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帝国海軍の猫大佐 裏話
一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 11
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帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです
+++++
「はい。ここが俺の部屋。護衛艦の中なんだから、そんなに広くないぞ」
ドアを開けると、おちびさんが喜んで入っていった。そして部屋の中を見渡してから、少しがっかりした顔をする。
「せまーい! 窓なーい!」
「だから言ったろ? ここは護衛艦の中だって。窓もないし、和人の部屋よりせまいだろ?」
「せまいー!!」
私も部屋に入ってあれこれ見て回った。ベッドは一つ、そして机も一つ。せまいながらも、前に見せてもらった部屋より、ずいぶんと広くなった印象だ。
「最初に乗った護衛艦の時は、二人で一部屋を使ってたよね? あれってやっぱり、下っ端だったから?」
私の質問に修ちゃんが笑った。
「下っ端ってひどい言い方だな。最初の一年目だって、幹部は幹部なんだけど」
「でも二人部屋だったじゃん? こうやって完全な個室を使えてるのは、副長になったから?」
その質問に首をかしげる。
「どうなのかな。ここでは山部も柿本も個室だし」
「そうなんだ」
「新しい護衛艦は、諸々の設備がコンパクトになった分、居住スペースが広くとれるようになったんだよ。それに動かす時に必要な人間も少なくなったし。そういうのも関係してるのかもな。同じ幹部でも、古い艦だと二人部屋になると思う」
素人が見ただけではわからないけど、古い護衛艦と新しい護衛艦では、それなりに変化があるらしい。
「へー。じゃあ新しい艦に配属されたいって、皆、思ってるのかな」
「かもねー」
「ぼくとママ!」
おちびさんが声をあげた。
「ん、なにー?」
「あ、和人、そこを勝手に開けるんじゃない」
おちびさんが目の前にあったロッカーを開け、上を指でさしている。修ちゃんがあわてて閉めようとするけど、おちびさんが立っているので、なかなか閉められない。
「おい、和人、勝手に開けるなよ。ほら、そこをどく」
「ぼくとママー!」
「なになに? なにが僕とママ?」
「あ、ちょっと、まこっちゃん!」
修ちゃんの背中越しにロッカーをのぞき込む。ロッカーの扉に写真が貼りつけてあった。
「あー、ほんとだ。かず君とママだねー」
「ほら、もう閉めるぞ」
「なんでー? 別に良いじゃん、見られても減るもんじゃないんだし」
「減るんだよ」
おちびさんを移動させると、バタンッと少し乱暴にロッカーを閉める。
「えー、なんで閉めちゃうのー」
「もう十分に見たから良いだろ? ほら、ここはせまいんだから、外に出るぞ」
「えー」
「えーーー!!」
「もー……だからイヤだったんだよ、部屋を見せるの」
ブツブツと言いながら私達を部屋から押し出した。
「別にいいじゃーん」
「よくないです」
「うちの家にだって、写真立て、たくさん飾ってあるじゃん?」
「とにかく、今のは忘れて」
廊下をズンズンと押されて進む。そんなに恥ずかしがることないじゃない? 見たのは私とかず君だけなんだから。
「ああやって、写真を持っていてくれるのは嬉しいんだけどなー。贅沢を言えば、机の上に飾ってくれると、なお嬉しいんだけどなー。あ、出しておくと他の人に見られちゃうか」
「忘れてください、たのむから」
「もー、恥ずかしがり屋さんだなあ、修ちゃんてばー」
「まこっちゃん」
修ちゃんの声が平べったくなった。これ以上つつくと、本気で怒られるかな。
「はいはい、わかりました、忘れます……あの写真って、お正月の初詣の時に撮ったやつだよね?」
「……まこっちゃーん?」
「はい、忘れます」
「おしっこー!」
押されて歩いていると、突然、おちびさんが叫んだ。
「ちょ、和人、ここでトイレか」
「おしっこー、でそうー!」
「出そうって、修ちゃん、トイレあるよね?!」
「そこにある。和人、ちょっとガマンしろよ?」
修ちゃんはおちびさんを抱き上げると走っていく。さすが慣れているせいか、せまい廊下を走るのも早い。まっすぐ走って、突き当りを右に曲がっていった。
「トイレあったー!」
「そっちは届かないから無理だろ、こっちでしなさい」
「はーい!」
そんな声が聞こえてくる。修ちゃん達の声がする方をのぞくと、おトイレがあった。男性用の便器がならんでいるけど、かず君が使っているのは、奥にある個室の洋式のトイレだ。
「考えたら、お昼ご飯食べた後に行ったきりだもんね」
「リンゴジュースを飲んだからな。よかったよ、ここでトイレと言ってくれて。上にのぼってからだったら大変だった」
「上にのぼるの?」
「行くつもりだけど?」
上というのは艦橋のことだ。一般公開の時もめったに入れない場所だけど、今日はお茶会招待客でもあるから特別らしい。
「かず君、大丈夫かな? あがる時はともかく、おりる時」
「どっちも俺がだっこしていくよ。だからまこっちゃん、自分は自分で気をつけろよ?」
つまり私のことまでは、かまってられないぞって言いたいらしい。
「わかったー」
そんなわけで、私達は艦橋へとあがることになった。でもさ、いつも思うんだけど、なんで護衛艦の階段て、こんなに急で使いにくいんだろうね? そりゃ、京都の古い町家に住んでいたこともあるから、この手の急な階段には慣れてるけどさ。
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「はい。ここが俺の部屋。護衛艦の中なんだから、そんなに広くないぞ」
ドアを開けると、おちびさんが喜んで入っていった。そして部屋の中を見渡してから、少しがっかりした顔をする。
「せまーい! 窓なーい!」
「だから言ったろ? ここは護衛艦の中だって。窓もないし、和人の部屋よりせまいだろ?」
「せまいー!!」
私も部屋に入ってあれこれ見て回った。ベッドは一つ、そして机も一つ。せまいながらも、前に見せてもらった部屋より、ずいぶんと広くなった印象だ。
「最初に乗った護衛艦の時は、二人で一部屋を使ってたよね? あれってやっぱり、下っ端だったから?」
私の質問に修ちゃんが笑った。
「下っ端ってひどい言い方だな。最初の一年目だって、幹部は幹部なんだけど」
「でも二人部屋だったじゃん? こうやって完全な個室を使えてるのは、副長になったから?」
その質問に首をかしげる。
「どうなのかな。ここでは山部も柿本も個室だし」
「そうなんだ」
「新しい護衛艦は、諸々の設備がコンパクトになった分、居住スペースが広くとれるようになったんだよ。それに動かす時に必要な人間も少なくなったし。そういうのも関係してるのかもな。同じ幹部でも、古い艦だと二人部屋になると思う」
素人が見ただけではわからないけど、古い護衛艦と新しい護衛艦では、それなりに変化があるらしい。
「へー。じゃあ新しい艦に配属されたいって、皆、思ってるのかな」
「かもねー」
「ぼくとママ!」
おちびさんが声をあげた。
「ん、なにー?」
「あ、和人、そこを勝手に開けるんじゃない」
おちびさんが目の前にあったロッカーを開け、上を指でさしている。修ちゃんがあわてて閉めようとするけど、おちびさんが立っているので、なかなか閉められない。
「おい、和人、勝手に開けるなよ。ほら、そこをどく」
「ぼくとママー!」
「なになに? なにが僕とママ?」
「あ、ちょっと、まこっちゃん!」
修ちゃんの背中越しにロッカーをのぞき込む。ロッカーの扉に写真が貼りつけてあった。
「あー、ほんとだ。かず君とママだねー」
「ほら、もう閉めるぞ」
「なんでー? 別に良いじゃん、見られても減るもんじゃないんだし」
「減るんだよ」
おちびさんを移動させると、バタンッと少し乱暴にロッカーを閉める。
「えー、なんで閉めちゃうのー」
「もう十分に見たから良いだろ? ほら、ここはせまいんだから、外に出るぞ」
「えー」
「えーーー!!」
「もー……だからイヤだったんだよ、部屋を見せるの」
ブツブツと言いながら私達を部屋から押し出した。
「別にいいじゃーん」
「よくないです」
「うちの家にだって、写真立て、たくさん飾ってあるじゃん?」
「とにかく、今のは忘れて」
廊下をズンズンと押されて進む。そんなに恥ずかしがることないじゃない? 見たのは私とかず君だけなんだから。
「ああやって、写真を持っていてくれるのは嬉しいんだけどなー。贅沢を言えば、机の上に飾ってくれると、なお嬉しいんだけどなー。あ、出しておくと他の人に見られちゃうか」
「忘れてください、たのむから」
「もー、恥ずかしがり屋さんだなあ、修ちゃんてばー」
「まこっちゃん」
修ちゃんの声が平べったくなった。これ以上つつくと、本気で怒られるかな。
「はいはい、わかりました、忘れます……あの写真って、お正月の初詣の時に撮ったやつだよね?」
「……まこっちゃーん?」
「はい、忘れます」
「おしっこー!」
押されて歩いていると、突然、おちびさんが叫んだ。
「ちょ、和人、ここでトイレか」
「おしっこー、でそうー!」
「出そうって、修ちゃん、トイレあるよね?!」
「そこにある。和人、ちょっとガマンしろよ?」
修ちゃんはおちびさんを抱き上げると走っていく。さすが慣れているせいか、せまい廊下を走るのも早い。まっすぐ走って、突き当りを右に曲がっていった。
「トイレあったー!」
「そっちは届かないから無理だろ、こっちでしなさい」
「はーい!」
そんな声が聞こえてくる。修ちゃん達の声がする方をのぞくと、おトイレがあった。男性用の便器がならんでいるけど、かず君が使っているのは、奥にある個室の洋式のトイレだ。
「考えたら、お昼ご飯食べた後に行ったきりだもんね」
「リンゴジュースを飲んだからな。よかったよ、ここでトイレと言ってくれて。上にのぼってからだったら大変だった」
「上にのぼるの?」
「行くつもりだけど?」
上というのは艦橋のことだ。一般公開の時もめったに入れない場所だけど、今日はお茶会招待客でもあるから特別らしい。
「かず君、大丈夫かな? あがる時はともかく、おりる時」
「どっちも俺がだっこしていくよ。だからまこっちゃん、自分は自分で気をつけろよ?」
つまり私のことまでは、かまってられないぞって言いたいらしい。
「わかったー」
そんなわけで、私達は艦橋へとあがることになった。でもさ、いつも思うんだけど、なんで護衛艦の階段て、こんなに急で使いにくいんだろうね? そりゃ、京都の古い町家に住んでいたこともあるから、この手の急な階段には慣れてるけどさ。
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