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本編
第十八話 先生の新居
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「ところで、新居はどうされるつもりですか?」
そんな話が出たのは、沙織に指輪をはめた次の日。本当に杉下はどこまでも現実的だ。
「爺さんが、俺に残してくれた家があったじゃないか。あそこを改装して、住もうと思うんだ」
「なるほど。たしか山手にある家でしたか」
「事務所から少し離れてしまうが、静かな住宅地だし生活圏も大して変わらない。沙織が気に入っている駅前商店街も、徒歩はさすがに無理だがバスや車で来られる距離だからな」
「でしたら、急がなくてはなりませんね。あそこは敷地が無駄に広いですし。改装にはどれぐらいの予算を組みましょうか」
「どちらかと言えば、価格よりも期間と内容だな。沙織の意見も聞いたほうが良いだろう?」
「たしかに。一度ゆっくり、久遠さんも交えて話し合ったほうが、良さそうですね」
+++++
「うわあ……随分と変わったね」
杉下曰く、無駄に敷地が広いせいで、改装工事にはかなりの時間と費用がかかった。だがその甲斐あって、古かった家の内装は、近代的なものに様変わりしていた。さすが杉下お奨めの建築家、きちんと沙織の希望も聞き入れてくれたらしく、キッチンは充実した仕様になっているようだ。これで後は、俺と沙織の物を運び込むだけとなった。
「ねえ、当分は私達二人だけなのに広すぎない? しかも離れだなんて贅沢すぎるよ。幸太郎先生のマンションで良かったのに」
「気に入らないのか?」
「そんなことないよ。お庭も綺麗だし、素敵なお家だと思う。だけど広すぎて、お掃除とかどうしようかなって考えちゃうよ」
「ああ、そのことか……」
すっかり忘れていた。
「さーちゃんが仕事を辞めないなら、通いの家政婦さんを何人か雇うよ? あ、辞めたとしても、一人は雇うつもりだけど」
「か、家政婦?! しかも複数?」
「俺の実家にもいたの、見たことあるだろ?」
「そりゃそうだけど……」
贅沢じゃない?と心配している。
「ねえ、どうしておじさん達と同居するとかしないの? あそこだって、ここと同じくらい広いよね」
「そうだけど、もともと重光の本宅はこっちなんだ。親父が結婚した時に、家を出てあそこに住んだってだけで」
「そうだったの?」
「あれ、知らなかった? ここは、爺さんが俺に残してくれた物件なんだよ。だから家族を持つことになったら、ここに住もうと決めてた。つまりは、さーちゃんとここに住むことに決めてたってわけ」
だからこそ、沙織が結婚してくれることになるまで手つかずにしてあった。もし彼女が俺と結婚してくれなかったら、ここはどうなっていたんだろうな。もしかして手放していたかもしれない。
「これからも、たくさんの人がここに訪れることになる。政治家やそうでない人もね。そんな生活だから、ちゃんと家族のプライベートな空間は、確保しておかないとって思って、こうやって離れを作ったんだ。つまりはこっちが俺達家族の居住スペース。表は、政治家重光幸太郎のスペースってことになるかな」
離れの居住スペースを見て回りながら説明すると、なるほどーと沙織はうなづいた。しかし彼女はまだ、本当の政治家の大変さというものを、理解できていないと思う。いわれのない中傷には、俺だけではなく彼女自身がさらされることもこともあるだろう。そうなった時、俺と結婚したことを後悔しなければ良いのだが。
「いまさらだけど、やっていけそう?」
「わからないけど……幸太郎先生がいるから大丈夫だと思うよ」
相変わらず可愛いことを言ってくれる。
「それに杉下さん達もいるし、わからないことは聞くから大丈夫」
続いて出た言葉にガックリきた。ん?と首をかしげる沙織を見下ろしながら、小さくため息をつく。他意はないんだろうが、ちょっと崖から突き落とされた感じがしないでもない。
「俺に頼ってくれよ」
「だって、先生によけいな心配はかけられないでしょ? 私だって秘書の端くれだもん」
「その前に、俺の奥さんだろ?」
「でも、秘書になったのが先だし」
そんなことを話しながら、二人が使う予定の寝室をのぞいた。
「……ねえ、なんですでにベッドが入ってるの? しかも幅がすっごい広いね、三人は余裕で並べそう」
「これ特注品だから、先に入れないとドアをつけられなかったんだとさ」
「そんなことしなくても、ベッドを二つにすればよかったのにね」
「なんで?」
「なんでって……普通はそうしない?」
「さーちゃんは俺と一緒に寝たくないのか?」
「そんなこと言ってないじゃない。ただ、こんな大きなベッドにしなくてもって話で……」
沙織の言い訳を聞きながら、ベッドに座ってみた。なかなかいい感じで、寝心地も良さそうだ。
「なかなかいい感じだぞ」
「……もう寝てるし……」
「うん、寝心地をたしかめておかないと。ほら、さーちゃんもおいで」
俺の言葉にギョッとなる沙織。
「これからずっとお世話になるベッドだから。ちゃんと寝心地が良いかどうか、確かめておかないと」
「そう、なのかな……」
そんなことを呟きながら、おずおずと俺の隣に腰かけてから体を横たえた。
「どう?」
「うん、いい感じ」
しばらくはそのまま寝ころんだまま、壁にどんな絵を飾ろうかとか、カーテンの色がどうとか、他愛のない話を続けた。子供部屋はどんな感じにしたいとか、沙織の頭の中では、色々なものがすでに形作られているらしい。男の子ならそんな感じ、女の子ならこんな感じと楽しそうに話している。
「なあ、さーちゃん」
「なに?」
「俺は、三年待たなくてもいいと思ってるから」
「……子供のこと?」
「ああ。そりゃ、しばらくはさーちゃんを独り占めしたいって気持ちはあるけど、早く家族を作りたいって気持ちもある。だから、周りがなんて言おうと気にするなよ?」
「うん」
恥ずかしそうにうなづく沙織にキスをした。こんなところでキスをしたらどうなるかなんて、神様じゃなくても分かるよな。
「ちょっ……先生」
俺がその気になったのがわかったのか、沙織が慌てて制止しようとするが時すでに遅しな状態。
「まだ改装が完全に終わってないし、誰か来るかも……」
「離れは終わったって聞いてる。それに俺達が来ることを知っているから、業者はこちらには来ないよ」
「それどういうことー?」
「そういうことなんじゃないの?」
そう言いながら、沙織の着ていたワンピースのファスナーを下ろし、肩へと手を回して脱がせた。
「明日がエステの一週間前だろ? また一週間我慢しなきゃいけないんだから、ここでしっかりと抱かせて?」
「あ、痕をつけないって約束できるなら、問題ないのにっ……あ……っ」
約束できるはずがないんだよな……そんなことを思いながら、彼女の肌に唇をはわせた。エステの直後はローションの甘い味がしていたが、そんなことをしなくても、沙織の体はどこもかしこも甘い。時々強く吸いながら、下へ下へと唇をはわせ、それと同時に服を引き下ろしていく。沙織が生まれたままの姿になるのに、さほど時間はかからなかった。
「私だけ、こんなの恥ずかしいよ……」
「俺しか見ていないし、こんなに綺麗なんだから、恥ずかしがることないじゃないか」
「でも……」
膝を軽く立てさせると、そのまま足を広げさせた。
「やっ……」
「大丈夫、綺麗だから」
そこはしっとりと濡れていて、俺のことを待ちわびている様子だ。だけど体を繋ぐのはもう少し後。今はゆっくりと味わうことにする。
「やぁっ、はっ、あぁっ、んぅっ……」
「誰もいないから声、我慢しなくてもいいよ?」
そんな風に堪えようとされると、なんとかして声を出させようとするのが男っていうもので、そのへんを沙織はわかってないらしい。そんな初心な反応とは裏腹に、そこはひくひくと蠢いて男を誘っていた。指でそっとなぞってから、左右に開くとあらわになった襞に舌をはわせる。
「んぅーーっ!」
手の甲で口元をおさえ、くぐもった悲鳴をあげながら、沙織の体がピクンッとはねた。
+++++
幸太郎先生は、執拗に私に声をあげさせようとしているようで、わざとじらすように舌をはわせている。せっかくのベッド、きっと汚れてる、誰かがそれを見たらどう思われるの?……そんなことが頭をよぎった。
「さーちゃん、今なにか別のこと考えただろう?」
先生が顔をあげてこちらを見た。
「だって、汚れちゃうっ」
「あー……たしかに、さーちゃんのここから溢れたもので汚れるね」
指で溢れ出たものをぬるりとすくい取り、ニッコリと微笑みながら私に見せる。
「やぁ、そんなこと言わないで……」
「大丈夫だよ、ちゃんとシーツだけは回収して帰るから」
だから安心して良いよとか言ってるけど、なにをどう安心して良いのかわからないよ。そうしているうちに、先生がズボンのファスナーを下ろす音がして、熱いもので体が満たされた。だけど、いつもとちょっと感じが違って眉をひそめてしまった。
「先生?」
「ごめん、さーちゃん。今日は持ってきてなかったから……」
えっとそれは、なにもつけてないってこと?
「ちゃんと外に出すから、このまま続けても良い?」
あ、中の人がワンコ化した。そんな目で見ないで欲しいよ。
「でも、このまま続けたら妊娠しちゃうかも。結婚式まであと二ヶ月あるし、いま赤ちゃんできたら、絶対にでき来ちゃった婚だとかなんとかって、先生が言われちゃうよ?」
「赤ん坊か……」
先生の顔がだらしなくにやけた感じになった。何故か喜んでるみたい。それから、ちょっと真面目な顔になって、私を見下ろした。
「さーちゃん、明日にでも婚姻届だけ出しに行こうか?」
「そんなことできるわけ……っ」
ゆっくりと先生が動き始めたので言葉に詰まってしまった。
「そうすれば、ここで子供ができても、一日だけのフライングですむし」
「絶対に、杉下さんに怒られる、あぁっ……あんっ」
「怒らせておけば、いいんだよっ、杉下は……はっ、それがあいつの仕事なんだからっ」
「はっ、ああっ……せんせ、私、もうっ」
「いっていいよ」
その言葉が合図だったかのように、先生を包み込んでいる部分が震えて収縮した。耳元で先生の低い喘ぎ声がすると、その声にまで反応して体が震える。もっと近づきたくて、ぎゅっと先生にしがみついた。しばらくして、お腹の上に熱いものがほとばしると、先生は荒い息を整えながら横にゴロリと体を横たえる。
「杉下にバレるか、賭けをしようか?」
「バカッ」
+++++
「……」
「何だ?」
「もしかして、なにか良いことでもありましたか?」
「俺は、沙織が結婚を受け入れてくれてからこっち、人生バラ色だからな」
次の日、ニヤニヤしている俺を、気持ち悪そうに見ている杉下にそう答えると、ニンマリと笑ってみせた。結婚式まであと一か月と迫った、ある日の出来事。
そんな話が出たのは、沙織に指輪をはめた次の日。本当に杉下はどこまでも現実的だ。
「爺さんが、俺に残してくれた家があったじゃないか。あそこを改装して、住もうと思うんだ」
「なるほど。たしか山手にある家でしたか」
「事務所から少し離れてしまうが、静かな住宅地だし生活圏も大して変わらない。沙織が気に入っている駅前商店街も、徒歩はさすがに無理だがバスや車で来られる距離だからな」
「でしたら、急がなくてはなりませんね。あそこは敷地が無駄に広いですし。改装にはどれぐらいの予算を組みましょうか」
「どちらかと言えば、価格よりも期間と内容だな。沙織の意見も聞いたほうが良いだろう?」
「たしかに。一度ゆっくり、久遠さんも交えて話し合ったほうが、良さそうですね」
+++++
「うわあ……随分と変わったね」
杉下曰く、無駄に敷地が広いせいで、改装工事にはかなりの時間と費用がかかった。だがその甲斐あって、古かった家の内装は、近代的なものに様変わりしていた。さすが杉下お奨めの建築家、きちんと沙織の希望も聞き入れてくれたらしく、キッチンは充実した仕様になっているようだ。これで後は、俺と沙織の物を運び込むだけとなった。
「ねえ、当分は私達二人だけなのに広すぎない? しかも離れだなんて贅沢すぎるよ。幸太郎先生のマンションで良かったのに」
「気に入らないのか?」
「そんなことないよ。お庭も綺麗だし、素敵なお家だと思う。だけど広すぎて、お掃除とかどうしようかなって考えちゃうよ」
「ああ、そのことか……」
すっかり忘れていた。
「さーちゃんが仕事を辞めないなら、通いの家政婦さんを何人か雇うよ? あ、辞めたとしても、一人は雇うつもりだけど」
「か、家政婦?! しかも複数?」
「俺の実家にもいたの、見たことあるだろ?」
「そりゃそうだけど……」
贅沢じゃない?と心配している。
「ねえ、どうしておじさん達と同居するとかしないの? あそこだって、ここと同じくらい広いよね」
「そうだけど、もともと重光の本宅はこっちなんだ。親父が結婚した時に、家を出てあそこに住んだってだけで」
「そうだったの?」
「あれ、知らなかった? ここは、爺さんが俺に残してくれた物件なんだよ。だから家族を持つことになったら、ここに住もうと決めてた。つまりは、さーちゃんとここに住むことに決めてたってわけ」
だからこそ、沙織が結婚してくれることになるまで手つかずにしてあった。もし彼女が俺と結婚してくれなかったら、ここはどうなっていたんだろうな。もしかして手放していたかもしれない。
「これからも、たくさんの人がここに訪れることになる。政治家やそうでない人もね。そんな生活だから、ちゃんと家族のプライベートな空間は、確保しておかないとって思って、こうやって離れを作ったんだ。つまりはこっちが俺達家族の居住スペース。表は、政治家重光幸太郎のスペースってことになるかな」
離れの居住スペースを見て回りながら説明すると、なるほどーと沙織はうなづいた。しかし彼女はまだ、本当の政治家の大変さというものを、理解できていないと思う。いわれのない中傷には、俺だけではなく彼女自身がさらされることもこともあるだろう。そうなった時、俺と結婚したことを後悔しなければ良いのだが。
「いまさらだけど、やっていけそう?」
「わからないけど……幸太郎先生がいるから大丈夫だと思うよ」
相変わらず可愛いことを言ってくれる。
「それに杉下さん達もいるし、わからないことは聞くから大丈夫」
続いて出た言葉にガックリきた。ん?と首をかしげる沙織を見下ろしながら、小さくため息をつく。他意はないんだろうが、ちょっと崖から突き落とされた感じがしないでもない。
「俺に頼ってくれよ」
「だって、先生によけいな心配はかけられないでしょ? 私だって秘書の端くれだもん」
「その前に、俺の奥さんだろ?」
「でも、秘書になったのが先だし」
そんなことを話しながら、二人が使う予定の寝室をのぞいた。
「……ねえ、なんですでにベッドが入ってるの? しかも幅がすっごい広いね、三人は余裕で並べそう」
「これ特注品だから、先に入れないとドアをつけられなかったんだとさ」
「そんなことしなくても、ベッドを二つにすればよかったのにね」
「なんで?」
「なんでって……普通はそうしない?」
「さーちゃんは俺と一緒に寝たくないのか?」
「そんなこと言ってないじゃない。ただ、こんな大きなベッドにしなくてもって話で……」
沙織の言い訳を聞きながら、ベッドに座ってみた。なかなかいい感じで、寝心地も良さそうだ。
「なかなかいい感じだぞ」
「……もう寝てるし……」
「うん、寝心地をたしかめておかないと。ほら、さーちゃんもおいで」
俺の言葉にギョッとなる沙織。
「これからずっとお世話になるベッドだから。ちゃんと寝心地が良いかどうか、確かめておかないと」
「そう、なのかな……」
そんなことを呟きながら、おずおずと俺の隣に腰かけてから体を横たえた。
「どう?」
「うん、いい感じ」
しばらくはそのまま寝ころんだまま、壁にどんな絵を飾ろうかとか、カーテンの色がどうとか、他愛のない話を続けた。子供部屋はどんな感じにしたいとか、沙織の頭の中では、色々なものがすでに形作られているらしい。男の子ならそんな感じ、女の子ならこんな感じと楽しそうに話している。
「なあ、さーちゃん」
「なに?」
「俺は、三年待たなくてもいいと思ってるから」
「……子供のこと?」
「ああ。そりゃ、しばらくはさーちゃんを独り占めしたいって気持ちはあるけど、早く家族を作りたいって気持ちもある。だから、周りがなんて言おうと気にするなよ?」
「うん」
恥ずかしそうにうなづく沙織にキスをした。こんなところでキスをしたらどうなるかなんて、神様じゃなくても分かるよな。
「ちょっ……先生」
俺がその気になったのがわかったのか、沙織が慌てて制止しようとするが時すでに遅しな状態。
「まだ改装が完全に終わってないし、誰か来るかも……」
「離れは終わったって聞いてる。それに俺達が来ることを知っているから、業者はこちらには来ないよ」
「それどういうことー?」
「そういうことなんじゃないの?」
そう言いながら、沙織の着ていたワンピースのファスナーを下ろし、肩へと手を回して脱がせた。
「明日がエステの一週間前だろ? また一週間我慢しなきゃいけないんだから、ここでしっかりと抱かせて?」
「あ、痕をつけないって約束できるなら、問題ないのにっ……あ……っ」
約束できるはずがないんだよな……そんなことを思いながら、彼女の肌に唇をはわせた。エステの直後はローションの甘い味がしていたが、そんなことをしなくても、沙織の体はどこもかしこも甘い。時々強く吸いながら、下へ下へと唇をはわせ、それと同時に服を引き下ろしていく。沙織が生まれたままの姿になるのに、さほど時間はかからなかった。
「私だけ、こんなの恥ずかしいよ……」
「俺しか見ていないし、こんなに綺麗なんだから、恥ずかしがることないじゃないか」
「でも……」
膝を軽く立てさせると、そのまま足を広げさせた。
「やっ……」
「大丈夫、綺麗だから」
そこはしっとりと濡れていて、俺のことを待ちわびている様子だ。だけど体を繋ぐのはもう少し後。今はゆっくりと味わうことにする。
「やぁっ、はっ、あぁっ、んぅっ……」
「誰もいないから声、我慢しなくてもいいよ?」
そんな風に堪えようとされると、なんとかして声を出させようとするのが男っていうもので、そのへんを沙織はわかってないらしい。そんな初心な反応とは裏腹に、そこはひくひくと蠢いて男を誘っていた。指でそっとなぞってから、左右に開くとあらわになった襞に舌をはわせる。
「んぅーーっ!」
手の甲で口元をおさえ、くぐもった悲鳴をあげながら、沙織の体がピクンッとはねた。
+++++
幸太郎先生は、執拗に私に声をあげさせようとしているようで、わざとじらすように舌をはわせている。せっかくのベッド、きっと汚れてる、誰かがそれを見たらどう思われるの?……そんなことが頭をよぎった。
「さーちゃん、今なにか別のこと考えただろう?」
先生が顔をあげてこちらを見た。
「だって、汚れちゃうっ」
「あー……たしかに、さーちゃんのここから溢れたもので汚れるね」
指で溢れ出たものをぬるりとすくい取り、ニッコリと微笑みながら私に見せる。
「やぁ、そんなこと言わないで……」
「大丈夫だよ、ちゃんとシーツだけは回収して帰るから」
だから安心して良いよとか言ってるけど、なにをどう安心して良いのかわからないよ。そうしているうちに、先生がズボンのファスナーを下ろす音がして、熱いもので体が満たされた。だけど、いつもとちょっと感じが違って眉をひそめてしまった。
「先生?」
「ごめん、さーちゃん。今日は持ってきてなかったから……」
えっとそれは、なにもつけてないってこと?
「ちゃんと外に出すから、このまま続けても良い?」
あ、中の人がワンコ化した。そんな目で見ないで欲しいよ。
「でも、このまま続けたら妊娠しちゃうかも。結婚式まであと二ヶ月あるし、いま赤ちゃんできたら、絶対にでき来ちゃった婚だとかなんとかって、先生が言われちゃうよ?」
「赤ん坊か……」
先生の顔がだらしなくにやけた感じになった。何故か喜んでるみたい。それから、ちょっと真面目な顔になって、私を見下ろした。
「さーちゃん、明日にでも婚姻届だけ出しに行こうか?」
「そんなことできるわけ……っ」
ゆっくりと先生が動き始めたので言葉に詰まってしまった。
「そうすれば、ここで子供ができても、一日だけのフライングですむし」
「絶対に、杉下さんに怒られる、あぁっ……あんっ」
「怒らせておけば、いいんだよっ、杉下は……はっ、それがあいつの仕事なんだからっ」
「はっ、ああっ……せんせ、私、もうっ」
「いっていいよ」
その言葉が合図だったかのように、先生を包み込んでいる部分が震えて収縮した。耳元で先生の低い喘ぎ声がすると、その声にまで反応して体が震える。もっと近づきたくて、ぎゅっと先生にしがみついた。しばらくして、お腹の上に熱いものがほとばしると、先生は荒い息を整えながら横にゴロリと体を横たえる。
「杉下にバレるか、賭けをしようか?」
「バカッ」
+++++
「……」
「何だ?」
「もしかして、なにか良いことでもありましたか?」
「俺は、沙織が結婚を受け入れてくれてからこっち、人生バラ色だからな」
次の日、ニヤニヤしている俺を、気持ち悪そうに見ている杉下にそう答えると、ニンマリと笑ってみせた。結婚式まであと一か月と迫った、ある日の出来事。
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