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本編
第十七話 先生の秘密な仕事
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「……」
ベッドの中から、恨めしげに着替えている先生を見上げた。さてここで問題です。私が起きれなくなったのは、誰のせいでしょうか?
一、先生。
二、先生。
三、先生。
先生のせいに決まってるじゃないっ!
「だから、もう仕事はしないでも良いって言ってるじゃないか。そろそろ俺の妻という仕事だけに、集中する気になってくれたんじゃないのか?」
ネクタイを締めながら、こちらを見下ろす幸太郎先生。
「でも楽しいんだもん、今の仕事……」
「だけど、妻が秘書っていうのは前例が無いから、多分、辞めなきゃ駄目だと思うぞ?」
「えー……息子さんが秘書しているのに、なんで奥さんは駄目なの?」
「そりゃ、息子と嫁じゃあ担う役割が全く違うじゃないか。選挙の時の事務所の映像は見たことある? 奥さんって本当に大変だぞ? 多分あの時期が一番大変なんじゃないかな」
「あー……それでか」
「なに?」
幸太郎先生がベッドに腰を下ろしてこちらを見た。
「あのね、赤ちゃんは、選挙が終わってからにしてほしいって言われたの。三年後に国政選挙があるじゃない? 多分そのせいなんだなあって、今になってわかった」
私の言葉を聞いて、先生の顔がちょっと怖いものになる。
「誰がそんなことを? 杉下か?」
「ううん。杉下さんはそんなこと言わないよ。だけど他の周りの人がね、それとなく遠まわしに、そんなこと言ってくるのを感じたから。最初はなんでかなって思ったの。もしかしたら、幸太郎先生が子供が欲しくなくて、そんな風に話が広がっているのかなって」
最初は、まだお若いから二人っきりで三年ぐらいは過ごしたいでしょ?とか、三年後でも沙織さんは二十五歳だから、まだまだ大丈夫よね?とかそんな感じだった。とにかく、やたらと『三年』という具体的な年数が出てくるのが不思議でならなかったんだけど、今の幸太郎先生の言葉でようやく腑に落ちた。
「俺はすぐにでもさーちゃんとの子供が欲しいよ。でも……そうだな、選挙が終わってからのほうが、ゆっくり俺も子育てを手伝えるってのもあるな」
そして悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「だったら、当選当日に頑張ってみようか」
「気が早すぎ」
「そんなことないさ。三年なんてあっという間だぞ? それに、三年待たずに選挙って可能性もあるわけだし? いわゆる解散総選挙みたいな」
「落ちるかもしれない、なんて考えてないんだ?」
「その時はただの人になれて、それこそさーちゃんとゆっくりとすごす時間が増えるから、俺としてはそれでも構わないけど、そんなこと言ったらも支持してくれている人に申し訳が立たないだろ? それに、オヤジの跡を継ぐだけのことで議員になったわけじゃないし、自分なりにやりたいこともある。だから当分は、現職議員から元職になるつもりはないな」
「ふーん……ちゃんと考えて議員さんしてるんだ」
「そうだよ。意外だった?」
「んー……そうかも」
幸太郎先生は私の頭をくしゃくしゃって撫でると、上着を手にして立ち上がる。
「今日は休みなさい。これは俺からの命令。ここで俺に頼まれた、秘密の仕事をしていることにしておくから」
「そんなこと言ってもきっとバレバレだと思う……」
「俺に抱き潰されて寝ているって、言ったほうが良いのか?」
「それは絶対にヤダ」
「だろ? だからここで仕事をしていることにしておく」
「本当になにかすることない? あ、掃除とか洗濯はするけど……」
「俺が帰ってくるまで、ベッドを温めてくれていたらそれで十分だよ」
先生は濃厚なキスを一つ、そして少しだけ名残惜しそうな顔をして、出かけていった。
+++
「……」
「なんだよ杉下、言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ」
助手席で微妙な空気をまとっている、第一公設秘書に声をかけた。
「久遠さんは大丈夫だろうかと、心配しているだけです」
「大丈夫に決まってるだろ」
「式当日に花嫁が体調を崩したとか、シャレになりませんからね、ほどほどにお願いしますよ」
「ふーん……それで神前結婚を推したのか、親父は」
「大先生もよくわかっていらっしゃるんじゃないですか? 先生が誓いのキスなんて人前でしたら、破廉恥罪で逮捕されるんじゃないかって」
最近になって、式は然るべき由緒正しき神社で神前結婚をと父親が言い出したのだが、こいつの差し金だったんじゃないかと、いまさらながら疑った。もちろん、披露宴などがあるので、沙織が時間をかけて選んだドレスもきちんと袖を通すことができるんだが。しかし、白無垢のさーちゃんか、きっと誰よりも綺麗だろうし、恥じらうところなんて絶対に可愛いだろうなあ……。
「先生、顔がにやけてます」
慌てて顔を引き締める。そんな俺の様子を見てため息をつく杉下。
「なんだよ」
「まさか、我々が危惧していたことが本当に起きるなんて、思ってもみなかったものですから」
「危惧?」
「久遠さんのことです。そのうち仕事があるのに抱き潰すんじゃないかと、竹野内先輩が心配していたんですが、本当にそうなるとは思ってもいませんでしたよ。まったく油断してました」
「抱き潰したって人聞きの悪い」
お、一気に車内の温度が下がった気がするぞ。
「では今朝、私が事務所に顔を出した時に、どうして久遠さんは事務所におられなかったのですか?」
「それは俺が頼んだ仕事を……」
「……」
「……抱き潰しました、すみません」
「すみませんは、久遠さんに言ってください」
「……はい」
こいつ、俺の秘書だよな? 立場的には俺が上だよな? 最近、実は逆なんじゃないかと思えてきた。
「いっそのこと、退職してくれれば助かるんだがな。沙織が辞めるのをイヤがっているんだ」
「辞めさせたい理由が、今日みたいなことをしたいからなんて話なら、そりゃ久遠さんだって辞めたくはないでしょう」
「違うに決まってるだろ。とにかく沙織は今の仕事が楽しいんだとさ。まあ選挙期間の修羅場を経験していないんだから、そんなものかしもれないがな」
そう言えば……。
「なあ杉下。お前、沙織に、子供を産むのは次の選挙が終わってからにしろとか言ったか?」
俺の問いに、驚いた顔をして杉下が振り返った。
「まさか。いくらなんでも、そこまで口出しするような真似はしませんよ。それに、そういうことを言うなら、久遠さんにではなく先生に言います。久遠さんがそんなことを言われたんですか?」
「遠まわしに言ってくる連中がいるらしい。どのへんだろうな、そういう踏み込んだことを、俺ではなく沙織にズケズケと言うやつは」
「そうですね……可能性としては、後援会の野田さんあたりの古株が言いそうな感じですね」
「この程度のことならまだ許せるが、それ以上プライベートなことに口出しをするようなら、考えなければならないかもな。オヤジの代からの付き合いだから、無碍にはできないと思って今までやってきたが」
「そろそろ切り離さないといけないのではというグループはいますね。出る杭を打ちたがるというか、そういう人物が」
父親の跡を引き継いで議員になって六年。地元有権者との親睦も随分と深まってきた。そろそろ、先代からの付き合いだからなどということを平気で口にする古狸には、退場していただかないといけない時期かもしれない。これも、二世議員三世議員の宿命とも言える厄介な仕事だ。
「一度、竹野内先輩と相談してみます」
「そうしてくれ」
+++
幸太郎先生が出掛けてから起きて、掃除して洗濯して……などと思っていたんだけれど、思いのほか体が辛いので、そのまま二度寝しちゃうことにした。先生公認の秘密の仕事というズル休み、いや、本当は休みたくなかったんだよ、私だって事務所の一員なんだし?
「やっぱり、一週間のお預けがいけなかったのかなあ……」
エステの行く前に痕をつけられたらいけないと決めた、一週間前からのイチャイチャ禁止令。これをちょっと考えないと、毎回毎回こんなんだったら、私いくら幸太郎先生のことが好きでも体がもちません。せめて、キスマークをつけませんっていう確約が取れれば良いのだけれど……。そんなことを考えつつ、先生の匂いに包まれながら夢も見ずに眠り込んでしまった。
そして目が覚めればお昼前。良く寝たーっと体を起こしてベッドから足を垂らす。まだちょっと変な違和感が残っているけど、動けないほどじゃない。サイドテーブルに置いてあった、携帯のランプの点滅していることに気がついた。メールみたいだ。携帯を開くと先生からのメールが入っていた。
= 昼飯、冷凍庫に菜の花ベーカリーのピザが入ってるから、それを食べればいいよ=
菜の花ベーカリーっていうのは、駅前商店街にあるパン屋さんで先生のお気に入りのお店。たまにカレーパンとか餡パンとかを事務所に差し入れてくれる。そして本格的なピザも作っていて、先生は冷凍して売られているものをよく持ち帰ってくる。私もここで何度か御馳走になったし、昼休みにお店の喫茶コーナーで焼き立てを食べたこともあった。……まあ猫舌な私には、焼き立てでアツアツのチーズはちょっと辛いかなって感じだったけどね。
それともう一通。同じく先生。
= 新婚旅行、オーストラリアに行かないか?=
……先生、ちゃんと仕事してる? なんだか心配になっちゃうよ、杉下さんがついているから大丈夫だとは思うけど。それでも新婚旅行なんて言われるとドキドキしちゃうな。もう決めなきゃいけないリミットが来てるんだけど、未だに決められなくて悩んでいる最中だし、先生も私は迷いすぎて決められないって思ったのかもしれない。
「オーストラリアかあ……夏なんだよね、あっち。あ、泳げるかな」
= ダイビングスポットとかあるところが良いな =
= 愚問。グレートバリアリーフを知らないのか?=
= オーストリアだとは知らなかった =
= オーストラリア ラ・リ・ア!=
= 予測変換で間違えただけっ!=
= じゃ決まりな、手続する =
決断はやっ! 先生もしかして車で移動中なのかな? そうでなかったら、そんなに早く返信来ないよね? けど飛行機乗りたくないよお……。そんなことを思っていたらメールの着信。
= 飛行機は嫌だとか却下だからな =
先手うたれました……。
だけど冬の寒い時期に、オーストラリアで夏を満喫できるなんて贅沢だなあ……。これで飛行機にさえ乗らなくてすむなら、さらに幸せなんだけど。
ベッドの中から、恨めしげに着替えている先生を見上げた。さてここで問題です。私が起きれなくなったのは、誰のせいでしょうか?
一、先生。
二、先生。
三、先生。
先生のせいに決まってるじゃないっ!
「だから、もう仕事はしないでも良いって言ってるじゃないか。そろそろ俺の妻という仕事だけに、集中する気になってくれたんじゃないのか?」
ネクタイを締めながら、こちらを見下ろす幸太郎先生。
「でも楽しいんだもん、今の仕事……」
「だけど、妻が秘書っていうのは前例が無いから、多分、辞めなきゃ駄目だと思うぞ?」
「えー……息子さんが秘書しているのに、なんで奥さんは駄目なの?」
「そりゃ、息子と嫁じゃあ担う役割が全く違うじゃないか。選挙の時の事務所の映像は見たことある? 奥さんって本当に大変だぞ? 多分あの時期が一番大変なんじゃないかな」
「あー……それでか」
「なに?」
幸太郎先生がベッドに腰を下ろしてこちらを見た。
「あのね、赤ちゃんは、選挙が終わってからにしてほしいって言われたの。三年後に国政選挙があるじゃない? 多分そのせいなんだなあって、今になってわかった」
私の言葉を聞いて、先生の顔がちょっと怖いものになる。
「誰がそんなことを? 杉下か?」
「ううん。杉下さんはそんなこと言わないよ。だけど他の周りの人がね、それとなく遠まわしに、そんなこと言ってくるのを感じたから。最初はなんでかなって思ったの。もしかしたら、幸太郎先生が子供が欲しくなくて、そんな風に話が広がっているのかなって」
最初は、まだお若いから二人っきりで三年ぐらいは過ごしたいでしょ?とか、三年後でも沙織さんは二十五歳だから、まだまだ大丈夫よね?とかそんな感じだった。とにかく、やたらと『三年』という具体的な年数が出てくるのが不思議でならなかったんだけど、今の幸太郎先生の言葉でようやく腑に落ちた。
「俺はすぐにでもさーちゃんとの子供が欲しいよ。でも……そうだな、選挙が終わってからのほうが、ゆっくり俺も子育てを手伝えるってのもあるな」
そして悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「だったら、当選当日に頑張ってみようか」
「気が早すぎ」
「そんなことないさ。三年なんてあっという間だぞ? それに、三年待たずに選挙って可能性もあるわけだし? いわゆる解散総選挙みたいな」
「落ちるかもしれない、なんて考えてないんだ?」
「その時はただの人になれて、それこそさーちゃんとゆっくりとすごす時間が増えるから、俺としてはそれでも構わないけど、そんなこと言ったらも支持してくれている人に申し訳が立たないだろ? それに、オヤジの跡を継ぐだけのことで議員になったわけじゃないし、自分なりにやりたいこともある。だから当分は、現職議員から元職になるつもりはないな」
「ふーん……ちゃんと考えて議員さんしてるんだ」
「そうだよ。意外だった?」
「んー……そうかも」
幸太郎先生は私の頭をくしゃくしゃって撫でると、上着を手にして立ち上がる。
「今日は休みなさい。これは俺からの命令。ここで俺に頼まれた、秘密の仕事をしていることにしておくから」
「そんなこと言ってもきっとバレバレだと思う……」
「俺に抱き潰されて寝ているって、言ったほうが良いのか?」
「それは絶対にヤダ」
「だろ? だからここで仕事をしていることにしておく」
「本当になにかすることない? あ、掃除とか洗濯はするけど……」
「俺が帰ってくるまで、ベッドを温めてくれていたらそれで十分だよ」
先生は濃厚なキスを一つ、そして少しだけ名残惜しそうな顔をして、出かけていった。
+++
「……」
「なんだよ杉下、言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ」
助手席で微妙な空気をまとっている、第一公設秘書に声をかけた。
「久遠さんは大丈夫だろうかと、心配しているだけです」
「大丈夫に決まってるだろ」
「式当日に花嫁が体調を崩したとか、シャレになりませんからね、ほどほどにお願いしますよ」
「ふーん……それで神前結婚を推したのか、親父は」
「大先生もよくわかっていらっしゃるんじゃないですか? 先生が誓いのキスなんて人前でしたら、破廉恥罪で逮捕されるんじゃないかって」
最近になって、式は然るべき由緒正しき神社で神前結婚をと父親が言い出したのだが、こいつの差し金だったんじゃないかと、いまさらながら疑った。もちろん、披露宴などがあるので、沙織が時間をかけて選んだドレスもきちんと袖を通すことができるんだが。しかし、白無垢のさーちゃんか、きっと誰よりも綺麗だろうし、恥じらうところなんて絶対に可愛いだろうなあ……。
「先生、顔がにやけてます」
慌てて顔を引き締める。そんな俺の様子を見てため息をつく杉下。
「なんだよ」
「まさか、我々が危惧していたことが本当に起きるなんて、思ってもみなかったものですから」
「危惧?」
「久遠さんのことです。そのうち仕事があるのに抱き潰すんじゃないかと、竹野内先輩が心配していたんですが、本当にそうなるとは思ってもいませんでしたよ。まったく油断してました」
「抱き潰したって人聞きの悪い」
お、一気に車内の温度が下がった気がするぞ。
「では今朝、私が事務所に顔を出した時に、どうして久遠さんは事務所におられなかったのですか?」
「それは俺が頼んだ仕事を……」
「……」
「……抱き潰しました、すみません」
「すみませんは、久遠さんに言ってください」
「……はい」
こいつ、俺の秘書だよな? 立場的には俺が上だよな? 最近、実は逆なんじゃないかと思えてきた。
「いっそのこと、退職してくれれば助かるんだがな。沙織が辞めるのをイヤがっているんだ」
「辞めさせたい理由が、今日みたいなことをしたいからなんて話なら、そりゃ久遠さんだって辞めたくはないでしょう」
「違うに決まってるだろ。とにかく沙織は今の仕事が楽しいんだとさ。まあ選挙期間の修羅場を経験していないんだから、そんなものかしもれないがな」
そう言えば……。
「なあ杉下。お前、沙織に、子供を産むのは次の選挙が終わってからにしろとか言ったか?」
俺の問いに、驚いた顔をして杉下が振り返った。
「まさか。いくらなんでも、そこまで口出しするような真似はしませんよ。それに、そういうことを言うなら、久遠さんにではなく先生に言います。久遠さんがそんなことを言われたんですか?」
「遠まわしに言ってくる連中がいるらしい。どのへんだろうな、そういう踏み込んだことを、俺ではなく沙織にズケズケと言うやつは」
「そうですね……可能性としては、後援会の野田さんあたりの古株が言いそうな感じですね」
「この程度のことならまだ許せるが、それ以上プライベートなことに口出しをするようなら、考えなければならないかもな。オヤジの代からの付き合いだから、無碍にはできないと思って今までやってきたが」
「そろそろ切り離さないといけないのではというグループはいますね。出る杭を打ちたがるというか、そういう人物が」
父親の跡を引き継いで議員になって六年。地元有権者との親睦も随分と深まってきた。そろそろ、先代からの付き合いだからなどということを平気で口にする古狸には、退場していただかないといけない時期かもしれない。これも、二世議員三世議員の宿命とも言える厄介な仕事だ。
「一度、竹野内先輩と相談してみます」
「そうしてくれ」
+++
幸太郎先生が出掛けてから起きて、掃除して洗濯して……などと思っていたんだけれど、思いのほか体が辛いので、そのまま二度寝しちゃうことにした。先生公認の秘密の仕事というズル休み、いや、本当は休みたくなかったんだよ、私だって事務所の一員なんだし?
「やっぱり、一週間のお預けがいけなかったのかなあ……」
エステの行く前に痕をつけられたらいけないと決めた、一週間前からのイチャイチャ禁止令。これをちょっと考えないと、毎回毎回こんなんだったら、私いくら幸太郎先生のことが好きでも体がもちません。せめて、キスマークをつけませんっていう確約が取れれば良いのだけれど……。そんなことを考えつつ、先生の匂いに包まれながら夢も見ずに眠り込んでしまった。
そして目が覚めればお昼前。良く寝たーっと体を起こしてベッドから足を垂らす。まだちょっと変な違和感が残っているけど、動けないほどじゃない。サイドテーブルに置いてあった、携帯のランプの点滅していることに気がついた。メールみたいだ。携帯を開くと先生からのメールが入っていた。
= 昼飯、冷凍庫に菜の花ベーカリーのピザが入ってるから、それを食べればいいよ=
菜の花ベーカリーっていうのは、駅前商店街にあるパン屋さんで先生のお気に入りのお店。たまにカレーパンとか餡パンとかを事務所に差し入れてくれる。そして本格的なピザも作っていて、先生は冷凍して売られているものをよく持ち帰ってくる。私もここで何度か御馳走になったし、昼休みにお店の喫茶コーナーで焼き立てを食べたこともあった。……まあ猫舌な私には、焼き立てでアツアツのチーズはちょっと辛いかなって感じだったけどね。
それともう一通。同じく先生。
= 新婚旅行、オーストラリアに行かないか?=
……先生、ちゃんと仕事してる? なんだか心配になっちゃうよ、杉下さんがついているから大丈夫だとは思うけど。それでも新婚旅行なんて言われるとドキドキしちゃうな。もう決めなきゃいけないリミットが来てるんだけど、未だに決められなくて悩んでいる最中だし、先生も私は迷いすぎて決められないって思ったのかもしれない。
「オーストラリアかあ……夏なんだよね、あっち。あ、泳げるかな」
= ダイビングスポットとかあるところが良いな =
= 愚問。グレートバリアリーフを知らないのか?=
= オーストリアだとは知らなかった =
= オーストラリア ラ・リ・ア!=
= 予測変換で間違えただけっ!=
= じゃ決まりな、手続する =
決断はやっ! 先生もしかして車で移動中なのかな? そうでなかったら、そんなに早く返信来ないよね? けど飛行機乗りたくないよお……。そんなことを思っていたらメールの着信。
= 飛行機は嫌だとか却下だからな =
先手うたれました……。
だけど冬の寒い時期に、オーストラリアで夏を満喫できるなんて贅沢だなあ……。これで飛行機にさえ乗らなくてすむなら、さらに幸せなんだけど。
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