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海自の心得、猫の毛とります! 裏話
マタタビさん in 海自の心得、猫の毛とります!
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「……」
目の前には我が家の猫達に囲まれて固まっている男性が一人。今日は私服を着ているけど、いつもは修ちゃんと同じ制服を着ている人だ。
「ごめんねえ。まさかここまでだとは思わなくて」
「いえ、こちらこそすみません。誇張でも何でもなく、本当のマタタビ人間だって言っておくべきでした」
そう言いながらその人、宗谷君は困ったように笑った。そんな宗谷君を囲むようにシイタケとマイタケ、そしてピエールさんが香箱座りになっており、膝にはマリアンヌさんが優雅に座っている。マリアンヌさんが初対面の、しかも男性の膝の上に座るなんて初めてのことなので驚きだ。
「すごいな。もしかして匂いじゃなく、猫をひきつける電波でも出ているんじゃないのか?」
窓の外を見ていた修ちゃんが笑いながら言った。庭先には耳をカットされた地域猫ちゃん達が顔をのぞかせている。普段は柵から顔をのぞかせるだけで近寄ってこないのに、今日は『なにかいるの?』という顔をして軒先にまで来てこっちをのぞきこんでいた。
「今日は千客万来ならぬ千客ニャンライだね」
「そちらもすみません。もし庭にフンでもしていくなら、自分が責任をもって掃除します」
「いやいや。頼んで来てもらったのはこっちだから。しかし、まさかここまで効果があるとは思わなかったな」
「すごいねえ。うちの母も猫には好かれているけど、ここまでじゃないよ。おそるべしマタタビ吸引力」
そんなことを話していたらスマホが鳴った。同じ町内にいるママ友さんからのメールだ。
「おお、早々に任務完了だって! マタタビさんありがとう!だって」
読み上げながらメールを宗谷君に見せる。
「お役に立てて光栄です」
「ずっと捕まえられなかった猫ちゃん達だったから助かったよ。これでうちの地域の野良ちゃん達の手術は完了だと思う」
庭の生け垣からニョキッと手が出て、こっちに向かって元気よく振られた。
「宗谷、ちょっとした地域猫ボランティアの救世主だな。おかげで海自の好感度も少し上がったんじゃないか?」
「俺、ここでお茶とケーキをご馳走になっただけで何もしてないんですけど」
宗谷君が困ったように笑う。
宗谷君は現在、修ちゃんと同じ基地に所属している護衛艦に勤務している幹部自衛官さん。何故かものすごく猫に好かれる体質で、長期不在で帰港した時は野良ちゃん達のお出迎えがあるほどの好かれっぷりなんだとか。そんなわけで海上自衛隊の中ではマタタビ人間と呼ばれ、ちょっとした有名人なのだ。
「何もしてないのにこの成果はすごいよ。宗谷君がその気になったら一体どうなっちゃうんだろうねえ」
そんな宗谷君の特殊能力に目をつけたのが私。地域にいる野良ちゃんでどうしても捕まえられない困った子達がいるので、その子達の捕獲に協力してもらうことになったのだ。本当はこれから町内を歩いてもらおうと思っていたんだけど、宗谷君の猫吸引力は想像以上だったようで、たった今、我が家の玄関先でゴロゴロしているところを無事ボランティアさんに捕獲されたとか。
「なんだか逆に申し訳ない気がしてきました」
「いやいや。せっかくの休暇日に許可もらって来てもらったのに、これでは逆にこっちが申し訳ない。嫁さんにも謝っておいてくれ」
「いえ。自分のマタタビ体質は嫁が一番よく分かってますから。最初にこの捕獲方法を思いついたのも嫁なので」
宗谷君の奥さんも同じ基地で働いている自衛官さんで、仕事のかたわら、基地周辺にいる野良猫ちゃん達の保護活動をしているんだとか。そしてそこでも、宗谷君の特殊能力が活躍しているらしい。
「次の転属先でも待たれてるって話だけど?」
「そうなんですよねえ……まあ猫は嫌いじゃないので良いんですが」
好かれすぎるのも困りものだよねと、少しだけ同情してしまった。
「こんなにあっさり片づくと思ってなかったから、夕飯を御一緒にって話だったのに時間が空きすぎになっちゃったね」
修ちゃん一人なら別にかまわないけど、初めて我が家に来た宗谷君にくつろいでというのも難しそうだし。予定が大いに狂ってしまった。どうしたら良いものか。
「ここにいてもうちの猫達に囲まれて落ち着かないだろうし、ちょっと出てくるよ。今日は地本で求人説明会があるみたいだし、そっちに顔出してみるのも良いかもな」
「ああ、そう言えば今日でしたね。嫁の同期が今年度から地本にいるんですよ」
「挨拶がてら行ってみるか」
「良いですね」
そんなわけで二人はお休みの日だというのに、半分お仕事気分で出かけることに決めてしまった。ま、仕方ないよね。今は修ちゃんの機転に感謝しておこう。
「あまりウロウロしないようにね。人間じゃなくて猫が集まってきたら大変だから」
「地本としては集まってほしいのは人間だしな。ネタ話としては面白いけど」
「それ、シャレにならない気が」
出かけていく二人を見送った時は、まさか本当に猫が集まってきたという話を聞くとは思っていなかったんだけどね……。
おそるべ、マタタビさん。本当に前世がマタタビだったんじゃないかって思えてきたよ。
目の前には我が家の猫達に囲まれて固まっている男性が一人。今日は私服を着ているけど、いつもは修ちゃんと同じ制服を着ている人だ。
「ごめんねえ。まさかここまでだとは思わなくて」
「いえ、こちらこそすみません。誇張でも何でもなく、本当のマタタビ人間だって言っておくべきでした」
そう言いながらその人、宗谷君は困ったように笑った。そんな宗谷君を囲むようにシイタケとマイタケ、そしてピエールさんが香箱座りになっており、膝にはマリアンヌさんが優雅に座っている。マリアンヌさんが初対面の、しかも男性の膝の上に座るなんて初めてのことなので驚きだ。
「すごいな。もしかして匂いじゃなく、猫をひきつける電波でも出ているんじゃないのか?」
窓の外を見ていた修ちゃんが笑いながら言った。庭先には耳をカットされた地域猫ちゃん達が顔をのぞかせている。普段は柵から顔をのぞかせるだけで近寄ってこないのに、今日は『なにかいるの?』という顔をして軒先にまで来てこっちをのぞきこんでいた。
「今日は千客万来ならぬ千客ニャンライだね」
「そちらもすみません。もし庭にフンでもしていくなら、自分が責任をもって掃除します」
「いやいや。頼んで来てもらったのはこっちだから。しかし、まさかここまで効果があるとは思わなかったな」
「すごいねえ。うちの母も猫には好かれているけど、ここまでじゃないよ。おそるべしマタタビ吸引力」
そんなことを話していたらスマホが鳴った。同じ町内にいるママ友さんからのメールだ。
「おお、早々に任務完了だって! マタタビさんありがとう!だって」
読み上げながらメールを宗谷君に見せる。
「お役に立てて光栄です」
「ずっと捕まえられなかった猫ちゃん達だったから助かったよ。これでうちの地域の野良ちゃん達の手術は完了だと思う」
庭の生け垣からニョキッと手が出て、こっちに向かって元気よく振られた。
「宗谷、ちょっとした地域猫ボランティアの救世主だな。おかげで海自の好感度も少し上がったんじゃないか?」
「俺、ここでお茶とケーキをご馳走になっただけで何もしてないんですけど」
宗谷君が困ったように笑う。
宗谷君は現在、修ちゃんと同じ基地に所属している護衛艦に勤務している幹部自衛官さん。何故かものすごく猫に好かれる体質で、長期不在で帰港した時は野良ちゃん達のお出迎えがあるほどの好かれっぷりなんだとか。そんなわけで海上自衛隊の中ではマタタビ人間と呼ばれ、ちょっとした有名人なのだ。
「何もしてないのにこの成果はすごいよ。宗谷君がその気になったら一体どうなっちゃうんだろうねえ」
そんな宗谷君の特殊能力に目をつけたのが私。地域にいる野良ちゃんでどうしても捕まえられない困った子達がいるので、その子達の捕獲に協力してもらうことになったのだ。本当はこれから町内を歩いてもらおうと思っていたんだけど、宗谷君の猫吸引力は想像以上だったようで、たった今、我が家の玄関先でゴロゴロしているところを無事ボランティアさんに捕獲されたとか。
「なんだか逆に申し訳ない気がしてきました」
「いやいや。せっかくの休暇日に許可もらって来てもらったのに、これでは逆にこっちが申し訳ない。嫁さんにも謝っておいてくれ」
「いえ。自分のマタタビ体質は嫁が一番よく分かってますから。最初にこの捕獲方法を思いついたのも嫁なので」
宗谷君の奥さんも同じ基地で働いている自衛官さんで、仕事のかたわら、基地周辺にいる野良猫ちゃん達の保護活動をしているんだとか。そしてそこでも、宗谷君の特殊能力が活躍しているらしい。
「次の転属先でも待たれてるって話だけど?」
「そうなんですよねえ……まあ猫は嫌いじゃないので良いんですが」
好かれすぎるのも困りものだよねと、少しだけ同情してしまった。
「こんなにあっさり片づくと思ってなかったから、夕飯を御一緒にって話だったのに時間が空きすぎになっちゃったね」
修ちゃん一人なら別にかまわないけど、初めて我が家に来た宗谷君にくつろいでというのも難しそうだし。予定が大いに狂ってしまった。どうしたら良いものか。
「ここにいてもうちの猫達に囲まれて落ち着かないだろうし、ちょっと出てくるよ。今日は地本で求人説明会があるみたいだし、そっちに顔出してみるのも良いかもな」
「ああ、そう言えば今日でしたね。嫁の同期が今年度から地本にいるんですよ」
「挨拶がてら行ってみるか」
「良いですね」
そんなわけで二人はお休みの日だというのに、半分お仕事気分で出かけることに決めてしまった。ま、仕方ないよね。今は修ちゃんの機転に感謝しておこう。
「あまりウロウロしないようにね。人間じゃなくて猫が集まってきたら大変だから」
「地本としては集まってほしいのは人間だしな。ネタ話としては面白いけど」
「それ、シャレにならない気が」
出かけていく二人を見送った時は、まさか本当に猫が集まってきたという話を聞くとは思っていなかったんだけどね……。
おそるべ、マタタビさん。本当に前世がマタタビだったんじゃないかって思えてきたよ。
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