猫と幼なじみ

鏡野ゆう

文字の大きさ
上 下
51 / 55
帝国海軍の猫大佐 裏話

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 14

しおりを挟む
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです


+++++


「さて、そろそろバイバイの時間だなー」

 後ろの甲板を一通り見たあと、修ちゃんが腕時計を見ながら言った。とたんにおちびさんの機嫌が悪くなる。

「いーやー!」
「イヤじゃないよ。ここの決まりなんだから、ちゃんと守らないと」
「パパと一緒に帰るー!」

 その言葉に、修ちゃんは一瞬だけ心がグラッとしたみたい。顔つきがゆるんだけど、自分は今、勤務中だということを思い出したのか、すぐに顔を引き締めた。そしてぐずっているおちびさんの前にしゃがみこむ。

「ご飯の時間には帰るから、ママと家で待ってなさい」
「むうぅぅぅ!!」

 おちびさんは納得していないらしく、ほっぺたをふくらまれてフグみたいになっている。修ちゃんは笑いながら、そのほっぺたを指でつついた。

「ほらほら、そんな顔しない。にゃんこに笑われるぞ」
「……」

 おちびさんは渋々といった感じでうなづく。

「じゃあ、ママと一緒にちゃんと帰るな?」
「かえる」
「きっと帰る前に買い物に行くだろうけど、ママを困らせないようにな?」
「わかったー」

 おちびさんの頭をなでると立ち上がった。

「にゃんこって?」
「ん? それは男同士の秘密」
「あ、そう」

 きっとこれからも、そんな「男同士の秘密」が増えてくるんだろうなって考える。ママ的には寂しいけど、ま、しかたないか。

「買い物には行くんだろ?」
「うん。晩ごはん、なにか食べたいのある? 家を出るまでは、たこ焼きパーティーしようかって話してたんだけど」
「チョコミントがいいな」
「それはご飯じゃないでしょ?」

 そう言ってから、キラキラした目で見上げているおちびさんを見下ろした。

「かず君、チョコミントはご飯じゃないよ。ママが決めたいのは晩ごはん。たこ焼きパーティーの他は?」
「デザート!」
「わかった。じゃあデザートは、チョコミントとバニラね」
「ママのオレンジシャーベットも!」
「忘れないでくれてありがとう。それで晩ごはんは?」

 質問の続きだ。大事なのはデザートではなくて晩ごはんのほうだよ。いやまあ、アイスも大事だけどさ。

「なんでもいいよ」
「なんでもって、けっこう難しいんだよねー」
「みむろカレー!」
「だからかず君、それ、お昼に食べたやん」

 おちびさんのカレー好きは一体、誰に似たのやら。

「あの店に行ってきたのか」
「うん。遊覧船に乗ったあとに、足をのばして食べてきた。すっごくおいしかった」
「そりゃあそこのカレーは、うちの料理長直伝じきでんだから」

 料理長とは、ここのふねで隊員さんのご飯を作っている人。ちなみに階級は料理長ではなく、海曹長さんだ。

「それ、うちにも直伝じきでんしてくれないかなあ」
「ダメダメ。みむろカレーも好きだけど、我が家カレーの味は今のままじゃないと」
「たまに食べたくなるじゃん? 知ってたら作れるし」
「そういう時は、あそこの洋食屋さんに行ってください」
「特急往復代を含めたら高級なカレーだね。さすがお店のおすすめメニュー」

 二時間近く電車に揺られてカレーを食べにくるって、なかなかハードルが高そう。

「実はあそこのおすすめメニュー、みむろカレーじゃないんだなー」
「え、そうなの?!」

 お店の前にあるたくさんのノボリは『みむろカレー』だし、大抵のお客さんはそれを頼んでいる。だからてっきり、おすすめはカレーだと思ってた。

「次は洋食Bセットを頼むといいよ。あそこのクリームコロッケは絶品だから」
「うわー、行く前に聞いておけばよかったー!」

 無念だ、無念すぎる!! 私の反応に修ちゃんが大笑いしている。

和人かずと、たぶん今日の晩ごはんにはコロッケが出てくると思うぞ?」
「コロッケすきー!」
「コロッケを買うなら、スーパーじゃなくて、商店街の中にある肉屋さんな? あそこのが一番だから」

 修ちゃんはニヤニヤしながら言った。よくおわかりですね、修ちゃん。今の私の頭の中はもうクリームコロッケしか存在していない。このままだと、たこ焼きパーティーは中止かも!

「わかった」
「コロッケも良いけど、串カツとかメンチカツの肉系もお願いします」
「しかとたまわりました。他に必要なものは? なにか買い足しておきたいものある? 見た感じ、大抵のモノはあったように見えたけど」
「そうだなあ、今のところは特にないかな」

 あとはスーパーに行った時に考えるとしよう。

「じゃあ、そろそろおりようか。私達が最後みたいだし」

 最後までカメラ撮影をしていた人がおりていくのが見えた。

「気をつけて」
「うん。今日はありがとう。上の人達にもお礼いっておいてね。あ、それから伊勢いせさん達にも」
「わかった。和人、またあとでな」
「ばいばーい!」

 私とおちびさんが桟橋を渡ってステップをおりると、最後までこっち側に立っていた隊員さんが、終了のボードのついたロープを張った。そしてふねのほうへと戻っていく。

「パパ、ばいばーい!」

 手をふるおちびさんにつられて後ろを見ると、修ちゃんが手を振っていた。そしてその直後、近くでニヤニヤしていた他の隊員さんを追い立てるようにして、艦内へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

僕の主治医さん

鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。 【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...