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本編 3
第二十八話 散髪
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「ねえ、達矢君」
「なんや?」
「そろそろ、髪、切ったほうがいいんじゃないかなあ……」
ベランダで洗濯物を干していた時、いきなり嫁ちゃんが、俺の後ろの髪を引っ張りながら言った。
「いきなりなんやねん」
「だって、ずいぶんのびてるなって思って」
そう言いながら、さらにツンツンとひっぱる。
「ちょっと嫁ちゃん、そんなに強く引っ張ったら、大事な毛が抜けるやんか」
「心配ないよ、少しぐらい抜けても、達矢君の髪の量なら当分はげそうにないから」
さらに強く引っ張られて、後ろにのけぞった。
「うおっ……なんやねん、嫁ちゃん。俺、まだ洗濯モンを干し終わってへんのやけどな」
「だって気になるんだもん」
「そうなんか? こないだ切ったばかりやんか、言うほどのびてへんやろ?」
こないだと言いつつ、前に床屋にいったのはいつだった?と考えながら答える。
「こないだって、もう三ヶ月だよ?」
「そんなに前やったか。けどもともと短いんや、多少のびても問題ないやろ?」
「短いからよけい、マメに切らなきゃいけないんじゃない。襟のところで髪がはねだしてるよ? これ、絶対にかっこ悪いと思う」
そう言って嫁ちゃんが、今度は襟の中に指をつっこんできた。
「ひぇっ! よ、嫁ちゃん嫁ちゃん、くすぐったいから堪忍してっ」
「え、達矢君てここ、そんなにダメだったっけ? やだ、結婚十年目にして新しい発見~~」
嫁ちゃんは俺の反応を面白がって、さらに服の中に突っ込んでくる。
「あかーん、あかんて! ちょっ、ほんま、あかんから! もー堪忍したってえなっ」
ベランダにいることも忘れて叫んでしまう。下を歩いていた誰かが、驚いてこっちを見上げている。あかんであかんで! 嫁ちゃんが、俺をいじめてるなんて噂がたったらどないすんねん! それか影山んちは、昼間っから夫婦で変なプレーをしているとか!
「とにかく、ブルーは広報でもあるんだから、身だしなみはちゃんとしないと」
「帽子やヘルメットしたらわからへんやん? それより……」
「でも、たまにSNSで流れてるの見ると、もう切ったほうが良いんじゃないかなって気分になる時あるよ?」
「それは、ヘルメットをぬいだ直後で髪が逆立ってるからやろ? ……てか、嫁ちゃん、もうほんまに堪忍してください。おねがいやし」
やっとのことで、嫁ちゃんの指が襟の中から出ていった。やれやれ、ほんまに。とんでもないことを発見されてもうたわ。これは当分ことあるごとにやられそうやな。
「とにかくや、しばらくはお客さんの前に出ることもないねんから、このままでええやん?」
「でも、訓練の時はマニアさん達に写真を撮られるじゃない?」
「せやから、帽子とヘルメットがあるから問題ないて……もうそこに指入れるんはなし!」
嫁ちゃんの動きに、思わず首の後ろを手でおおった。
「えーーー」
とにかく、今の俺の髪型なら、帽子やヘルメットをかぶってしまえば、多少長かろうが短かろうが大して変わらない。さすがに髭面はまいずいからきちんと剃っているが、髪の毛ぐらい大したことないだろうと思っている。要は飛んでいる時に、視界の邪魔にさえならなければ良いのだ。
だが、嫁ちゃんの考えは違うらしい。
「ね、洗濯物を干すのが終わったら、みっくんと一緒に床屋さんいってきて」
「えー……?」
「みっくーん、パパと一緒に床屋さんいっておいでー」
嫁ちゃんに声をかけられたチビスケが、喜び勇んで飛んできた。なぜかチビスケは床屋に行くのが好きだ。床屋だけではなく、嫁ちゃんが行く美容室に行くのも気に入っている。嫁ちゃんが言うのには、椅子に座った状態で頭を洗ってもらうのが、気に入っているらしい。
「いくーーーー!! とこやさーーん!!」
「なあ嫁ちゃんや。それって、みっくんの髪を切る必要性があるってことやんな?」
「そうだよ」
「ほな、俺はみっくんについていくだけっちゅうのはあかんの?」
「だーめでーす。せっかく行くんだから切っておいでよ。これはママからの命令です、二人ともすっきりした頭で帰ってきてください」
嫁ちゃんはそう宣言すると、喜んでいるチビスケをつれてそのまま部屋にひっこんだ。
「みっくん、パパとお出かけだねー。床屋さんに行った後でなら、寄り道しても大丈夫だよ」
「ママはー?」
「ママはお留守番してる。そうだ、帰りにいつものケーキ屋さんでケーキ買ってきてくれる?」
「レモンパーイ?」
「あたりー。ママの大好きな瀬戸内レモンを使ったレモンパイね。みっくんも好きなの買っておいで」
「わかったー!!」
そんな二人の会話を聞きながら、ああなるほどと理解した。嫁ちゃんは俺とチビスケの髪のことよりも、俺とチビスケが一緒に出かけることを重要視しているのだ。
「パパの好きなチーズケーキも買うてええのん?」
「いい子にして髪の毛を切ったらねー!」
「ねーーー!!」
どうやら、髪の毛はどうしても切らなくてはならないらしい。だが、重要なのはチビスケと出かけることだ。俺が髪を切ることに気乗りしないのは二の次だ。
「今の季節やと、どんなケーキがあるやろうなあ……」
「いちごあるー?」
「あるで」
「チュナは?」
「え、みっくん、それはおにぎりの具やろ。さすがにツナのケーキはないと思うで。あるとしても、それは猫さんのケーキや」
シーズン中の俺達は、毎週ではないものの、多くの週末を航空祭やイベントで飛んでいた。つまり、チビスケが休みの時に不在にしていることが多いのだ。もちろん嫁ちゃんは、俺がブルーの五番機として飛んでいることを誇りに思ってくれている。だが小さいチビスケにとっては、俺が「かっこいいパパブルー」とは言え、せっかくの休みの日に、父親が不在がちなのは寂しいことだろう。
「ついでになにか買うてきてほしいもんがあったら、メモ書きにしておいてくれるか?」
「うん。今のところはないかなあ……」
「ママ、体のシャンプー!!」
チビスケが声をあげる。
「ああ、そうだった、みっくん、よく覚えててくれた! ボディソープの買い置きがもうないの。それをお願いできる?」
「了解や。ほな、みっくんや、帰りはいつものショッピングセンターにレッツゴーや。もしかしたら、松島ドルフィンシックスがおるかもしれんで?」
「あ、いいなー、松島ドルフィンがいたら、ちゃんと五番ちゃんを撮ってきてね」
「お任せや。なあ、みっくん?」
「おまかせーー!!」
そして出かける準備を終えた俺とチビスケは、嫁ちゃんに見送られて出かけることになった。嫁ちゃんから『達矢君、ズルしたらダメだからね』と念押しされて。
+++++
「明日、来年度の広報を写真を撮る。全員きちんとしてくるように」
そう言われたのは次の日のことだった。
あちこちの基地で新年度の準備が始まっていた。もちろんその中にはブルーインパルスも含まれている。スケジュールもポツポツと埋まり始め、新しいデザインのヘルメットやワッペンもできあがってくるころだ。もちろん新しいパンフレットも作られる。つまり、新しい写真が必要になる時期だった。
「影山さん、タイミングばっちりでしたね。切ったばかりでスッキリですよ。俺は今日、仕事が終わったら行ってきます」
葛城がそう言った。
「今のままでも問題ないように思うけどなあ。帽子もかぶるんやし」
「それ、奥さんに言ったことあります?」
「昨日、散髪しに行く前に言ったで。結果は俺の頭を見たらわかるやろ?」
そう言いながら、自分の頭を指さす。
「なら、そういうことです。うちの妻も、そのへんのチェックが厳しいので。一年間ずっと人目につくことになる写真ともなると、特にね」
「そんなもんなんかいなあ……俺には、どういうことかさっぱりやで」
ほんま、俺は理解できない理屈だ。
そんな俺達の前を青井が歩いていた。その後ろ姿を見ながら〝ん?〟と気になることを見つける。
「あ、班長、ちょっとちょっと」
声をかけると、青井が立ち止まって振り返った。
「どうした?」
「後ろから見てたらな、ここ」
俺はそう言いながら、青井のうなじの毛をつまむ。青井はいきなりのことで飛び上がった。
「わあ! いきなりなんだよ!」
「いや、班長のうなじのここんとこ、尻尾みたいにちゅるんてなっとるからな」
「あ、たしかになってますね」
葛城がのぞきこんでうなづく。首筋の真ん中にあたるところの髪が、他より少しだけ長くなっていて、なぜか尻尾のようにくるんと巻いていた。
「あー、のびてきたら目立つんだよな、そこ。尻尾がはえてきたら床屋に行くころだって、いつも嫁に言われてるんだ。影山が気づいたってことは、そろそろ言われそうだな」
青井は憂鬱そうにつぶやいた。
「くせ毛なん?」
「そうなんだよ。しかも遺伝みたいでさ、俺のオヤジも同じ場所が同じようになってるんだ」
そう言いながら、青井は自分のうなじのあたりをなでつけた。
「へえ……おもろいなあ……しかし可愛いで、これ。ついついさわりとうなるわ」
ツンツンと引っ張る。
「やめろって。そこを引っ張るのは嫁だけで十分だよ!」
「せやかて、ちゅるんってなっとるんやもん。てか、今、さりげなく惚気てへんかったか?」
「なにがちゅるんだよ。それと惚気てなんていない」
いや、今のは絶対に惚気ていただろ。なあ?と葛城の顔を見ると、オール君もそう感じていたようだ。
「沖田がきちんとしてこいって言っただろ? 俺も今日には切ってくるから」
「え~~もったいないわあ~~……」
「どういう基準なんだよ、それ」
「ちゅるん、やで」
「あーもう! 俺は忙しいんだから。他に用事はないんだよな? だったらじゃあな!」
そう言って青井はその場を立ち去った。
「なんや?」
「そろそろ、髪、切ったほうがいいんじゃないかなあ……」
ベランダで洗濯物を干していた時、いきなり嫁ちゃんが、俺の後ろの髪を引っ張りながら言った。
「いきなりなんやねん」
「だって、ずいぶんのびてるなって思って」
そう言いながら、さらにツンツンとひっぱる。
「ちょっと嫁ちゃん、そんなに強く引っ張ったら、大事な毛が抜けるやんか」
「心配ないよ、少しぐらい抜けても、達矢君の髪の量なら当分はげそうにないから」
さらに強く引っ張られて、後ろにのけぞった。
「うおっ……なんやねん、嫁ちゃん。俺、まだ洗濯モンを干し終わってへんのやけどな」
「だって気になるんだもん」
「そうなんか? こないだ切ったばかりやんか、言うほどのびてへんやろ?」
こないだと言いつつ、前に床屋にいったのはいつだった?と考えながら答える。
「こないだって、もう三ヶ月だよ?」
「そんなに前やったか。けどもともと短いんや、多少のびても問題ないやろ?」
「短いからよけい、マメに切らなきゃいけないんじゃない。襟のところで髪がはねだしてるよ? これ、絶対にかっこ悪いと思う」
そう言って嫁ちゃんが、今度は襟の中に指をつっこんできた。
「ひぇっ! よ、嫁ちゃん嫁ちゃん、くすぐったいから堪忍してっ」
「え、達矢君てここ、そんなにダメだったっけ? やだ、結婚十年目にして新しい発見~~」
嫁ちゃんは俺の反応を面白がって、さらに服の中に突っ込んでくる。
「あかーん、あかんて! ちょっ、ほんま、あかんから! もー堪忍したってえなっ」
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「とにかく、ブルーは広報でもあるんだから、身だしなみはちゃんとしないと」
「帽子やヘルメットしたらわからへんやん? それより……」
「でも、たまにSNSで流れてるの見ると、もう切ったほうが良いんじゃないかなって気分になる時あるよ?」
「それは、ヘルメットをぬいだ直後で髪が逆立ってるからやろ? ……てか、嫁ちゃん、もうほんまに堪忍してください。おねがいやし」
やっとのことで、嫁ちゃんの指が襟の中から出ていった。やれやれ、ほんまに。とんでもないことを発見されてもうたわ。これは当分ことあるごとにやられそうやな。
「とにかくや、しばらくはお客さんの前に出ることもないねんから、このままでええやん?」
「でも、訓練の時はマニアさん達に写真を撮られるじゃない?」
「せやから、帽子とヘルメットがあるから問題ないて……もうそこに指入れるんはなし!」
嫁ちゃんの動きに、思わず首の後ろを手でおおった。
「えーーー」
とにかく、今の俺の髪型なら、帽子やヘルメットをかぶってしまえば、多少長かろうが短かろうが大して変わらない。さすがに髭面はまいずいからきちんと剃っているが、髪の毛ぐらい大したことないだろうと思っている。要は飛んでいる時に、視界の邪魔にさえならなければ良いのだ。
だが、嫁ちゃんの考えは違うらしい。
「ね、洗濯物を干すのが終わったら、みっくんと一緒に床屋さんいってきて」
「えー……?」
「みっくーん、パパと一緒に床屋さんいっておいでー」
嫁ちゃんに声をかけられたチビスケが、喜び勇んで飛んできた。なぜかチビスケは床屋に行くのが好きだ。床屋だけではなく、嫁ちゃんが行く美容室に行くのも気に入っている。嫁ちゃんが言うのには、椅子に座った状態で頭を洗ってもらうのが、気に入っているらしい。
「いくーーーー!! とこやさーーん!!」
「なあ嫁ちゃんや。それって、みっくんの髪を切る必要性があるってことやんな?」
「そうだよ」
「ほな、俺はみっくんについていくだけっちゅうのはあかんの?」
「だーめでーす。せっかく行くんだから切っておいでよ。これはママからの命令です、二人ともすっきりした頭で帰ってきてください」
嫁ちゃんはそう宣言すると、喜んでいるチビスケをつれてそのまま部屋にひっこんだ。
「みっくん、パパとお出かけだねー。床屋さんに行った後でなら、寄り道しても大丈夫だよ」
「ママはー?」
「ママはお留守番してる。そうだ、帰りにいつものケーキ屋さんでケーキ買ってきてくれる?」
「レモンパーイ?」
「あたりー。ママの大好きな瀬戸内レモンを使ったレモンパイね。みっくんも好きなの買っておいで」
「わかったー!!」
そんな二人の会話を聞きながら、ああなるほどと理解した。嫁ちゃんは俺とチビスケの髪のことよりも、俺とチビスケが一緒に出かけることを重要視しているのだ。
「パパの好きなチーズケーキも買うてええのん?」
「いい子にして髪の毛を切ったらねー!」
「ねーーー!!」
どうやら、髪の毛はどうしても切らなくてはならないらしい。だが、重要なのはチビスケと出かけることだ。俺が髪を切ることに気乗りしないのは二の次だ。
「今の季節やと、どんなケーキがあるやろうなあ……」
「いちごあるー?」
「あるで」
「チュナは?」
「え、みっくん、それはおにぎりの具やろ。さすがにツナのケーキはないと思うで。あるとしても、それは猫さんのケーキや」
シーズン中の俺達は、毎週ではないものの、多くの週末を航空祭やイベントで飛んでいた。つまり、チビスケが休みの時に不在にしていることが多いのだ。もちろん嫁ちゃんは、俺がブルーの五番機として飛んでいることを誇りに思ってくれている。だが小さいチビスケにとっては、俺が「かっこいいパパブルー」とは言え、せっかくの休みの日に、父親が不在がちなのは寂しいことだろう。
「ついでになにか買うてきてほしいもんがあったら、メモ書きにしておいてくれるか?」
「うん。今のところはないかなあ……」
「ママ、体のシャンプー!!」
チビスケが声をあげる。
「ああ、そうだった、みっくん、よく覚えててくれた! ボディソープの買い置きがもうないの。それをお願いできる?」
「了解や。ほな、みっくんや、帰りはいつものショッピングセンターにレッツゴーや。もしかしたら、松島ドルフィンシックスがおるかもしれんで?」
「あ、いいなー、松島ドルフィンがいたら、ちゃんと五番ちゃんを撮ってきてね」
「お任せや。なあ、みっくん?」
「おまかせーー!!」
そして出かける準備を終えた俺とチビスケは、嫁ちゃんに見送られて出かけることになった。嫁ちゃんから『達矢君、ズルしたらダメだからね』と念押しされて。
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「明日、来年度の広報を写真を撮る。全員きちんとしてくるように」
そう言われたのは次の日のことだった。
あちこちの基地で新年度の準備が始まっていた。もちろんその中にはブルーインパルスも含まれている。スケジュールもポツポツと埋まり始め、新しいデザインのヘルメットやワッペンもできあがってくるころだ。もちろん新しいパンフレットも作られる。つまり、新しい写真が必要になる時期だった。
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葛城がそう言った。
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「それ、奥さんに言ったことあります?」
「昨日、散髪しに行く前に言ったで。結果は俺の頭を見たらわかるやろ?」
そう言いながら、自分の頭を指さす。
「なら、そういうことです。うちの妻も、そのへんのチェックが厳しいので。一年間ずっと人目につくことになる写真ともなると、特にね」
「そんなもんなんかいなあ……俺には、どういうことかさっぱりやで」
ほんま、俺は理解できない理屈だ。
そんな俺達の前を青井が歩いていた。その後ろ姿を見ながら〝ん?〟と気になることを見つける。
「あ、班長、ちょっとちょっと」
声をかけると、青井が立ち止まって振り返った。
「どうした?」
「後ろから見てたらな、ここ」
俺はそう言いながら、青井のうなじの毛をつまむ。青井はいきなりのことで飛び上がった。
「わあ! いきなりなんだよ!」
「いや、班長のうなじのここんとこ、尻尾みたいにちゅるんてなっとるからな」
「あ、たしかになってますね」
葛城がのぞきこんでうなづく。首筋の真ん中にあたるところの髪が、他より少しだけ長くなっていて、なぜか尻尾のようにくるんと巻いていた。
「あー、のびてきたら目立つんだよな、そこ。尻尾がはえてきたら床屋に行くころだって、いつも嫁に言われてるんだ。影山が気づいたってことは、そろそろ言われそうだな」
青井は憂鬱そうにつぶやいた。
「くせ毛なん?」
「そうなんだよ。しかも遺伝みたいでさ、俺のオヤジも同じ場所が同じようになってるんだ」
そう言いながら、青井は自分のうなじのあたりをなでつけた。
「へえ……おもろいなあ……しかし可愛いで、これ。ついついさわりとうなるわ」
ツンツンと引っ張る。
「やめろって。そこを引っ張るのは嫁だけで十分だよ!」
「せやかて、ちゅるんってなっとるんやもん。てか、今、さりげなく惚気てへんかったか?」
「なにがちゅるんだよ。それと惚気てなんていない」
いや、今のは絶対に惚気ていただろ。なあ?と葛城の顔を見ると、オール君もそう感じていたようだ。
「沖田がきちんとしてこいって言っただろ? 俺も今日には切ってくるから」
「え~~もったいないわあ~~……」
「どういう基準なんだよ、それ」
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