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第十話 御一行様はお帰りです……多分
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「マダムスギバー、長らく世話になりましたが我々は戻ることにします」
トイレのドアの修理が終わって数日後の朝。朝ご飯を食べながら髭モジャは心の底から残念そうに婆ちゃんに言った。
「国にお帰りになるかね。そりゃあ残念だ」
婆ちゃんとしては髭モジャの手下どもに田んぼ仕事をずいぶんと助けてもらっていて今年の田んぼの手入れは楽だったと非常にありがたがっていた。だから婆ちゃんも心の底から残念だと思っている。
手下どもはすでにあっちに帰ってしまっているので今ここにいるのは髭モジャと目つきの悪いお兄さんだけ。
なんでお兄さんは帰らないのかと言えば、ドアが開きっぱなしにしてあっても近衛としては不測の事態やらが起きたら大問題だからってことだった。と表向きはそれらしいことを言っているが、本当のところは髭モジャがいつまでたっても戻ってこない事態にならないようにという牽制を兼ねているに違いない。御苦労なことだよな。まあそれだけ髭モジャが普段からこんな風にあっちこっちに勝手に出掛けて姿を消すからなのかもしれないけどさ。
「私としては最後の刈り入れの時期まで滞在したいのはやまやまなのですが」
「陛下、そろそろ公務に戻ってもらわなければ困ります」
婆ちゃんが是非ともそうしたらエエよなんて言ったらこれ幸いにと髭モジャは刈り入れり時まで残ると言い出すんだろうな。速攻でお兄さんが口をはさんでその可能性を潰しにかかってきた。
「……と言う者がいまして残念ですが」
「そりゃあ、お国の仕事のほうが大事だねえ。心配している人達もたくさんいるだろうし帰っておやり。ま、気が向いたら刈り入れの時期に来たらエエよ」
「そうですね、私の体があけばの話ですが」
「陛下!」
「分かった分かった、なにもそんなに怖い顔をすることもなかろう。これは一種の外交儀礼だ。そのぐらい分かっているだろう?」
いや、その顔からして本気で来れるかどうか考えてるよな、髭モジャ?
「けど残念だよな、せっかく御近所の子供達とも仲良くなったのにさ」
「たしかに。どこの国の子供達も可愛いものだ。彼らに色々と話すのは楽しかったから心残りではある」
夏祭ではそれまで遠巻きにうちの田んぼで働く髭モジャ達を眺めていた近所のチビ達が、わらわらと寄ってきてはあれこれと質問ぜめにしていた。お兄さんからしたら気が気じゃなかったみたいだが、髭モジャは子供好きだったらしくチビ達のとんでもない質問にまで丁寧に答えてくれていた。
「でもさあ、いまさらだけど不思議だよな。なんで髭モジャ達と私達が問題なく会話できるのかとかさ」
本当にいまさらなことなんだ。髭モジャが話す言葉は私や婆ちゃんにはちゃんとした日本語に聞こえているんだが、髭モジャによると自分の国の言葉でしゃべているんだそうだ。そして髭モジャ達には私達があっちの言葉で話しているように聞こえているらしい。なんとも不思議な現象だよな。
「子供達や他の者達との会話も普通にできているのだからこの現象に関しては血筋がどうとかそういう話ではないのだろうな。まったく不思議なことだ」
「そのあたりの事情もあちらとこちらがつながった原因と関係があるのかもしれません。それも調べてみるつもりです」
お兄さんは本当に真面目だ。まあ、本当のところはこっちとあっちがつながること自体をなんとかしたいんだろうけどさ。
「お前は本気で今回のことが我が王家の血によるものだと考えているのか?」
「陛下だけではなく陛下の叔父上でも扉を開けることができたのです。無関係と言うほうがおかしな話だと」
「それと、あの恰好の謎も調べてくれよな、私は血よりもそっちのほうが気になってしかたないんだ」
なんとなく手でそれっぽい仕草をすると髭モジャがイヤ嫌そうな顔をした。婆ちゃんの手前、あれは髭モジャの国の神様に祈りを捧げる舞いだと言うことになっているが本当のところは謎なんだよな。……意外とトイレの神様に対する奉納の舞ってのは当たっているのかもしれないけど。いや、こっちからは開けることができなかったんだからトイレの神様ではなくあっちの鏡の神様か?
「あの鏡か。処分してしまったほうが良いのかもしれんな」
「おい、私の部屋のものを勝手に処分するな」
お兄さんの言葉に髭モジャが顔をしかめた。
「陛下にもしものことがあってからでは遅いのです。厄介な存在は処分するに限ります」
「まったく容赦ないな、お前は」
「これも国の安泰のため為です。しかたがありません」
国のためなんて言われたら王様な髭モジャとしては黙るしかないんだろうな。溜め息をつきながらじっくり調べてから考えようと答えている。王様っていのうも大変だな、マジで。
そして髭モジャは最後の田んぼの見回りをするために外に出た。
「本当に残念だ。せっかくなら刈り入れも自分の手でしたかったのに」
青々とした稲達を眺めながら残念そうに呟いている。
「王様が稲刈りだなんてあのお兄さんが見たら引っ繰り返りそうだな。そんなに稲刈りがしたいんならそっちの南の方の国と仲良くなってさせてもらえば良いじゃないか」
「ああ、そうだった。似たようなことをしている国を探さねば。そこで知識を蓄えれば次に来る時はもう少しマダムの役に立てるかもしれない」
「まだ来ることをあきらめてないのか」
「当たり前だ。こんなに愉快なことをそうそう手放す話は無いだろう」
まったく懲りないヤツだな……。
「苦労するよな、あのお兄さんも」
「そういうことを含めての近衛だからな」
「いや、それは違うと思うぞ?」
一通りの見回りを終えて戻ると、お兄さんが相変わらずの悪人ような顔で髭モジャの服を手に待っていた。
「陛下、そのままの格好では色々と問題です。そろそろお着替えください」
「マダム、このジンベイはここに来た記念にいただいていってもよろしいですか?」
「ああ、エエよ。着ていた息子達もめったに帰ってこないからね。草履も一緒に持っていけばエエじゃろ」
「ではありがたく頂戴して帰ります。着替えはあちらでする」
「しかし」
「もう帰るのだ、少しばかり私の我が儘を通しても問題ないだろう?」
その少しばかりの我が儘が問題なのですとブツブツ言いながらもお兄さんは引き下がった。
「ではマダム、それにアコ、息災で」
「そっちも元気でな。あんまりお兄さんを困らせるなよ?」
「努力するとしよう」
努力かよと突っ込みを入れながら開けっ放しのトイレのドアの前まで婆ちゃんと見送る。お兄さんはまずは髭モジャをあっちの金ぴか部屋に押し出すと、婆ちゃんに頭を下げてから自分もその後に続いた。
「ドアを閉めてから念のために確認はしてくれると助かる」
「分かった」
「では」
お兄さんは軽くうなづくとドアをピシャリと閉めた。
「意外とあっさりした別れだったよな」
髭モジャ達トイレの国の住人とはもう二度と会うことも無いだろうにずいぶんとあっけない別れだった。まあ涙を流しながら手を振るなんてのも変だからこれで良いのかもしれないけど。
「では最後の一手間」
そっとドアを開ける。
「おお、我が家のトイレだよ、婆ちゃん」
「あの金ぴかなトイレともおさらばかい。なんとなく残念だねえ」
「婆ちゃん、あのトイレ、気に入ってたのか」
私があきれて呟くと婆ちゃんはアヒャヒャヒャと愉快そうに笑った。
「なかなか面白い経験だったよ。爺さんにもあのトイレは見せてやりたかったねえ。きっと喜んで写真を撮ったろうに。あと一度ぐらい村のモンにも見せてやりたかったねえ」
「そんなことをしたらあのお兄さんの頭の血管がプッツンしてたと思うよ」
「かもしれないねえ。もうちょっとドーンとかまえておかないと長生きできんよ、あの若いのは」
婆ちゃんがヒャヒャヒャと笑う。
「あのお兄さんの寿命が縮むのは絶対に髭モジャのせいだよな……」
そこは間違いないと思う。
トイレのドアの修理が終わって数日後の朝。朝ご飯を食べながら髭モジャは心の底から残念そうに婆ちゃんに言った。
「国にお帰りになるかね。そりゃあ残念だ」
婆ちゃんとしては髭モジャの手下どもに田んぼ仕事をずいぶんと助けてもらっていて今年の田んぼの手入れは楽だったと非常にありがたがっていた。だから婆ちゃんも心の底から残念だと思っている。
手下どもはすでにあっちに帰ってしまっているので今ここにいるのは髭モジャと目つきの悪いお兄さんだけ。
なんでお兄さんは帰らないのかと言えば、ドアが開きっぱなしにしてあっても近衛としては不測の事態やらが起きたら大問題だからってことだった。と表向きはそれらしいことを言っているが、本当のところは髭モジャがいつまでたっても戻ってこない事態にならないようにという牽制を兼ねているに違いない。御苦労なことだよな。まあそれだけ髭モジャが普段からこんな風にあっちこっちに勝手に出掛けて姿を消すからなのかもしれないけどさ。
「私としては最後の刈り入れの時期まで滞在したいのはやまやまなのですが」
「陛下、そろそろ公務に戻ってもらわなければ困ります」
婆ちゃんが是非ともそうしたらエエよなんて言ったらこれ幸いにと髭モジャは刈り入れり時まで残ると言い出すんだろうな。速攻でお兄さんが口をはさんでその可能性を潰しにかかってきた。
「……と言う者がいまして残念ですが」
「そりゃあ、お国の仕事のほうが大事だねえ。心配している人達もたくさんいるだろうし帰っておやり。ま、気が向いたら刈り入れの時期に来たらエエよ」
「そうですね、私の体があけばの話ですが」
「陛下!」
「分かった分かった、なにもそんなに怖い顔をすることもなかろう。これは一種の外交儀礼だ。そのぐらい分かっているだろう?」
いや、その顔からして本気で来れるかどうか考えてるよな、髭モジャ?
「けど残念だよな、せっかく御近所の子供達とも仲良くなったのにさ」
「たしかに。どこの国の子供達も可愛いものだ。彼らに色々と話すのは楽しかったから心残りではある」
夏祭ではそれまで遠巻きにうちの田んぼで働く髭モジャ達を眺めていた近所のチビ達が、わらわらと寄ってきてはあれこれと質問ぜめにしていた。お兄さんからしたら気が気じゃなかったみたいだが、髭モジャは子供好きだったらしくチビ達のとんでもない質問にまで丁寧に答えてくれていた。
「でもさあ、いまさらだけど不思議だよな。なんで髭モジャ達と私達が問題なく会話できるのかとかさ」
本当にいまさらなことなんだ。髭モジャが話す言葉は私や婆ちゃんにはちゃんとした日本語に聞こえているんだが、髭モジャによると自分の国の言葉でしゃべているんだそうだ。そして髭モジャ達には私達があっちの言葉で話しているように聞こえているらしい。なんとも不思議な現象だよな。
「子供達や他の者達との会話も普通にできているのだからこの現象に関しては血筋がどうとかそういう話ではないのだろうな。まったく不思議なことだ」
「そのあたりの事情もあちらとこちらがつながった原因と関係があるのかもしれません。それも調べてみるつもりです」
お兄さんは本当に真面目だ。まあ、本当のところはこっちとあっちがつながること自体をなんとかしたいんだろうけどさ。
「お前は本気で今回のことが我が王家の血によるものだと考えているのか?」
「陛下だけではなく陛下の叔父上でも扉を開けることができたのです。無関係と言うほうがおかしな話だと」
「それと、あの恰好の謎も調べてくれよな、私は血よりもそっちのほうが気になってしかたないんだ」
なんとなく手でそれっぽい仕草をすると髭モジャがイヤ嫌そうな顔をした。婆ちゃんの手前、あれは髭モジャの国の神様に祈りを捧げる舞いだと言うことになっているが本当のところは謎なんだよな。……意外とトイレの神様に対する奉納の舞ってのは当たっているのかもしれないけど。いや、こっちからは開けることができなかったんだからトイレの神様ではなくあっちの鏡の神様か?
「あの鏡か。処分してしまったほうが良いのかもしれんな」
「おい、私の部屋のものを勝手に処分するな」
お兄さんの言葉に髭モジャが顔をしかめた。
「陛下にもしものことがあってからでは遅いのです。厄介な存在は処分するに限ります」
「まったく容赦ないな、お前は」
「これも国の安泰のため為です。しかたがありません」
国のためなんて言われたら王様な髭モジャとしては黙るしかないんだろうな。溜め息をつきながらじっくり調べてから考えようと答えている。王様っていのうも大変だな、マジで。
そして髭モジャは最後の田んぼの見回りをするために外に出た。
「本当に残念だ。せっかくなら刈り入れも自分の手でしたかったのに」
青々とした稲達を眺めながら残念そうに呟いている。
「王様が稲刈りだなんてあのお兄さんが見たら引っ繰り返りそうだな。そんなに稲刈りがしたいんならそっちの南の方の国と仲良くなってさせてもらえば良いじゃないか」
「ああ、そうだった。似たようなことをしている国を探さねば。そこで知識を蓄えれば次に来る時はもう少しマダムの役に立てるかもしれない」
「まだ来ることをあきらめてないのか」
「当たり前だ。こんなに愉快なことをそうそう手放す話は無いだろう」
まったく懲りないヤツだな……。
「苦労するよな、あのお兄さんも」
「そういうことを含めての近衛だからな」
「いや、それは違うと思うぞ?」
一通りの見回りを終えて戻ると、お兄さんが相変わらずの悪人ような顔で髭モジャの服を手に待っていた。
「陛下、そのままの格好では色々と問題です。そろそろお着替えください」
「マダム、このジンベイはここに来た記念にいただいていってもよろしいですか?」
「ああ、エエよ。着ていた息子達もめったに帰ってこないからね。草履も一緒に持っていけばエエじゃろ」
「ではありがたく頂戴して帰ります。着替えはあちらでする」
「しかし」
「もう帰るのだ、少しばかり私の我が儘を通しても問題ないだろう?」
その少しばかりの我が儘が問題なのですとブツブツ言いながらもお兄さんは引き下がった。
「ではマダム、それにアコ、息災で」
「そっちも元気でな。あんまりお兄さんを困らせるなよ?」
「努力するとしよう」
努力かよと突っ込みを入れながら開けっ放しのトイレのドアの前まで婆ちゃんと見送る。お兄さんはまずは髭モジャをあっちの金ぴか部屋に押し出すと、婆ちゃんに頭を下げてから自分もその後に続いた。
「ドアを閉めてから念のために確認はしてくれると助かる」
「分かった」
「では」
お兄さんは軽くうなづくとドアをピシャリと閉めた。
「意外とあっさりした別れだったよな」
髭モジャ達トイレの国の住人とはもう二度と会うことも無いだろうにずいぶんとあっけない別れだった。まあ涙を流しながら手を振るなんてのも変だからこれで良いのかもしれないけど。
「では最後の一手間」
そっとドアを開ける。
「おお、我が家のトイレだよ、婆ちゃん」
「あの金ぴかなトイレともおさらばかい。なんとなく残念だねえ」
「婆ちゃん、あのトイレ、気に入ってたのか」
私があきれて呟くと婆ちゃんはアヒャヒャヒャと愉快そうに笑った。
「なかなか面白い経験だったよ。爺さんにもあのトイレは見せてやりたかったねえ。きっと喜んで写真を撮ったろうに。あと一度ぐらい村のモンにも見せてやりたかったねえ」
「そんなことをしたらあのお兄さんの頭の血管がプッツンしてたと思うよ」
「かもしれないねえ。もうちょっとドーンとかまえておかないと長生きできんよ、あの若いのは」
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ありがとうございます( ^ ^ ♪
続きの稲刈り編を書けたらよいのですが、なかなか~
ぜひ続きが読みたいです。お婆ちゃんが、トイレの国で活躍する話とか?(*≧∀≦*)
ありがとうございます!
こちらもいつかは続きを~と思いつつ、放置状態になってます。
頑張ります!
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます( ^ ^ ♪
髭モジャさん、収穫期にはなんやかんやで押し掛けてきそうな予感ですよね。
なかなか先の話ができあがらないのですが、いつか続きは書きたいと思います。
そして、なろうでもありがとうございます~♪