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ある年のGW
第三十五話 ある年のGW 8
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「修ちゃ~ん……」
「なに?」
「もうさー、朝からガッツリ系はやめようよお……」
お昼近い時間、車の助手席におさまっている私は、隣の修ちゃんに文句を言いたい気分になっていた。
「なんで?」
「なんでって……修ちゃんは全然平気なわけ?」
「平気だよ。それどころか気分そうかいでめちゃくちゃ元気」
「うっそーん、なんで~? 絶対に修ちゃんのほうが、体力使ってるはずだよね?」
ああ、そうそう。今日の修ちゃんは久しぶりにメガネ君だ。仕事中はコンタクトレンズを使っているけれど、今日は休みなのと、車を運転しなくてはならないので、朝からメガネをかけていた。久し振りすぎてムズムズするらしく、さっきからしきりに鼻パットがあたるところを気にしている。
「基礎体力の違い?」
「えー……」
出発は「のんびり」しようって決めた結果、朝から修ちゃんに襲われてしまった。いつもより少しだけ長かったせいか、起きたばかりなのに、体力が回復してなくて脱力中だ。
「自衛官のバカみたいな体力持ちって、陸自さんだけじゃないの?」
「言っておくけど、あそこは自衛官標準じゃなく、殿堂入り案件だから」
「ええええ……」
昨日の夜、映画を観た後はなにごともなく寝られたから、すっかり安心して油断した。今晩はゆっくり寝られるなって思っていたら、夜より朝にエッチするほうが良いらしいよ?なんていう謎な理論のもと、修ちゃんの朝の運動に付き合わされてしまったというわけだ。
「よくなかった?」
「そうじゃなくて、朝からってのがさあ」
「だって夜だと、まこっちゃんが眠い眠いを連発するからさ。だったら朝にしようかなと。いつもだったら仕事に行く時間だったし、普通なら起きてるだろ?」
たしかに起こされたのは朝の七時。普段ならとっくに起きている時間だ。
「朝でも眠いの。なんで私が枕元に目覚ましを二つも置いてるか、わってないね?」
「だったらいつが良いのさ」
「いつって、そんなこと聞かれても困る。なんというか、もっと普通な感じで?」
「普通だろ?」
「どこが!」
目が覚めたらすでにエッチの最中でしたなんて、ちょっと笑えない。修ちゃん曰く、始める前にちゃんと私に確認して、抱きついてきたからOKだと思ったらしい。問題はその確認された本人が、そのことをまったく覚えていないということなのだ。
「しかたないな。着いたら起こしてあげるから、しばらく寝てな」
「もー……そういう問題じゃないんだけどなあ……」
とりあえず睡眠時間は足りているのだ。問題は体力のほうだけで。
+++
「まこっちゃん、道の駅、どうする? 寄ってく? 魚を送るって言ってたろ?」
「んー?」
「魚の店があるところだよ」
「あ、ごめん、爆睡してた……」
やって来たのは、地元特産の山のもの海のものがたくさん売っている道の駅。さすがに連休なだけあって、駐車場には他府県ナンバーを含めて、たくさんの車がとまっている。昔は地元の人のほうが多かったらしいけど、最近は新しく道路ができたせいもあって、他府県からやってくる人が増えているらしい。
「昼飯も、ここで食べていくほうが良いかもしれないな」
寄ったついでだからと、ここでお昼ご飯をすませていくことにした。
「ここでお昼食べるんだったら、昨日の夜、もっとコテコテのモノでも良かったね。トンカツとかお肉系でさ」
「んー、そういうのは普段から昼飯に出るからなあ。あ、でも俺、まこっちゃんが作る唐揚げは食いたいな」
「じゃあ今晩は唐揚げにする。お婆ちゃん直伝の漬けダレから作ろう」
「おお、楽しみ」
お店に入ると、そこにはいろいろなお店がテナントとして入っていて、フロアーの真ん中には、大きな生《い》け簀《す》がある。のぞきこむと、大きな魚が泳いでいた。
「ねえ、この時期って、なにかおいしいのかな。修ちゃん、わかる?」
「俺は船乗りだけど、船違いだからな。俺より、まこっちゃんのほうが詳しいんじゃないの?」
「ぜーんぜん。でも、せっかく買うなら、こっちの海で獲れたものが良いよねえ」
なにが良いかなあと、ならんでいる魚たちを見ていく。
「ハタハタはこの前、テレビで一夜干しがおいしいってやってたから買うとして、あとは……マアジとか? あ、トビウオがあるよ、修ちゃん」
「こいつ、遠洋に出ていた時に、甲板に上がってたのを何度か見たことあるな」
「そうなの?」
水面から護衛艦の甲板までは、けっこうな高さがある。海中から飛び乗ってくるなんて、さすがトビウオさんだ。
「ねえ、それって、まさか料理して食べちゃうとか?」
「まさか。そういうことをしていたのは、戦時中の戦艦だよ。俺達は拾ったら捨てちゃうだけ」
「そうなんだ、ちょっともったいないね、貴重な鮮魚なのに」
「しかたないな。これも衛生上の問題ってやつだから」
いまいち日本海の魚の旬がわからない私達は、魚屋のおじさんと相談しながら、自宅と姉の家へ送る魚の詰め合わせの手配をした。それぞれにハタハタの一夜干しを一袋と送料をまけてもらい、ちょっとしたお得感に満足していると、修ちゃんが「まこっちゃんスキルすげー」と笑った。
「このまま真っ直ぐ帰るなら、持って帰っても良かったのにね。ハタハタの一夜干し、どんな味か気になるし」
「お義母《かあ》さんのことだから、きっとまこっちゃんが帰るまで残しておいてくれるさ」
「だと良いんだけどなー。開けたとたんに、マツ達に根こそぎ食べられちゃいそうな気もするけど」
それから私達は、そこにテナントとして入っているお店で海鮮丼を食べた。そしてお腹が満足したところで出発。修ちゃんの計画では、途中で車を駐車場に置いて、遊覧船で股のぞきの公園まで行く予定らしい。
「駐車場、こっちのほうが近くない? 遊覧船の運賃も安くなるし」
ナビの印を指でさす。
「そっちも考えたんだけどさ。連休だろ? あっちまで行って、車をとめるスペースがなかったら困るじゃないか」
「ああ、なるほど」
「同じ遊覧船に乗るなら、始発のほうがよいだろ? 早く乗ったほうが、見晴らしのいい席をとれるし」
「修ちゃん、ちゃんと調べてあったんだ。私、こっちにも乗り場があるなんて知らなかった」
「そりゃ、せっかくまこっちゃんと出かけるんだ、ちゃんと楽しみたいだろ?」
駐車場は修ちゃんの読み通り、空きが十分にあった。
「お休みの日に乗る、船の感想は?」
遊覧船に乗って、座席に落ち着くと質問してみる。
「ん? 普段とは全然違うから、それなりに新鮮かな。仕事中は、のんびり座って外の景色を楽しむなんてことは無いからね。それに、こんなふうにまこっちゃんと手をつなぐこともないし」
修ちゃんはそう言いながら、うれしそうに私と手をつないだ。
「ちょっとはずかしくない?」
「そんなことないだろ。奥さんとのデートで手をつながなくて、いつつなぐのさ」
そんなやり取りをしたせいか、修ちゃんと私は、その日のほとんどを手をつないで行動することになった。ラブラブデートができるのは楽しいけど、やっぱりちょっと、はずかしいかもしれない。
そして、今回のちょっと近場な観光で、新たに判明した新たな事実がある。それは、私の体が思いのほか硬かったという事実。どこでわかったか。もちろん、股のぞきの展望台で、股のぞきをしようとした時だ。
「イタタタッ」
のぞこうとした時に、思わず口からそんな言葉が飛び出した。膝の裏側のスジが、こんなに存在を主張するなんてメッタにないことだから、その痛さに自分でも驚いた。
「なんでその程度で痛いのさ」
修ちゃんは平気な顔して股のぞきをして、さらにはその姿勢のまま、デジカメで写真を撮っている。
「だって普段の生活で、こんな状態になることなんてないじゃない。まさか、自分でもこんなに硬いとは思わなかった」
それに、この石の台に乗って頭を逆さまにするのは思った以上に怖い。もともとここは見晴らしの良い場所で、台の上に立つと、眼下に広がる松林と海岸線がしっかりと見渡せる。高いところがあまり好きではない私にとっては、なかなかスリルのある姿勢だった。
「もー、体力も体の柔らかさも修ちゃんに負けてるなんて……」
「そりゃあ、俺達はそれなりに訓練で体を動かしてるからねえ」
そう言いながら、修ちゃんはなぜか私にカメラを向けた。
「ちょっと! なんでこっちにカメラを向けるの?!」
「股のぞきに来たんだから、それをやってる写真を撮らなくてどうするのさ」
「わざわざ、変な顔になってるところを撮ることないじゃない」
慌てて体を起こしたものだから、引っ繰り返りそうになる。
「そういう写真を撮るのが観光の醍醐味だろ?」
そのまま倒れそうになった私を支えながら、修ちゃんが笑った。
「逆さまになって真っ赤な顔になってるとこなんて、撮られたくないですー」
「だからこそ面白いのに」
「面白くてもイヤなものはイヤなの」
「変顔でも、まこっちゃん、可愛いのに」
「修ちゃん、それ、ぜんっぜんフォローになってない。あんまりしつこく言うと、唐揚げやめちゃうからね」
「なんだかやっぱり、あつかいが軽い気がする」
「どこが!」
朝からガッツリなエロ魔人のくせにと、ブツブツ言ってみる。だけど、こんな風に言い合いができるのも今日まで。明日はもう連休の最終日だ。修ちゃんは当直で夕方からの出勤だから、私は昼過ぎの電車で帰る予定にしている。
―― あっという間に終わっちゃうなあ…… ――
次に修ちゃんと出かけることができるのは、お盆休みの予定だ。それも、何事もなければという条件つき。そんなことを考えたら、帰るのがイヤになってきた。
「わかった」
「なにが?」
私があれこれ考えていると、修ちゃんがうなづく。
「まこっちゃんが、朝から俺がガッツリしたのを怒ってるのはわかった。だったら明日は朝はゆっくり寝かせてあげるよ。そのかわり、今夜は夜更かしな?」
「はい?」
「連休ラストだし、乗る電車の時間はチェックしてあるから駅に送っていくし、乗りそこねる心配ないから安心して良いよ」
「あのう、修ちゃん?」
夜更かしって……それって結局、ガッツリするってことでは?
「なに?」
「もうさー、朝からガッツリ系はやめようよお……」
お昼近い時間、車の助手席におさまっている私は、隣の修ちゃんに文句を言いたい気分になっていた。
「なんで?」
「なんでって……修ちゃんは全然平気なわけ?」
「平気だよ。それどころか気分そうかいでめちゃくちゃ元気」
「うっそーん、なんで~? 絶対に修ちゃんのほうが、体力使ってるはずだよね?」
ああ、そうそう。今日の修ちゃんは久しぶりにメガネ君だ。仕事中はコンタクトレンズを使っているけれど、今日は休みなのと、車を運転しなくてはならないので、朝からメガネをかけていた。久し振りすぎてムズムズするらしく、さっきからしきりに鼻パットがあたるところを気にしている。
「基礎体力の違い?」
「えー……」
出発は「のんびり」しようって決めた結果、朝から修ちゃんに襲われてしまった。いつもより少しだけ長かったせいか、起きたばかりなのに、体力が回復してなくて脱力中だ。
「自衛官のバカみたいな体力持ちって、陸自さんだけじゃないの?」
「言っておくけど、あそこは自衛官標準じゃなく、殿堂入り案件だから」
「ええええ……」
昨日の夜、映画を観た後はなにごともなく寝られたから、すっかり安心して油断した。今晩はゆっくり寝られるなって思っていたら、夜より朝にエッチするほうが良いらしいよ?なんていう謎な理論のもと、修ちゃんの朝の運動に付き合わされてしまったというわけだ。
「よくなかった?」
「そうじゃなくて、朝からってのがさあ」
「だって夜だと、まこっちゃんが眠い眠いを連発するからさ。だったら朝にしようかなと。いつもだったら仕事に行く時間だったし、普通なら起きてるだろ?」
たしかに起こされたのは朝の七時。普段ならとっくに起きている時間だ。
「朝でも眠いの。なんで私が枕元に目覚ましを二つも置いてるか、わってないね?」
「だったらいつが良いのさ」
「いつって、そんなこと聞かれても困る。なんというか、もっと普通な感じで?」
「普通だろ?」
「どこが!」
目が覚めたらすでにエッチの最中でしたなんて、ちょっと笑えない。修ちゃん曰く、始める前にちゃんと私に確認して、抱きついてきたからOKだと思ったらしい。問題はその確認された本人が、そのことをまったく覚えていないということなのだ。
「しかたないな。着いたら起こしてあげるから、しばらく寝てな」
「もー……そういう問題じゃないんだけどなあ……」
とりあえず睡眠時間は足りているのだ。問題は体力のほうだけで。
+++
「まこっちゃん、道の駅、どうする? 寄ってく? 魚を送るって言ってたろ?」
「んー?」
「魚の店があるところだよ」
「あ、ごめん、爆睡してた……」
やって来たのは、地元特産の山のもの海のものがたくさん売っている道の駅。さすがに連休なだけあって、駐車場には他府県ナンバーを含めて、たくさんの車がとまっている。昔は地元の人のほうが多かったらしいけど、最近は新しく道路ができたせいもあって、他府県からやってくる人が増えているらしい。
「昼飯も、ここで食べていくほうが良いかもしれないな」
寄ったついでだからと、ここでお昼ご飯をすませていくことにした。
「ここでお昼食べるんだったら、昨日の夜、もっとコテコテのモノでも良かったね。トンカツとかお肉系でさ」
「んー、そういうのは普段から昼飯に出るからなあ。あ、でも俺、まこっちゃんが作る唐揚げは食いたいな」
「じゃあ今晩は唐揚げにする。お婆ちゃん直伝の漬けダレから作ろう」
「おお、楽しみ」
お店に入ると、そこにはいろいろなお店がテナントとして入っていて、フロアーの真ん中には、大きな生《い》け簀《す》がある。のぞきこむと、大きな魚が泳いでいた。
「ねえ、この時期って、なにかおいしいのかな。修ちゃん、わかる?」
「俺は船乗りだけど、船違いだからな。俺より、まこっちゃんのほうが詳しいんじゃないの?」
「ぜーんぜん。でも、せっかく買うなら、こっちの海で獲れたものが良いよねえ」
なにが良いかなあと、ならんでいる魚たちを見ていく。
「ハタハタはこの前、テレビで一夜干しがおいしいってやってたから買うとして、あとは……マアジとか? あ、トビウオがあるよ、修ちゃん」
「こいつ、遠洋に出ていた時に、甲板に上がってたのを何度か見たことあるな」
「そうなの?」
水面から護衛艦の甲板までは、けっこうな高さがある。海中から飛び乗ってくるなんて、さすがトビウオさんだ。
「ねえ、それって、まさか料理して食べちゃうとか?」
「まさか。そういうことをしていたのは、戦時中の戦艦だよ。俺達は拾ったら捨てちゃうだけ」
「そうなんだ、ちょっともったいないね、貴重な鮮魚なのに」
「しかたないな。これも衛生上の問題ってやつだから」
いまいち日本海の魚の旬がわからない私達は、魚屋のおじさんと相談しながら、自宅と姉の家へ送る魚の詰め合わせの手配をした。それぞれにハタハタの一夜干しを一袋と送料をまけてもらい、ちょっとしたお得感に満足していると、修ちゃんが「まこっちゃんスキルすげー」と笑った。
「このまま真っ直ぐ帰るなら、持って帰っても良かったのにね。ハタハタの一夜干し、どんな味か気になるし」
「お義母《かあ》さんのことだから、きっとまこっちゃんが帰るまで残しておいてくれるさ」
「だと良いんだけどなー。開けたとたんに、マツ達に根こそぎ食べられちゃいそうな気もするけど」
それから私達は、そこにテナントとして入っているお店で海鮮丼を食べた。そしてお腹が満足したところで出発。修ちゃんの計画では、途中で車を駐車場に置いて、遊覧船で股のぞきの公園まで行く予定らしい。
「駐車場、こっちのほうが近くない? 遊覧船の運賃も安くなるし」
ナビの印を指でさす。
「そっちも考えたんだけどさ。連休だろ? あっちまで行って、車をとめるスペースがなかったら困るじゃないか」
「ああ、なるほど」
「同じ遊覧船に乗るなら、始発のほうがよいだろ? 早く乗ったほうが、見晴らしのいい席をとれるし」
「修ちゃん、ちゃんと調べてあったんだ。私、こっちにも乗り場があるなんて知らなかった」
「そりゃ、せっかくまこっちゃんと出かけるんだ、ちゃんと楽しみたいだろ?」
駐車場は修ちゃんの読み通り、空きが十分にあった。
「お休みの日に乗る、船の感想は?」
遊覧船に乗って、座席に落ち着くと質問してみる。
「ん? 普段とは全然違うから、それなりに新鮮かな。仕事中は、のんびり座って外の景色を楽しむなんてことは無いからね。それに、こんなふうにまこっちゃんと手をつなぐこともないし」
修ちゃんはそう言いながら、うれしそうに私と手をつないだ。
「ちょっとはずかしくない?」
「そんなことないだろ。奥さんとのデートで手をつながなくて、いつつなぐのさ」
そんなやり取りをしたせいか、修ちゃんと私は、その日のほとんどを手をつないで行動することになった。ラブラブデートができるのは楽しいけど、やっぱりちょっと、はずかしいかもしれない。
そして、今回のちょっと近場な観光で、新たに判明した新たな事実がある。それは、私の体が思いのほか硬かったという事実。どこでわかったか。もちろん、股のぞきの展望台で、股のぞきをしようとした時だ。
「イタタタッ」
のぞこうとした時に、思わず口からそんな言葉が飛び出した。膝の裏側のスジが、こんなに存在を主張するなんてメッタにないことだから、その痛さに自分でも驚いた。
「なんでその程度で痛いのさ」
修ちゃんは平気な顔して股のぞきをして、さらにはその姿勢のまま、デジカメで写真を撮っている。
「だって普段の生活で、こんな状態になることなんてないじゃない。まさか、自分でもこんなに硬いとは思わなかった」
それに、この石の台に乗って頭を逆さまにするのは思った以上に怖い。もともとここは見晴らしの良い場所で、台の上に立つと、眼下に広がる松林と海岸線がしっかりと見渡せる。高いところがあまり好きではない私にとっては、なかなかスリルのある姿勢だった。
「もー、体力も体の柔らかさも修ちゃんに負けてるなんて……」
「そりゃあ、俺達はそれなりに訓練で体を動かしてるからねえ」
そう言いながら、修ちゃんはなぜか私にカメラを向けた。
「ちょっと! なんでこっちにカメラを向けるの?!」
「股のぞきに来たんだから、それをやってる写真を撮らなくてどうするのさ」
「わざわざ、変な顔になってるところを撮ることないじゃない」
慌てて体を起こしたものだから、引っ繰り返りそうになる。
「そういう写真を撮るのが観光の醍醐味だろ?」
そのまま倒れそうになった私を支えながら、修ちゃんが笑った。
「逆さまになって真っ赤な顔になってるとこなんて、撮られたくないですー」
「だからこそ面白いのに」
「面白くてもイヤなものはイヤなの」
「変顔でも、まこっちゃん、可愛いのに」
「修ちゃん、それ、ぜんっぜんフォローになってない。あんまりしつこく言うと、唐揚げやめちゃうからね」
「なんだかやっぱり、あつかいが軽い気がする」
「どこが!」
朝からガッツリなエロ魔人のくせにと、ブツブツ言ってみる。だけど、こんな風に言い合いができるのも今日まで。明日はもう連休の最終日だ。修ちゃんは当直で夕方からの出勤だから、私は昼過ぎの電車で帰る予定にしている。
―― あっという間に終わっちゃうなあ…… ――
次に修ちゃんと出かけることができるのは、お盆休みの予定だ。それも、何事もなければという条件つき。そんなことを考えたら、帰るのがイヤになってきた。
「わかった」
「なにが?」
私があれこれ考えていると、修ちゃんがうなづく。
「まこっちゃんが、朝から俺がガッツリしたのを怒ってるのはわかった。だったら明日は朝はゆっくり寝かせてあげるよ。そのかわり、今夜は夜更かしな?」
「はい?」
「連休ラストだし、乗る電車の時間はチェックしてあるから駅に送っていくし、乗りそこねる心配ないから安心して良いよ」
「あのう、修ちゃん?」
夜更かしって……それって結局、ガッツリするってことでは?
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