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本編
第二十話 あれから十年
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「わあ……沙織さん、この衣装とっても素敵ですよ~」
結婚式の時の写真を、奈緒ちゃんがウットリした様子で見ている。当時は和装に洋髪って珍しかったみたいだけれど、今では普通にそういうことがされているらしい。
「なんだか先生、緊張した顔してますよね?」
「でしょ? 指輪をはめてくれる時、ちょっと手が震えていたみたいなのよね。あの時は、私の手が震えているんだって思ってたんだけれど、今考えてみると、あれは幸太郎さんの手が震えていたんだと思う」
「先生ってば可愛いですね♪ でも意外でしたよ、先生がワンコタイプの甘えん坊さんだなんて。テレビで見ていても、全然そんな感じしないし」
「そうなのよ。話しても誰も信じてくれないの、向こうの御両親も含めてね。まあなんとなく察してくれているのは、多分、杉下さんぐらいかしら」
その杉下さんだって、本当にわかっているかどうか怪しいものよね。多分、いまだにそのワンコが健在だって言っても、絶対に信じないと思う。
「オーストラリアは楽しかったですか? 私、行ったことなくて、一度は行ってみたいと思ってるんですよね」
「うん、凄く楽しかったわよ。海は綺麗だったし」
当時のことを思い出して、ちょっと顔が熱くなるのを感じた。
幸太郎さんが、お土産を事前に決めておけとか、フリーの時間にそんなにたくさん行くところを決めても、無駄になるとか言っていた意味がわかったのは、現地のホテルに到着してから。結婚する前だってベッドを共にしていたのにね、なんだかずっとお預けをされていたみたいな情熱的な夜……だけじゃなくて昼も……いや朝もかな……とにかく海に行く以外のフリーな時間は、ほとんどベッドの中ですごしたって言うか。あの時に妊娠しなかったのが不思議なくらい。
「あれ? 沙織さん、顔が赤いですよー?」
奈緒ちゃんが悪戯っぽい表情を浮かべて、こちらを覗き込んできた。
「ラブラブなんですね、先生と沙織さんって」
「奈緒ちゃんのところほどじゃないわよ? 森永さんは本当に奈緒ちゃんのこと大事にしているし、もうこっちが御馳走様って感じ」
「それってきっと、先生のところもだと思うな。沙織さんが気がついていないだけで」
そこへ幸太郎さんと森永さんが戻ってきた。
あれから十年、その間にあった国政選挙も危なげなく当選した幸太郎先生は、結婚前に言っていた通りに防衛大臣となっていた。
そして森永さんは、陸上自衛隊の特殊作戦群というところに配属されて、今はどんどん偉くなっているらしい。二人は相変わらず仲が良くて、様々な情報交換をしているようだ。今も二人がそろって席を外していたのは、私たちの耳には入れられない、少しばかり込み入った話をするため。その辺は私もわきまえているから、二人がいない間に、奈緒ちゃんとゆっくりとお話をすることにしている。
そうそう。奈緒ちゃんは森永さんの奥さんだ。まだ二十歳になったばかりの学生さんということで、それを最初に聞いたときは驚いたけれど、森永さんの彼女に接する様子を見ていると、本当にベタ惚れなんだなあって感じるのよね。それは幸太郎さんも感じているようで、たまにニヤニヤと笑いながら、森永さんをからかっている。
それから私はと言うと、結婚してからしばらくは、杉下さん達と幸太郎さんの連絡役みたいな感じで、秘書業務を続けた。そして奥さんになってからの初めての選挙が終わった後、幸太郎さんは約束通り、私に赤ちゃんを授けてくれて、それを機に、私は事務所関係の仕事から完全に手を引いたってわけ。
「難しいお話は終わった?」
「ああ、終わったよ。いま、料理を運んでくるように頼んできた」
「良かった。これ以上待たされたら私達、二人を置いて、美味しいフレンチでも食べに行こうかって話してたんだから。ね、奈緒ちゃん」
「たまには女の子だけで食事っていうのも良いですよね、沙織さん」
「ねー」
やれやれとため息をつきながら、幸太郎さんが私の横に座った。
「でも良かったんですか? せっかくの結婚記念日、二人ですごしたかったのでは?」
奈緒ちゃんの横に座った森永さんが尋ねてきた。
「結婚式の日にね、森永さんは出席できなかったでしょ? だから、いつかこの日に森永さんを誘おうって、二人で決めてたの。なかなか予定が合わなくて、十年目の今日になっちゃったけどね」
「結果的にはそれで良かったのかもしれないな。森永君に奈緒君という新しい伴侶が現れて、こうやって一緒に呼ぶことができたんだから」
最初は心配してたのよね、もしかしたら森永さんは、このままずっと独り身ですごすんじゃないかって。うちの子供達と接している彼を見ていた時、やっぱり家族を持って幸せな家庭を持ってほしいって思ったから、今は本当に良かったと思っている。きっと幸太郎さんも同じ気持ちだと思うな。
+++++
「奈緒ちゃんが、先生って可愛い♪ですって」
帰りの車の名でそう言ったら、幸太郎さんが少しだけ顔をしかめた。
「また要らんことを話したんだろ?」
「要らないことじゃないわよ? 奈緒ちゃんが、先生と私の馴れ初めを聞きたいっていうから、話しただけだもの」
「へえ……でも全部を話したわけじゃないよな? 結婚前にした、あんなことやこんなこと、とか」
「そんなこと話してません」
幸太郎さんのにやけた顔を見ていれば、なんのことを言っているかは大体わかるよ。本当にエッチなんだから。
「あれ? 家に帰らないの?」
車が、いつもと違ったルートを走っているのに気がついて外を見た。
「久しぶりに二人っきりの夜をすごしたくてさ。子供達はお袋達が見てくれているって話だし、せっかくの結婚記念日だしね」
それに、と幸太郎さんが私の耳元に口を寄せてささやいた。
「この前、杉下にうちの家は広すぎるって愚痴ってたろ? だったら家族をもう一人ぐらい増やさないか? さーちゃんが望むなら、二人でも三人でも俺は協力するけど?」
なんだか今夜もまた眠れない夜になりそう……。
結婚式の時の写真を、奈緒ちゃんがウットリした様子で見ている。当時は和装に洋髪って珍しかったみたいだけれど、今では普通にそういうことがされているらしい。
「なんだか先生、緊張した顔してますよね?」
「でしょ? 指輪をはめてくれる時、ちょっと手が震えていたみたいなのよね。あの時は、私の手が震えているんだって思ってたんだけれど、今考えてみると、あれは幸太郎さんの手が震えていたんだと思う」
「先生ってば可愛いですね♪ でも意外でしたよ、先生がワンコタイプの甘えん坊さんだなんて。テレビで見ていても、全然そんな感じしないし」
「そうなのよ。話しても誰も信じてくれないの、向こうの御両親も含めてね。まあなんとなく察してくれているのは、多分、杉下さんぐらいかしら」
その杉下さんだって、本当にわかっているかどうか怪しいものよね。多分、いまだにそのワンコが健在だって言っても、絶対に信じないと思う。
「オーストラリアは楽しかったですか? 私、行ったことなくて、一度は行ってみたいと思ってるんですよね」
「うん、凄く楽しかったわよ。海は綺麗だったし」
当時のことを思い出して、ちょっと顔が熱くなるのを感じた。
幸太郎さんが、お土産を事前に決めておけとか、フリーの時間にそんなにたくさん行くところを決めても、無駄になるとか言っていた意味がわかったのは、現地のホテルに到着してから。結婚する前だってベッドを共にしていたのにね、なんだかずっとお預けをされていたみたいな情熱的な夜……だけじゃなくて昼も……いや朝もかな……とにかく海に行く以外のフリーな時間は、ほとんどベッドの中ですごしたって言うか。あの時に妊娠しなかったのが不思議なくらい。
「あれ? 沙織さん、顔が赤いですよー?」
奈緒ちゃんが悪戯っぽい表情を浮かべて、こちらを覗き込んできた。
「ラブラブなんですね、先生と沙織さんって」
「奈緒ちゃんのところほどじゃないわよ? 森永さんは本当に奈緒ちゃんのこと大事にしているし、もうこっちが御馳走様って感じ」
「それってきっと、先生のところもだと思うな。沙織さんが気がついていないだけで」
そこへ幸太郎さんと森永さんが戻ってきた。
あれから十年、その間にあった国政選挙も危なげなく当選した幸太郎先生は、結婚前に言っていた通りに防衛大臣となっていた。
そして森永さんは、陸上自衛隊の特殊作戦群というところに配属されて、今はどんどん偉くなっているらしい。二人は相変わらず仲が良くて、様々な情報交換をしているようだ。今も二人がそろって席を外していたのは、私たちの耳には入れられない、少しばかり込み入った話をするため。その辺は私もわきまえているから、二人がいない間に、奈緒ちゃんとゆっくりとお話をすることにしている。
そうそう。奈緒ちゃんは森永さんの奥さんだ。まだ二十歳になったばかりの学生さんということで、それを最初に聞いたときは驚いたけれど、森永さんの彼女に接する様子を見ていると、本当にベタ惚れなんだなあって感じるのよね。それは幸太郎さんも感じているようで、たまにニヤニヤと笑いながら、森永さんをからかっている。
それから私はと言うと、結婚してからしばらくは、杉下さん達と幸太郎さんの連絡役みたいな感じで、秘書業務を続けた。そして奥さんになってからの初めての選挙が終わった後、幸太郎さんは約束通り、私に赤ちゃんを授けてくれて、それを機に、私は事務所関係の仕事から完全に手を引いたってわけ。
「難しいお話は終わった?」
「ああ、終わったよ。いま、料理を運んでくるように頼んできた」
「良かった。これ以上待たされたら私達、二人を置いて、美味しいフレンチでも食べに行こうかって話してたんだから。ね、奈緒ちゃん」
「たまには女の子だけで食事っていうのも良いですよね、沙織さん」
「ねー」
やれやれとため息をつきながら、幸太郎さんが私の横に座った。
「でも良かったんですか? せっかくの結婚記念日、二人ですごしたかったのでは?」
奈緒ちゃんの横に座った森永さんが尋ねてきた。
「結婚式の日にね、森永さんは出席できなかったでしょ? だから、いつかこの日に森永さんを誘おうって、二人で決めてたの。なかなか予定が合わなくて、十年目の今日になっちゃったけどね」
「結果的にはそれで良かったのかもしれないな。森永君に奈緒君という新しい伴侶が現れて、こうやって一緒に呼ぶことができたんだから」
最初は心配してたのよね、もしかしたら森永さんは、このままずっと独り身ですごすんじゃないかって。うちの子供達と接している彼を見ていた時、やっぱり家族を持って幸せな家庭を持ってほしいって思ったから、今は本当に良かったと思っている。きっと幸太郎さんも同じ気持ちだと思うな。
+++++
「奈緒ちゃんが、先生って可愛い♪ですって」
帰りの車の名でそう言ったら、幸太郎さんが少しだけ顔をしかめた。
「また要らんことを話したんだろ?」
「要らないことじゃないわよ? 奈緒ちゃんが、先生と私の馴れ初めを聞きたいっていうから、話しただけだもの」
「へえ……でも全部を話したわけじゃないよな? 結婚前にした、あんなことやこんなこと、とか」
「そんなこと話してません」
幸太郎さんのにやけた顔を見ていれば、なんのことを言っているかは大体わかるよ。本当にエッチなんだから。
「あれ? 家に帰らないの?」
車が、いつもと違ったルートを走っているのに気がついて外を見た。
「久しぶりに二人っきりの夜をすごしたくてさ。子供達はお袋達が見てくれているって話だし、せっかくの結婚記念日だしね」
それに、と幸太郎さんが私の耳元に口を寄せてささやいた。
「この前、杉下にうちの家は広すぎるって愚痴ってたろ? だったら家族をもう一人ぐらい増やさないか? さーちゃんが望むなら、二人でも三人でも俺は協力するけど?」
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