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第一部 新しいニンゲンがやってきた!
第七話 マスコット達もやってきた
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「海賊団もやる気満々だったし、天童さんも売られたケンカを買う気満々でニヤニヤしてるし、どうしようかと思ったよ~~」
「それは大変だったね~~、おつかれさま~~」
女の子マスコット達が私の頭をよしよしとなでた。
「ニヤニヤってひどいな」
そんな私の言葉に、天童さんが不満げな声をあげる。
「だってそうじゃないですか。海賊団にケンカ売られてる時、ニヤニヤしてましたよね?」
「え? いやあれは、一関さんが笑顔でいるようにと言ったからで」
「……え?」
「相手は海賊だけど可能な限り友好的な雰囲気にしようと、がんばって愛想よくしていたんですが」
つまり、あれは本人的には「ニヤニヤ」ではなく「ニコニコ」だったのか。
「え? なにか間違っていましたか?」
「いえ、心がけは大切です。うん、人には得手不得手がありますからね、ええ」
これはなかなか前途多難な予感がする。まさかそこから指導しなくてはならないとは。
「ところでこれが新しいニンゲン?」
リーダーの一の子分を自認するマスコットが、天童さんの顔をのぞこきんだ。いきなりのことに天童さんはギョッとなる。
「初めて見るニンゲンだね~~」
「どれどれ~~? あ~~ほんとだ、初めて見るニンゲン~~」
マスコット達が天童さんを取り囲んだ。
「君、海賊よりお城の衛兵が似合ってると思うよ~~?」
「え、いや自分は警備部のスタッフとして採用されたので、衛兵はちょっと」
「お城の警備員はイヤ?」
「そういうわけではなく」
「気持ちはわかるかな、あそこの女王様こわいからね!」
「すぐにお仕置きお仕置き!って言うんだよ!」
「……」
じわじわとマスコット達の包囲網がせまくなっていく。こういうのを一難去ってまた一難というのかも。初日の天童さんにとって、これはなかなかの試練だと思う。
「あの、海賊から助けてもらったことは感謝しますけど、私達、パーク内のパトロール中なんでそろそろ」
マスコット達の好奇心から解放してもらえませんかね?とリーダー格のマスコットに視線を向けた。
「じゃあ、お昼は皆で仲良くなるためにランチを一緒に食べよう! 今日のメニュー知ってる人~~!」
その問いかけに全員が「ハイハイ!」と手をあげてジャンプする。一番最初に手を上げたマスコットが、リーダー格のマスコットに指名された。
「はい、君が一番!」
「今日はカリブ風ペッパーポットシチュ~~! あとプラタノフリート~~!」
「せいかーい!」
マスコット達が歓声をあげる。
「プラタノフリートとは?」
「バナナのフライです。主食として食べられているメニューらしいですけど、うちではデザートになることが多いですね」
ちなみにここのスタッフの毎日の食事は、パーク内のレストランから提供されていた。海賊風だったりウェスタン風だったり、その日によってさまざまだ。たまに派手な色をした魔女料理が出たりすることもあるけれど、だいたいのところはスタッフに好評だった。
「ということで、またお昼のランチで! じゃあ、海賊には気をつけてパトロールしてね、新しいニンゲン!」
リーダー格のマスコットがそう言うと、その場にいた全マスコットが天童さんに敬礼をする。そしてワイワイとにぎやかなおしゃべりをしながら、もと来た道を引き返していった。
「あの」
「なんでしょう?」
天童さんが遠慮がちに質問をする。
「これって日常なんですか? つまり、海賊にケンカを売られたりマスコット達に囲まれたり」
「いえいえまさか。私も初めてです」
私が採用されて研修を始めた時には一度もなかった。それもあって、大変なハプニングではあったけど、ちょっと天童さんがうらやましいというのが本音でもある。
「今日は特別だと思いますよ? 新しい人が来たということで興味津々だったんですよ、どちらも」
「こんなことをして叱られないんですか?」
「少なくとも私達は押しかけられた立場ですし、問題はないと思います」
そこは「多分」としか言いようがないけれど。
「それと、ニンゲンて呼び方は普通なんですか?」
「私に聞かないでください。なにせ初めてのことなので」
「あと昼飯がどうのこうのってのは」
とにかく情報量が多すぎて、天童さんも理解するのに苦労しているようだ。
「あれは本気です。お誘いを断ったらきっと大変なことになるので、招待はちゃんと受けてください」
「まさかあのままの格好で食べるわけじゃないですよね?」
「ちゃんと中の人が出てきて食べますから大丈夫です、多分」
「多分……」
「だから初めてのことなので」
そうとしか答えようがなかった。
「さあ、気持ちを切り替えて! パトロールの続きですよ! 行きましょう!」
「はい」
そう返事をした天童さんだったけど、やっぱり魂が半分ほど抜けかけているようだ。
「こんなことは今日だけだと思います。明日からはちゃんと仕事に集中できますよ。多分ですけど」
「多分……」
「あ、でも天童さん」
「はい?」
「特殊警棒を出さなかったのは正解だったと思います。よく抜かずに我慢しましたね、えらいえらい!」
「それはありがとうございます」
そう言って脱力気味の笑い声をあげる。
「あと一分マスコット達が来るのが遅かったら、警棒を抜いていたと思いますよ、わりとマジで」
「マスコットさん達には感謝ですね」
「まったくです」
もしかしたらあの絶妙なタイミング、船長とマスコットリーダーが、こっそり打ち合わせしていたのかもしれない。
「じゃあまずは、アトラクションエリアからのパトロールを始めますね。今日は平日で平和だと思いますけど、土日祝日や長いお休みの時は老若男女とわず殺気立つ人が多いので、私達にとっては要注意の場所です」
そう言って、乗り物に乗るために並んでいる人達の列をさす。今日は平日の月曜日、パーク的には一番お客さんが少ない日だ。それでも並んでいる人がいるのだから本当に驚き。それは天童さんも同じように感じたらしい。
「どういう人達なんですかね、平日の朝から来ている人達って」
「そりゃまあ月曜日定休の業界もありますし、世の中には『有給休暇』ってのがありますからね。あと『ずる休み』なんてのも」
「あー……」
「なるほど」という顔をした。
「来るために使った口実はともかく、私達にとっては大切なお客様なので」
「ま、そこまでして来てくれるというのは、ありがたいことなんですかね」
「そういうことです」
うなづきながら次の場所へと案内する。
「そして殺気立つ場所として最大限に注意が必要なのが、パレードが通る沿道ですね。パレード見物の場所取りは熾烈の一言に尽きますし、お客さんの殺気立ち具合も段違いですから」
「そんなに?」
「はい、そんなに、です。とにかくすごいので」
これは口で説明するより、その時を見てもらうしかない。歩きながら天童さんは周囲を見回している。
「思うんですが、パレードを待つためにとどまる場所にしては、屋根的なものがほとんどないんですね。日影がないと夏場は大変そうだ」
そして気になる点を口にした。
「パレードを見るのに邪魔にならないよう、コースになる場所は可能な限り遮蔽物がない作りになってるんですよ。街路樹がないのもそのせいなんです」
「なるほど。こういう場所で気分が悪くなった人の対処はどうしているんですか? 夏場はそういう人が増えると思うんですが」
天童さんが言う通り、夏場は特に日影の少ないパーク内では気分が悪くなる人が多い。そういう人達をいち早く見つけて、声をかけるのも私達の仕事だった。
「もちろん私達が声かけをします。私達だけでなく清掃スタッフや他のスタッフも、そういう人を見つけたらすぐに、本部の医療センターに連絡をいれることになっています」
実はそういう人を少しでも早く発見して対処するために、パーク内を歩き回っている海賊団やマスコット達の中ににも、こっそり無線機を持つ担当がいたりするのだ。
「もちろん、自分の判断で医療センターにエスコートすることも可能です。ただ、体調が悪いのに医務センターに行くことを拒む人もいるので」
「あー……せっかく良い場所をとったのにってやつですね」
「ですです。私達が無理やり引きずっていくわけにもいかないので、そういう時は本部に連絡を入れてください。医師か看護師の資格を持ったスタッフが駆けつけて、問答無用でお客さんをお運びしちゃうので」
私がそう言うと、天童さんは少しだけ気の毒そうに笑った。きっと無理やり連行されるお客さんを想像しているのだろう。だけど体調が悪いのに放置しておくわけにはいかない。それは本人のためでもあるし、他のお客さんのため、そしてパーク全体のためでもあるのだ。
「運ばれたお客さんにとっては不本意でしょうけど、体調が悪いのに無理してまでとどまる場所じゃないですからね。あ、医療センターもあとで案内しますね。あ、それと天童さん、笑顔を忘れずに。しっかりパトロールしつつも、お客さんにはニッコリ笑顔で」
そう言って私達はパトロールを続けた。
「それは大変だったね~~、おつかれさま~~」
女の子マスコット達が私の頭をよしよしとなでた。
「ニヤニヤってひどいな」
そんな私の言葉に、天童さんが不満げな声をあげる。
「だってそうじゃないですか。海賊団にケンカ売られてる時、ニヤニヤしてましたよね?」
「え? いやあれは、一関さんが笑顔でいるようにと言ったからで」
「……え?」
「相手は海賊だけど可能な限り友好的な雰囲気にしようと、がんばって愛想よくしていたんですが」
つまり、あれは本人的には「ニヤニヤ」ではなく「ニコニコ」だったのか。
「え? なにか間違っていましたか?」
「いえ、心がけは大切です。うん、人には得手不得手がありますからね、ええ」
これはなかなか前途多難な予感がする。まさかそこから指導しなくてはならないとは。
「ところでこれが新しいニンゲン?」
リーダーの一の子分を自認するマスコットが、天童さんの顔をのぞこきんだ。いきなりのことに天童さんはギョッとなる。
「初めて見るニンゲンだね~~」
「どれどれ~~? あ~~ほんとだ、初めて見るニンゲン~~」
マスコット達が天童さんを取り囲んだ。
「君、海賊よりお城の衛兵が似合ってると思うよ~~?」
「え、いや自分は警備部のスタッフとして採用されたので、衛兵はちょっと」
「お城の警備員はイヤ?」
「そういうわけではなく」
「気持ちはわかるかな、あそこの女王様こわいからね!」
「すぐにお仕置きお仕置き!って言うんだよ!」
「……」
じわじわとマスコット達の包囲網がせまくなっていく。こういうのを一難去ってまた一難というのかも。初日の天童さんにとって、これはなかなかの試練だと思う。
「あの、海賊から助けてもらったことは感謝しますけど、私達、パーク内のパトロール中なんでそろそろ」
マスコット達の好奇心から解放してもらえませんかね?とリーダー格のマスコットに視線を向けた。
「じゃあ、お昼は皆で仲良くなるためにランチを一緒に食べよう! 今日のメニュー知ってる人~~!」
その問いかけに全員が「ハイハイ!」と手をあげてジャンプする。一番最初に手を上げたマスコットが、リーダー格のマスコットに指名された。
「はい、君が一番!」
「今日はカリブ風ペッパーポットシチュ~~! あとプラタノフリート~~!」
「せいかーい!」
マスコット達が歓声をあげる。
「プラタノフリートとは?」
「バナナのフライです。主食として食べられているメニューらしいですけど、うちではデザートになることが多いですね」
ちなみにここのスタッフの毎日の食事は、パーク内のレストランから提供されていた。海賊風だったりウェスタン風だったり、その日によってさまざまだ。たまに派手な色をした魔女料理が出たりすることもあるけれど、だいたいのところはスタッフに好評だった。
「ということで、またお昼のランチで! じゃあ、海賊には気をつけてパトロールしてね、新しいニンゲン!」
リーダー格のマスコットがそう言うと、その場にいた全マスコットが天童さんに敬礼をする。そしてワイワイとにぎやかなおしゃべりをしながら、もと来た道を引き返していった。
「あの」
「なんでしょう?」
天童さんが遠慮がちに質問をする。
「これって日常なんですか? つまり、海賊にケンカを売られたりマスコット達に囲まれたり」
「いえいえまさか。私も初めてです」
私が採用されて研修を始めた時には一度もなかった。それもあって、大変なハプニングではあったけど、ちょっと天童さんがうらやましいというのが本音でもある。
「今日は特別だと思いますよ? 新しい人が来たということで興味津々だったんですよ、どちらも」
「こんなことをして叱られないんですか?」
「少なくとも私達は押しかけられた立場ですし、問題はないと思います」
そこは「多分」としか言いようがないけれど。
「それと、ニンゲンて呼び方は普通なんですか?」
「私に聞かないでください。なにせ初めてのことなので」
「あと昼飯がどうのこうのってのは」
とにかく情報量が多すぎて、天童さんも理解するのに苦労しているようだ。
「あれは本気です。お誘いを断ったらきっと大変なことになるので、招待はちゃんと受けてください」
「まさかあのままの格好で食べるわけじゃないですよね?」
「ちゃんと中の人が出てきて食べますから大丈夫です、多分」
「多分……」
「だから初めてのことなので」
そうとしか答えようがなかった。
「さあ、気持ちを切り替えて! パトロールの続きですよ! 行きましょう!」
「はい」
そう返事をした天童さんだったけど、やっぱり魂が半分ほど抜けかけているようだ。
「こんなことは今日だけだと思います。明日からはちゃんと仕事に集中できますよ。多分ですけど」
「多分……」
「あ、でも天童さん」
「はい?」
「特殊警棒を出さなかったのは正解だったと思います。よく抜かずに我慢しましたね、えらいえらい!」
「それはありがとうございます」
そう言って脱力気味の笑い声をあげる。
「あと一分マスコット達が来るのが遅かったら、警棒を抜いていたと思いますよ、わりとマジで」
「マスコットさん達には感謝ですね」
「まったくです」
もしかしたらあの絶妙なタイミング、船長とマスコットリーダーが、こっそり打ち合わせしていたのかもしれない。
「じゃあまずは、アトラクションエリアからのパトロールを始めますね。今日は平日で平和だと思いますけど、土日祝日や長いお休みの時は老若男女とわず殺気立つ人が多いので、私達にとっては要注意の場所です」
そう言って、乗り物に乗るために並んでいる人達の列をさす。今日は平日の月曜日、パーク的には一番お客さんが少ない日だ。それでも並んでいる人がいるのだから本当に驚き。それは天童さんも同じように感じたらしい。
「どういう人達なんですかね、平日の朝から来ている人達って」
「そりゃまあ月曜日定休の業界もありますし、世の中には『有給休暇』ってのがありますからね。あと『ずる休み』なんてのも」
「あー……」
「なるほど」という顔をした。
「来るために使った口実はともかく、私達にとっては大切なお客様なので」
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「そういうことです」
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「そんなに?」
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「なるほど。こういう場所で気分が悪くなった人の対処はどうしているんですか? 夏場はそういう人が増えると思うんですが」
天童さんが言う通り、夏場は特に日影の少ないパーク内では気分が悪くなる人が多い。そういう人達をいち早く見つけて、声をかけるのも私達の仕事だった。
「もちろん私達が声かけをします。私達だけでなく清掃スタッフや他のスタッフも、そういう人を見つけたらすぐに、本部の医療センターに連絡をいれることになっています」
実はそういう人を少しでも早く発見して対処するために、パーク内を歩き回っている海賊団やマスコット達の中ににも、こっそり無線機を持つ担当がいたりするのだ。
「もちろん、自分の判断で医療センターにエスコートすることも可能です。ただ、体調が悪いのに医務センターに行くことを拒む人もいるので」
「あー……せっかく良い場所をとったのにってやつですね」
「ですです。私達が無理やり引きずっていくわけにもいかないので、そういう時は本部に連絡を入れてください。医師か看護師の資格を持ったスタッフが駆けつけて、問答無用でお客さんをお運びしちゃうので」
私がそう言うと、天童さんは少しだけ気の毒そうに笑った。きっと無理やり連行されるお客さんを想像しているのだろう。だけど体調が悪いのに放置しておくわけにはいかない。それは本人のためでもあるし、他のお客さんのため、そしてパーク全体のためでもあるのだ。
「運ばれたお客さんにとっては不本意でしょうけど、体調が悪いのに無理してまでとどまる場所じゃないですからね。あ、医療センターもあとで案内しますね。あ、それと天童さん、笑顔を忘れずに。しっかりパトロールしつつも、お客さんにはニッコリ笑顔で」
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