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幼なじみから旦那様に
第二十四話 幼なじみから旦那様に 4
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写真撮影をする部屋に移動していた時、何人かのお客さん達とすれ違った。その人達は私達の姿を見ると、目を丸くして立ち止まっていた。
「今すれ違った人達、修ちゃんのこと見てたよ」
「そう? 俺はまこっちゃんのことを見てたと思ったけどな」
「ううん、絶対に修ちゃんだった。だって、目がハート型になってたもん」
そう言うと、修ちゃんは顔をしかめる。
「なんでだよ。今の人、どう若く見積もっても、おばさんより年上だろ?」
「制服五割増し効果に年齢は関係ないんだよ」
「そんなことないだろー」
「ねえ、お姉ちゃん、年齢なんて関係ないよね?」
私達の前を歩いている姉に声をかけた。
「そうねえ、二人とも黙ってたら、美男美女の末席には入ることができるかも」
「え、なんなの、それ。私の話とぜんぜん関係ないじゃん」
「真琴と修ちゃんは、相変わらず仲良しだなってことよ」
手をひらひらさせながら歩く姉の口調からして、どう考えてもほめられているとは思えない。
「なんかムカつくんですけど」
「ほらほら、そんな顔しない。せっかくの綺麗な花嫁姿が台無しじゃないの。それと足元に気をつけて。そこ、カーペットの下にコードが走ってて段になってる」
「え、なに? うおっ?!」
なにかにつまずいてつんのめる。慌てて修ちゃんの腕につかまった。
「だから気をつけてって言ったのに」
「もうちょっと早く言ってよね! ちょっと修ちゃん、笑いすぎ」
私の手をつかみながら、肩を震わせている修ちゃんをにらむ。
「いや、だって……まこっちゃん、いま、すっげー顔したから」
その場で肩を震わせていた修ちゃんは、とうとう声を出して笑い出した。
「転ばなくてよかったよ、すっごい顔してたけど」
「ちょっとー、だからって、そんなに笑うことないじゃん?」
「だって、まこっちゃんの顔ときたら……っ」
ヒーヒー笑いながらも、私も腕をとったまま歩き出す修ちゃん。
「もー、笑いすぎ!! お姉ちゃん、なんとか言ってよ!」
「真琴が転ばないように支えてくれたんだから、そのぐらいの笑いは許してあげたら? それと、どんな顔してたか見たかった。見れなくてざんねーん」
「もー、お姉ちゃんまで! ちょっと修ちゃん、涙流して笑うことないんじゃない? 笑うのストップ!」
腕をゲンコツでたたく。
「だってさあ、ひひっ」
「ひひっ、じゃない!」
さらにゲンコツでたたいた。
「ある意味、安心したんだよ。いつもとぜんぜん雰囲気違うし、別人みたいだからさ。でも転びそうになった時の顔と声で、やっぱりまこっちゃんだって安心した」
「あまり良い意味には思えないんだけどねえ、その言い方」
「いやいや、俺はいつものまこっちゃんが一番好きなんだからさ、良い意味なんだって」
「そうかなあ……」
「ほら、二人で惚気てないでさっさと歩く。カメラマンさんは次の撮影があって忙しいんだからね」
「惚気てなんていないのに……」
ブツブツと文句を言いながら、姉を追いかけて歩く。その間も修ちゃんは、腕をしっかりつかんで支えてくれていた。
「どうせ見えないんだからさ、裸足で歩けば良かったかな」
「そんなことしたら、さっきのころでつま先をぶつけて、それどころじゃなくなってたんじゃ?」
「はー……もう二度とこんなかっこうしない」
「えー……俺はまた見たいけどな」
「ぜーったいイヤ」
撮影用の部屋に入ると、年配のカメラマンさんが待機していた。金屏風みたいなものがあり、その前には三脚つきのカメラやライト、それからなにに使うかわからない衛星放送のアンテナみたいなものがある。
「なにこれ? アンテナ?」
「フラッシュじゃ?」
「へえ……」
カメラの前に立つと、スタッフのお姉さんが私のドレスの裾を整えてくれた。それから修ちゃんにも、白い手袋をどういう風に持つかとか、どんなふうに立つかなどをアドバイスしてくれる。姉はカメラマンさんの横で、ファインダーをのぞきこんでいた。
「どうです? こんな感じで?」
お姉さんが姉に声をかける。
「そうねえ。なんとなく妹のおでこがてかってるかしら」
「え?!」
思わず自分のおでこに手をやる。
「ああ、待って待って。ちゃんとパウダーをはたくから、さわらないで」
お姉さんが、持ってきたメイク道具の箱からパウダーのケースを出して、私の額を軽くはたいてくれた。
「どうですか?」
「おっけー。じゃあメガネをはずしてくれる? あと修ちゃんの帽子がちょっとゆがんでるかな」
「あー、ちょっと待ってくださいねー。歩いている間にズレたみたいですね」
お姉さんは私がかけていたメガネをとると、移動して修ちゃんの前に立つ。そして制帽の位置をすこしだけいじる。
「さっき笑いすぎたからだよ、きっと」
私がボソッとつぶやくと、お姉さんがクスッと笑った。
「じゃあ、まずはポラロイドで最初の一枚を撮ってみますね。はい、いきますよ、ここを見てー」
カメラマンさんが手にしたカメラで一枚目を撮った。カメラの下から分厚いメモのようなものを引っ張りだす。それを「どうぞ」と言いながら姉に渡した。姉はそれを受け取ると、私達のほうへと歩いてくる。
「さて、思ってたような写真が撮れているかしらねー」
真っ白だった場所が徐々に色づいてきた。しばらくすると私と修ちゃんの姿が浮かび上がってくる。
「あの、見えないのでメガネくださーい」
「はいはーい」
お姉さんからメガネを受け取ってかけた。
「うん、なかなかいい感じね。真琴、次からは心持ちあごを引いたほうが良いわね」
「こんな感じ?」
「うん。修ちゃんはこっちがわの肩を意識してさげて。たぶん利き腕だからこっちが上がり気味になってると思う」
「わかった」
姉の指示にしたがった私達を見て満足したらしく、その場でうなづく。
「オッケーです。これで本番いってください」
「わかりました。何枚か撮りますね。お二人は緊張せずに肩の力を抜いて。今までで一番の美男美女のお客さんですね、素敵な写真が撮れそうですよ」
メガネをお姉さんに渡すと、お姉さんは私の鼻のところを軽くパフでたたく。そしてもう一度、私達の前で服の確認をすると、ファインダーに写りこまない位置まで遠ざかった。
「では一枚目いきますねー。ここを見てくださーい」
+++
カメラマンさんの提案で、私がイスに座ったパターンの写真も何枚か撮った。撮影しながらカメラマンさんが話してくれたところによると、最近のブライダルフォトは、こういうスタジオだけではなく、野外の色々な場所に出かけて撮るものもあるらしい。今回は時間がなくてそれはできなかったけれど、もしその気になったら声をかけてくださいとのことだった。
「あのカメラマンのおじいちゃん、なかなかの営業トークが上手だったね」
「亀の甲より年の功ってやつかな」
「撮っている間も、ぜんぜん退屈じゃなかった」
気がついたら、あっという間に時間が経っていたのには本当に驚いた。
「たしかに。飽きっぽいまこっちゃんが、まったく退屈しなかったのはすごいかも」
「なんでそこが判断基準なの」
「だって事実だろ?」
控室に戻り、ドレスと制服を脱いで自分達の服に着替え終わった私達は、用意してもらっていたお茶を飲みながら姉を待っていた。記念写真とは別に、修ちゃんが持っていくことができるようにと、写真の現像をしてくれているらしい。
「食事会の時の家族写真も、あのおじいちゃんが撮ってくれると良いね」
「だね」
そこへ姉が戻ってきた。
「はい、これ。二人用の写真ね」
「ありがとー」
「記念写真仕様にするのはちょっと時間がかかるの。食事会の時にはお父さん達にも渡せると思うから、それは修ちゃんと真琴で持っておきなさい」
「うん、そうする。ありがとう」
封筒に入っている写真を確認する。
「すごーい、やっぱりプロの人が撮るとぜんぜん違うんだね」
「そりゃあ、人によっては一生に一度の大切な写真だから。それでお金もとっているんだし」
「そう言えば修ちゃん、ここ、すごくあっさりしてるね」
そう言いながら、修ちゃんの制服の左胸のところを指さした。防大の卒業式に来ていた偉い人達のここには、カラフルなものやキラキラしたものが色々とついていた。だけど修ちゃんの制服にはほとんどなにもついていない。
「徽章や記念章のことなら、続けていくうちに増えていくんだよ」
「そっか。どんなのが増えるか、今から楽しみ」
どんなものがどんなふうに増えていくのだろう。ちょっとだけ楽しみだ。
「それで? いまから区役所に行ってくるの?」
姉が質問をしてきた。
「そのつもりって言いたいところだけど、修ちゃん、私、先にお昼ご飯食べたい」
「そう言うと思った」
「だって、まさかここまで時間がかかるとは思わなかったんだもん」
撮影中は退屈しなかったけれど、時間がかかったのは事実だ。そして私のお腹は非常に正直だった。
「わかったわかった。空腹のまま区役所に行ったらそこで暴れそうだもんな。昼飯を先に食ってから行こうか」
「うん!」
「ああ、そうだ、修ちゃん、これ渡しておく」
そう言って、姉がパンフレットらしきものと自分の名刺を修ちゃんに渡した。
「私の紹介って言えば、私達が作ってもらった時の担当さんが出てきてくれるから」
「なになに? あ、ジュエリーメーカーのパンフだ」
パンフレットは百貨店にも入っているメーカーのパンフレットだった。
「身内だけの食事会ですますにしても、結婚指輪は必要でしょ? 修ちゃんが出発する日には間に合わないけれど、年末年始ぐらいは帰ってこれるんでしょ? その時まで真琴があずかってれば良いし」
「なにからなにまでありがとう、お姉ちゃん」
「可愛い妹と義弟のためですからね。ま、本当のことを言うと、私達の時はさっぱり手順がわからなくて右往左往したのよ。だから」
「お姉ちゃんでも右往左往するんだ……」
いつもなんでも器用にこなしている姉だったから、そんな話は意外だった。
「するわよ。真琴達には見えないところでだけどね。真琴、お腹の虫がすごい声で鳴いてる。胃が共食いしなうちに行ったほうが良さそう」
グーグーいってる私のお腹を見おろして姉が笑った。
「どんな指輪にしたか、後で教えてね」
「うん。今日はありがとう!」
「どういたしまして」
私と修ちゃんは、姉に見送られ、ホテルを後にした。
「今すれ違った人達、修ちゃんのこと見てたよ」
「そう? 俺はまこっちゃんのことを見てたと思ったけどな」
「ううん、絶対に修ちゃんだった。だって、目がハート型になってたもん」
そう言うと、修ちゃんは顔をしかめる。
「なんでだよ。今の人、どう若く見積もっても、おばさんより年上だろ?」
「制服五割増し効果に年齢は関係ないんだよ」
「そんなことないだろー」
「ねえ、お姉ちゃん、年齢なんて関係ないよね?」
私達の前を歩いている姉に声をかけた。
「そうねえ、二人とも黙ってたら、美男美女の末席には入ることができるかも」
「え、なんなの、それ。私の話とぜんぜん関係ないじゃん」
「真琴と修ちゃんは、相変わらず仲良しだなってことよ」
手をひらひらさせながら歩く姉の口調からして、どう考えてもほめられているとは思えない。
「なんかムカつくんですけど」
「ほらほら、そんな顔しない。せっかくの綺麗な花嫁姿が台無しじゃないの。それと足元に気をつけて。そこ、カーペットの下にコードが走ってて段になってる」
「え、なに? うおっ?!」
なにかにつまずいてつんのめる。慌てて修ちゃんの腕につかまった。
「だから気をつけてって言ったのに」
「もうちょっと早く言ってよね! ちょっと修ちゃん、笑いすぎ」
私の手をつかみながら、肩を震わせている修ちゃんをにらむ。
「いや、だって……まこっちゃん、いま、すっげー顔したから」
その場で肩を震わせていた修ちゃんは、とうとう声を出して笑い出した。
「転ばなくてよかったよ、すっごい顔してたけど」
「ちょっとー、だからって、そんなに笑うことないじゃん?」
「だって、まこっちゃんの顔ときたら……っ」
ヒーヒー笑いながらも、私も腕をとったまま歩き出す修ちゃん。
「もー、笑いすぎ!! お姉ちゃん、なんとか言ってよ!」
「真琴が転ばないように支えてくれたんだから、そのぐらいの笑いは許してあげたら? それと、どんな顔してたか見たかった。見れなくてざんねーん」
「もー、お姉ちゃんまで! ちょっと修ちゃん、涙流して笑うことないんじゃない? 笑うのストップ!」
腕をゲンコツでたたく。
「だってさあ、ひひっ」
「ひひっ、じゃない!」
さらにゲンコツでたたいた。
「ある意味、安心したんだよ。いつもとぜんぜん雰囲気違うし、別人みたいだからさ。でも転びそうになった時の顔と声で、やっぱりまこっちゃんだって安心した」
「あまり良い意味には思えないんだけどねえ、その言い方」
「いやいや、俺はいつものまこっちゃんが一番好きなんだからさ、良い意味なんだって」
「そうかなあ……」
「ほら、二人で惚気てないでさっさと歩く。カメラマンさんは次の撮影があって忙しいんだからね」
「惚気てなんていないのに……」
ブツブツと文句を言いながら、姉を追いかけて歩く。その間も修ちゃんは、腕をしっかりつかんで支えてくれていた。
「どうせ見えないんだからさ、裸足で歩けば良かったかな」
「そんなことしたら、さっきのころでつま先をぶつけて、それどころじゃなくなってたんじゃ?」
「はー……もう二度とこんなかっこうしない」
「えー……俺はまた見たいけどな」
「ぜーったいイヤ」
撮影用の部屋に入ると、年配のカメラマンさんが待機していた。金屏風みたいなものがあり、その前には三脚つきのカメラやライト、それからなにに使うかわからない衛星放送のアンテナみたいなものがある。
「なにこれ? アンテナ?」
「フラッシュじゃ?」
「へえ……」
カメラの前に立つと、スタッフのお姉さんが私のドレスの裾を整えてくれた。それから修ちゃんにも、白い手袋をどういう風に持つかとか、どんなふうに立つかなどをアドバイスしてくれる。姉はカメラマンさんの横で、ファインダーをのぞきこんでいた。
「どうです? こんな感じで?」
お姉さんが姉に声をかける。
「そうねえ。なんとなく妹のおでこがてかってるかしら」
「え?!」
思わず自分のおでこに手をやる。
「ああ、待って待って。ちゃんとパウダーをはたくから、さわらないで」
お姉さんが、持ってきたメイク道具の箱からパウダーのケースを出して、私の額を軽くはたいてくれた。
「どうですか?」
「おっけー。じゃあメガネをはずしてくれる? あと修ちゃんの帽子がちょっとゆがんでるかな」
「あー、ちょっと待ってくださいねー。歩いている間にズレたみたいですね」
お姉さんは私がかけていたメガネをとると、移動して修ちゃんの前に立つ。そして制帽の位置をすこしだけいじる。
「さっき笑いすぎたからだよ、きっと」
私がボソッとつぶやくと、お姉さんがクスッと笑った。
「じゃあ、まずはポラロイドで最初の一枚を撮ってみますね。はい、いきますよ、ここを見てー」
カメラマンさんが手にしたカメラで一枚目を撮った。カメラの下から分厚いメモのようなものを引っ張りだす。それを「どうぞ」と言いながら姉に渡した。姉はそれを受け取ると、私達のほうへと歩いてくる。
「さて、思ってたような写真が撮れているかしらねー」
真っ白だった場所が徐々に色づいてきた。しばらくすると私と修ちゃんの姿が浮かび上がってくる。
「あの、見えないのでメガネくださーい」
「はいはーい」
お姉さんからメガネを受け取ってかけた。
「うん、なかなかいい感じね。真琴、次からは心持ちあごを引いたほうが良いわね」
「こんな感じ?」
「うん。修ちゃんはこっちがわの肩を意識してさげて。たぶん利き腕だからこっちが上がり気味になってると思う」
「わかった」
姉の指示にしたがった私達を見て満足したらしく、その場でうなづく。
「オッケーです。これで本番いってください」
「わかりました。何枚か撮りますね。お二人は緊張せずに肩の力を抜いて。今までで一番の美男美女のお客さんですね、素敵な写真が撮れそうですよ」
メガネをお姉さんに渡すと、お姉さんは私の鼻のところを軽くパフでたたく。そしてもう一度、私達の前で服の確認をすると、ファインダーに写りこまない位置まで遠ざかった。
「では一枚目いきますねー。ここを見てくださーい」
+++
カメラマンさんの提案で、私がイスに座ったパターンの写真も何枚か撮った。撮影しながらカメラマンさんが話してくれたところによると、最近のブライダルフォトは、こういうスタジオだけではなく、野外の色々な場所に出かけて撮るものもあるらしい。今回は時間がなくてそれはできなかったけれど、もしその気になったら声をかけてくださいとのことだった。
「あのカメラマンのおじいちゃん、なかなかの営業トークが上手だったね」
「亀の甲より年の功ってやつかな」
「撮っている間も、ぜんぜん退屈じゃなかった」
気がついたら、あっという間に時間が経っていたのには本当に驚いた。
「たしかに。飽きっぽいまこっちゃんが、まったく退屈しなかったのはすごいかも」
「なんでそこが判断基準なの」
「だって事実だろ?」
控室に戻り、ドレスと制服を脱いで自分達の服に着替え終わった私達は、用意してもらっていたお茶を飲みながら姉を待っていた。記念写真とは別に、修ちゃんが持っていくことができるようにと、写真の現像をしてくれているらしい。
「食事会の時の家族写真も、あのおじいちゃんが撮ってくれると良いね」
「だね」
そこへ姉が戻ってきた。
「はい、これ。二人用の写真ね」
「ありがとー」
「記念写真仕様にするのはちょっと時間がかかるの。食事会の時にはお父さん達にも渡せると思うから、それは修ちゃんと真琴で持っておきなさい」
「うん、そうする。ありがとう」
封筒に入っている写真を確認する。
「すごーい、やっぱりプロの人が撮るとぜんぜん違うんだね」
「そりゃあ、人によっては一生に一度の大切な写真だから。それでお金もとっているんだし」
「そう言えば修ちゃん、ここ、すごくあっさりしてるね」
そう言いながら、修ちゃんの制服の左胸のところを指さした。防大の卒業式に来ていた偉い人達のここには、カラフルなものやキラキラしたものが色々とついていた。だけど修ちゃんの制服にはほとんどなにもついていない。
「徽章や記念章のことなら、続けていくうちに増えていくんだよ」
「そっか。どんなのが増えるか、今から楽しみ」
どんなものがどんなふうに増えていくのだろう。ちょっとだけ楽しみだ。
「それで? いまから区役所に行ってくるの?」
姉が質問をしてきた。
「そのつもりって言いたいところだけど、修ちゃん、私、先にお昼ご飯食べたい」
「そう言うと思った」
「だって、まさかここまで時間がかかるとは思わなかったんだもん」
撮影中は退屈しなかったけれど、時間がかかったのは事実だ。そして私のお腹は非常に正直だった。
「わかったわかった。空腹のまま区役所に行ったらそこで暴れそうだもんな。昼飯を先に食ってから行こうか」
「うん!」
「ああ、そうだ、修ちゃん、これ渡しておく」
そう言って、姉がパンフレットらしきものと自分の名刺を修ちゃんに渡した。
「私の紹介って言えば、私達が作ってもらった時の担当さんが出てきてくれるから」
「なになに? あ、ジュエリーメーカーのパンフだ」
パンフレットは百貨店にも入っているメーカーのパンフレットだった。
「身内だけの食事会ですますにしても、結婚指輪は必要でしょ? 修ちゃんが出発する日には間に合わないけれど、年末年始ぐらいは帰ってこれるんでしょ? その時まで真琴があずかってれば良いし」
「なにからなにまでありがとう、お姉ちゃん」
「可愛い妹と義弟のためですからね。ま、本当のことを言うと、私達の時はさっぱり手順がわからなくて右往左往したのよ。だから」
「お姉ちゃんでも右往左往するんだ……」
いつもなんでも器用にこなしている姉だったから、そんな話は意外だった。
「するわよ。真琴達には見えないところでだけどね。真琴、お腹の虫がすごい声で鳴いてる。胃が共食いしなうちに行ったほうが良さそう」
グーグーいってる私のお腹を見おろして姉が笑った。
「どんな指輪にしたか、後で教えてね」
「うん。今日はありがとう!」
「どういたしまして」
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