだんだろうな」
因幡一尉が横からのぞきこんできた。
「もしかして、離陸する前に迷い込んで、飛んでいた時もずっとそこにしがみついていたのかもな」
「かもしれませんね。しかし運の良いやつですよ。無事に戻ってこれたんですからね」
「だな」
因幡一尉が、白勢一尉のてのひらの上でコロンとなっている虫をつまんだ。
「ほれ、色も綺麗だし顔もよく見ると可愛いんだぞ」
「 ――――― ッ!!!!!」
後から考えると、職務に対する誇りもなにもかも放り出して、全速力で逃げてしまったのは非常に情けないことではあったんだけど、嫌いなんだからしかたがないじゃない。
しかもその様子、ドルフィンキーパーさんがなぜか全速力で走っていったとSNSで流されてしまうし、私にとっては散々な朝のできごとだった。
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