26 / 55
幼なじみから旦那様に
第二十六話 数年後の二人
しおりを挟む
「ヒノキ、ヤナギ、今日は修ちゃんが帰ってくる日だよ」
猫砂の掃除をしながら、私の横でちんまりと座っている二匹に声をかけた。ヒノキとヤナギは、私が自分達のトイレをきちんと掃除しているか、見張っているらしかった。そして掃除が終わったとたん、トイレに入っておしっこをする態勢に入った。
「ちょっと、なんで掃除をしてからするの? するなら掃除をする前にしてよー」
シャーという音がして、二匹がそれぞれのトイレで用を足す。いつもなら砂をかけるのに、私がスコップとゴミ袋を持っているのがわかっているせいか、そのままにしてトイレから出た。
「もー、砂ぐらいかけなよ、二人とも!」
二匹はやる気のない声で鳴いて返事をする。
「まったく……どんどん変な知恵をつけてくんだから」
スコップで砂をすくってゴミ袋に入れた。
ピンポーン
ドアチャイムの音が鳴って、ヒノキとヤナギが飛び上がった。この音が鳴るといつもこんな調子だ。きっと私達が思っている以上に、猫達にとってドアチャイムの音は衝撃的なんだろう。きっと今頃は、マツ、タケ、ウメも飛び上がってウロウロし始めているに違いない。
「ほーら、修ちゃんが帰ってきたよ、お迎えしなきゃね」
猫砂の入ったゴミ袋を専用のゴミ箱に放りこむと、玄関に急いだ。私達が玄関に顔を出すと、制服姿の修ちゃんが、ドアを閉めているところだった。手には大きな荷物が二つ。一つは紙袋のようだ。
「修ちゃん、おかえり!」
「ただいま」
「制服のままで帰ってくるなんて珍しいね」
いつもなら私服で帰ってくるのに、今日は制服のままだ。
「当直の引き継ぎでちょっと問題があって、ギリギリまで艦に残ってたんだ。着替える時間ももったいないからさ、そのままで帰ってきた」
「そうだったの。お疲れ様。ってことは、洗濯する時間もなかったんだよね」
「あたり。持って帰ってきたから、洗濯をたのめる?」
そう言って、靴を脱いであがりながら紙袋を差し出した。中には衣服がギッシリと詰め込まれている。ただ、整理整頓がしっかり身についているせいか、詰め込まれてはいたものの、きちんとたたまれているようだ。
「旦那さん、あんたは実に運がいい。洗濯機、新品のすげーヤツが今日の夕方に来たばかりなんだよ」
ゲームに出てくる武器屋の商人みたいな口調で言うと、修ちゃんは愉快そうな顔をした。
「あー、とうとう壊れちゃったか、前のヤツ」
「お亡くなりになりました。しかも毛布を洗ってる時にだよ。もうどうしようかと思った」
「ずいぶん頑張ってくれてたのに、最後の最後でか」
洗いかけの毛布相手に奮闘した私としては、できることなら洗い終わるまで、なんとか持ちこたえてほしかったというのが本音だった。
「てなわけで、修ちゃんの洗濯物が洗い初めってことになるね」
紙袋を受け取ろうと手をのばすと、なぜか修ちゃんがそれを遠ざけた。
「ちょっと、洗濯、するんだよね?」
「するよ。だけどその前に、ちゃんとただいまとおかえりをないと」
「ただいまって言ってたじゃん? 私もおかえりって言ったよね?」
「そうじゃなくて」
その場に荷物を置くと、修ちゃんが私を引き寄せて抱きしめる。そしてキスをした。
「帰ったらまずは、ただいまのキスとおかえりのキスをするのが我が家の決まり、だろ?」
顔をあげるとニカッと笑う。修ちゃんが帰ってきたら、ちゃんとお帰りのキスをする。そんなことを決めた覚えはなんてないのに、いつの間にかそれは、我が家の決まりごとになってしまっていた。
「もー、こんなところ、絶対に部下の人達に見せられないよね? 幹部様の威厳はどこへ?」
「幹部と言ってもまだ下っ端だから、威厳もクソもないよ」
笑いながら足元の荷物を手にすると、私の肩を抱く。廊下を歩く途中で、ヒノキとヤナギが声をあげた。すっかり存在を忘れられてご立腹のようだ。私達を見あげながらニャーニャー鳴くと、修ちゃんのズボンに遠慮がちに前足をかける。
「ああ、ごめんごめん。ヒノキ、ヤナギ、留守番ご苦労さん。元気にしてたか? 俺の顔、ちゃんと覚えてくれてるか?」
「ヒノキもヤナギも賢いから、大丈夫だよねえ?」
「だけど、まこっちゃんみたいに毎日ってわけじゃないから、帰ってきたら警戒されないかっていつも心配だよ」
「大丈夫だよ、うちの猫達はみんな賢いから。ほら、来た」
かすかに床を爪がこする音がして、マツ達が顔をだした。三匹も修ちゃんを囲んで、ニャーニャーと鳴き声をあげる。
「ほらね。みんな、ちゃーんと修ちゃんのこと覚えているから安心して?」
「そうか。マツ、タケ、ウメ、ただいま。お義母さんとお婆ちゃんには明日、挨拶をするから。それで良いよな?」
「うん。それで良いよ。遅くなりそうだからって、お母さんとお婆ちゃんにもそう言っておいたから」
猫達を引き連れて寝室に向かう。
「夕飯の用意できてるよ? それとも制服を脱ぐついでにお風呂はいる?」
「んー……そうだな、まずはまこっちゃんを食べたいかな」
「え」
修ちゃんの笑みが少しだけ黒いものになった。
「制服のままってことは、途中でご飯、食べてきてないよね? お腹すいてない?」
「すいてるよ。だから、まこっちゃんを食べる」
「まずはお風呂にはいって、次にご飯を食べるって選択肢はどうかな?」
「風呂、一緒に入ってくれるなら妥協する」
「えー?」
どのへんが妥協なのかサッパリだ。
「そうでなかったらこのまますぐベッドに直行で食べちゃうよ?」
「……一緒に入る」
「よろしい」
だけど私は修ちゃんの空腹度を甘く見ていた。
+++
お風呂から出ると案の定、私はフラフラになっていた。のぼせたわけではなく、これはすべて横でニヤニヤしている修ちゃんのせいだ。居間に行くと、お気に入りのソファに倒れこむ。
「もうやだぁ、修ちゃんてば手加減なさすぎる」
「そんなこと言ったって、久し振りに帰ってきたんだからしかたないだろ? 帰ってくるまで、ずっとまこっちゃん不足だったんだから」
「にしても激しすぎる~~、もうご飯の用意しなおす体力ないよ……」
「俺は適当に食べるから、まこっちゃんはそこで休んでれば良いよ。夜はまだ長いんだから」
その言葉にギョッとなった。
「無理! これ以上は絶対に無理だからね!!」
「明日、休みなんだろ? ゆっくりしたら良いじゃないか」
修ちゃんのニヤニヤした表情が、悪人のニヤニヤ顔になる。
「修ちゃん、帰ってきたら腕時計の電池、交換しに行こうって話してたよね?!」
「うんうん、行けたらな♪」
冷蔵庫から出してきた缶ビールをパコンと開けながら、ニヤニヤ笑っている修ちゃん。あの顔は絶対に出かけるつもりが無い顔だ。もうこの二日間の連休を、どうするか決めてるって顔をしている。
「わーん、行く気、全然ないでしょ~?!」
「まこっちゃんの体力しだい♪」
「うっそだぁぁぁぁ!!」
絶対に嘘だ。体力があったら、それが尽きるまでベッドでなにかしようと思っている顔だ。そこは間違いない! どうしてまるまる二日間、休みが重なってしまったのだろう。いつもなら嬉しいのに、今回ばかりは恨めしく感じてしまう私だった。
「ひーん、修ちゃんのいじわる! エロ魔人!!」
「なに言ってるんだよ、俺が誘えば喜んで抱かれてるくせに」
「ぎゃー、そんなこと言うなあ!!」
「だって事実だし」
「ぎゃー、だまれーー!!」
+++++
そして気が付けば次の日、お日様はすでに頭の真上にあったわけで。
「ありえない……」
私は目を覚まして真っ先にそう声をあげた。久し振りのことで足も腰もガクガクで、体の奥には違和感がありまくりだ。なんとか起き上がってパジャマのまま居間に出ていくと、修ちゃんはヒノキとヤナギとならんでソファに座り、テレビを見ていた。私がソファに近づくと、ニヤニヤしながら振り返る。
「おはよう、っていうにはもう日がかなり高いけどな」
「誰のせい?!」
「さあ?」
わざとらしく首をかしげる。洗濯機を回してくれているのは評価する。だけど、やりすぎは良くないデス!!
「修ちゃん! そんなにヒマそうにしてるなら、猫砂を買ってきて!!」
「それは命令ですか、奥様?」
「命令です!」
「了解しました。藤原二等海尉、猫砂を買いに行ってまいります」
立ち上がると、わざとらしく敬礼をする。
久し振りの休暇なのだから、のんびりとすごしたいと思っているだろうけど、これぐらいは奥様権限で命令しても良いと思う。自転車のカギを持って出ていく修ちゃんの背中を、ため息まじりに見送った。
「まったくもう……休みのたびにこれじゃあ、こっちの身がもたないよ……」
あきれた気分半分、腹立たしい気分半分。洗濯機が止まったことを知らせる音が鳴ったので、そんな微妙な気分のまま、洗濯物を干すことにした。
「ただいま、まこっちゃん。今日はペット関係の商品、10%引きだってさ」
洗濯物が干し終わる頃に戻ってきた修ちゃんは上機嫌だった。猫砂5袋とマツ達のカリカリが5箱。とても自転車に一度に乗る量じゃない。もしかして往復でもした?
「修ちゃん、めちゃくちゃあるけど、自転車で往復したの?」
「いや。自転車で行こうと思ったんだけどさ、もしかしたらって予感がして車で行ってきた。どうせならもっと買えば良かったかな。ああ、閉店までにもう一度ぐらい買いに行っても良いか。ん? なんだよ、まこっちゃん」
「え? ううん、なんでもない。猫砂は重たいから助かったなーって」
罰を罰と感じていないところがなんともムカつく。だけど、重たい猫砂をこれだけ買ってきてくれたことに対しては、感謝しかない。うん。修ちゃんは本当によくできた旦那様だ。たまに腹が立つこともあるけれど。
「だろ? 俺って本当に気のきく旦那さんだよな?」
「うん」
「だろー?」
私は修ちゃんの言葉にうなづいた。
「だったらさ、まこっちゃん、ご褒美ください」
「ドウシテソウイウ思考ニナルンデスカ」
油断大敵とはまさにこのこと。うっかりうなづいてしまったのがまずかった。
「洗濯物は干してくれたんだね。助かったよ」
「ナニガドウ助カッタンデスカ」
「そりゃ、洗濯機の中で放置するのは良くないだろ? シワになるし、生乾きでくさくなるし」
真面目な顔をしてもっともらしいことを言っているけれど、修ちゃんの魂胆はお見通しだ。
「あのさ、修ちゃん……」
「二人そろって休みで良かったよな、まこっちゃん♪」
「…………」
…………とにかく、やり過ぎは良くないデス。ええ、本当に。
猫砂の掃除をしながら、私の横でちんまりと座っている二匹に声をかけた。ヒノキとヤナギは、私が自分達のトイレをきちんと掃除しているか、見張っているらしかった。そして掃除が終わったとたん、トイレに入っておしっこをする態勢に入った。
「ちょっと、なんで掃除をしてからするの? するなら掃除をする前にしてよー」
シャーという音がして、二匹がそれぞれのトイレで用を足す。いつもなら砂をかけるのに、私がスコップとゴミ袋を持っているのがわかっているせいか、そのままにしてトイレから出た。
「もー、砂ぐらいかけなよ、二人とも!」
二匹はやる気のない声で鳴いて返事をする。
「まったく……どんどん変な知恵をつけてくんだから」
スコップで砂をすくってゴミ袋に入れた。
ピンポーン
ドアチャイムの音が鳴って、ヒノキとヤナギが飛び上がった。この音が鳴るといつもこんな調子だ。きっと私達が思っている以上に、猫達にとってドアチャイムの音は衝撃的なんだろう。きっと今頃は、マツ、タケ、ウメも飛び上がってウロウロし始めているに違いない。
「ほーら、修ちゃんが帰ってきたよ、お迎えしなきゃね」
猫砂の入ったゴミ袋を専用のゴミ箱に放りこむと、玄関に急いだ。私達が玄関に顔を出すと、制服姿の修ちゃんが、ドアを閉めているところだった。手には大きな荷物が二つ。一つは紙袋のようだ。
「修ちゃん、おかえり!」
「ただいま」
「制服のままで帰ってくるなんて珍しいね」
いつもなら私服で帰ってくるのに、今日は制服のままだ。
「当直の引き継ぎでちょっと問題があって、ギリギリまで艦に残ってたんだ。着替える時間ももったいないからさ、そのままで帰ってきた」
「そうだったの。お疲れ様。ってことは、洗濯する時間もなかったんだよね」
「あたり。持って帰ってきたから、洗濯をたのめる?」
そう言って、靴を脱いであがりながら紙袋を差し出した。中には衣服がギッシリと詰め込まれている。ただ、整理整頓がしっかり身についているせいか、詰め込まれてはいたものの、きちんとたたまれているようだ。
「旦那さん、あんたは実に運がいい。洗濯機、新品のすげーヤツが今日の夕方に来たばかりなんだよ」
ゲームに出てくる武器屋の商人みたいな口調で言うと、修ちゃんは愉快そうな顔をした。
「あー、とうとう壊れちゃったか、前のヤツ」
「お亡くなりになりました。しかも毛布を洗ってる時にだよ。もうどうしようかと思った」
「ずいぶん頑張ってくれてたのに、最後の最後でか」
洗いかけの毛布相手に奮闘した私としては、できることなら洗い終わるまで、なんとか持ちこたえてほしかったというのが本音だった。
「てなわけで、修ちゃんの洗濯物が洗い初めってことになるね」
紙袋を受け取ろうと手をのばすと、なぜか修ちゃんがそれを遠ざけた。
「ちょっと、洗濯、するんだよね?」
「するよ。だけどその前に、ちゃんとただいまとおかえりをないと」
「ただいまって言ってたじゃん? 私もおかえりって言ったよね?」
「そうじゃなくて」
その場に荷物を置くと、修ちゃんが私を引き寄せて抱きしめる。そしてキスをした。
「帰ったらまずは、ただいまのキスとおかえりのキスをするのが我が家の決まり、だろ?」
顔をあげるとニカッと笑う。修ちゃんが帰ってきたら、ちゃんとお帰りのキスをする。そんなことを決めた覚えはなんてないのに、いつの間にかそれは、我が家の決まりごとになってしまっていた。
「もー、こんなところ、絶対に部下の人達に見せられないよね? 幹部様の威厳はどこへ?」
「幹部と言ってもまだ下っ端だから、威厳もクソもないよ」
笑いながら足元の荷物を手にすると、私の肩を抱く。廊下を歩く途中で、ヒノキとヤナギが声をあげた。すっかり存在を忘れられてご立腹のようだ。私達を見あげながらニャーニャー鳴くと、修ちゃんのズボンに遠慮がちに前足をかける。
「ああ、ごめんごめん。ヒノキ、ヤナギ、留守番ご苦労さん。元気にしてたか? 俺の顔、ちゃんと覚えてくれてるか?」
「ヒノキもヤナギも賢いから、大丈夫だよねえ?」
「だけど、まこっちゃんみたいに毎日ってわけじゃないから、帰ってきたら警戒されないかっていつも心配だよ」
「大丈夫だよ、うちの猫達はみんな賢いから。ほら、来た」
かすかに床を爪がこする音がして、マツ達が顔をだした。三匹も修ちゃんを囲んで、ニャーニャーと鳴き声をあげる。
「ほらね。みんな、ちゃーんと修ちゃんのこと覚えているから安心して?」
「そうか。マツ、タケ、ウメ、ただいま。お義母さんとお婆ちゃんには明日、挨拶をするから。それで良いよな?」
「うん。それで良いよ。遅くなりそうだからって、お母さんとお婆ちゃんにもそう言っておいたから」
猫達を引き連れて寝室に向かう。
「夕飯の用意できてるよ? それとも制服を脱ぐついでにお風呂はいる?」
「んー……そうだな、まずはまこっちゃんを食べたいかな」
「え」
修ちゃんの笑みが少しだけ黒いものになった。
「制服のままってことは、途中でご飯、食べてきてないよね? お腹すいてない?」
「すいてるよ。だから、まこっちゃんを食べる」
「まずはお風呂にはいって、次にご飯を食べるって選択肢はどうかな?」
「風呂、一緒に入ってくれるなら妥協する」
「えー?」
どのへんが妥協なのかサッパリだ。
「そうでなかったらこのまますぐベッドに直行で食べちゃうよ?」
「……一緒に入る」
「よろしい」
だけど私は修ちゃんの空腹度を甘く見ていた。
+++
お風呂から出ると案の定、私はフラフラになっていた。のぼせたわけではなく、これはすべて横でニヤニヤしている修ちゃんのせいだ。居間に行くと、お気に入りのソファに倒れこむ。
「もうやだぁ、修ちゃんてば手加減なさすぎる」
「そんなこと言ったって、久し振りに帰ってきたんだからしかたないだろ? 帰ってくるまで、ずっとまこっちゃん不足だったんだから」
「にしても激しすぎる~~、もうご飯の用意しなおす体力ないよ……」
「俺は適当に食べるから、まこっちゃんはそこで休んでれば良いよ。夜はまだ長いんだから」
その言葉にギョッとなった。
「無理! これ以上は絶対に無理だからね!!」
「明日、休みなんだろ? ゆっくりしたら良いじゃないか」
修ちゃんのニヤニヤした表情が、悪人のニヤニヤ顔になる。
「修ちゃん、帰ってきたら腕時計の電池、交換しに行こうって話してたよね?!」
「うんうん、行けたらな♪」
冷蔵庫から出してきた缶ビールをパコンと開けながら、ニヤニヤ笑っている修ちゃん。あの顔は絶対に出かけるつもりが無い顔だ。もうこの二日間の連休を、どうするか決めてるって顔をしている。
「わーん、行く気、全然ないでしょ~?!」
「まこっちゃんの体力しだい♪」
「うっそだぁぁぁぁ!!」
絶対に嘘だ。体力があったら、それが尽きるまでベッドでなにかしようと思っている顔だ。そこは間違いない! どうしてまるまる二日間、休みが重なってしまったのだろう。いつもなら嬉しいのに、今回ばかりは恨めしく感じてしまう私だった。
「ひーん、修ちゃんのいじわる! エロ魔人!!」
「なに言ってるんだよ、俺が誘えば喜んで抱かれてるくせに」
「ぎゃー、そんなこと言うなあ!!」
「だって事実だし」
「ぎゃー、だまれーー!!」
+++++
そして気が付けば次の日、お日様はすでに頭の真上にあったわけで。
「ありえない……」
私は目を覚まして真っ先にそう声をあげた。久し振りのことで足も腰もガクガクで、体の奥には違和感がありまくりだ。なんとか起き上がってパジャマのまま居間に出ていくと、修ちゃんはヒノキとヤナギとならんでソファに座り、テレビを見ていた。私がソファに近づくと、ニヤニヤしながら振り返る。
「おはよう、っていうにはもう日がかなり高いけどな」
「誰のせい?!」
「さあ?」
わざとらしく首をかしげる。洗濯機を回してくれているのは評価する。だけど、やりすぎは良くないデス!!
「修ちゃん! そんなにヒマそうにしてるなら、猫砂を買ってきて!!」
「それは命令ですか、奥様?」
「命令です!」
「了解しました。藤原二等海尉、猫砂を買いに行ってまいります」
立ち上がると、わざとらしく敬礼をする。
久し振りの休暇なのだから、のんびりとすごしたいと思っているだろうけど、これぐらいは奥様権限で命令しても良いと思う。自転車のカギを持って出ていく修ちゃんの背中を、ため息まじりに見送った。
「まったくもう……休みのたびにこれじゃあ、こっちの身がもたないよ……」
あきれた気分半分、腹立たしい気分半分。洗濯機が止まったことを知らせる音が鳴ったので、そんな微妙な気分のまま、洗濯物を干すことにした。
「ただいま、まこっちゃん。今日はペット関係の商品、10%引きだってさ」
洗濯物が干し終わる頃に戻ってきた修ちゃんは上機嫌だった。猫砂5袋とマツ達のカリカリが5箱。とても自転車に一度に乗る量じゃない。もしかして往復でもした?
「修ちゃん、めちゃくちゃあるけど、自転車で往復したの?」
「いや。自転車で行こうと思ったんだけどさ、もしかしたらって予感がして車で行ってきた。どうせならもっと買えば良かったかな。ああ、閉店までにもう一度ぐらい買いに行っても良いか。ん? なんだよ、まこっちゃん」
「え? ううん、なんでもない。猫砂は重たいから助かったなーって」
罰を罰と感じていないところがなんともムカつく。だけど、重たい猫砂をこれだけ買ってきてくれたことに対しては、感謝しかない。うん。修ちゃんは本当によくできた旦那様だ。たまに腹が立つこともあるけれど。
「だろ? 俺って本当に気のきく旦那さんだよな?」
「うん」
「だろー?」
私は修ちゃんの言葉にうなづいた。
「だったらさ、まこっちゃん、ご褒美ください」
「ドウシテソウイウ思考ニナルンデスカ」
油断大敵とはまさにこのこと。うっかりうなづいてしまったのがまずかった。
「洗濯物は干してくれたんだね。助かったよ」
「ナニガドウ助カッタンデスカ」
「そりゃ、洗濯機の中で放置するのは良くないだろ? シワになるし、生乾きでくさくなるし」
真面目な顔をしてもっともらしいことを言っているけれど、修ちゃんの魂胆はお見通しだ。
「あのさ、修ちゃん……」
「二人そろって休みで良かったよな、まこっちゃん♪」
「…………」
…………とにかく、やり過ぎは良くないデス。ええ、本当に。
30
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
いちいちやらかす僕の妻
月山 歩
恋愛
いつも大切なところで失敗してしまうコーデリアは男性に好かれない。けれども、木から落ちそうなところを助けてくれた男性と知り合い結婚する。変な二人でもピッタリな相手と知り合えたらハッピーというほのぼのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる