猫と幼なじみ

鏡野ゆう

文字の大きさ
上 下
41 / 55
帝国海軍の猫大佐 裏話

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 4

しおりを挟む
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです


+++++


「かず君、左と右、どっちの窓際がいい?」
「……」

 私の問いかけに、おちびさんは放心状態になった。さすがにこの質問はダメか。

「ごめんごめん。窓際ならどっちでもいいよね、お外みれるし」
「うん」
「じゃあ、指定席、特急券こみでお願いします。大人一人、子供一人で」

 窓口のおじさんにそう言って、電車の切符を買った。チラッとタッチパネルを見たところでは、週末だけど指定席の車両はすいているようだ。

「じゃあ、電車が来るまでもうちょっと時間あるから、お茶しようか。どこにする?」
「えーとね、コマダ!」

 駅周辺にはシネコンもあるせいか、最近はいろいろなお店ができている。だけどそこは、駅からちょっと遠かった。私だけなら早足で往復すれば良いけど、おちびさんと一緒だとちょっと難しい。

「あー、コマダはちょっと遠いから、時間が心配かな。コマダは帰りにお茶で寄ることにして、今日はサリーコーヒーにしない?」
「いいよー、だきょーしまーす!」

 いきなり聞き慣れない言葉を口にしたので、思わず笑ってしまった。しかも使い方も間違っていない。

「どこでそんな言葉を覚えたの」
「ミミ先生!!」

 ミミ先生とは、おちびさんが通っている幼稚園の先生。御実家が耳鼻科の病院なせいで、「耳先生」というあだ名がついてしまったとか。先生曰く、「鼻先生」じゃないだけマシだと思いますってことだった。

「ミミ先生、なんの妥協だろうねえ」
「わかんない」

 もしかして耳先生という名前のことかな。

「パパにライスバーガーおみやげしないー?」
「モモバーガーの? そりゃ買っていったらパパは喜ぶだろうけど、電車の中でめっちゃにおわない?」

 市バスと違って電車は窓が開けられない。ギョウザやフライドチキンよりはマシだろうけど、持ち込むにはちょっと躊躇ちゅうちょしてしまう食べ物だ。

「じゃあ、なし。パパがお家にかえってきたら、いっしょに行く!」
「そのほうが安心だねー。あ、今の話、パパには内緒ね? また食べられなかったって泣いちゃうから」
「うん」

 ニタッと二人で笑った。

「あ、じゃあさ、サリーコーヒーのバウムクーヘンをおみやげにしようか。あれならにおわないし」
「うん!!」
「じゃあ、お茶もサリーさんでしようね。なにがいいかなー」
「ミックスジュース!」
「ああ、いいねー、ミックスジュース。ママもそれにしよー」

 駅近くのカフェに入ると、お持ち帰り用のバウムクーヘンと、ミックスジュースを頼む。席につくと、おちびさんのリュックにバウムクーヘンを入れた。

「かず君、リュックをしょってる時には気をつけてね。バウムクーヘンがぺったんこになるから」
「りょうかいでーす」

 電車の到着時間をメールでしゅうちゃんに送る。改札口に降りたら、きっと待っていてくれるだろう。

「あ、そうだ。明日の見学さ、艦長さんのお茶会がるんだよ。前に艦長さんとリンゴジュース飲んだの、覚えてる?」
「うん」
「でね、新しく配属になった人のご家族が、何人か来るんだって。だから、ちょっとだけお行儀よくしてね」
「たくさん?」

 この「たくさん」は、人がたくさんか?ではなく、時間がたくさんか?という質問だ。

「どうかなー……」

 前の時はどうだったかなと思い返してみる。それこそ招待された人によるよね。おちびさん一緒だから、さっさと退席させてくれると良いんだけど。そのへんの空気を読んでくれる人達だと良いなあ。

 お茶しながら時間をつぶし、そろそろなのでお店を出る。そして駅に向かう。

「乗る前に、おトイレいっとこうか。電車の中にもトイレあるけど」
「うん!」

 私が子供の頃は、駅のトイレも電車のトイレも使いたくないなって思ったものだけど、最近はとても綺麗だ。ここの駅のトイレも、何か月か前の改修工事でかなり綺麗になった。観光客が利用することが増えたかららしい。旅行シーズンは人が増えてうんざりだけど、こういう点だけは観光客様様だよね。

 トイレをすませてホームにあがる。十分ほど待つと、乗る予定の特急列車がホームに入ってきた。

「さて、いよいよ出発ですよー」
「しゅっぱつー!」

 電車に乗って席に落ち着いたところで、修ちゃんからメールが返ってきた。

『改札口の前で待ってる。買い物して帰ろう』

「かず君、パパ、お迎えに来てくれるって。お買い物して帰ろうって言ってるよ」
「夜ごはんどうする? 回るお寿司いく?」
「えー、さすがにちょっと早くない?」

 とは言え、一度、家に落ち着いちゃったら、出かけるのが面倒くさくなるのは間違いない。

「お寿司を買って帰るのはどう?」
「えー……」

 思いっ切り不服そうな顔をされた。

「回るお寿司の気分なわけ?」
「そーゆー気分なわけ!」
「しかたないねえ……だったらお買い物して、ご飯の時間にまた出かけるしかないか」
「ないです!」

 ま、到着まで二時間ほどあるし、その間に気持ちが変わるかもしれない。

―― ……ってことはないかー。こういう初志貫徹しょしかんてつなところは、修ちゃんそっくりなんだよねー。さすが親子だねー ――

 ものぐさな私に似なくて本当に良かった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

僕の主治医さん

鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。 【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...