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キュウリ男と編集さん
キュウリ男と編集さん 12
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「小此木、お前、見合いするんだって?」
いきなりの椹木の発言に、周りが静まり返った。その場に居合わせた隊員達の視線が俺に集まる。
「おい」
「ん?」
「この空気、どうしてくれるんだ?」
静まり返ってしまったテーブルの一角。こちらに目を向けている隊員達を手でしめす。
「そんなに大声で話してないよな、俺」
「お前の声、よく通るんだよ。そろそろ自覚しろ」
「そうなのか? それはすまない。それで? 見合いをするってのは本当なのか?」
まったくすまないと思ってないよな? しかも「見合いをする」の部分だけ、やけに声がでかかったよな?
「だから、どうしてわざわざ、見合いの部分だけ音量を上げるんだ」
ニヤニヤしているところから、それが故意なのは一目瞭然だ。
「だってさ、お前、これまで上からのその手の話、ずっとうまくかわしてたじゃないか。それがいきなりだろ? キュウリサンドだけでも気になるんだ、見合いともなれば、誰だって何事かって思うだろ。なあ?」
その場にいた全員が、遠慮がちにうなづいた。
「お前達、ヒマなのか?」
「ヒマってことはないが、その手の話をするぐらいの時間はあるだろ。それが自分達の上官のことだったら、なおのこと気なるよな? なあ?」
「そろそろ昼休みの時間は終わるよな? お前達、昼から射撃の訓練があるんじゃなかったのか?」
わざとらしく腕時計を見る。椹木以外の若い隊員達が、慌てて残っていた昼飯を口に押し込み、トレーを手に立ち上がった。
「おお、気をつけてな。新人の小隊長君によろしくなー。話は俺がしっかり聞いておいてやるから、安心して訓練に行ってこい」
「よろしくおねがいします!」
「あとはお任せします!」
「楽しみにしています!」
「またのちほど!」
それぞれが椹木に一言のこし、返却口へと走っていく。
「俺もお前も、午後から仕事だよな?」
「幹部ってのは、なんでこうデスクワークが多いんだろうなあ」
「そりゃ幹部だからだろ」
「身も蓋もない言い方だな、小此木」
わざとらしくため息をついてみせた。
「それでー? 上官の見合いしろ攻撃を難なくかわしていた小此木三佐が見合いとは、一体どうしたんだ?」
トレーを返却しにいく俺の後ろを、ニタニタしながらついてくる。やれやれ、困ったものだ。この手の話が好きなのは、噂好きな女性ばかりではないらしい。
「それを聞くまで、仕事をさせないつもりか?」
「あいにく、俺とお前は隣同士の席だ。終業時間まではまだある。ずーっと話しかけられるのがイヤなら、今のうちに白状しておいた方が良いぞー?」
「まったく。なんとか断る口実がないものかと、こっちは悩んでいるってのに」
作戦会議と称してカフェで話し合ったものの、お互いの情報交換をしたのみで、特に有効そうな対処案は出なかった。やはり羽織屋さんの意見どおり、見合いをしてから断るしかないのか?
「なんだ、断りたいのか」
「当たり前だ」
「誰が持ってきた話なんだ?」
「オヤジ」
椹木は目を丸くした。
「なんと! とうとうしびれを切らしたのか、お前んとこのオヤジさん。そう言えば、この前、退職したんだよな? ヒマになったとたんにそれか。そりゃ大変だ」
「だから笑いこどじゃないんだ。両親ともに相手のことを気に入っていて、こっちの話なんて聞きやしない」
「お前は気に入らないのか?」
食堂を出ると、コンビニでコーヒーを買う。
「気に入ったとか気に入らないとか、そういう問題以前の話なんだよ。俺にはその気がない」
「だが、オヤジさんがすすめてくるんだ。合コンで顔を合わせる子より、身元は確かな子なんだろ? 会うだけでも会ってみろよ。案外と気に入るかもしれないぜ?」
「あー……」
だからいい子なのは認める。本当に面白い。
「ああ? もしかしてタイプなのか? それで悩んでいるとか?」
「だからそうじゃない。そもそも俺は見合いをしたくない。わかるか?」
「俺の意見を正直に言って良いか?」
椹木は、コーヒーのプルタップに指をひっかけながら言った。
「どうぞ」
「なんでそこまで見合いをしたくないのか、さっぱりわからん」
「そこからかよ」
思わずその場でしゃがみ込みそうになる。
「そこからだよ。だって考えてみろ。上から無理やり、断れない見合い話を押しつけられることを考えれば、自分のことをよく知っている親に、押しつけられたほうがマシじゃないか」
「だからだな」
こっちは見合いをしたくないと言っているのだ。なんでそこを無視する?
「上官から紹介される相手だと、こっちの事情を理解している相手が多いから、その点では安心だけどな。見合いを断れないなら、会ってから断るのが一番無難だと思うけどな」
「……そこが難しいんだよ」
「なんでだ」
「相手の伯父?だったか、その人がうちの連隊長の先輩らしい。おい、椹木?」
しゃがみ込んで爆笑している。しかも涙を流して。
「おい、泣くほど面白いか?」
「お前のオヤジさんって最高だな。すげーわー、それ。俺はお前のオヤジさんを尊敬する! 小此木、お前もうあきらめて見合いしろ!」
どうやら防大以来の親友も、今回のことでは役立ってくれそうにない。
いきなりの椹木の発言に、周りが静まり返った。その場に居合わせた隊員達の視線が俺に集まる。
「おい」
「ん?」
「この空気、どうしてくれるんだ?」
静まり返ってしまったテーブルの一角。こちらに目を向けている隊員達を手でしめす。
「そんなに大声で話してないよな、俺」
「お前の声、よく通るんだよ。そろそろ自覚しろ」
「そうなのか? それはすまない。それで? 見合いをするってのは本当なのか?」
まったくすまないと思ってないよな? しかも「見合いをする」の部分だけ、やけに声がでかかったよな?
「だから、どうしてわざわざ、見合いの部分だけ音量を上げるんだ」
ニヤニヤしているところから、それが故意なのは一目瞭然だ。
「だってさ、お前、これまで上からのその手の話、ずっとうまくかわしてたじゃないか。それがいきなりだろ? キュウリサンドだけでも気になるんだ、見合いともなれば、誰だって何事かって思うだろ。なあ?」
その場にいた全員が、遠慮がちにうなづいた。
「お前達、ヒマなのか?」
「ヒマってことはないが、その手の話をするぐらいの時間はあるだろ。それが自分達の上官のことだったら、なおのこと気なるよな? なあ?」
「そろそろ昼休みの時間は終わるよな? お前達、昼から射撃の訓練があるんじゃなかったのか?」
わざとらしく腕時計を見る。椹木以外の若い隊員達が、慌てて残っていた昼飯を口に押し込み、トレーを手に立ち上がった。
「おお、気をつけてな。新人の小隊長君によろしくなー。話は俺がしっかり聞いておいてやるから、安心して訓練に行ってこい」
「よろしくおねがいします!」
「あとはお任せします!」
「楽しみにしています!」
「またのちほど!」
それぞれが椹木に一言のこし、返却口へと走っていく。
「俺もお前も、午後から仕事だよな?」
「幹部ってのは、なんでこうデスクワークが多いんだろうなあ」
「そりゃ幹部だからだろ」
「身も蓋もない言い方だな、小此木」
わざとらしくため息をついてみせた。
「それでー? 上官の見合いしろ攻撃を難なくかわしていた小此木三佐が見合いとは、一体どうしたんだ?」
トレーを返却しにいく俺の後ろを、ニタニタしながらついてくる。やれやれ、困ったものだ。この手の話が好きなのは、噂好きな女性ばかりではないらしい。
「それを聞くまで、仕事をさせないつもりか?」
「あいにく、俺とお前は隣同士の席だ。終業時間まではまだある。ずーっと話しかけられるのがイヤなら、今のうちに白状しておいた方が良いぞー?」
「まったく。なんとか断る口実がないものかと、こっちは悩んでいるってのに」
作戦会議と称してカフェで話し合ったものの、お互いの情報交換をしたのみで、特に有効そうな対処案は出なかった。やはり羽織屋さんの意見どおり、見合いをしてから断るしかないのか?
「なんだ、断りたいのか」
「当たり前だ」
「誰が持ってきた話なんだ?」
「オヤジ」
椹木は目を丸くした。
「なんと! とうとうしびれを切らしたのか、お前んとこのオヤジさん。そう言えば、この前、退職したんだよな? ヒマになったとたんにそれか。そりゃ大変だ」
「だから笑いこどじゃないんだ。両親ともに相手のことを気に入っていて、こっちの話なんて聞きやしない」
「お前は気に入らないのか?」
食堂を出ると、コンビニでコーヒーを買う。
「気に入ったとか気に入らないとか、そういう問題以前の話なんだよ。俺にはその気がない」
「だが、オヤジさんがすすめてくるんだ。合コンで顔を合わせる子より、身元は確かな子なんだろ? 会うだけでも会ってみろよ。案外と気に入るかもしれないぜ?」
「あー……」
だからいい子なのは認める。本当に面白い。
「ああ? もしかしてタイプなのか? それで悩んでいるとか?」
「だからそうじゃない。そもそも俺は見合いをしたくない。わかるか?」
「俺の意見を正直に言って良いか?」
椹木は、コーヒーのプルタップに指をひっかけながら言った。
「どうぞ」
「なんでそこまで見合いをしたくないのか、さっぱりわからん」
「そこからかよ」
思わずその場でしゃがみ込みそうになる。
「そこからだよ。だって考えてみろ。上から無理やり、断れない見合い話を押しつけられることを考えれば、自分のことをよく知っている親に、押しつけられたほうがマシじゃないか」
「だからだな」
こっちは見合いをしたくないと言っているのだ。なんでそこを無視する?
「上官から紹介される相手だと、こっちの事情を理解している相手が多いから、その点では安心だけどな。見合いを断れないなら、会ってから断るのが一番無難だと思うけどな」
「……そこが難しいんだよ」
「なんでだ」
「相手の伯父?だったか、その人がうちの連隊長の先輩らしい。おい、椹木?」
しゃがみ込んで爆笑している。しかも涙を流して。
「おい、泣くほど面白いか?」
「お前のオヤジさんって最高だな。すげーわー、それ。俺はお前のオヤジさんを尊敬する! 小此木、お前もうあきらめて見合いしろ!」
どうやら防大以来の親友も、今回のことでは役立ってくれそうにない。
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