68 / 77
異世界ブルーインパルス~異世界で稲作はじめました?
第一話
しおりを挟む
「……なあ、これって夢やんな」
いつものように嫁ちゃんのおにぎりを手にエプロンに出た俺は、目の前の光景に固まった。
「そうだと思いますけど」
「集団で同じ夢を見るって俺達すごくないか?」
「班長、驚くのはそこなん?」
「ん? まずはそこだろ」
マイペースな青井の横に立っている隊長も、俺達と同様に固まっている。いつも冷静沈着な隊長にしては珍しいことだ。
「すごいな、これ。どういうことなんだろう」
そう言いながら班長は、俺達が固まった原因に向かって歩き出した。
「ちょ、班長! 危ないで! 噛まれたらどないすんねん!」
「噛む気ならとっくに噛まれてるだろ。だから大丈夫だって。それに、よく見るとなかなか可愛いじゃないか」
「班長の可愛い範囲、広すぎる……」
俺の横に立っていた葛城君があきれたようにつぶやく。
「葛城君もそこなん? もっと突っ込むべきところ、あるやん?」
「突っ込みは影山さんに任せます」
「なんでやねん!」
そう言い返してから、もう一度目の前の存在に目を向けた。いつもならここは松島基地で、ブルー仕様のT-4が並んでいるはずなのだ。だが今日は違う。
「なんで7機ともドラゴンやねん。しかも青いやん、ブルー仕様やん、なにげに芸こまかいやん。しかもここ、大草原やん、基地どこいったん」
そうなのだ。俺達が立っているのは何故か大草原。そして目の前に並んでいるのはドラゴン。しかも置物でも彫刻でもない生きているドラゴンだ。……そもそも想像上の生き物に、生きてるとか死んでるとかあるんか? まあ動いてるから生きてるんやろうけど。
「こんなん日本に生息してるなんて聞いたことないで」
「俺も聞いたことないです。すごいですね、さすが夢!」
「これ、夢やんな?」
「だと思いますけど」
俺達の困惑をよそに、そいつらは退屈そうに羽を動かしたり首を上下に動かしたりしている。そのうちの一頭(て数えるんか?!)が派手なクシャミをした。クシャミをした途端、その鼻から何か出た。
「火!! あいつ、鼻から鼻水やのうて火を出しよったで!!」
「すごいな、本当にファンタジーだ。影山さんの五番機君、火を吐くんですね。俺の六番機君も同じなのかな」
「……いややわ。絶対飛びたないわ……つかプリタクどないすんねん」
「なんだかんだ言いながらも影山さん、飛ぶ気じゃないですか」
葛城が笑う。
「あんなんと一緒に飛んでみい。うっかりしたらコンガリ君やで。絶対に飛びたないわ」
「おにぎりが焼きおにぎりだな!」
「班長、笑ってる場合ちゃうし」
俺以外はすっかり夢の設定になじんできている。なんでそんなに順応力高いんや。
「まったく、これ、誰の夢やねん。家で寝る前にファンタジー映画みたんは誰や?!」
何故か隊長が変な咳をした。まさか、隊長の夢?!
「なに見たんだよ、沖田」
「いや、俺ではなく娘が見てた……」
まさかの流れ弾的トバッチリ。いや、隊長のお嬢さんは悪うない。悪いんは夢を見た隊長や。
「隊長、早う起きてください」
「無理だ」
「即答とか」
「沖田って爆睡タイプなんだよ。起きる時はさっさと起きるんだけどな」
「なんで班長そんなこと知っとんねん」
「そりゃ付き合いが長いし」
納得したようなそうでないような……。
「とにかくどないすんねん、これ」
「まあ夢が覚めるまでは、普段通りにするしかないんじゃないのか?」
「普段通りて、どう普段通りすんねんな……」
「そりゃ普段通りに訓練だろ」
キーパー達に指示を出す青井の背中を見ながらぼやく。だが俺以外は早々に気持ちを切り替えたようで、なぜか普通に飛ぶ準備を始めた。
「無茶いうわ……」
「しかたないだろ。沖田が起きるまではこのままなんだから」
「隊長~~」
「無理だ」
再び即答されてガックリする。
「ああ影山」
「なんやねん」
「おにぎり食ったか? さっさと食えよ。今日はファーストから大変だぞ」
「考えたないわ~~」
ヒヒヒッと笑う青井の顔を見ながらため息をついた。
「……あ」
そして大変なことに気がついた。
「おにぎり、これ食べてもうたらもう無いやん。ファースト以降はどないすんねん」
「え、夢なんだから法則無視でおにぎりぐらい出せるだろ」
「わいの夢ちゃうから無理やろ」
青井はそりゃそうだとうなづくと隊長に目を向ける。
「ここは沖田の夢だったんだよな。だったら沖田、影山のおにぎりぐらい出せるよな?」
「無理だ」
「お前の夢なんだから、それぐらい出せよ」
「無茶言うな」
青井の無茶振りに隊長がドン引きしている。そんな二人の様子を見て葛城が笑った。
「班長、すっかりなじんでますね、夢の世界に」
「班長やったらほんまに異世界に飛ばされても平気そうやわ……」
とにかく夢だろうが異世界だろうが、嫁ちゃんのおにぎりを食べへん限りは絶対に飛ばへんからな!
いつものように嫁ちゃんのおにぎりを手にエプロンに出た俺は、目の前の光景に固まった。
「そうだと思いますけど」
「集団で同じ夢を見るって俺達すごくないか?」
「班長、驚くのはそこなん?」
「ん? まずはそこだろ」
マイペースな青井の横に立っている隊長も、俺達と同様に固まっている。いつも冷静沈着な隊長にしては珍しいことだ。
「すごいな、これ。どういうことなんだろう」
そう言いながら班長は、俺達が固まった原因に向かって歩き出した。
「ちょ、班長! 危ないで! 噛まれたらどないすんねん!」
「噛む気ならとっくに噛まれてるだろ。だから大丈夫だって。それに、よく見るとなかなか可愛いじゃないか」
「班長の可愛い範囲、広すぎる……」
俺の横に立っていた葛城君があきれたようにつぶやく。
「葛城君もそこなん? もっと突っ込むべきところ、あるやん?」
「突っ込みは影山さんに任せます」
「なんでやねん!」
そう言い返してから、もう一度目の前の存在に目を向けた。いつもならここは松島基地で、ブルー仕様のT-4が並んでいるはずなのだ。だが今日は違う。
「なんで7機ともドラゴンやねん。しかも青いやん、ブルー仕様やん、なにげに芸こまかいやん。しかもここ、大草原やん、基地どこいったん」
そうなのだ。俺達が立っているのは何故か大草原。そして目の前に並んでいるのはドラゴン。しかも置物でも彫刻でもない生きているドラゴンだ。……そもそも想像上の生き物に、生きてるとか死んでるとかあるんか? まあ動いてるから生きてるんやろうけど。
「こんなん日本に生息してるなんて聞いたことないで」
「俺も聞いたことないです。すごいですね、さすが夢!」
「これ、夢やんな?」
「だと思いますけど」
俺達の困惑をよそに、そいつらは退屈そうに羽を動かしたり首を上下に動かしたりしている。そのうちの一頭(て数えるんか?!)が派手なクシャミをした。クシャミをした途端、その鼻から何か出た。
「火!! あいつ、鼻から鼻水やのうて火を出しよったで!!」
「すごいな、本当にファンタジーだ。影山さんの五番機君、火を吐くんですね。俺の六番機君も同じなのかな」
「……いややわ。絶対飛びたないわ……つかプリタクどないすんねん」
「なんだかんだ言いながらも影山さん、飛ぶ気じゃないですか」
葛城が笑う。
「あんなんと一緒に飛んでみい。うっかりしたらコンガリ君やで。絶対に飛びたないわ」
「おにぎりが焼きおにぎりだな!」
「班長、笑ってる場合ちゃうし」
俺以外はすっかり夢の設定になじんできている。なんでそんなに順応力高いんや。
「まったく、これ、誰の夢やねん。家で寝る前にファンタジー映画みたんは誰や?!」
何故か隊長が変な咳をした。まさか、隊長の夢?!
「なに見たんだよ、沖田」
「いや、俺ではなく娘が見てた……」
まさかの流れ弾的トバッチリ。いや、隊長のお嬢さんは悪うない。悪いんは夢を見た隊長や。
「隊長、早う起きてください」
「無理だ」
「即答とか」
「沖田って爆睡タイプなんだよ。起きる時はさっさと起きるんだけどな」
「なんで班長そんなこと知っとんねん」
「そりゃ付き合いが長いし」
納得したようなそうでないような……。
「とにかくどないすんねん、これ」
「まあ夢が覚めるまでは、普段通りにするしかないんじゃないのか?」
「普段通りて、どう普段通りすんねんな……」
「そりゃ普段通りに訓練だろ」
キーパー達に指示を出す青井の背中を見ながらぼやく。だが俺以外は早々に気持ちを切り替えたようで、なぜか普通に飛ぶ準備を始めた。
「無茶いうわ……」
「しかたないだろ。沖田が起きるまではこのままなんだから」
「隊長~~」
「無理だ」
再び即答されてガックリする。
「ああ影山」
「なんやねん」
「おにぎり食ったか? さっさと食えよ。今日はファーストから大変だぞ」
「考えたないわ~~」
ヒヒヒッと笑う青井の顔を見ながらため息をついた。
「……あ」
そして大変なことに気がついた。
「おにぎり、これ食べてもうたらもう無いやん。ファースト以降はどないすんねん」
「え、夢なんだから法則無視でおにぎりぐらい出せるだろ」
「わいの夢ちゃうから無理やろ」
青井はそりゃそうだとうなづくと隊長に目を向ける。
「ここは沖田の夢だったんだよな。だったら沖田、影山のおにぎりぐらい出せるよな?」
「無理だ」
「お前の夢なんだから、それぐらい出せよ」
「無茶言うな」
青井の無茶振りに隊長がドン引きしている。そんな二人の様子を見て葛城が笑った。
「班長、すっかりなじんでますね、夢の世界に」
「班長やったらほんまに異世界に飛ばされても平気そうやわ……」
とにかく夢だろうが異世界だろうが、嫁ちゃんのおにぎりを食べへん限りは絶対に飛ばへんからな!
85
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。


【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる