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ある年のGW
第三十話 ある年のGW 3
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部屋に入ると、あいかわらず感心してしまうぐらい、どこもかしこもきちんと整理整頓がされていた。修ちゃん曰く、元から片づけ上手だったわけではなく、防大に通っている四年間で、習慣づけられたものなんだとか。それを聞いて思った。私は絶対に自衛官にはなれない、と。
「じゃあ、風呂の用意してくるから。まこっちゃん、いつもの引き出しを空けてあるから、そこに着替えとか入れておくといいよ」
「うん、ありがとー」
ベッドのある部屋に入ると、カバンの中から着替えを出して、修ちゃんが言っていたタンスの引き出しを開けた。そこは私が来た時に、着替えなどを入れさせてもらっているスペース。今回はちょっと長めのせいか、普段はタオルや色々なものが入っている場所もあけてくれてあった。入っていたのはハンガーが一個だけ。どうやらこれは、いま着ている服をかけておけということらしい。
「修ちゃーん、ここ、全部使っても良いのー?」
「良いよ。一箇所にまとめて入れられるようにって、他のは移動させたんだから」
「サンキュー」
着替えを入れ、空っぽになったバッグも折りたたんでその横に放りこむ。化粧品の入ったポーチを含めて、入れるスペースがピッタリで驚いたというか感動した。
「わお、ピッタリで笑える」
もしかして修ちゃんは、私が持ってくるものがわかっていたのでは?と思うぐらい、ピッタリしたおさまり具合だった。
「よっこらせっと」
片づけたところで、一息つきたくてベッドに座った。時計を見ると、普段ならネットをしながら猫達とゴロゴロしている時間だった。意識しているわけではなかったけれど、体は正直だ。ゴロンと横になる。
―― このまま寝ちゃえそう…… ――
だけど寝てしまうとアイスが食べられない。ここはがんばって目をあけておかないと。だけど……。
―― ちょっとぐらい目を閉じても大丈夫だよね。睡眠欲より食欲のほうが勝ってるほうだし…… ――
「まこっちゃん?」
お風呂場から戻ってきた修ちゃんが、枕を抱き締めながらゴロゴロしている私を見下ろして、おかしそうに笑った。
「大丈夫。夜更かしはできなくても、アイス食べるまで寝ないから」
「その割には目を閉じてるじゃないか」
「だからー、閉じてるだけー」
修ちゃんは私の足元に座ると、お尻を軽くポンポンとたたく。
「やっぱり疲れてるんだろ? だから無理して来なくても良かったのに」
「だけどせっかく長い連休なんだもん、少しでも一緒にいたいじゃない?」
「そりゃそうだけどさ、疲れてたら元も子もないだろ? もう寝落ちする寸前じゃないか。そのままの状態で風呂に入ったら、まちがいなくおぼれちゃうぞ?」
そう言いながら、なぜかヒザに手を置き、そこをギュッとつかんできた。
「!! い、いったーい!!」
あまりの痛さに睡魔が吹き飛ぶ。
「うぎゃあ! 修ちゃん、そこ痛い! ちょっと! なんでそんなとこ、つかむかな?! そこ、なんとか三里とかいって、超痛いとこ!!」
修ちゃんがつかんでいるのは、祖母曰く「足三里」と呼ばれる場所だった。ツボの一つで、痛さでちゃんと思い出せないけれど、ほぼ何でもに効くツボと言われているらしい。
「あ、やっぱり痛いんだ、ここ」
そう言いながら、つかむ手に力を入れる修ちゃん。
「痛いに決まってるでしょ! 修ちゃん、自分の手の力、わかってない!」
「あー、テレビで言ってたこと本当なんだ。ここはツボであると同時に、急所ってのはあながち間違ってないのか、なるほど」
ふむふむと真面目な顔して、さらに力をこめてくるからたまったものではない。
「もしかしてこれは、自衛隊で流行ってる、新手の拷問というやつ?!」
「まさか」
「まったくもう! 修ちゃんてば、会うたびに変なことばかり覚えてる!!」
「それってなんて自衛隊に対する風評被害」
呑気に笑っているけれど笑いごとじゃない。こっちは本気で痛いんだから!!
「でも目は覚めただろ? おぼれたら困るから、目が覚めるようにしてあげたんだけど。俺って優しいよね。ここ、テレビでは、疲労回復のツボだって言ってたぞ?」
「だから痛いんだってばーーーっ!! やめろーっ!!」
疲労が改善されるとか、眠気が吹き飛ぶとかそういう次元の問題ではなく、マジで痛くてこっちは涙目だ。ツボやらなにやら、いろいろと役立つことを覚えてくれるのは良いけれど、それを私で試すのは勘弁してほしい。
「もー、こういうのはね! 自分で試すとか、頑丈な吉永君とか小松君で試してよ!」
ちなみに、吉永君、小松君というのは、修ちゃんの下についている三等海曹君達だ。見た目が厳つくて色黒なせいで、とても私達より年下には見えない子達。とにかく頑丈そうなので、この手のことはすべて彼等にお任せしたいというのが、私の正直な気持ちだ。
「疲労回復どころか、もう残り少ないヒットポイントが、今のツボ攻撃で完全にゼロになった! 元気ちょうだい、アイス食べたい!」
「夜更かしは?」
「元気の回復具合にもよる! 今の状態は限りなく元気ゼロに近いから、夜更かしなんて絶対に無理だからね! それどころかマイナスだし!」
「しかたないなあ……だったらこっちにおいで。アイス、出してあげるから」
「うん」
私の嬉しそうな返事に、立ち上がった修ちゃんは、ちょっとだけ胡散臭げな顔をした。
「本当にゼロ?」
「ゼロどころかマイナス」
修ちゃんの問いかけに、真面目な顔をしてうなづいてみせる。
「本当に?」
「ほんとだってば。マイナスになったのは、修ちゃんのせいなんだからね」
「ふーん、まあ、そういうことにしておいてあげるか」
「本当にマイナスなんだってば」
しかもつかまれたところはまだ痛い。これは、明日になったらアザになっているかもしれない。
「はいはい、アイス食べて少しは元気になると良いねえ」
「嘘だと思ってるでしょ?」
「そんなことないよー」
「なんだか口調が、棒読みっぽいんだけど!」
「気のせい気のせい」
「今の絶対に棒読みーーっ!!」
アイスを食べて満足した私は、少しだけヒットポイントが回復した気分になった。なのでそのままお風呂に入ることにする。湯船につかりながら、修ちゃんにつかまれたヒザを見れば、案の定アザになりつつあった。
「もー……やっぱりアザになってるじゃないー……」
「どうかした?」
お風呂場の前にいた修ちゃんが声をかけてきた。
「さっきのせいで足にアザができた!!」
「マジ?」
「マジです! 見てよこれ!」
修ちゃんがお風呂場に顔をのぞかせたので、ヒザを湯船から出してみせる。
「おやまあ」
「おやまあじゃないよ。しばらくツボ禁止!」
「せっかくまこっちゃんのために、肩こりと腰痛のツボも覚えたんだけどなあ」
「それもダメ! 禁止!」
下手をすると、連休が終わるまでにアザだらけにされそうだ。回復よりダメージのほうが大きそうなので、今回は禁止にさせてもらうことにした。
+++++
「まこっちゃん?」
「んー?」
「寝ちゃった?」
「半分ー」
お風呂から出て髪の毛を乾かすと、そのままベッドに寝っ転がった。色々と話したいこともあったから、修ちゃんがお風呂から出てくるまではと頑張ってはいたけれど、アイスとお風呂だけでは、体力の完全回復は無理だったようだ。気がついたら、そこに置いてあったパジャマを抱き枕にして、ウトウトしてしまっていた。
「まこっちゃん」
「なによう」
「いいかげん、俺のパジャマを返して」
「やだ。これは私の抱き枕だから、修ちゃんは別のを着て」
「なんでだよ」
修ちゃんのにおいがするパジャマは、ちょっとしたライナスの毛布状態だ。
「まこっちゃん」
「だからなによう」
「パジャマはあきらめるから、チューしていい?」
「チュウ?」
片目を開けると、眼鏡をはずしていたせいでボンヤリした景色の向こうから、修ちゃんがこっちをのぞき込んでいるのがわかった。
「もー……おとなしく寝なさいって言ってるのに」
「一回チューしてから」
「ほんとに?」
「うん」
「絶対?」
「絶対」
「……じゃあ一回だけ」
そう返事をして仰向けになると、修ちゃんのほうに両手を差し伸べた。修ちゃんはパジャマを横にどけて、私を抱きしめる。
「一回だけだよ?」
「わかってるって」
そう言いながら唇が合わさって、口の中に歯みがき粉のミントの味が広がった。
「……」
……
「……?」
いつもと比べて長いキスに、ん?となる。たしかに一回はOKしたけれど、こんなに長い一回は一回とは言えないのでは?と思わないでもない。
「修ちゃ……んーっ」
長すぎって言おうとしたのに、文字通り口をふさがれて言葉にならない。しばらくして、修ちゃんが笑ったような気配がした。
「パジャマ、おとなしく返しておけば、こんなことにはならなかったのにね、まこっちゃん」
「言っていることが悪人ぽくて笑えないよ、修ちゃん」
私がボソッと抗議すると、ニッと笑った。
「じゃあ、エッチも一回だけで今夜は我慢するから」
「チューだけだって約束はー?」
「チューは一回だけで終わってるから、そこは嘘じゃないだろ?」
「寝るって……」
「俺は寝るとは言ってないよ?」
さっきの会話を思い起こしてみる。たしかに修ちゃんは、一言も寝るとは言ってない。だけどあの会話の流れからしたら、一回チューしたら寝るってことじゃないの?
「なんかズルい……」
「これも作戦」
「こんな作戦なんて、絶対に反則だと思うけど」
「最初にまこっちゃんがパジャマをおとなくし返してくれていたら、俺だってそれを着てさっさと寝たんぞ?」
修ちゃんは、すました顔でそう言った。
「つまり私のせいだって言いたいの?」
「そういうこと」
「うっそだあ……」
「とにかく、俺のことを早く寝かせたいなら、おとなしく従ってください」
「なんでやねーん!」
思わず、大阪の芸人さんみたいなツッコミが口から飛び出した。
「じゃあ、風呂の用意してくるから。まこっちゃん、いつもの引き出しを空けてあるから、そこに着替えとか入れておくといいよ」
「うん、ありがとー」
ベッドのある部屋に入ると、カバンの中から着替えを出して、修ちゃんが言っていたタンスの引き出しを開けた。そこは私が来た時に、着替えなどを入れさせてもらっているスペース。今回はちょっと長めのせいか、普段はタオルや色々なものが入っている場所もあけてくれてあった。入っていたのはハンガーが一個だけ。どうやらこれは、いま着ている服をかけておけということらしい。
「修ちゃーん、ここ、全部使っても良いのー?」
「良いよ。一箇所にまとめて入れられるようにって、他のは移動させたんだから」
「サンキュー」
着替えを入れ、空っぽになったバッグも折りたたんでその横に放りこむ。化粧品の入ったポーチを含めて、入れるスペースがピッタリで驚いたというか感動した。
「わお、ピッタリで笑える」
もしかして修ちゃんは、私が持ってくるものがわかっていたのでは?と思うぐらい、ピッタリしたおさまり具合だった。
「よっこらせっと」
片づけたところで、一息つきたくてベッドに座った。時計を見ると、普段ならネットをしながら猫達とゴロゴロしている時間だった。意識しているわけではなかったけれど、体は正直だ。ゴロンと横になる。
―― このまま寝ちゃえそう…… ――
だけど寝てしまうとアイスが食べられない。ここはがんばって目をあけておかないと。だけど……。
―― ちょっとぐらい目を閉じても大丈夫だよね。睡眠欲より食欲のほうが勝ってるほうだし…… ――
「まこっちゃん?」
お風呂場から戻ってきた修ちゃんが、枕を抱き締めながらゴロゴロしている私を見下ろして、おかしそうに笑った。
「大丈夫。夜更かしはできなくても、アイス食べるまで寝ないから」
「その割には目を閉じてるじゃないか」
「だからー、閉じてるだけー」
修ちゃんは私の足元に座ると、お尻を軽くポンポンとたたく。
「やっぱり疲れてるんだろ? だから無理して来なくても良かったのに」
「だけどせっかく長い連休なんだもん、少しでも一緒にいたいじゃない?」
「そりゃそうだけどさ、疲れてたら元も子もないだろ? もう寝落ちする寸前じゃないか。そのままの状態で風呂に入ったら、まちがいなくおぼれちゃうぞ?」
そう言いながら、なぜかヒザに手を置き、そこをギュッとつかんできた。
「!! い、いったーい!!」
あまりの痛さに睡魔が吹き飛ぶ。
「うぎゃあ! 修ちゃん、そこ痛い! ちょっと! なんでそんなとこ、つかむかな?! そこ、なんとか三里とかいって、超痛いとこ!!」
修ちゃんがつかんでいるのは、祖母曰く「足三里」と呼ばれる場所だった。ツボの一つで、痛さでちゃんと思い出せないけれど、ほぼ何でもに効くツボと言われているらしい。
「あ、やっぱり痛いんだ、ここ」
そう言いながら、つかむ手に力を入れる修ちゃん。
「痛いに決まってるでしょ! 修ちゃん、自分の手の力、わかってない!」
「あー、テレビで言ってたこと本当なんだ。ここはツボであると同時に、急所ってのはあながち間違ってないのか、なるほど」
ふむふむと真面目な顔して、さらに力をこめてくるからたまったものではない。
「もしかしてこれは、自衛隊で流行ってる、新手の拷問というやつ?!」
「まさか」
「まったくもう! 修ちゃんてば、会うたびに変なことばかり覚えてる!!」
「それってなんて自衛隊に対する風評被害」
呑気に笑っているけれど笑いごとじゃない。こっちは本気で痛いんだから!!
「でも目は覚めただろ? おぼれたら困るから、目が覚めるようにしてあげたんだけど。俺って優しいよね。ここ、テレビでは、疲労回復のツボだって言ってたぞ?」
「だから痛いんだってばーーーっ!! やめろーっ!!」
疲労が改善されるとか、眠気が吹き飛ぶとかそういう次元の問題ではなく、マジで痛くてこっちは涙目だ。ツボやらなにやら、いろいろと役立つことを覚えてくれるのは良いけれど、それを私で試すのは勘弁してほしい。
「もー、こういうのはね! 自分で試すとか、頑丈な吉永君とか小松君で試してよ!」
ちなみに、吉永君、小松君というのは、修ちゃんの下についている三等海曹君達だ。見た目が厳つくて色黒なせいで、とても私達より年下には見えない子達。とにかく頑丈そうなので、この手のことはすべて彼等にお任せしたいというのが、私の正直な気持ちだ。
「疲労回復どころか、もう残り少ないヒットポイントが、今のツボ攻撃で完全にゼロになった! 元気ちょうだい、アイス食べたい!」
「夜更かしは?」
「元気の回復具合にもよる! 今の状態は限りなく元気ゼロに近いから、夜更かしなんて絶対に無理だからね! それどころかマイナスだし!」
「しかたないなあ……だったらこっちにおいで。アイス、出してあげるから」
「うん」
私の嬉しそうな返事に、立ち上がった修ちゃんは、ちょっとだけ胡散臭げな顔をした。
「本当にゼロ?」
「ゼロどころかマイナス」
修ちゃんの問いかけに、真面目な顔をしてうなづいてみせる。
「本当に?」
「ほんとだってば。マイナスになったのは、修ちゃんのせいなんだからね」
「ふーん、まあ、そういうことにしておいてあげるか」
「本当にマイナスなんだってば」
しかもつかまれたところはまだ痛い。これは、明日になったらアザになっているかもしれない。
「はいはい、アイス食べて少しは元気になると良いねえ」
「嘘だと思ってるでしょ?」
「そんなことないよー」
「なんだか口調が、棒読みっぽいんだけど!」
「気のせい気のせい」
「今の絶対に棒読みーーっ!!」
アイスを食べて満足した私は、少しだけヒットポイントが回復した気分になった。なのでそのままお風呂に入ることにする。湯船につかりながら、修ちゃんにつかまれたヒザを見れば、案の定アザになりつつあった。
「もー……やっぱりアザになってるじゃないー……」
「どうかした?」
お風呂場の前にいた修ちゃんが声をかけてきた。
「さっきのせいで足にアザができた!!」
「マジ?」
「マジです! 見てよこれ!」
修ちゃんがお風呂場に顔をのぞかせたので、ヒザを湯船から出してみせる。
「おやまあ」
「おやまあじゃないよ。しばらくツボ禁止!」
「せっかくまこっちゃんのために、肩こりと腰痛のツボも覚えたんだけどなあ」
「それもダメ! 禁止!」
下手をすると、連休が終わるまでにアザだらけにされそうだ。回復よりダメージのほうが大きそうなので、今回は禁止にさせてもらうことにした。
+++++
「まこっちゃん?」
「んー?」
「寝ちゃった?」
「半分ー」
お風呂から出て髪の毛を乾かすと、そのままベッドに寝っ転がった。色々と話したいこともあったから、修ちゃんがお風呂から出てくるまではと頑張ってはいたけれど、アイスとお風呂だけでは、体力の完全回復は無理だったようだ。気がついたら、そこに置いてあったパジャマを抱き枕にして、ウトウトしてしまっていた。
「まこっちゃん」
「なによう」
「いいかげん、俺のパジャマを返して」
「やだ。これは私の抱き枕だから、修ちゃんは別のを着て」
「なんでだよ」
修ちゃんのにおいがするパジャマは、ちょっとしたライナスの毛布状態だ。
「まこっちゃん」
「だからなによう」
「パジャマはあきらめるから、チューしていい?」
「チュウ?」
片目を開けると、眼鏡をはずしていたせいでボンヤリした景色の向こうから、修ちゃんがこっちをのぞき込んでいるのがわかった。
「もー……おとなしく寝なさいって言ってるのに」
「一回チューしてから」
「ほんとに?」
「うん」
「絶対?」
「絶対」
「……じゃあ一回だけ」
そう返事をして仰向けになると、修ちゃんのほうに両手を差し伸べた。修ちゃんはパジャマを横にどけて、私を抱きしめる。
「一回だけだよ?」
「わかってるって」
そう言いながら唇が合わさって、口の中に歯みがき粉のミントの味が広がった。
「……」
……
「……?」
いつもと比べて長いキスに、ん?となる。たしかに一回はOKしたけれど、こんなに長い一回は一回とは言えないのでは?と思わないでもない。
「修ちゃ……んーっ」
長すぎって言おうとしたのに、文字通り口をふさがれて言葉にならない。しばらくして、修ちゃんが笑ったような気配がした。
「パジャマ、おとなしく返しておけば、こんなことにはならなかったのにね、まこっちゃん」
「言っていることが悪人ぽくて笑えないよ、修ちゃん」
私がボソッと抗議すると、ニッと笑った。
「じゃあ、エッチも一回だけで今夜は我慢するから」
「チューだけだって約束はー?」
「チューは一回だけで終わってるから、そこは嘘じゃないだろ?」
「寝るって……」
「俺は寝るとは言ってないよ?」
さっきの会話を思い起こしてみる。たしかに修ちゃんは、一言も寝るとは言ってない。だけどあの会話の流れからしたら、一回チューしたら寝るってことじゃないの?
「なんかズルい……」
「これも作戦」
「こんな作戦なんて、絶対に反則だと思うけど」
「最初にまこっちゃんがパジャマをおとなくし返してくれていたら、俺だってそれを着てさっさと寝たんぞ?」
修ちゃんは、すました顔でそう言った。
「つまり私のせいだって言いたいの?」
「そういうこと」
「うっそだあ……」
「とにかく、俺のことを早く寝かせたいなら、おとなしく従ってください」
「なんでやねーん!」
思わず、大阪の芸人さんみたいなツッコミが口から飛び出した。
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