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第一部 新しいニンゲンがやってきた!
第八話 マスコット達と昼食会
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最初のパーク内一周は簡単な説明だけで終わった。天童さん的には、警備をする立場として気になることがいくつかあったらしく、それをメモに書き留めている。その手の専門的なことは中津山部長に報告を上げて、後日あらためて相談することになった。
「で、本当に昼はマスコット達と食事会なんですか?」
警備部の控室に戻り、装備品を戻しながら質問をする天童さん。
「もちろんですよ。断ったりしたら、明日からずっとつきまとわれちゃいますよ」
「ちなみに一関さんも経験したんですか? えーと、マスコットとの昼食会」
「いえ、私はないです。だから特別待遇の天童さんがうらやましいですね」
ニコニコしながら言うと、ものすごーく微妙な顔をした。
「なんで俺だけ……?」
「そりゃ、中途採用の新しいニンゲンだからだと思います。最初に言ったでしょ? 船長もマスコット達も興味津々だったって」
「じゃあ他の人はどうなんですか? 久保田さんとか矢島さんとか」
「警備部では歓迎会をしましたけど、マスコット達との昼食会はなかったような」
とにかく天童さんはなにもかもが特別待遇だ。特になにもなかった先輩としては非常にうらやましい。
「なにしてるんですか?」
天童さんが自分の顔を指でつまんでいる。
「どう説明したら良いのかわからないんですが、なぜか顔が疲れているので」
「ああ、それは表情筋が疲れてるんですね。普段しなれない表情をすると疲れるんですよ。天童さんの場合、たぶん笑顔?」
「なるほど」
今までの天童さんはそう言われて納得するぐらい、笑顔とは程遠い生活をしていたらしい。
「すぐに慣れますよ」
「表情筋が筋肉痛になることはないんですか?」
「聞いたことないですね。もしそうなったとして、顔には湿布も塗り薬も無理だからマッサージあるのみ?」
「今夜は風呂で、しっかり顔のマッサージをしておきます」
そう言って天童さんは、パシッと両手で顔をたたいた。
「じゃあ食堂に案内しますね。ここのご飯はおいしいとパーク内のスタッフに好評なので、期待して良いですよ」
そう言いながら控室を出て食堂に向かう。食堂はパーク内で働く全スタッフが使う場所ということもあり、かなりの広さだ。
「あ、来た来た! おーい、一関さんとニンゲーン! こっちこっち!」
私達が食堂に入ると、窓側に陣取っていた一団から声をかけられた。席を立って手を振っているのは、一の子分の中の人だ。
「中から出ていると誰が誰やらですね」
「彼はリーダーの一の子分です。最初に天童さんに話しかけたマスコット君、覚えてます?」
「ああ、彼ですか」
手を振り返してから、トレーを手に厨房前のカウンターに並ぶ。
「飲み物はドリンクバーで好きなものを選んでくださいね。あ、それと」
カウンターの横に置いてある紙を一枚とった。そこには向こう1週間のメニューが書かれている。
「これどうぞ。食べられないものが出る日は、自分で用意する必要があるので」
「ありがとうございます」
飲み物をトレーに置くと、中の人達が待っているテーブルへと向かった。
「お待たせしました~~」
「いらっしゃーい、待ってたよ、ニンゲーン。えっと天童さんだっけ?」
「天童です。よろしくお願いします」
天童さんは頭を下げてからから座った。
「リーダー、船長達はどうしたんですか? てっきり一緒だと思ってましたけど」
「海賊団が合流すると人数が多すぎだろ? だから今回はマスコットチームだけ。海賊団からも近日中に誘われると思うよ」
「ああ、なるほど。了解です」
そこでリーダーが飲み物を持って立ち上がる。
「じゃあ、皆がそろったので。警備部に来た新しいニンゲン、天童君を歓迎して。カンパーイ!」
マスコットチームの全員が「カンパーイ」といっせいに声をあげた。
「じゃあ自己紹介するね。パーク内で中の人として接するのは食事の時ぐらいだから、特に急いで名前を覚えなくても問題ないと思うよ。他の人もだいたい外側を先に覚えちゃうから」
「それは本当です。マスコットの時は皆さん、中の人の名前を呼んでも絶対に返事してくれませんから」
ヒソヒソと説明を付け加える。
「それって自己紹介の意味がないんじゃ?」
「そうとも言うね。じゃあまずはチームリーダーの僕から」
そう言うと、順番に名前とそれぞれが担当しているマスコットの名前を名乗っていく。マスコットはイラストカードを見せるという念の入れようだ。つまり自分の人の名前より、担当しているマスコットのほうが重要ということなのだ。
「どうです? 覚えられました?」
一通り終わってから天童さんにたずねた。
「いや、無理です。まず俺はマスコットの名前を覚えることから始めないと。ここに来るまで無縁だったので」
有名どころのキャラ名はともかく、脇役の名前までしっかり憶えている人は少ない。特に天童さんは今までパークに来たことがないという話だったし、それはしかたがないことかもしれない。
「ま、そのうちイヤでも覚えちゃうから心配ないですよ」
いただきますをしてスプーンを手にした。今日のお肉もしっかりと煮込まれていておいしそう。
「ところで、警備部の歓迎会は試用期間が終わってからなんだっけ?」
「そうです。天童さんには、パークの空気に馴染んでもらうことが最優先事項なので」
「それで久保田さんと矢島さんは近づいてこないのか」
食堂の一角に目を向けると、警備部チームの何名かが食事をしている。その中に久保田さんと矢島さんもいた。こっちに気づくと手を振ってきたので振り返す。
「三人が集まるとパークの空気が乱れるので、試用期間が終わるまでは接触禁止って、中津山部長からの業務命令が出てるんです」
「あー、なるほどね。天童さんもそっち系の元職なんだ?」
「元警察官です」
天童さんがうなづきながら答えた。
「久保田さんと同じ系なんだね。なるほどなるほど」
リーダーが納得しましたという顔をする。
「しばらくは戸惑うことも多いと思うけど、半年もすれば慣れるからがんばって」
「ありがとうございます」
「あと僕らからのアドバイスとしては、警備スタッフもここでは笑顔が大切だよってことかな」
リーダーの言葉が合図だったようで、全員が人差し指でそれぞれの口のはしを押し上げた。
「ニコニコしながら警戒するって難しそうだけどね」
「あ、でも交番のおまわりさんて、意外と笑顔が多いよね」
一の子分さんが指摘する。だけど天童さんはあいにくと交番のおまわりさんではなく刑事さんだ。
「あー……交番のおまわりさんをしたのはかなり前なので」
「え、そうなんですか? 私、てっきり採用されてすぐに刑事さんになったと思ってました」
「いやいや。どんな人もまずは交番勤務からなので」
「へー、知りませんでした。一つ賢くなりました」
私がそう言うと、何故かその場にいた全員が某ゲームのレベルアップの曲を歌う。どうやら私はレベルアップしたらしい。
「そっか。天童さんは元刑事さんなんだね。だからそんなに目つきが怖いのか」
「え」
そう指摘され、天童さんは食べかけのスプーンを途中で止めて目を丸くした。
「あれ? もしかして自覚無し? 一関さんに言われて努力はしてるんだろうけど、まだまだ目が怖いよ。ねえ?」
全員がうなづく。たぶん自分では意識していなかったんだろう。天童さんはマスコットチームに指摘され、少なからずショックを受けている。
「まあしかたないよね。いきなりニコニコしろって言われても難しいし」
「そうそう。最初は誰もが顔の筋肉痛になるからね。だから顔出しをしているアクターさん達は大変よ?」
ヒロインキャラを演じている女性陣がいっせいにうなづく。
「顔を隠せない警備の天童さんは、ひたすらスマイルの練習だね」
「ニコニコしながら警戒するって大変そう。私達、マスコットで良かった!」
「「「ね~~!!」」」
ここで覚えるのは仕事だけではなく笑顔もなのだ。多分そこが天童さんにとっては一番難しいポイントだと思う。
「ちなみに、天童さんの先輩である久保田さんは、最初に『胡散臭い顔でニヤニヤするのはやめろ』と言われました」
「えっと、それは誰に?」
「先輩全員に。ちなみに私も言いました」
「前途多難だ……」
ため息をつきながらお肉を口に放り込んでいる。
「心配ないよ。天童さんには笑顔マイスターの一関さんがついてるから」
「笑顔マイスター?」
天童さんが私を見た。
「私、マイスターらしいんですよ、笑顔の。あまり意識したことないんですけどね」
「参考にさせてもらいます」
「はい。素敵な笑顔だって言われるように頑張りましょう!」
「やっぱり前途多難すぎる……」
憂鬱そうにつぶやく。
「大丈夫ですよ。久保田さんも矢島さんもなんとかなってるし!」
「そうそう、なんとかなるって。もしなんとかならなかったら、そうだなあ、顔を隠す仕事をすれば問題ないんじゃないかな? つまり僕らの仲間になる?ってことなんだけど」
リーダーの言葉に、全員の視線が天童さんに集まった。
「で、本当に昼はマスコット達と食事会なんですか?」
警備部の控室に戻り、装備品を戻しながら質問をする天童さん。
「もちろんですよ。断ったりしたら、明日からずっとつきまとわれちゃいますよ」
「ちなみに一関さんも経験したんですか? えーと、マスコットとの昼食会」
「いえ、私はないです。だから特別待遇の天童さんがうらやましいですね」
ニコニコしながら言うと、ものすごーく微妙な顔をした。
「なんで俺だけ……?」
「そりゃ、中途採用の新しいニンゲンだからだと思います。最初に言ったでしょ? 船長もマスコット達も興味津々だったって」
「じゃあ他の人はどうなんですか? 久保田さんとか矢島さんとか」
「警備部では歓迎会をしましたけど、マスコット達との昼食会はなかったような」
とにかく天童さんはなにもかもが特別待遇だ。特になにもなかった先輩としては非常にうらやましい。
「なにしてるんですか?」
天童さんが自分の顔を指でつまんでいる。
「どう説明したら良いのかわからないんですが、なぜか顔が疲れているので」
「ああ、それは表情筋が疲れてるんですね。普段しなれない表情をすると疲れるんですよ。天童さんの場合、たぶん笑顔?」
「なるほど」
今までの天童さんはそう言われて納得するぐらい、笑顔とは程遠い生活をしていたらしい。
「すぐに慣れますよ」
「表情筋が筋肉痛になることはないんですか?」
「聞いたことないですね。もしそうなったとして、顔には湿布も塗り薬も無理だからマッサージあるのみ?」
「今夜は風呂で、しっかり顔のマッサージをしておきます」
そう言って天童さんは、パシッと両手で顔をたたいた。
「じゃあ食堂に案内しますね。ここのご飯はおいしいとパーク内のスタッフに好評なので、期待して良いですよ」
そう言いながら控室を出て食堂に向かう。食堂はパーク内で働く全スタッフが使う場所ということもあり、かなりの広さだ。
「あ、来た来た! おーい、一関さんとニンゲーン! こっちこっち!」
私達が食堂に入ると、窓側に陣取っていた一団から声をかけられた。席を立って手を振っているのは、一の子分の中の人だ。
「中から出ていると誰が誰やらですね」
「彼はリーダーの一の子分です。最初に天童さんに話しかけたマスコット君、覚えてます?」
「ああ、彼ですか」
手を振り返してから、トレーを手に厨房前のカウンターに並ぶ。
「飲み物はドリンクバーで好きなものを選んでくださいね。あ、それと」
カウンターの横に置いてある紙を一枚とった。そこには向こう1週間のメニューが書かれている。
「これどうぞ。食べられないものが出る日は、自分で用意する必要があるので」
「ありがとうございます」
飲み物をトレーに置くと、中の人達が待っているテーブルへと向かった。
「お待たせしました~~」
「いらっしゃーい、待ってたよ、ニンゲーン。えっと天童さんだっけ?」
「天童です。よろしくお願いします」
天童さんは頭を下げてからから座った。
「リーダー、船長達はどうしたんですか? てっきり一緒だと思ってましたけど」
「海賊団が合流すると人数が多すぎだろ? だから今回はマスコットチームだけ。海賊団からも近日中に誘われると思うよ」
「ああ、なるほど。了解です」
そこでリーダーが飲み物を持って立ち上がる。
「じゃあ、皆がそろったので。警備部に来た新しいニンゲン、天童君を歓迎して。カンパーイ!」
マスコットチームの全員が「カンパーイ」といっせいに声をあげた。
「じゃあ自己紹介するね。パーク内で中の人として接するのは食事の時ぐらいだから、特に急いで名前を覚えなくても問題ないと思うよ。他の人もだいたい外側を先に覚えちゃうから」
「それは本当です。マスコットの時は皆さん、中の人の名前を呼んでも絶対に返事してくれませんから」
ヒソヒソと説明を付け加える。
「それって自己紹介の意味がないんじゃ?」
「そうとも言うね。じゃあまずはチームリーダーの僕から」
そう言うと、順番に名前とそれぞれが担当しているマスコットの名前を名乗っていく。マスコットはイラストカードを見せるという念の入れようだ。つまり自分の人の名前より、担当しているマスコットのほうが重要ということなのだ。
「どうです? 覚えられました?」
一通り終わってから天童さんにたずねた。
「いや、無理です。まず俺はマスコットの名前を覚えることから始めないと。ここに来るまで無縁だったので」
有名どころのキャラ名はともかく、脇役の名前までしっかり憶えている人は少ない。特に天童さんは今までパークに来たことがないという話だったし、それはしかたがないことかもしれない。
「ま、そのうちイヤでも覚えちゃうから心配ないですよ」
いただきますをしてスプーンを手にした。今日のお肉もしっかりと煮込まれていておいしそう。
「ところで、警備部の歓迎会は試用期間が終わってからなんだっけ?」
「そうです。天童さんには、パークの空気に馴染んでもらうことが最優先事項なので」
「それで久保田さんと矢島さんは近づいてこないのか」
食堂の一角に目を向けると、警備部チームの何名かが食事をしている。その中に久保田さんと矢島さんもいた。こっちに気づくと手を振ってきたので振り返す。
「三人が集まるとパークの空気が乱れるので、試用期間が終わるまでは接触禁止って、中津山部長からの業務命令が出てるんです」
「あー、なるほどね。天童さんもそっち系の元職なんだ?」
「元警察官です」
天童さんがうなづきながら答えた。
「久保田さんと同じ系なんだね。なるほどなるほど」
リーダーが納得しましたという顔をする。
「しばらくは戸惑うことも多いと思うけど、半年もすれば慣れるからがんばって」
「ありがとうございます」
「あと僕らからのアドバイスとしては、警備スタッフもここでは笑顔が大切だよってことかな」
リーダーの言葉が合図だったようで、全員が人差し指でそれぞれの口のはしを押し上げた。
「ニコニコしながら警戒するって難しそうだけどね」
「あ、でも交番のおまわりさんて、意外と笑顔が多いよね」
一の子分さんが指摘する。だけど天童さんはあいにくと交番のおまわりさんではなく刑事さんだ。
「あー……交番のおまわりさんをしたのはかなり前なので」
「え、そうなんですか? 私、てっきり採用されてすぐに刑事さんになったと思ってました」
「いやいや。どんな人もまずは交番勤務からなので」
「へー、知りませんでした。一つ賢くなりました」
私がそう言うと、何故かその場にいた全員が某ゲームのレベルアップの曲を歌う。どうやら私はレベルアップしたらしい。
「そっか。天童さんは元刑事さんなんだね。だからそんなに目つきが怖いのか」
「え」
そう指摘され、天童さんは食べかけのスプーンを途中で止めて目を丸くした。
「あれ? もしかして自覚無し? 一関さんに言われて努力はしてるんだろうけど、まだまだ目が怖いよ。ねえ?」
全員がうなづく。たぶん自分では意識していなかったんだろう。天童さんはマスコットチームに指摘され、少なからずショックを受けている。
「まあしかたないよね。いきなりニコニコしろって言われても難しいし」
「そうそう。最初は誰もが顔の筋肉痛になるからね。だから顔出しをしているアクターさん達は大変よ?」
ヒロインキャラを演じている女性陣がいっせいにうなづく。
「顔を隠せない警備の天童さんは、ひたすらスマイルの練習だね」
「ニコニコしながら警戒するって大変そう。私達、マスコットで良かった!」
「「「ね~~!!」」」
ここで覚えるのは仕事だけではなく笑顔もなのだ。多分そこが天童さんにとっては一番難しいポイントだと思う。
「ちなみに、天童さんの先輩である久保田さんは、最初に『胡散臭い顔でニヤニヤするのはやめろ』と言われました」
「えっと、それは誰に?」
「先輩全員に。ちなみに私も言いました」
「前途多難だ……」
ため息をつきながらお肉を口に放り込んでいる。
「心配ないよ。天童さんには笑顔マイスターの一関さんがついてるから」
「笑顔マイスター?」
天童さんが私を見た。
「私、マイスターらしいんですよ、笑顔の。あまり意識したことないんですけどね」
「参考にさせてもらいます」
「はい。素敵な笑顔だって言われるように頑張りましょう!」
「やっぱり前途多難すぎる……」
憂鬱そうにつぶやく。
「大丈夫ですよ。久保田さんも矢島さんもなんとかなってるし!」
「そうそう、なんとかなるって。もしなんとかならなかったら、そうだなあ、顔を隠す仕事をすれば問題ないんじゃないかな? つまり僕らの仲間になる?ってことなんだけど」
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