49 / 55
帝国海軍の猫大佐 裏話
一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 12
しおりを挟む
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです
+++++
「良いながめだねー、かず君」
「たかーい!」
護衛艦の艦橋は、私達が見学できる場所で一番高い場所だ。実際はさらに上に行けるらしいけど、そこは一般の人達にはとても上がれない場所だった。ちなみに外から「あの場所」と言われて見たことはあるけど、どう考えても私には行けそうにない。
「和人君、せっかくだから艦長席に座ったら?」
そう言ってくれたのは航海長の山部さん。
「で、そこの帽子かぶって、ちょっと偉そうにしてなよ。そこに座って帽子をかぶっている限り、パパより偉い人だぞ?」
「一番?」
「うん。一番偉い人」
「僕、すわるー!」
喜んでイスに座ると、前に置いてあった帽子をかぶる。するとその場にいた修ちゃん以外の人達が、ピッと姿勢を正した。
「では、臨時艦長殿に敬礼!!」
山部さんの号令で敬礼をする。
「さすがに笛を吹いたら大騒ぎになっちゃうから、笛なしね」
「けいれーい!」
「うぃーす!!」
今日は接岸していて任務中ではないせいか、皆さん、のんびりした雰囲気だ。
「じゃあ写真を撮っておこうか。うちの副長、写真を撮られるのが嫌いだから普段は逃げ回ってるけど、さすがに息子さんと奥さんとなら、逃げませんよねえ?」
「普段だって逃げてないだろ」
「いやー、けっこう上手にかわしてるなって、いつも感心しながら見てるんですけどねー」
笑いながら山部さんは、私が持ってきたカメラをかまえる。
「はいはい、にっこりしてくださいよ。広報スマイルじゃなくて、自然なスマイルをお願いします。ちょっと副長、口元がひきつってますよ!」
山部さんの容赦ないダメ出しの後、何枚か写真を撮ってもらった。ようやくOKが出ると、修ちゃんは「ハーッ」と大きなため息をつく。
「私達と写真を撮るのイヤなの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
「なんでも、自分のプライベートをさらすのがイヤなんだそうですよ、うちの副長。幹部の威厳がどうとかこうとかで。そんなこと言ったら、俺の威厳はどうなるんですかね。家族でこっちに来てるのに」
山部さんのところは、私達のような単身赴任ではなく、奥さんとお子さんが一緒についてきてくれている。それを聞いて、二年で異動なのにすごいなーって感心していた。お子さんは和人と同い年。幼稚園の間はまだしも、小学校、中学校と学年が上がっていったらどうするつもりなんだろう。受験とかもあるし、そのあたりのタイミングで山部さんも単身赴任組の仲間入りなのかな。
「そうだよー? 山部さんの奥さんには、出港式とか諸々でいつもお世話になってるんだから、あまりワガママ言ったらダメだよー?」
とたんにヒューヒューとからかう声があっちこっちであがった。
「ほらー、副長の威厳がどっか行っちゃっただろー?」
「え、もしかして私のせい?! 私のせいなの?!」
「奥さんは悪くないですよ。隠したがる副長がいかんのです」
山部さんの断言に、その場にいた全員がうなづく。
「幸せ家族の空気をどんどん垂れ流してくださいよ。そうすれば、独り者の若いモンにも結婚願望が沸き上がりますから」
「それで良いんですか?」
「良いんですよー。フワフワしている隊員も、家庭を持つと落ち着くヤツが多いんです。そこが狙いでして」
「だったら山部が垂れ流せば良いだろ? 俺をアテにするな」
修ちゃんはムッとした顔をしながら言った。
「いやいや。惚気させたら、副長の右に出る者はいないという話ですからね。ここでも心置きなく、垂れ流しちゃってください」
「惚気って?」
「なんでもない。そっちには関係ない話だよ」
修ちゃんの返事は素っ気ない。どうやら話してくれる気はないらしい。
「誰だよ、山部に話したのは」
そしてブツブツともんくを言っている。
「艦橋の見学に連れてきてくれたのはそっちじゃん。ねえ、かず君」
「にゃんこー!!」
双眼鏡をのぞいていたおちびさんが声をあげた。
「え、猫ちゃんがいるの? それで見える場所なの?」
「あそこー」
岸壁のあたりかな?と探したけど、さすがにここからでは見えない。というか、おちびさんの指、甲板をさしてるんだけど。
「かず君、どこさしてるの? そこ、お船の上だよ?」
「猫いるよー」
「嘘やん、護衛艦に猫ちゃんいたら大変だよ?」
指の先をたどっていくと、大砲の上っぽい。目を凝らしてもそんなモノは乗っていない。見えないのは私の視力の悪さのせいではなさそうだ。
「さばちゃん」
「サバトラなの?」
「しっぽながーい!」
「ごめん、ママ、わかんないわー」
なにか猫と間違えるようなものでもあるのかな? まさかロープ? でもあれ白いよね?
「もしかしたら、子供にしか見えない猫の神様でもいるのかもしれませんね。船にとって猫は、ゲンが良い生き物って言いますから」
山部さんが窓のそばにきて、下を見下ろす。
「猫の神様ですか」
私の横に修ちゃんが来て、同じように下を見下ろす。
「修ちゃん、見える?」
「やっぱり子供にしか見えない猫なんじゃないか? 見えないものが見えるって、小さい頃にはよくあるって言うし」
「そっかー。でも残念だなー、私も見たいのに、猫ちゃん」
そんなことを呟いて下を見ていると、なんとなく足元でふわふわした気配がしたような気がした。
+++++
「良いながめだねー、かず君」
「たかーい!」
護衛艦の艦橋は、私達が見学できる場所で一番高い場所だ。実際はさらに上に行けるらしいけど、そこは一般の人達にはとても上がれない場所だった。ちなみに外から「あの場所」と言われて見たことはあるけど、どう考えても私には行けそうにない。
「和人君、せっかくだから艦長席に座ったら?」
そう言ってくれたのは航海長の山部さん。
「で、そこの帽子かぶって、ちょっと偉そうにしてなよ。そこに座って帽子をかぶっている限り、パパより偉い人だぞ?」
「一番?」
「うん。一番偉い人」
「僕、すわるー!」
喜んでイスに座ると、前に置いてあった帽子をかぶる。するとその場にいた修ちゃん以外の人達が、ピッと姿勢を正した。
「では、臨時艦長殿に敬礼!!」
山部さんの号令で敬礼をする。
「さすがに笛を吹いたら大騒ぎになっちゃうから、笛なしね」
「けいれーい!」
「うぃーす!!」
今日は接岸していて任務中ではないせいか、皆さん、のんびりした雰囲気だ。
「じゃあ写真を撮っておこうか。うちの副長、写真を撮られるのが嫌いだから普段は逃げ回ってるけど、さすがに息子さんと奥さんとなら、逃げませんよねえ?」
「普段だって逃げてないだろ」
「いやー、けっこう上手にかわしてるなって、いつも感心しながら見てるんですけどねー」
笑いながら山部さんは、私が持ってきたカメラをかまえる。
「はいはい、にっこりしてくださいよ。広報スマイルじゃなくて、自然なスマイルをお願いします。ちょっと副長、口元がひきつってますよ!」
山部さんの容赦ないダメ出しの後、何枚か写真を撮ってもらった。ようやくOKが出ると、修ちゃんは「ハーッ」と大きなため息をつく。
「私達と写真を撮るのイヤなの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」
「なんでも、自分のプライベートをさらすのがイヤなんだそうですよ、うちの副長。幹部の威厳がどうとかこうとかで。そんなこと言ったら、俺の威厳はどうなるんですかね。家族でこっちに来てるのに」
山部さんのところは、私達のような単身赴任ではなく、奥さんとお子さんが一緒についてきてくれている。それを聞いて、二年で異動なのにすごいなーって感心していた。お子さんは和人と同い年。幼稚園の間はまだしも、小学校、中学校と学年が上がっていったらどうするつもりなんだろう。受験とかもあるし、そのあたりのタイミングで山部さんも単身赴任組の仲間入りなのかな。
「そうだよー? 山部さんの奥さんには、出港式とか諸々でいつもお世話になってるんだから、あまりワガママ言ったらダメだよー?」
とたんにヒューヒューとからかう声があっちこっちであがった。
「ほらー、副長の威厳がどっか行っちゃっただろー?」
「え、もしかして私のせい?! 私のせいなの?!」
「奥さんは悪くないですよ。隠したがる副長がいかんのです」
山部さんの断言に、その場にいた全員がうなづく。
「幸せ家族の空気をどんどん垂れ流してくださいよ。そうすれば、独り者の若いモンにも結婚願望が沸き上がりますから」
「それで良いんですか?」
「良いんですよー。フワフワしている隊員も、家庭を持つと落ち着くヤツが多いんです。そこが狙いでして」
「だったら山部が垂れ流せば良いだろ? 俺をアテにするな」
修ちゃんはムッとした顔をしながら言った。
「いやいや。惚気させたら、副長の右に出る者はいないという話ですからね。ここでも心置きなく、垂れ流しちゃってください」
「惚気って?」
「なんでもない。そっちには関係ない話だよ」
修ちゃんの返事は素っ気ない。どうやら話してくれる気はないらしい。
「誰だよ、山部に話したのは」
そしてブツブツともんくを言っている。
「艦橋の見学に連れてきてくれたのはそっちじゃん。ねえ、かず君」
「にゃんこー!!」
双眼鏡をのぞいていたおちびさんが声をあげた。
「え、猫ちゃんがいるの? それで見える場所なの?」
「あそこー」
岸壁のあたりかな?と探したけど、さすがにここからでは見えない。というか、おちびさんの指、甲板をさしてるんだけど。
「かず君、どこさしてるの? そこ、お船の上だよ?」
「猫いるよー」
「嘘やん、護衛艦に猫ちゃんいたら大変だよ?」
指の先をたどっていくと、大砲の上っぽい。目を凝らしてもそんなモノは乗っていない。見えないのは私の視力の悪さのせいではなさそうだ。
「さばちゃん」
「サバトラなの?」
「しっぽながーい!」
「ごめん、ママ、わかんないわー」
なにか猫と間違えるようなものでもあるのかな? まさかロープ? でもあれ白いよね?
「もしかしたら、子供にしか見えない猫の神様でもいるのかもしれませんね。船にとって猫は、ゲンが良い生き物って言いますから」
山部さんが窓のそばにきて、下を見下ろす。
「猫の神様ですか」
私の横に修ちゃんが来て、同じように下を見下ろす。
「修ちゃん、見える?」
「やっぱり子供にしか見えない猫なんじゃないか? 見えないものが見えるって、小さい頃にはよくあるって言うし」
「そっかー。でも残念だなー、私も見たいのに、猫ちゃん」
そんなことを呟いて下を見ていると、なんとなく足元でふわふわした気配がしたような気がした。
22
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説
僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
帝国海軍の猫大佐
鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる