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小話
ある日の榎本さんと葛城さん
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F-2戦闘機の部隊配備が本格的に始まった頃の榎本さんと葛城さんの様子です。
++++++++++
いよいよF-2戦闘機の量産が本格的に開始され、部隊配備が始まった。しかし、配備される数が当初の調達予定数を大幅に下回ることが決まり、それを知った天音二佐が、こっちの苦労をなんだと思っているのかと上に噛みついている最中だ。
ブルーインパルス分まではそろえられなくても、部隊配備はするのだ。せめてそのパイロット達を鍛える飛行教導隊には、何機か欲しいものだというのが元アグレッサーである俺の意見だが、二佐の訴えがどこまで上に、というか財布を握っている財務省のお歴々に伝わるかは、まだまだ不透明なままだった。
「ようやく俺達もお役御免だなあ、こうなると名残り惜しいな」
葛城が、テスト用の機体を軽く撫でながら呟く。テスト中に様々なハプニングに見舞われて、ヒヤリとすることも一度や二度ではなかった厄介な機体だったが、いざ離れるとなると寂しいものだ。
そしてそれは機体だけではなく、テストに携わったパイロットや整備員に対しても同じことが言えた。ここに残る者もいれば、F-2が新たに配備される基地へと向かう者もいる。これからはそれぞれが、各地でこの機体に携わっていくことになるのだ。
「すまなかったな、長いことつき合わせて」
「んー? 気にすんな。俺も桧山も随分と楽しませてもらった」
桧山は一足先に本来の所属基地である三沢に戻っており、葛城も明日には千歳に戻ることになっていた。
「優さんやおチビちゃん達にも、随分と寂しい思いをさせてしまって申し訳なく思っている」
「優はちゃんと理解してくれていたよ。それに、チビ達にはこれからちゃんと埋め合わせをするつもりでいるから、心配すんな」
チビ達に顔を忘れられてなきゃいいんだがなぁと、葛城が呑気な顔をして笑う。
「お前、ブルーにって話もあったんだろ?」
「ああ、それな。俺は好きに飛べないのは無理だから断った。もちろん腕に自信が無いってわけじゃないぞ?」
葛城らしい言い分に、思わず笑ってしまった。
テストが始まってしばらくしてから聞いた話なのだが、俺がこいつに声をかけたのと同じタイミングで、ブルーインパルスに行かないかという話が上から打診されていたらしい。ブルーといえば空自では花形の存在で、戦闘機パイロットとしては一つの目標でもあった。まさかその打診を断ってまでこっちに来てくれているとは知らず、その話を聞いてから少しばかり申し訳なく思っていたのだ。
「長くアラート任務から離れるつもりもなかったしな。それにスリル満点という意味ではこいつも同じだったろ」
機体を撫でながら葛城がニヤリと笑った。
確かにテスト飛行ならではの様々なアクシデントに見舞われた毎日で、葛城と桧山じゃなかったらどうなっていたことやらと、冷や汗をかくことが幾度もあった。しまいにはアクシデントが無いと逆に気持ち悪いぞと、冗談混じりで三人でよく笑い合ったものだが、俺としては、テストパイロットを務めたのがこの二人で本当に助かったというのが正直気持ちだ。
「問題児ではあるが、こいつは良い機体だ、気に入ったよ」
「お前、本当に機種転換するのか?」
葛城と桧山がF-2の戦闘機要員になることにしたと聞いたのは、つい先日のことだった。既にこの機体を飛ばしていることから、機種転換課程もスムーズに終わるだろうというのが天音二佐の見解だ。上の連中は、二人には経験をしかして訓練課程教官の任に就いてほしいと思っているようだが、こいつ等の様子からしてそれは当分先の話になりそうだ。
「当然だろ。せっかく一足先に搭乗するチャンスに恵まれたんだ。それを利用しない手はないからな。あっちに戻ったら、さっそく転属願いを提出する」
「本当に気に入ったんだな」
「当り前だ。今からこいつでショットガンのケツを追い回すのが楽しみだよ」
「おいおい」
悪人みたいな笑みを浮かべる様子に、思わず溜め息をつく。
「なんだよ。あいつ、お前が空に上がれなくなったから、自分が空のトップだってふんぞり返ってるんだろ? そういうけしからんことを言う奴には、きちんとお灸をすえなくちゃな。そんな大口を叩くのは、百万年早いってことを思い知らせてやらないと」
「また高笑いしてキルコールするのか?」
「こいつと俺のコンビなら不可能じゃないだろ。こいつに乗ってアメリカでの日米合同演習に参加するのが楽しみだ」
葛城がフフフッと怪しい笑い声をあげた。確かに機動性の高いF-2と葛城の腕ならそれも可能だろう。今からショットガンの愚痴りが聞こえてきそうだ。
「あまりやり過ぎるなよ? 相手はアグレッサー様なんだからな」
「なんだよ、あいつの顔に黒星をぶつけてやるのが楽しみじゃないのか?」
「……楽しみだ」
自分の手でぶつけてやれないのが悔しいほどに。
「だろ?」
「やれやれ。どんな無茶な飛行をするつもりなのやら。俺が整備員としてついていかないと心配になってきた」
「おう。それとショットガンと手合わせする時は、お前を後ろに乗せてやるから楽しみにしていろよな。だからパイロットとしての勘を鈍らせるんじゃないぞ?」
俺の心の声が聞こえたのか、葛城はニッと笑うとそう言った。
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いよいよF-2戦闘機の量産が本格的に開始され、部隊配備が始まった。しかし、配備される数が当初の調達予定数を大幅に下回ることが決まり、それを知った天音二佐が、こっちの苦労をなんだと思っているのかと上に噛みついている最中だ。
ブルーインパルス分まではそろえられなくても、部隊配備はするのだ。せめてそのパイロット達を鍛える飛行教導隊には、何機か欲しいものだというのが元アグレッサーである俺の意見だが、二佐の訴えがどこまで上に、というか財布を握っている財務省のお歴々に伝わるかは、まだまだ不透明なままだった。
「ようやく俺達もお役御免だなあ、こうなると名残り惜しいな」
葛城が、テスト用の機体を軽く撫でながら呟く。テスト中に様々なハプニングに見舞われて、ヒヤリとすることも一度や二度ではなかった厄介な機体だったが、いざ離れるとなると寂しいものだ。
そしてそれは機体だけではなく、テストに携わったパイロットや整備員に対しても同じことが言えた。ここに残る者もいれば、F-2が新たに配備される基地へと向かう者もいる。これからはそれぞれが、各地でこの機体に携わっていくことになるのだ。
「すまなかったな、長いことつき合わせて」
「んー? 気にすんな。俺も桧山も随分と楽しませてもらった」
桧山は一足先に本来の所属基地である三沢に戻っており、葛城も明日には千歳に戻ることになっていた。
「優さんやおチビちゃん達にも、随分と寂しい思いをさせてしまって申し訳なく思っている」
「優はちゃんと理解してくれていたよ。それに、チビ達にはこれからちゃんと埋め合わせをするつもりでいるから、心配すんな」
チビ達に顔を忘れられてなきゃいいんだがなぁと、葛城が呑気な顔をして笑う。
「お前、ブルーにって話もあったんだろ?」
「ああ、それな。俺は好きに飛べないのは無理だから断った。もちろん腕に自信が無いってわけじゃないぞ?」
葛城らしい言い分に、思わず笑ってしまった。
テストが始まってしばらくしてから聞いた話なのだが、俺がこいつに声をかけたのと同じタイミングで、ブルーインパルスに行かないかという話が上から打診されていたらしい。ブルーといえば空自では花形の存在で、戦闘機パイロットとしては一つの目標でもあった。まさかその打診を断ってまでこっちに来てくれているとは知らず、その話を聞いてから少しばかり申し訳なく思っていたのだ。
「長くアラート任務から離れるつもりもなかったしな。それにスリル満点という意味ではこいつも同じだったろ」
機体を撫でながら葛城がニヤリと笑った。
確かにテスト飛行ならではの様々なアクシデントに見舞われた毎日で、葛城と桧山じゃなかったらどうなっていたことやらと、冷や汗をかくことが幾度もあった。しまいにはアクシデントが無いと逆に気持ち悪いぞと、冗談混じりで三人でよく笑い合ったものだが、俺としては、テストパイロットを務めたのがこの二人で本当に助かったというのが正直気持ちだ。
「問題児ではあるが、こいつは良い機体だ、気に入ったよ」
「お前、本当に機種転換するのか?」
葛城と桧山がF-2の戦闘機要員になることにしたと聞いたのは、つい先日のことだった。既にこの機体を飛ばしていることから、機種転換課程もスムーズに終わるだろうというのが天音二佐の見解だ。上の連中は、二人には経験をしかして訓練課程教官の任に就いてほしいと思っているようだが、こいつ等の様子からしてそれは当分先の話になりそうだ。
「当然だろ。せっかく一足先に搭乗するチャンスに恵まれたんだ。それを利用しない手はないからな。あっちに戻ったら、さっそく転属願いを提出する」
「本当に気に入ったんだな」
「当り前だ。今からこいつでショットガンのケツを追い回すのが楽しみだよ」
「おいおい」
悪人みたいな笑みを浮かべる様子に、思わず溜め息をつく。
「なんだよ。あいつ、お前が空に上がれなくなったから、自分が空のトップだってふんぞり返ってるんだろ? そういうけしからんことを言う奴には、きちんとお灸をすえなくちゃな。そんな大口を叩くのは、百万年早いってことを思い知らせてやらないと」
「また高笑いしてキルコールするのか?」
「こいつと俺のコンビなら不可能じゃないだろ。こいつに乗ってアメリカでの日米合同演習に参加するのが楽しみだ」
葛城がフフフッと怪しい笑い声をあげた。確かに機動性の高いF-2と葛城の腕ならそれも可能だろう。今からショットガンの愚痴りが聞こえてきそうだ。
「あまりやり過ぎるなよ? 相手はアグレッサー様なんだからな」
「なんだよ、あいつの顔に黒星をぶつけてやるのが楽しみじゃないのか?」
「……楽しみだ」
自分の手でぶつけてやれないのが悔しいほどに。
「だろ?」
「やれやれ。どんな無茶な飛行をするつもりなのやら。俺が整備員としてついていかないと心配になってきた」
「おう。それとショットガンと手合わせする時は、お前を後ろに乗せてやるから楽しみにしていろよな。だからパイロットとしての勘を鈍らせるんじゃないぞ?」
俺の心の声が聞こえたのか、葛城はニッと笑うとそう言った。
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