42 / 77
本編 4
第三十八話 観艦式 2
しおりを挟む
「あれー、おかしいなあ、俺の気のせいかなあ、影山さんが目の前にいるぞ~~」
引き連れてきた六番機と予備機のエンジンが、停止するのを確認してコックピットから降りると、見たことのある顔のヤツがやってきて、そんなことを言った。
「失礼なやっちゃな。俺かて、なんでか知りたいわ」
「ですよねー」
ここしばらくは、顔を合せるたびに「なんでまだいるんですか」と言われるのが、お決まりの挨拶になっていた。言われる場所は、ブルーとして二度と訪れることがないだろうと思っていた場所ばかり。俺だって、なんでまた来ることになったのか知りたい。
「飛びたないのにまたやで。ほんまになんでやねん、や」
「でも、任期がのびて良かったじゃないですか。観艦式で飛ぶなんて、なかなかできないことですからね」
今回の俺達の展開先は入間基地。そして行うミッションは、相模湾で開催される、海自主催の観艦式での航過飛行だ。観閲式は年に一度、一年ごとの陸海空持ち回りで開催される。タイミングによっては、海自の観艦式で飛ぶ機会のないブルーライダーもいた。
「後藤田に押しつけられる、思うてたんやけどなあ」
「残念でした、あきらめて飛んでください、師匠」
後から降りてきた後藤田が、ニヤニヤしながら言った。
「なんでや。編隊飛行だけなんや、自分が操縦桿を握ったらええやん」
「そういうのは隊長に言ってくださいよ。自分が勝手に決めているわけではないので」
すました顔で言い返してくる。
「よっしゃー、ほな隊長に直談判するで」
「まじっすか」
「影山さんの飛びたくないは、あいかわらずのようで」
「そうなんですよ。まったく、うちの師匠には困ったもんです」
後藤田は溜め息まじりに笑った。
「やーかましいわー」
そう言いながら、周囲を見渡す。ハンガー前には、空自だけではなく、海自や陸自、そして海保の航空機がところ狭しと並んでいた。
「なかなかの圧巻やな。こんなふうに陸海空と海保が勢ぞろいすることなんて、なかなかないことやん? これを見たら、マニアさん達が泣いて喜びそうやで」
「見てる分には良いでしょうけど、受け入れるこっちはもう、てんてこまいですよ。そして、基地の外はそれこそカオスらしいです」
予行を含めて一週間。さまざまな航空機の離着陸が見られるとあってか、写真を撮りにきたマニア達で、基地周辺はとんでもないことになっているらしい。違法駐車を取り締まる警察官もかなり投入されているらしく、基地の中も外も、それこそ、てんてこまい状態だ。
「そりゃ大変や」
「地元の自治会への説明も大変でした。海自からも広報が来て、一緒に説明に回ってもらいましたよ」
「そうなんか。それだけでもお疲れさんやな」
「まったくです」
六番機を飛ばしてきた葛城、予備機を飛ばしてきた四番機デッシーと、それぞれの後席に乗ってきたキーパーが合流したところで、むこうからパイロットスーツを着た連中がやってきた。肩のワッペンから察するに、陸自のヘリパイのようだ。
「ブルーの駐機作業は終わりましたか?」
俺達に敬礼をしてから、整備員に声をかける。
「ええ、完了しましたよ」
「ブルーの写真、撮らせてもらってもよろしいですか?」
「影山三佐、どうです?」
なぜか俺に話をふってくる。
「なんで俺に聞くねん」
「五番機のライダーが、広報も兼ねているからに決まってるでしょ。広報としてはどうなんです?」
「まあ、そっちの邪魔にならん程度ならええんちゃう?」
彼等も自衛官。そのへんの線引きはわきまえているだろうと、OKを出した。
「自分達、ブルーを間近で見るのは初めてなんです。写真、撮らせていただきます!」
そう言いながら、彼等は嬉しそうにカメラをブルーの機体に向ける。同じ空自の人間ですら、思っている以上にブルーに遭遇する機会が少ないのだ。陸自や海自の人間からすると、こうやって直接、自分の目でブルーを見るのは、かなりレアなことだと言えるだろう。
「ところで自分ら、なにを飛ばしてるん?」
その様子をながめながら質問をした。
「チヌークです」
「ああ、あのカエルちゃん顔の」
「あれ、本当は顔じゃなくてお尻なんですけどね。いつのまにか、カエルが定着しちゃって」
困ったように笑う。
「でも可愛いやん? うちの息子も、あれを見るたびにカエルちゃんてゆーてるわ」
「まあ、それで人気が出るのは良いことなんでしょうけどね。……あの、ライダーさん達の写真も、撮らせていただいてもよろしいですか?」
彼等は機体の写真を撮り終えると、俺達に遠慮がちに声をかける。
「かまへんで。なんなら、全員で撮ったらええんちゃう? そこに撮ってくれるヤツ、おるし」
そう言いながら、俺達を出迎えてくれた整備員を指でさした。指名されたヤツは、笑いながらうなづく。
「はいはい。ご命令とあらば、撮らせていただきますよ」
「ほな、そういうことで。せっかくなんや、この場にいる全員で撮ろうか」
俺達ブルーは、なんだかんだ言いながら写真を撮られなれている。それもあって、集合写真でも立ち位置を決めるのは早かった。葛城が陸自の彼等を中心にするようにして、それぞれの素早く立ち位置を指定する。
「おお、いい感じでおさまりそうですよ」
カメラでこっちをのぞいていた整備員がうなづいた。それぞれの陸自君達のカメラで、全員が入っている写真を何枚かずつ撮る。その合間に、あらためて彼等を観察すると、俺達よりかなり若い隊員のようだ。
「自分ら、飛ばし始めて何年ぐらいなん?」
彼等の中で最年長らしい、最初に俺達に声をかけてきたパイロットに質問をした。
「自分が五年で、彼等は二年目です」
「五年目と二年目で観艦式か。えらい大役を任されたもんやな」
「自分達はコーパイですので。機長はそれぞれ十年越えのベテランばかりですよ」
「ああ、なるほど。その機長さん達は今は来てへんのか?」
俺の言葉に、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「本当は一緒に来たいと思っていたと思います。ですが、そこはほら、上官としてのプライドとか、メンツとか威厳とかもろもろの事情で……」
「ははーん。せやったら、せいぜい写真を見せびらかして自慢したらな」
「度がすぎると、ぶっ飛ばされそうですけどね。お時間をいただいてありがとうございます」
撮影が終わると、全員があらためて頭を下げてきた。
「どういたしまして。明日からの予行、それから本番。お互いに恥ずかしいハプニングのないようにせなな」
「はい。では、失礼いたします」
彼等は敬礼をすると、自分達のヘリが駐機されているところへと、駆け足で戻っていく。
「やっぱり陸自ですねえ」
その背中を見送っていた葛城が、しみじみした口調でつぶやいた。
「どういうことや?」
「なんていうか、陸海空それぞれ、持っている雰囲気が独特なんですよ。彼等の立ち振る舞いを見ていたら、やっぱり陸自さんなんだなあって思ったんです」
「へえ、そんなもんかいな」
「はい」
今まで、そんなことを気にして見たことがなかった。だが葛城がそう言うのだ、きっとそうなんだろう。
「さて、ほな、そろそろ退散するか。もたもたしていたら、あっという間に囲まれてまうで」
今の陸自君達の口から、俺達と写真を撮ったことが広まれば、あちらこちらから人が集まってくるかもしれない。ここは早々に退散したほうが良いだろう。
「ですね。きっと隊長も、俺達の到着を待っていると思いますし」
「てなわけで、あとのことはよろしゅうなー」
「お任せください」
整備員に機体を任せると、俺達は隊長に指示されていた集合場所へと向かった。
+++
「なんで会議室の入口に影坊主が」
廊下を歩いていると、大きな影坊主が目に入った。その部屋は、俺達に割り当てられたブリーフィング用の部屋だ。
「昔の時代劇のドラマに、宿に名前の入った笠をかけておくってのがありましたよね。それのかわりでは?」
「いや、それ、なんかちゃうやろ」
「そうですか?」
「早かったな、影山」
会議室に入ると隊長がこっちを見た。
「遅れて申し訳ありません」
「いや。いま言ったとおり、思っていた以上に早く、ここに顔を出したと言っているんだが」
「え、そうなんですか」
てっきり今の「早かったな影山」は「遅かったな影山」だと思っていたんだが。
「写真を撮りたがってる連中に囲まれなかったか? 俺達が到着した時なんて、あっという間に広報と地元新聞社に囲まれて、身動きがとれなかったんだよ」
青井が付け足すように言った。
「そりゃまあ、ご愁傷さまってやつで。俺らは陸自君達と写真を撮っただけで終わったで」
「もうちょっとエプロンでウロウロしてたら良かったのに。今頃、残念がってる連中もいると思うぞ」
「そんなことしたら、ここに来るんが遅れるやん」
「せっかくなんだ、俺達と同じ苦労を味わえよ」
なにげに青井の口調が恨めし気だ。
「なんでやねん」
「後発の影山達が早く到着したので、今のうちにザックリとだが、明日からの予定を話しておく」
隊長の言葉に、青井との言い合いを中断し、それぞれあいている場所に座った。
今回の展示飛行は、イベントの進行具合とは別に、航行している艦船とのタイミングを合わせなければならない。それもあって、展示飛行の時間は短いものの、実に難しいミッションだ。しかも今度の相手は、緻密な計画で秒単位の艦隊運用をする海自。天候が急変する以外は、突発的なハプニングはないだろうというのが、こちらの見通しだった。
「むこう一週間の天候だが、今のところは晴天。ただし海上だ、風はそれなりに吹くだろうとの予想だ」
「護衛艦には一般の人達も乗艦しているんですよね?」
葛城の質問に、隊長がうなづく。
「民間人を乗せているので無茶はしないだろうが、今のところは予行を含めて中止の話は出ていない」
そして隊長はさらに言葉を続けた。
「三日後から、参加する艦艇が相模湾で予行訓練を開始する。我々の訓練は明日からだ。海自の艦艇と予行をするまでに、自分達が飛ぶ位置を頭に叩き込んでおく必要がある。明日からの訓練に備え、今日はゆっくり休め。以上だ」
引き連れてきた六番機と予備機のエンジンが、停止するのを確認してコックピットから降りると、見たことのある顔のヤツがやってきて、そんなことを言った。
「失礼なやっちゃな。俺かて、なんでか知りたいわ」
「ですよねー」
ここしばらくは、顔を合せるたびに「なんでまだいるんですか」と言われるのが、お決まりの挨拶になっていた。言われる場所は、ブルーとして二度と訪れることがないだろうと思っていた場所ばかり。俺だって、なんでまた来ることになったのか知りたい。
「飛びたないのにまたやで。ほんまになんでやねん、や」
「でも、任期がのびて良かったじゃないですか。観艦式で飛ぶなんて、なかなかできないことですからね」
今回の俺達の展開先は入間基地。そして行うミッションは、相模湾で開催される、海自主催の観艦式での航過飛行だ。観閲式は年に一度、一年ごとの陸海空持ち回りで開催される。タイミングによっては、海自の観艦式で飛ぶ機会のないブルーライダーもいた。
「後藤田に押しつけられる、思うてたんやけどなあ」
「残念でした、あきらめて飛んでください、師匠」
後から降りてきた後藤田が、ニヤニヤしながら言った。
「なんでや。編隊飛行だけなんや、自分が操縦桿を握ったらええやん」
「そういうのは隊長に言ってくださいよ。自分が勝手に決めているわけではないので」
すました顔で言い返してくる。
「よっしゃー、ほな隊長に直談判するで」
「まじっすか」
「影山さんの飛びたくないは、あいかわらずのようで」
「そうなんですよ。まったく、うちの師匠には困ったもんです」
後藤田は溜め息まじりに笑った。
「やーかましいわー」
そう言いながら、周囲を見渡す。ハンガー前には、空自だけではなく、海自や陸自、そして海保の航空機がところ狭しと並んでいた。
「なかなかの圧巻やな。こんなふうに陸海空と海保が勢ぞろいすることなんて、なかなかないことやん? これを見たら、マニアさん達が泣いて喜びそうやで」
「見てる分には良いでしょうけど、受け入れるこっちはもう、てんてこまいですよ。そして、基地の外はそれこそカオスらしいです」
予行を含めて一週間。さまざまな航空機の離着陸が見られるとあってか、写真を撮りにきたマニア達で、基地周辺はとんでもないことになっているらしい。違法駐車を取り締まる警察官もかなり投入されているらしく、基地の中も外も、それこそ、てんてこまい状態だ。
「そりゃ大変や」
「地元の自治会への説明も大変でした。海自からも広報が来て、一緒に説明に回ってもらいましたよ」
「そうなんか。それだけでもお疲れさんやな」
「まったくです」
六番機を飛ばしてきた葛城、予備機を飛ばしてきた四番機デッシーと、それぞれの後席に乗ってきたキーパーが合流したところで、むこうからパイロットスーツを着た連中がやってきた。肩のワッペンから察するに、陸自のヘリパイのようだ。
「ブルーの駐機作業は終わりましたか?」
俺達に敬礼をしてから、整備員に声をかける。
「ええ、完了しましたよ」
「ブルーの写真、撮らせてもらってもよろしいですか?」
「影山三佐、どうです?」
なぜか俺に話をふってくる。
「なんで俺に聞くねん」
「五番機のライダーが、広報も兼ねているからに決まってるでしょ。広報としてはどうなんです?」
「まあ、そっちの邪魔にならん程度ならええんちゃう?」
彼等も自衛官。そのへんの線引きはわきまえているだろうと、OKを出した。
「自分達、ブルーを間近で見るのは初めてなんです。写真、撮らせていただきます!」
そう言いながら、彼等は嬉しそうにカメラをブルーの機体に向ける。同じ空自の人間ですら、思っている以上にブルーに遭遇する機会が少ないのだ。陸自や海自の人間からすると、こうやって直接、自分の目でブルーを見るのは、かなりレアなことだと言えるだろう。
「ところで自分ら、なにを飛ばしてるん?」
その様子をながめながら質問をした。
「チヌークです」
「ああ、あのカエルちゃん顔の」
「あれ、本当は顔じゃなくてお尻なんですけどね。いつのまにか、カエルが定着しちゃって」
困ったように笑う。
「でも可愛いやん? うちの息子も、あれを見るたびにカエルちゃんてゆーてるわ」
「まあ、それで人気が出るのは良いことなんでしょうけどね。……あの、ライダーさん達の写真も、撮らせていただいてもよろしいですか?」
彼等は機体の写真を撮り終えると、俺達に遠慮がちに声をかける。
「かまへんで。なんなら、全員で撮ったらええんちゃう? そこに撮ってくれるヤツ、おるし」
そう言いながら、俺達を出迎えてくれた整備員を指でさした。指名されたヤツは、笑いながらうなづく。
「はいはい。ご命令とあらば、撮らせていただきますよ」
「ほな、そういうことで。せっかくなんや、この場にいる全員で撮ろうか」
俺達ブルーは、なんだかんだ言いながら写真を撮られなれている。それもあって、集合写真でも立ち位置を決めるのは早かった。葛城が陸自の彼等を中心にするようにして、それぞれの素早く立ち位置を指定する。
「おお、いい感じでおさまりそうですよ」
カメラでこっちをのぞいていた整備員がうなづいた。それぞれの陸自君達のカメラで、全員が入っている写真を何枚かずつ撮る。その合間に、あらためて彼等を観察すると、俺達よりかなり若い隊員のようだ。
「自分ら、飛ばし始めて何年ぐらいなん?」
彼等の中で最年長らしい、最初に俺達に声をかけてきたパイロットに質問をした。
「自分が五年で、彼等は二年目です」
「五年目と二年目で観艦式か。えらい大役を任されたもんやな」
「自分達はコーパイですので。機長はそれぞれ十年越えのベテランばかりですよ」
「ああ、なるほど。その機長さん達は今は来てへんのか?」
俺の言葉に、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「本当は一緒に来たいと思っていたと思います。ですが、そこはほら、上官としてのプライドとか、メンツとか威厳とかもろもろの事情で……」
「ははーん。せやったら、せいぜい写真を見せびらかして自慢したらな」
「度がすぎると、ぶっ飛ばされそうですけどね。お時間をいただいてありがとうございます」
撮影が終わると、全員があらためて頭を下げてきた。
「どういたしまして。明日からの予行、それから本番。お互いに恥ずかしいハプニングのないようにせなな」
「はい。では、失礼いたします」
彼等は敬礼をすると、自分達のヘリが駐機されているところへと、駆け足で戻っていく。
「やっぱり陸自ですねえ」
その背中を見送っていた葛城が、しみじみした口調でつぶやいた。
「どういうことや?」
「なんていうか、陸海空それぞれ、持っている雰囲気が独特なんですよ。彼等の立ち振る舞いを見ていたら、やっぱり陸自さんなんだなあって思ったんです」
「へえ、そんなもんかいな」
「はい」
今まで、そんなことを気にして見たことがなかった。だが葛城がそう言うのだ、きっとそうなんだろう。
「さて、ほな、そろそろ退散するか。もたもたしていたら、あっという間に囲まれてまうで」
今の陸自君達の口から、俺達と写真を撮ったことが広まれば、あちらこちらから人が集まってくるかもしれない。ここは早々に退散したほうが良いだろう。
「ですね。きっと隊長も、俺達の到着を待っていると思いますし」
「てなわけで、あとのことはよろしゅうなー」
「お任せください」
整備員に機体を任せると、俺達は隊長に指示されていた集合場所へと向かった。
+++
「なんで会議室の入口に影坊主が」
廊下を歩いていると、大きな影坊主が目に入った。その部屋は、俺達に割り当てられたブリーフィング用の部屋だ。
「昔の時代劇のドラマに、宿に名前の入った笠をかけておくってのがありましたよね。それのかわりでは?」
「いや、それ、なんかちゃうやろ」
「そうですか?」
「早かったな、影山」
会議室に入ると隊長がこっちを見た。
「遅れて申し訳ありません」
「いや。いま言ったとおり、思っていた以上に早く、ここに顔を出したと言っているんだが」
「え、そうなんですか」
てっきり今の「早かったな影山」は「遅かったな影山」だと思っていたんだが。
「写真を撮りたがってる連中に囲まれなかったか? 俺達が到着した時なんて、あっという間に広報と地元新聞社に囲まれて、身動きがとれなかったんだよ」
青井が付け足すように言った。
「そりゃまあ、ご愁傷さまってやつで。俺らは陸自君達と写真を撮っただけで終わったで」
「もうちょっとエプロンでウロウロしてたら良かったのに。今頃、残念がってる連中もいると思うぞ」
「そんなことしたら、ここに来るんが遅れるやん」
「せっかくなんだ、俺達と同じ苦労を味わえよ」
なにげに青井の口調が恨めし気だ。
「なんでやねん」
「後発の影山達が早く到着したので、今のうちにザックリとだが、明日からの予定を話しておく」
隊長の言葉に、青井との言い合いを中断し、それぞれあいている場所に座った。
今回の展示飛行は、イベントの進行具合とは別に、航行している艦船とのタイミングを合わせなければならない。それもあって、展示飛行の時間は短いものの、実に難しいミッションだ。しかも今度の相手は、緻密な計画で秒単位の艦隊運用をする海自。天候が急変する以外は、突発的なハプニングはないだろうというのが、こちらの見通しだった。
「むこう一週間の天候だが、今のところは晴天。ただし海上だ、風はそれなりに吹くだろうとの予想だ」
「護衛艦には一般の人達も乗艦しているんですよね?」
葛城の質問に、隊長がうなづく。
「民間人を乗せているので無茶はしないだろうが、今のところは予行を含めて中止の話は出ていない」
そして隊長はさらに言葉を続けた。
「三日後から、参加する艦艇が相模湾で予行訓練を開始する。我々の訓練は明日からだ。海自の艦艇と予行をするまでに、自分達が飛ぶ位置を頭に叩き込んでおく必要がある。明日からの訓練に備え、今日はゆっくり休め。以上だ」
12
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。


【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる