76 / 77
異世界ブルーインパルス~異世界で稲作はじめました?
第九話
しおりを挟む
「今夜は田植えを総出でするから飛行訓練は無しだ」
朝のブリーフィング終了直後、青井がそう宣言した。この夢が始まった当初、米作りは葛城が自分達でと申し出ていたんだが、飛行訓練が優先とされたため、現在は総括班長の青井が主導で指揮をとっている。その班長からのお達しだ。誰も逆らえるわけがない。
「拒否権はない。沖田、お前も田植えに参加だぞ。逃げたら承知しないからな」
「人の夢に踏み込んできておいて逃げたら承知しないとか、一体どういうことなんだ」
クギを刺された隊長がため息まじりにつぶやく。夢を見る余地もないほどに爆睡すれば良いのでは?と思わないでもないが、そうなったらそうなったで次の日が大変なことになりそうだ。なんだかんだ言いながらも青井の無茶ぶりに付き合っている隊長は、いろんな意味ですごいと思う。
「飛びたがりのドラゴン達がおとなしゅうしてたらええんやけどな」
「そこは俺が責任をもっておとなしくさせるさ」
「班長が言うとシャレにならんから怖いわ」
一体どんな秘策を考えているのやら。もしかしてドラゴン版マタタビなんてのを見つけてきたとか?
「俺の夢の中で勝手に暴れるな」
「だったら沖田がおとなしくさせるのか?」
「無理だ」
「だろ? だったら俺しかいないじゃないか」
やはりドラゴン版マタタビか?
「ああ、話が横道にそれたな。それでなんだけど、植える米の苗を選定するために、白米の試食会をすることにした。今日の昼は必ずブリーフィングルームに集まるように。昼飯もそこで食べることになるからそのつもりで」
「話がどんどん大きゅうなっとるで。完全に夢からはみ出しとるやん」
「ですね~~」
「俺に許可なく試食会をすることを決めるな」
隊長が不満げに言うが青井も負けていない。
「お前のせいだろ? どの米か決められないって言うから、しかたなく試食会をすることにしたんじゃないか」
「俺はパイロットであって米の評論家じゃない」
「最近は評論家とは言わずにソムリエって言うらしいぞ」
ヒヒヒッと青井が悪い顔をした。
「試食する米はどこで用意するん?」
「今日の担当の給養小隊に極秘で頼んだ」
「さすが班長」
「葛城、そこで青井をほめるな。青井、妙な交換条件を出していないだろうな」
青井の顔がさらに人の悪い笑みを浮かべる。
「袖の下を渡さなきゃ極秘で進められるわけないだろ? だからちゃんと渡したさ。楽しい夢への招待券をね」
「やっぱり……」
その言葉に隊長がガックリと肩をおとした。
「でもどうして極秘なんですか?」
葛城が首をかしげる。
「こんな楽しい夢が基地司令とか偉い連中に伝わったら、せっかくの夢に現実が入り込んで台無しだろ? だから極秘あつかいなのさ」
「なるほど。納得できました。極秘大賛成です」
「だろ?」
「今ので納得なんや……」
俺がそう言うと、葛城も青井と同じ悪い顔をしてみせた。
「偉い人が一緒だったら楽しめないじゃないですか」
「自分のオヤジさんだったらメチャクチャ楽しみそうやけどな」
「イヤですよ。夢の中でまで父親の馬鹿笑いを聞かされるのは。だから隊長以上の偉い人は禁止です」
そういうわけで、極秘の白米試食が行われることになった。
+++
そして昼。
「けっこうな量ですね」
それぞれ品種が書かれたメモと一緒に、握り寿司のシャリ程度の小さなおにぎりが並んでいる。小さくても種類が多いから、全部食べたらかなりの量だ。これでも事前にかなり候補をしぼったというのだから、日本のブランド米おそるべしやで。
「こんなん食べたら、嫁ちゃんおにぎりを入れる胃袋の空きスペースがなくなるで」
「今日ぐらいおにぎり無しで飛んだらどうですか」
「あんな坂崎。嫁ちゃんのおにぎりは特別やねん。その特別な嫁ちゃんのおにぎりが食べられへんなら、わいは絶対に飛ばへんからな」
「まったくも~~、影山先輩もたいがいメンドくさいわ~~」
「やかましいわ」
俺と坂崎の言い合いを見た青井が思案顔になった。
「だったら、沖田と影山以外で最終候補を2つまでしぼるのはどうだ? そして最後は二人でどちらかを選ぶ。これなら、影山も嫁さんのおにぎりが食べられなくなることもないだろ?」
「それならかまへんで。おかず食べながら待っとるわ」
「最後は隊長の沖田に選んでもらおうと思ってたんだけどな。まあそこはしかたがない。二人で仲良く選んでくれ」
そして試食会が始まった。普段は米の味なんて気にしたこともないが、横一列に並んで食べ比べてみると味も食感も色々と違うらしい。
「これ、カレーに合いそうですよ」
「だったら海自カレー用の田んぼでも作るか?」
「やめろ、これ以上、人を増やすな」
「これ、焼肉にタレをつけてワンバンさせたらメチャクチャ合いそうです」
「だったら陸自肉料理用の~」
「だから却下だと言っている」
「これは親子丼に~」
「親子丼がうまいのは陸海空どこだっけ?」
「だから人を増やす前提で米を選ぶな」
「ここは小松の爆音米っしょ!」
「ドラゴンで爆音でますかねえ」
「お前たち、空自由来の米ならいくら増やして良いと考えてないか?」
これ以上あれこれ選んでいたら半分以上の候補が残りそうな勢いだったので、最終的に隊長権限で松島の米を植えることになった。
ただ、田んぼ班の様子からして、絶対に隊長に内緒で増やしそうやったけどな。
朝のブリーフィング終了直後、青井がそう宣言した。この夢が始まった当初、米作りは葛城が自分達でと申し出ていたんだが、飛行訓練が優先とされたため、現在は総括班長の青井が主導で指揮をとっている。その班長からのお達しだ。誰も逆らえるわけがない。
「拒否権はない。沖田、お前も田植えに参加だぞ。逃げたら承知しないからな」
「人の夢に踏み込んできておいて逃げたら承知しないとか、一体どういうことなんだ」
クギを刺された隊長がため息まじりにつぶやく。夢を見る余地もないほどに爆睡すれば良いのでは?と思わないでもないが、そうなったらそうなったで次の日が大変なことになりそうだ。なんだかんだ言いながらも青井の無茶ぶりに付き合っている隊長は、いろんな意味ですごいと思う。
「飛びたがりのドラゴン達がおとなしゅうしてたらええんやけどな」
「そこは俺が責任をもっておとなしくさせるさ」
「班長が言うとシャレにならんから怖いわ」
一体どんな秘策を考えているのやら。もしかしてドラゴン版マタタビなんてのを見つけてきたとか?
「俺の夢の中で勝手に暴れるな」
「だったら沖田がおとなしくさせるのか?」
「無理だ」
「だろ? だったら俺しかいないじゃないか」
やはりドラゴン版マタタビか?
「ああ、話が横道にそれたな。それでなんだけど、植える米の苗を選定するために、白米の試食会をすることにした。今日の昼は必ずブリーフィングルームに集まるように。昼飯もそこで食べることになるからそのつもりで」
「話がどんどん大きゅうなっとるで。完全に夢からはみ出しとるやん」
「ですね~~」
「俺に許可なく試食会をすることを決めるな」
隊長が不満げに言うが青井も負けていない。
「お前のせいだろ? どの米か決められないって言うから、しかたなく試食会をすることにしたんじゃないか」
「俺はパイロットであって米の評論家じゃない」
「最近は評論家とは言わずにソムリエって言うらしいぞ」
ヒヒヒッと青井が悪い顔をした。
「試食する米はどこで用意するん?」
「今日の担当の給養小隊に極秘で頼んだ」
「さすが班長」
「葛城、そこで青井をほめるな。青井、妙な交換条件を出していないだろうな」
青井の顔がさらに人の悪い笑みを浮かべる。
「袖の下を渡さなきゃ極秘で進められるわけないだろ? だからちゃんと渡したさ。楽しい夢への招待券をね」
「やっぱり……」
その言葉に隊長がガックリと肩をおとした。
「でもどうして極秘なんですか?」
葛城が首をかしげる。
「こんな楽しい夢が基地司令とか偉い連中に伝わったら、せっかくの夢に現実が入り込んで台無しだろ? だから極秘あつかいなのさ」
「なるほど。納得できました。極秘大賛成です」
「だろ?」
「今ので納得なんや……」
俺がそう言うと、葛城も青井と同じ悪い顔をしてみせた。
「偉い人が一緒だったら楽しめないじゃないですか」
「自分のオヤジさんだったらメチャクチャ楽しみそうやけどな」
「イヤですよ。夢の中でまで父親の馬鹿笑いを聞かされるのは。だから隊長以上の偉い人は禁止です」
そういうわけで、極秘の白米試食が行われることになった。
+++
そして昼。
「けっこうな量ですね」
それぞれ品種が書かれたメモと一緒に、握り寿司のシャリ程度の小さなおにぎりが並んでいる。小さくても種類が多いから、全部食べたらかなりの量だ。これでも事前にかなり候補をしぼったというのだから、日本のブランド米おそるべしやで。
「こんなん食べたら、嫁ちゃんおにぎりを入れる胃袋の空きスペースがなくなるで」
「今日ぐらいおにぎり無しで飛んだらどうですか」
「あんな坂崎。嫁ちゃんのおにぎりは特別やねん。その特別な嫁ちゃんのおにぎりが食べられへんなら、わいは絶対に飛ばへんからな」
「まったくも~~、影山先輩もたいがいメンドくさいわ~~」
「やかましいわ」
俺と坂崎の言い合いを見た青井が思案顔になった。
「だったら、沖田と影山以外で最終候補を2つまでしぼるのはどうだ? そして最後は二人でどちらかを選ぶ。これなら、影山も嫁さんのおにぎりが食べられなくなることもないだろ?」
「それならかまへんで。おかず食べながら待っとるわ」
「最後は隊長の沖田に選んでもらおうと思ってたんだけどな。まあそこはしかたがない。二人で仲良く選んでくれ」
そして試食会が始まった。普段は米の味なんて気にしたこともないが、横一列に並んで食べ比べてみると味も食感も色々と違うらしい。
「これ、カレーに合いそうですよ」
「だったら海自カレー用の田んぼでも作るか?」
「やめろ、これ以上、人を増やすな」
「これ、焼肉にタレをつけてワンバンさせたらメチャクチャ合いそうです」
「だったら陸自肉料理用の~」
「だから却下だと言っている」
「これは親子丼に~」
「親子丼がうまいのは陸海空どこだっけ?」
「だから人を増やす前提で米を選ぶな」
「ここは小松の爆音米っしょ!」
「ドラゴンで爆音でますかねえ」
「お前たち、空自由来の米ならいくら増やして良いと考えてないか?」
これ以上あれこれ選んでいたら半分以上の候補が残りそうな勢いだったので、最終的に隊長権限で松島の米を植えることになった。
ただ、田んぼ班の様子からして、絶対に隊長に内緒で増やしそうやったけどな。
37
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。


【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる