6 / 40
本編
第五話 芽衣さん、事故or事件です
しおりを挟む
「芽衣ちゃん、こんなにカボチャを仕入れてどうするつもりなの?」
お店の裏口に置かれた段ボール箱を見下ろしながらお母さんが困惑している。段ボール箱に入っているのは山盛りの黄色い大きなカボチャ。
「去年と同じで店先に飾るハロウィンのランタンにする予定」
「にしては多くない? さすがにこれだけは並ばないわよ、うちの店先」
「ああ、うちの学校でね、ハロウィンの仮装パーティをすることになってその会場に飾るものなの。心配しないで、ちゃんと実行委員会がお金を出して買うってことで仕入れたものだから」
だからお店のディスプレイで使うのはせいぜい二個か三個。あとは学校行きのカボチャ君達だ。
「駅ビルのカルチャー教室の部屋を借りてね、そこで皆でランタン作りをするんだって」
本当は近くの養護施設でランタン作り体験って話にもなったんだけど何せランタンをくり貫くのには刃物を使わなくてはならないから、小さい子達にはちょっと危険かなってことでそれは取り止めになったんだ。その代わり仮装パーティには御招待したので、今頃はそっちの担当の子は衣装作りやお菓子作りで大忙しな筈。
「ねえ、うちのカボチャをくり貫くのに店の奥を使っても良い? 家でやると台所が大変なことになっちゃうし」
お店の中は水はけの良いたたきになっているから種や削りカスが散らばっても掃除が楽だし。
「いいわよ。そのかわり店番の方もしっかりやってね」
「分かってる」
そうこうしているうちの実行委員会の役員の子達がやって来た。カボチャ入りの段ボール箱はちょっと持ち上げるには重たすぎるので、役員をしているノンちゃんが運搬要員として山手の大学でアメフトしてる彼氏君を連れて来ていた。彼氏君はお前らもせめて一個ずつ持てとか言ってカボチャを一個ずつ押し付けている。さすがにそれを一人で運ぶのはアメフト部でも大変だったか。
「大丈夫? 置く場所もあるからうちは預かる分には構わないけど」
「いやいや、何度も来るより一気に運んだ方が良いから」
そう言うとアメフト彼氏君は一緒に来ていた委員会の子達を仕切ってカボチャを運び出した。なんだか仕切り慣れてるねえ……。
「なんだか指示し慣れてるね、ノンちゃんの彼氏」
「アメフトのキャプテンだからね。有無を言わさずに皆を従わせるのが上手みたい」
そう言って笑ったのは彼氏君を連れてきたノンちゃん。俺の言うことに従わないのはお前ぐらいだって言われてるよとか。もしかしてそれって惚気ですかー、ご馳走様!! そこへ自転車を押しながらパトロールから真田さんが戻ってきた。目の前で行われているカボチャ運搬レースをちょっと興味深げな顔をして見ている。
「こんにちは芽衣さん。凄い量だね、手伝った方が良いかな?」
「こんにちは~。大丈夫ですよ、あとちょっとだし」
そう言えば真田さんとまともに話すのってファミレスで見かけて以来かも。あの女の人とはどうなったんだろう。
「このカボチャは一体?」
「学校でハロウィンの仮装パーティをするので、ランタン作ってその時に飾るんですよ。これだけの量を買い集めるのは大変だから、うちが伝手を頼って仕入れたんです」
「ここの学生さん達が制作を?」
「はい。何せ皆、創作系は得意なので」
「なるほど」
そうこうしているうちに山積みだったカボチャ君達の運搬は無事に終わった。お支払いを済ませると暫くはカボチャ三昧ねーと言いながら皆はカルチャー教室のある駅ビルへと戻っていった。さて、私もお店のカボチャランタンを頑張って作らなきゃ!
しばらく店の奥でカボチャをくり貫く作業に没頭していると、来客を告げるチャイムが鳴ったので顔を上げる。店の入口にお客さん。お店の中にあるお花を見ている。エプロンに飛び散っていたカボチャの種を掃うとお客さんの元へと急いだ。
「いらっしゃいませ~」
「このオレンジ色のバラとトルコキキョウで花束をお願いできますか?」
「分かりました。ラッピングに使うリボン、ここから選んでもらえますか? どれを選んでもらってもお値段は変わりませんから」
「あら、そうなの? だったらこの可愛らしいのが良いかな。姪っ子のお見舞いなの」
そのお客さんの姪っ子さんは山手にある大学附属病院に入院しているらしい。お花が好きな子なのでお見舞いに可愛いお花をってことなんだって。あそこの病院は病室も綺麗だし明るい感じのする病院だけど、やっぱりお花とか飾った方が気持ちも明るくなるよね。
「あ、足りるかな……」
そのお客さんが指定した可愛い柄のリボンは結構な人気でよく出るもの。普段なら残りが少なくなってきたら買いに行くものなんだけどすっかり忘れてた、買いに行かなくちゃ。お客さんを送り出してからラッピング用のリボンと包装紙の在庫を確認すると、案の定、頻繁に出る包装紙が底を突きかけていた。
「あれ、こっちの包装紙も少なくなってる……お母さーん」
「なあに?」
「ラッピング用の包装紙とリボン、少なくなってるのがあるから買ってくる」
「あ、ごめん。買いに行くのすっかり忘れてた!」
慌てた様子でお母さんが奥から顔を出した。
「やっぱりー。あと三枚ぐらいしかないから今から買ってくる。店番の交代ね」
「ごめんごめん」
薄紙とかそういう大量に使うものは取り寄せで届けてもらうんだけど、たまに使う贈答用の包装紙とかリボンは近くの駅ビルに贈答用品を取り扱っているお店がテナントとして入っているのでそこで購入している。最初は何となく季節のお花の色に合うものをって軽い気持ちで少しだけ買っていたのが意外とお客さんに好評だったので、今では何気にリボンもラッピング用の包装紙も種類が増えていた。買い出しするのがちょっと大変ではあるけど、お客さんが喜んでくれるんだから良いよね。それに私も可愛い包装紙やリボンを見るのは楽しいし。
お財布を片手に駅ビルのお店へと向かう。ほんと、ここに来ると可愛いリボンとかたくさんあって見ているだけでも幸せな気分になるんだよね。使いもしない箱とかついつい欲しくなっちゃって困るよ。
「あ、フラワーボックスとか取り扱ったら需要、あるかな……」
あまりアレコレと手を広げると収拾がつかなくなるから止めておいた方が良いかな。そのうちお母さんに話してみよう。目移りしちゃう気持ちを抑えて在庫で少なくなっていた包装紙とリボンだけを購入すると、それを抱えてお店を出た。リボンはともかく、この包装紙っていうのはちょっと厄介なのよね。折り畳むわけにもいかないから筒状に丸めて貰っているけどかさ張るし何だかちょっとした丸太を運んでいる気分。本当にお店が近くて良かった。
これを買った時はエレベーターやエスカレーターを利用すると他のお客さんの顔を突きそうで怖いからいつも階段を利用するので、今日もいつもと同じでお店から出てすぐのところにある階段を降り始めた。
+++++
と、私が今日の出来事で覚えているのはここまで。次に目を開けたら何故か見たことのない白い天井。何だか普段とは違う寝心地のベッドだしいつものハーブの香りのがする自分の部屋じゃないし、もしかして今までの出来事は全てリアルな夢だったのかな?って思ったぐらい。
「あれ?」
「芽衣ちゃん! 気がついた?」
お母さんの声がして視界に心配そうなお母さんの顔。ああ良かった、夢を見ていたんじゃなくて寝ていただけなんだ私……なんて呑気なことを考えてしまってからアレ?となる。夢じゃないとしたら私、駅ビルに包装紙とリボンを買いに行った筈なんだけどどうしてこんな風に寝ているんだろ? それに、ここ何処?
「お母さん? ここ、何処?」
「覚えてないの? 駅ビルの階段から転げ落ちたらしくて意識がなかったのよ、芽衣ちゃん」
「え、そうなの?」
言われてみれば何だか体のあちこちが痛い。しかも何だかおでこの辺りが一番痛いような気がする。手で触れてみると包帯が巻かれていた。
「あ、痛いかも」
「そりゃそうよ。思いっ切り階段の角にぶつけて切れちゃってたらしいから」
「うわあ、スプラッター……」
「そんな呑気なこと言って。看護師さん呼んでくるからジッとしてなさいね」
お母さんが立ち上がって病室を出ていった。
「そっか、ここは病院なのかあ……」
窓の方を見ると既に夜だ。私、どれぐらいの間、寝てたのかな。
暫くしてお母さんが先生と看護師さんと一緒に戻ってきた。先生は看護師さんに起こしてもらった私の目をペンライトで覗き込んだりあれやこれやとしてから吐き気は?とか眩暈は?とか質問してきた。私てきにはあっちこっちが痛いぐらいで何ともないから、作りかけのカボチャのこともあるから早く帰りたいんだけどなあ……。
「CTでは異常は見られませんでしたが今日一日は念の為に入院してください。何事も無ければ明日には退院してもらえますよ」
「えー……」
「えーじゃないでしょ、芽衣ちゃん」
私の超不本意そうな声に先生はこんな元気な怪我人さんも珍しいですねと笑った。運び込まれた時は顔が血塗れだし意識ないしで大変だったのに、起きた途端に元気一杯な私にちょっと驚きを通り越して呆れているっぽい。
「まあ今夜だけの辛抱ですよ」
先生と看護師さんは傷の具合を確認して今日は安静にねと念押しして病室を出ていった。お母さんはホッと一息ついてベッドの横の椅子に座り込む。
「病院から連絡があった時はもう心臓が止まるかと思ったわよ、芽衣ちゃん」
「ごめん。まさか階段を踏み外して落ちるなんて思ってなかった」
「……本当に踏み外したの?」
「どういうこと?」
その言い方に引っ掛かりを感じてお母さんの方に目を向ける。
「まあ芽衣ちゃんが無事だったんだから、その話はまた改めてってことしましょう」
「ねえ……」
「なに?」
「……お腹空いた」
私の言葉とタイミングよく派手になったお腹の虫の音にお母さんはプッと噴き出した。
「分かった分かった。何か買ってきてあげるから大人しくしてなさいね」
おでこは痛いけれどお腹が空くぐらいだから大したことないんだよねと、買い出しに出かけたお母さんの帰りを待ちながら勝手に納得する。怪我したのがおでこだけで良かったよ、下手に手首とか痛めたり折ったりしたら次の課題の水彩画が描けなくなるところだったもの……と帰ってきたお母さんに言ったら芽衣ちゃんは本当に呑気すぎって呆れられてしまったけど。
お店の裏口に置かれた段ボール箱を見下ろしながらお母さんが困惑している。段ボール箱に入っているのは山盛りの黄色い大きなカボチャ。
「去年と同じで店先に飾るハロウィンのランタンにする予定」
「にしては多くない? さすがにこれだけは並ばないわよ、うちの店先」
「ああ、うちの学校でね、ハロウィンの仮装パーティをすることになってその会場に飾るものなの。心配しないで、ちゃんと実行委員会がお金を出して買うってことで仕入れたものだから」
だからお店のディスプレイで使うのはせいぜい二個か三個。あとは学校行きのカボチャ君達だ。
「駅ビルのカルチャー教室の部屋を借りてね、そこで皆でランタン作りをするんだって」
本当は近くの養護施設でランタン作り体験って話にもなったんだけど何せランタンをくり貫くのには刃物を使わなくてはならないから、小さい子達にはちょっと危険かなってことでそれは取り止めになったんだ。その代わり仮装パーティには御招待したので、今頃はそっちの担当の子は衣装作りやお菓子作りで大忙しな筈。
「ねえ、うちのカボチャをくり貫くのに店の奥を使っても良い? 家でやると台所が大変なことになっちゃうし」
お店の中は水はけの良いたたきになっているから種や削りカスが散らばっても掃除が楽だし。
「いいわよ。そのかわり店番の方もしっかりやってね」
「分かってる」
そうこうしているうちの実行委員会の役員の子達がやって来た。カボチャ入りの段ボール箱はちょっと持ち上げるには重たすぎるので、役員をしているノンちゃんが運搬要員として山手の大学でアメフトしてる彼氏君を連れて来ていた。彼氏君はお前らもせめて一個ずつ持てとか言ってカボチャを一個ずつ押し付けている。さすがにそれを一人で運ぶのはアメフト部でも大変だったか。
「大丈夫? 置く場所もあるからうちは預かる分には構わないけど」
「いやいや、何度も来るより一気に運んだ方が良いから」
そう言うとアメフト彼氏君は一緒に来ていた委員会の子達を仕切ってカボチャを運び出した。なんだか仕切り慣れてるねえ……。
「なんだか指示し慣れてるね、ノンちゃんの彼氏」
「アメフトのキャプテンだからね。有無を言わさずに皆を従わせるのが上手みたい」
そう言って笑ったのは彼氏君を連れてきたノンちゃん。俺の言うことに従わないのはお前ぐらいだって言われてるよとか。もしかしてそれって惚気ですかー、ご馳走様!! そこへ自転車を押しながらパトロールから真田さんが戻ってきた。目の前で行われているカボチャ運搬レースをちょっと興味深げな顔をして見ている。
「こんにちは芽衣さん。凄い量だね、手伝った方が良いかな?」
「こんにちは~。大丈夫ですよ、あとちょっとだし」
そう言えば真田さんとまともに話すのってファミレスで見かけて以来かも。あの女の人とはどうなったんだろう。
「このカボチャは一体?」
「学校でハロウィンの仮装パーティをするので、ランタン作ってその時に飾るんですよ。これだけの量を買い集めるのは大変だから、うちが伝手を頼って仕入れたんです」
「ここの学生さん達が制作を?」
「はい。何せ皆、創作系は得意なので」
「なるほど」
そうこうしているうちに山積みだったカボチャ君達の運搬は無事に終わった。お支払いを済ませると暫くはカボチャ三昧ねーと言いながら皆はカルチャー教室のある駅ビルへと戻っていった。さて、私もお店のカボチャランタンを頑張って作らなきゃ!
しばらく店の奥でカボチャをくり貫く作業に没頭していると、来客を告げるチャイムが鳴ったので顔を上げる。店の入口にお客さん。お店の中にあるお花を見ている。エプロンに飛び散っていたカボチャの種を掃うとお客さんの元へと急いだ。
「いらっしゃいませ~」
「このオレンジ色のバラとトルコキキョウで花束をお願いできますか?」
「分かりました。ラッピングに使うリボン、ここから選んでもらえますか? どれを選んでもらってもお値段は変わりませんから」
「あら、そうなの? だったらこの可愛らしいのが良いかな。姪っ子のお見舞いなの」
そのお客さんの姪っ子さんは山手にある大学附属病院に入院しているらしい。お花が好きな子なのでお見舞いに可愛いお花をってことなんだって。あそこの病院は病室も綺麗だし明るい感じのする病院だけど、やっぱりお花とか飾った方が気持ちも明るくなるよね。
「あ、足りるかな……」
そのお客さんが指定した可愛い柄のリボンは結構な人気でよく出るもの。普段なら残りが少なくなってきたら買いに行くものなんだけどすっかり忘れてた、買いに行かなくちゃ。お客さんを送り出してからラッピング用のリボンと包装紙の在庫を確認すると、案の定、頻繁に出る包装紙が底を突きかけていた。
「あれ、こっちの包装紙も少なくなってる……お母さーん」
「なあに?」
「ラッピング用の包装紙とリボン、少なくなってるのがあるから買ってくる」
「あ、ごめん。買いに行くのすっかり忘れてた!」
慌てた様子でお母さんが奥から顔を出した。
「やっぱりー。あと三枚ぐらいしかないから今から買ってくる。店番の交代ね」
「ごめんごめん」
薄紙とかそういう大量に使うものは取り寄せで届けてもらうんだけど、たまに使う贈答用の包装紙とかリボンは近くの駅ビルに贈答用品を取り扱っているお店がテナントとして入っているのでそこで購入している。最初は何となく季節のお花の色に合うものをって軽い気持ちで少しだけ買っていたのが意外とお客さんに好評だったので、今では何気にリボンもラッピング用の包装紙も種類が増えていた。買い出しするのがちょっと大変ではあるけど、お客さんが喜んでくれるんだから良いよね。それに私も可愛い包装紙やリボンを見るのは楽しいし。
お財布を片手に駅ビルのお店へと向かう。ほんと、ここに来ると可愛いリボンとかたくさんあって見ているだけでも幸せな気分になるんだよね。使いもしない箱とかついつい欲しくなっちゃって困るよ。
「あ、フラワーボックスとか取り扱ったら需要、あるかな……」
あまりアレコレと手を広げると収拾がつかなくなるから止めておいた方が良いかな。そのうちお母さんに話してみよう。目移りしちゃう気持ちを抑えて在庫で少なくなっていた包装紙とリボンだけを購入すると、それを抱えてお店を出た。リボンはともかく、この包装紙っていうのはちょっと厄介なのよね。折り畳むわけにもいかないから筒状に丸めて貰っているけどかさ張るし何だかちょっとした丸太を運んでいる気分。本当にお店が近くて良かった。
これを買った時はエレベーターやエスカレーターを利用すると他のお客さんの顔を突きそうで怖いからいつも階段を利用するので、今日もいつもと同じでお店から出てすぐのところにある階段を降り始めた。
+++++
と、私が今日の出来事で覚えているのはここまで。次に目を開けたら何故か見たことのない白い天井。何だか普段とは違う寝心地のベッドだしいつものハーブの香りのがする自分の部屋じゃないし、もしかして今までの出来事は全てリアルな夢だったのかな?って思ったぐらい。
「あれ?」
「芽衣ちゃん! 気がついた?」
お母さんの声がして視界に心配そうなお母さんの顔。ああ良かった、夢を見ていたんじゃなくて寝ていただけなんだ私……なんて呑気なことを考えてしまってからアレ?となる。夢じゃないとしたら私、駅ビルに包装紙とリボンを買いに行った筈なんだけどどうしてこんな風に寝ているんだろ? それに、ここ何処?
「お母さん? ここ、何処?」
「覚えてないの? 駅ビルの階段から転げ落ちたらしくて意識がなかったのよ、芽衣ちゃん」
「え、そうなの?」
言われてみれば何だか体のあちこちが痛い。しかも何だかおでこの辺りが一番痛いような気がする。手で触れてみると包帯が巻かれていた。
「あ、痛いかも」
「そりゃそうよ。思いっ切り階段の角にぶつけて切れちゃってたらしいから」
「うわあ、スプラッター……」
「そんな呑気なこと言って。看護師さん呼んでくるからジッとしてなさいね」
お母さんが立ち上がって病室を出ていった。
「そっか、ここは病院なのかあ……」
窓の方を見ると既に夜だ。私、どれぐらいの間、寝てたのかな。
暫くしてお母さんが先生と看護師さんと一緒に戻ってきた。先生は看護師さんに起こしてもらった私の目をペンライトで覗き込んだりあれやこれやとしてから吐き気は?とか眩暈は?とか質問してきた。私てきにはあっちこっちが痛いぐらいで何ともないから、作りかけのカボチャのこともあるから早く帰りたいんだけどなあ……。
「CTでは異常は見られませんでしたが今日一日は念の為に入院してください。何事も無ければ明日には退院してもらえますよ」
「えー……」
「えーじゃないでしょ、芽衣ちゃん」
私の超不本意そうな声に先生はこんな元気な怪我人さんも珍しいですねと笑った。運び込まれた時は顔が血塗れだし意識ないしで大変だったのに、起きた途端に元気一杯な私にちょっと驚きを通り越して呆れているっぽい。
「まあ今夜だけの辛抱ですよ」
先生と看護師さんは傷の具合を確認して今日は安静にねと念押しして病室を出ていった。お母さんはホッと一息ついてベッドの横の椅子に座り込む。
「病院から連絡があった時はもう心臓が止まるかと思ったわよ、芽衣ちゃん」
「ごめん。まさか階段を踏み外して落ちるなんて思ってなかった」
「……本当に踏み外したの?」
「どういうこと?」
その言い方に引っ掛かりを感じてお母さんの方に目を向ける。
「まあ芽衣ちゃんが無事だったんだから、その話はまた改めてってことしましょう」
「ねえ……」
「なに?」
「……お腹空いた」
私の言葉とタイミングよく派手になったお腹の虫の音にお母さんはプッと噴き出した。
「分かった分かった。何か買ってきてあげるから大人しくしてなさいね」
おでこは痛いけれどお腹が空くぐらいだから大したことないんだよねと、買い出しに出かけたお母さんの帰りを待ちながら勝手に納得する。怪我したのがおでこだけで良かったよ、下手に手首とか痛めたり折ったりしたら次の課題の水彩画が描けなくなるところだったもの……と帰ってきたお母さんに言ったら芽衣ちゃんは本当に呑気すぎって呆れられてしまったけど。
11
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は
小学一年生の娘、碧に
キャンプに連れて行ってほしいと
お願いされる。
キャンプなんて、したことないし……
と思いながらもネットで安心快適な
キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。
だが、当日簡単に立てられると思っていた
テントに四苦八苦していた。
そんな時に現れたのが、
元子育て番組の体操のお兄さんであり
全国のキャンプ場を巡り、
筋トレしている動画を撮るのが趣味の
加賀谷大地さん(32)で――。
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※

桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。
饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。
【本編完結】【番外小話】【小ネタ】
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
※小説家になろうでも公開中※
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
こちら京都府警騎馬隊本部~私達が乗るのはお馬さんです
鏡野ゆう
ライト文芸
ここにいるおまわりさん達が乗るのは、パトカーでも白バイでもなくお馬さんです。
京都府警騎馬隊に配属になった新米警察官と新米お馬さんのお話。
※このお話はフィクションです。実在の京都府警察騎馬隊とは何ら関係はございません※
※カクヨム、小説家になろうでも公開中※
猫と幼なじみ
鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。
ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。
※小説家になろうでも公開中※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる