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本編
第三十九話 ただいま遠距離中 夏期休暇 その4
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二尉の御実家にうかがった時に、霧島二佐と安住さん、そして香取二佐の話をしたら森永家の皆さんは盛大に笑い出した。皆が驚いていないところが私にとっては衝撃的だ。
「笑いごとじゃありませんよ、スパイ映画じゃないんですから。知らない間に二尉のお知り合いと接触していて、情報筒抜けだなんて恐ろしすぎます」
「音無がおとなしくしていたら、筒抜けになったとしても困ることは何も無いだろ」
「そういう問題じゃないです!」
お父さんは呆れた奴らだなあと言いながら笑っている。真面目な顔をして黙っていると、怖そうでうちの父親といい勝負の熊具合なんだけど、こんな風に笑うと結構可愛らしということが判明した。うん、このポイントでうちの父熊は負けたかもしれない。
「まったくあいつらと来たら相変わらずだな。春先には会えるのに、どうして待てなかったのやら」
「安住さんは昔から、任務以外では自分の欲望に正直だものね。私の時もそうだったみたいなの。この人が皆に紹介する前に、一人でこっそり私のことを探りに来たんですって」
お母さんが楽しそうに笑った。お母さんも同じような目に遭っていたということは、これはもしかしてS部隊のお家芸の一つなんだろうか? そして退官してかなり経つお父さんの影響力が未だに残っていて、息子のところまでその影響力が及んでいるとか。それはそれで恐ろしいことだ……。
「なんだか気がついたら周りが関係者だらけでビックリです」
「まだまだ音無が知らないだけで関係者は山のようにいるからな。油断して駐屯地で暴れ回るなよ、すぐにこっちに伝わってくるから」
「何でですか、前に練馬には知り合いはいないって言ってませんでしたか?」
「去年まではな」
「なんだって?!」
なにシレッと言ってるんだか! こうなったら意地でも関係者を炙り出してやる!!
「その物騒な顔はやめろ。何を考えているか丸分かりだぞ? だが俺の知り合いは、目の前でふんぞりかえっている御大含めて、何故か一癖どころか十癖ぐらいある人間ばかりだ。音無に探し出せるとは思えないんだけどな」
「ぜーったいに炙り出す!! 何が何でも炙り出す!!」
そして余計な情報を二尉に流したら鍋蓋の刑だ。ますます炙り出してやるという決意がみなぎってきた!!
「じゃあ結果は俺達の結婚式の日まで楽しみ取っておこう」
「受けて立ちます!!」
「なんだか楽しそう」
「俺はふんぞりかえってないぞ」
お母さんが何故か羨ましそうな顔で私達を眺めた。そしてその横ではお父さんが、二尉に向かって俺はふんぞりかえってないぞと文句を言っている。
「呑気に羨ましがっている場合じゃないわよ、お母さん。それとお父さんも他人事みたいな顔で話さないでよね」
お茶の用意を買って出てくれた友里さんが、溜め息まじりにお茶とお菓子をトレーに乗せてリビングに戻って来た。そしてテーブルの上にトレーを置いて御両親の方を軽く睨む。そして私達を見て再び大きな溜め息をついた。
「はああああ、まさか両親に続いて弟にまで、惚気で砂吐きをさせられることになるだなんて。絶対に森永家は呪われてる」
「なに言ってるの。友里だって素敵な彼氏さんがいて青春満喫中じゃない?」
お母さんは知ってるんですからねと言っているのに対して、お父さんがそうなのか?と若干慌てた顔をしているのが何とも愉快だ。
「私は人様の前で惚気たりしませんー! それに私の彼氏も真綿で私のことを包みこむような暑苦しいことをする人じゃありませんー!」
「あの、私達も別に惚気てるわけじゃありませんよ、今のだって真面目な真剣勝負ですから」
友里さんはまじまじと私の顔を三分ぐらい黙って見つめ続け、駄目だこりゃと言いながら三度目の大きな溜め息をついた。そして首を振りながらカップにお茶を注ぎ始める。
「まさか美景さんが無自覚なうちの母と同類だとは……人は見かけによらない」
「言っとくが俺は親父みたいに、音無のことを真綿で包むようなことはしてないからな」
「おい」
「信吾さんは真綿でなんて包んでないわよ、私達は普通に仲良し夫婦なだけなんですからね。ねえ、信吾さん?」
「……」
「二尉は真綿どころか亀の子だわしですよ」
「なんでたわしなんだ」
「絶対に森永家は呪われている……航がいなくて良かった、こんなところに同席したら絶対に毒されちゃうわ」
それぞれ四人で友里さんの言葉に意を唱えたけれど、友里さんの表情からして、その反論はまったく聞き入れてもらえていないようだった。
+++
「せっかく皆がそろったんだから晩ご飯も食べていけば良いのに」
夕方になって三尉と私はお暇することにした。本当は航君にも会っていきたかったんだけど、夏季講習が終わったらお友達と晩御飯を食べてから帰ってくるそうだ。
「いや、俺達は帰るよ。なんでもこの料理人殿は、ホテル滞在中にルームサービスのメニューを網羅したくて仕方がないらしいから」
「あの、お言葉ですが、私は好きで網羅しようとしているわけじゃないんですが」
そう言ってからしまったと思った。これじゃあ二人でずっと部屋に籠っていますって白状したのと同じじゃない。まったくこの口ときたら!! だけど玄関までお見送りしてくれた御両親はそのことについては何も言わず、じゃあ次に遊びに来た時は皆で何処かで食事をしましょうと提案してくれた。
……あ、でも何となくお父さんの口元が変に歪んでいるところみると、お父さんに限って言えば気づかれているような気はする。
「私達と美景さんはこれからも何度か会う機会があるけど、渉と次にこうやって顔を合わせるのは下手したら年度末になるのかしらね。体は気をつけるのよ? もう一人じゃないんだから」
「分かってる。まあ休暇が取れるようならまたこっちに出てくるから。じゃあ」
「お邪魔しました。次の休みの予定が分かったら直ぐにお知らせしますね」
次に私とお母さんが顔を合わせるのは、結婚式のドレスを選びに行く時になる。うまく休みが合えば友里さんも同行する予定で、うちの母親も含めて女性陣四人でのお出かけになる予定だ。
+++++
「これで、今回の休暇でしなければならないことはほぼやり終えたな」
「ほぼってなんですか、ほぼって」
なんとも含みのある言い方で嫌な予感しかしない。予感どころか、何のことを言っているのかもうお分かりですね?状態だ。
「そりゃそうだろ。俺は満足してないんだぞ? おい、だからその顔はやめろって」
私の顔を見た二尉は笑いながら私の鼻をつまんできた。
「だってそんな気分ですからね。休暇の意味、分かってないでしょ? 休暇を二尉とすごすたびに、疲れ果てる私のことを少しは心配するとか労うとかないんですか?」
「自衛官は日々精進なんだろ?」
この言葉は絶対に一昨日の私が行った言葉に対する仕返しだ。
「どう精進しろと」
「毎日励んで鍛える」
「……」
何を毎日励むのかなんて尋ねる気にもなれない。
「だいたい今度の休暇までに四ヶ月あったんだ、その間に鍛えられるだろ?」
「無理です。二尉の体力についていくだけの体力強化なんて、絶対に無理だから」
そもそも婚約者と休暇をすごすのに、体力強化が必要だなんてどう考えてもおかしいでしょ。
「情けないな、そんなことじゃ世界最強の料理人にはなれないぞ、音無」
「……なれなくても構わない気がしてきた」
そして何処か寄ろうという私の意見はことごとく却下されてホテルに直帰。結婚して一緒に暮らすようになれば、好きなだけ二人で出掛けられるだろと言われても、説得力皆無なのは何故なのか。
「今の二尉を見ていると、結婚しても向こう一年ぐらいは家と職場の往復だけで、一杯一杯になる気がしてきた」
「一年ですめば良いけどな」
服を脱がされバスルームに押し込まれながらぼやいたらそんな答えが返ってくるし、まったく前途多難な新婚生活になる予感しかしない。
お湯を体に浴びて汗を洗い流している途中で、二尉はいきなり私をくるりと自分の方に向かせて、腰をつかむと抱き上げた。そしてバスルームの壁に押しつけて、足の間に自分の膝を割り込ませる。
「ずり落ちないように俺の腰に足を巻きつけろ」
この顔つきからして、このまま大人しくベッドに連れて行ってくれる気はなさそうだ。
「せめてベッドに行ってからにしませんか、色々とアレだし」
無駄だとは思いつつも、とりあえずは提案をしてみる。
「ここまで我慢をさせておいて何がベッドだ、そんな言葉に俺が従うとでも? しかもアレってなんだ」
「我慢なんてしてないでしょ、会ったその日の夜から、しっかり四ヶ月の空白を取り戻す行動にでているくくせに。アレはアレですよ」
「四ヶ月分を埋めるにはまだ足りないのは、前の三ヶ月分を経験していれば分かるだろ? アレでは分からないって何度も言ってるだろ」
「分かりたくもありませんけどねー、アレはアレなんですよ」
確かにあの時も休暇の殆どを抱かれてすごしたような気はするけど……。
「あの時は足のことがあってこっちだって手加減していたんだ。今回はその手加減も必要ないよな? もう出掛ける予定もないことだし」
「ちょっと、あれで手加減したってなんですか」
「言葉通りの意味なんだが」
なんか恐ろしいこと言ってる。アレがどうのとか言っている場合ではなくなってきた。
私が二尉の言葉になかなか従おうとしないものだから、業を煮やしたのか強引に体を繋げてきた。硬いものが奥まで入り込んでくるのを感じで思わず息を呑んで二尉の体にしがみつくと、ニヤニヤしながら腰を動かす暴れん坊を睨んだ。
「本当に私が自衛官で良かったですよね! こんなこと毎度毎度続いていたら、普通の民間人だったら一日で寝込んじゃいますよ!」
「そうかな。うちの母親は親父と長いこと夫婦生活を続けてきたが、俺が覚えている限り一度もそんなことなかったぞ?」
「それはお父さんがちゃんと手加減をして、あっ、やっ、そこは駄目だったらっ」
体の奥深くを抉るような動きに逃れようと体を捩るけど壁と二尉に挟まれて動くことすらままならない。
「あの御大が手加減なんてすると思うか?」
「お、お父さんに向かって、なんてことをっ、だからそこは駄目なんだったらぁっ」
さらに強くなる動きに悲鳴に似た声が口から飛び出した。まったくこの超絶ドS男!!
「事実だからだよ。そのうち音無にも分かるさ、親父が母親を真綿で包んでいるのが、どんなことかって。俺は亀の子だわしなんだよな? なかなか大変そうだ」
「なにを他人事みたいな顔して呑気に笑ってるんですか!! まったくもう、なんでこんな暴れん坊を愛しちゃってるのか、さっぱり分からなくなってきた」
それまで私の中を激しく動いていたモノの動きがピタリと止まった。
「おい」
「なんですか!」
「いま何て言った?」
「なに他人事みたいな顔をして笑ってるんだって!」
「そこじゃない、その後だ」
「知りませんよ、二尉が立ったままで激しくするから忘れちゃいましたよ! ベッドに連れて行ってくれなければ思い出せないかも!」
途端に二尉の顔つきが不穏なものになる。
「じゃあここではさっさと終わらせて、第二ラウンドにとりかかるとしよう」
「ちょっと!!」
言葉通りにその場であっという間にいかされてしまった私を、二尉はしっかりとした足取りでベッドに運んだ。そしてベッドに私を投げ落とすと、すぐに覆いかぶさってきて再び体を繋げてくる。
「さて、時間はたっぷりある。ルームサービスを網羅したいなら、さっさと白状した方が良いぞ、音無」
「もう!! なんでこんな超絶ドSな暴れん坊を愛しちゃったのか分からなーい!!」
さっさと白状したのに、結局は離してもらえないのは何故なんだーーー!!
「笑いごとじゃありませんよ、スパイ映画じゃないんですから。知らない間に二尉のお知り合いと接触していて、情報筒抜けだなんて恐ろしすぎます」
「音無がおとなしくしていたら、筒抜けになったとしても困ることは何も無いだろ」
「そういう問題じゃないです!」
お父さんは呆れた奴らだなあと言いながら笑っている。真面目な顔をして黙っていると、怖そうでうちの父親といい勝負の熊具合なんだけど、こんな風に笑うと結構可愛らしということが判明した。うん、このポイントでうちの父熊は負けたかもしれない。
「まったくあいつらと来たら相変わらずだな。春先には会えるのに、どうして待てなかったのやら」
「安住さんは昔から、任務以外では自分の欲望に正直だものね。私の時もそうだったみたいなの。この人が皆に紹介する前に、一人でこっそり私のことを探りに来たんですって」
お母さんが楽しそうに笑った。お母さんも同じような目に遭っていたということは、これはもしかしてS部隊のお家芸の一つなんだろうか? そして退官してかなり経つお父さんの影響力が未だに残っていて、息子のところまでその影響力が及んでいるとか。それはそれで恐ろしいことだ……。
「なんだか気がついたら周りが関係者だらけでビックリです」
「まだまだ音無が知らないだけで関係者は山のようにいるからな。油断して駐屯地で暴れ回るなよ、すぐにこっちに伝わってくるから」
「何でですか、前に練馬には知り合いはいないって言ってませんでしたか?」
「去年まではな」
「なんだって?!」
なにシレッと言ってるんだか! こうなったら意地でも関係者を炙り出してやる!!
「その物騒な顔はやめろ。何を考えているか丸分かりだぞ? だが俺の知り合いは、目の前でふんぞりかえっている御大含めて、何故か一癖どころか十癖ぐらいある人間ばかりだ。音無に探し出せるとは思えないんだけどな」
「ぜーったいに炙り出す!! 何が何でも炙り出す!!」
そして余計な情報を二尉に流したら鍋蓋の刑だ。ますます炙り出してやるという決意がみなぎってきた!!
「じゃあ結果は俺達の結婚式の日まで楽しみ取っておこう」
「受けて立ちます!!」
「なんだか楽しそう」
「俺はふんぞりかえってないぞ」
お母さんが何故か羨ましそうな顔で私達を眺めた。そしてその横ではお父さんが、二尉に向かって俺はふんぞりかえってないぞと文句を言っている。
「呑気に羨ましがっている場合じゃないわよ、お母さん。それとお父さんも他人事みたいな顔で話さないでよね」
お茶の用意を買って出てくれた友里さんが、溜め息まじりにお茶とお菓子をトレーに乗せてリビングに戻って来た。そしてテーブルの上にトレーを置いて御両親の方を軽く睨む。そして私達を見て再び大きな溜め息をついた。
「はああああ、まさか両親に続いて弟にまで、惚気で砂吐きをさせられることになるだなんて。絶対に森永家は呪われてる」
「なに言ってるの。友里だって素敵な彼氏さんがいて青春満喫中じゃない?」
お母さんは知ってるんですからねと言っているのに対して、お父さんがそうなのか?と若干慌てた顔をしているのが何とも愉快だ。
「私は人様の前で惚気たりしませんー! それに私の彼氏も真綿で私のことを包みこむような暑苦しいことをする人じゃありませんー!」
「あの、私達も別に惚気てるわけじゃありませんよ、今のだって真面目な真剣勝負ですから」
友里さんはまじまじと私の顔を三分ぐらい黙って見つめ続け、駄目だこりゃと言いながら三度目の大きな溜め息をついた。そして首を振りながらカップにお茶を注ぎ始める。
「まさか美景さんが無自覚なうちの母と同類だとは……人は見かけによらない」
「言っとくが俺は親父みたいに、音無のことを真綿で包むようなことはしてないからな」
「おい」
「信吾さんは真綿でなんて包んでないわよ、私達は普通に仲良し夫婦なだけなんですからね。ねえ、信吾さん?」
「……」
「二尉は真綿どころか亀の子だわしですよ」
「なんでたわしなんだ」
「絶対に森永家は呪われている……航がいなくて良かった、こんなところに同席したら絶対に毒されちゃうわ」
それぞれ四人で友里さんの言葉に意を唱えたけれど、友里さんの表情からして、その反論はまったく聞き入れてもらえていないようだった。
+++
「せっかく皆がそろったんだから晩ご飯も食べていけば良いのに」
夕方になって三尉と私はお暇することにした。本当は航君にも会っていきたかったんだけど、夏季講習が終わったらお友達と晩御飯を食べてから帰ってくるそうだ。
「いや、俺達は帰るよ。なんでもこの料理人殿は、ホテル滞在中にルームサービスのメニューを網羅したくて仕方がないらしいから」
「あの、お言葉ですが、私は好きで網羅しようとしているわけじゃないんですが」
そう言ってからしまったと思った。これじゃあ二人でずっと部屋に籠っていますって白状したのと同じじゃない。まったくこの口ときたら!! だけど玄関までお見送りしてくれた御両親はそのことについては何も言わず、じゃあ次に遊びに来た時は皆で何処かで食事をしましょうと提案してくれた。
……あ、でも何となくお父さんの口元が変に歪んでいるところみると、お父さんに限って言えば気づかれているような気はする。
「私達と美景さんはこれからも何度か会う機会があるけど、渉と次にこうやって顔を合わせるのは下手したら年度末になるのかしらね。体は気をつけるのよ? もう一人じゃないんだから」
「分かってる。まあ休暇が取れるようならまたこっちに出てくるから。じゃあ」
「お邪魔しました。次の休みの予定が分かったら直ぐにお知らせしますね」
次に私とお母さんが顔を合わせるのは、結婚式のドレスを選びに行く時になる。うまく休みが合えば友里さんも同行する予定で、うちの母親も含めて女性陣四人でのお出かけになる予定だ。
+++++
「これで、今回の休暇でしなければならないことはほぼやり終えたな」
「ほぼってなんですか、ほぼって」
なんとも含みのある言い方で嫌な予感しかしない。予感どころか、何のことを言っているのかもうお分かりですね?状態だ。
「そりゃそうだろ。俺は満足してないんだぞ? おい、だからその顔はやめろって」
私の顔を見た二尉は笑いながら私の鼻をつまんできた。
「だってそんな気分ですからね。休暇の意味、分かってないでしょ? 休暇を二尉とすごすたびに、疲れ果てる私のことを少しは心配するとか労うとかないんですか?」
「自衛官は日々精進なんだろ?」
この言葉は絶対に一昨日の私が行った言葉に対する仕返しだ。
「どう精進しろと」
「毎日励んで鍛える」
「……」
何を毎日励むのかなんて尋ねる気にもなれない。
「だいたい今度の休暇までに四ヶ月あったんだ、その間に鍛えられるだろ?」
「無理です。二尉の体力についていくだけの体力強化なんて、絶対に無理だから」
そもそも婚約者と休暇をすごすのに、体力強化が必要だなんてどう考えてもおかしいでしょ。
「情けないな、そんなことじゃ世界最強の料理人にはなれないぞ、音無」
「……なれなくても構わない気がしてきた」
そして何処か寄ろうという私の意見はことごとく却下されてホテルに直帰。結婚して一緒に暮らすようになれば、好きなだけ二人で出掛けられるだろと言われても、説得力皆無なのは何故なのか。
「今の二尉を見ていると、結婚しても向こう一年ぐらいは家と職場の往復だけで、一杯一杯になる気がしてきた」
「一年ですめば良いけどな」
服を脱がされバスルームに押し込まれながらぼやいたらそんな答えが返ってくるし、まったく前途多難な新婚生活になる予感しかしない。
お湯を体に浴びて汗を洗い流している途中で、二尉はいきなり私をくるりと自分の方に向かせて、腰をつかむと抱き上げた。そしてバスルームの壁に押しつけて、足の間に自分の膝を割り込ませる。
「ずり落ちないように俺の腰に足を巻きつけろ」
この顔つきからして、このまま大人しくベッドに連れて行ってくれる気はなさそうだ。
「せめてベッドに行ってからにしませんか、色々とアレだし」
無駄だとは思いつつも、とりあえずは提案をしてみる。
「ここまで我慢をさせておいて何がベッドだ、そんな言葉に俺が従うとでも? しかもアレってなんだ」
「我慢なんてしてないでしょ、会ったその日の夜から、しっかり四ヶ月の空白を取り戻す行動にでているくくせに。アレはアレですよ」
「四ヶ月分を埋めるにはまだ足りないのは、前の三ヶ月分を経験していれば分かるだろ? アレでは分からないって何度も言ってるだろ」
「分かりたくもありませんけどねー、アレはアレなんですよ」
確かにあの時も休暇の殆どを抱かれてすごしたような気はするけど……。
「あの時は足のことがあってこっちだって手加減していたんだ。今回はその手加減も必要ないよな? もう出掛ける予定もないことだし」
「ちょっと、あれで手加減したってなんですか」
「言葉通りの意味なんだが」
なんか恐ろしいこと言ってる。アレがどうのとか言っている場合ではなくなってきた。
私が二尉の言葉になかなか従おうとしないものだから、業を煮やしたのか強引に体を繋げてきた。硬いものが奥まで入り込んでくるのを感じで思わず息を呑んで二尉の体にしがみつくと、ニヤニヤしながら腰を動かす暴れん坊を睨んだ。
「本当に私が自衛官で良かったですよね! こんなこと毎度毎度続いていたら、普通の民間人だったら一日で寝込んじゃいますよ!」
「そうかな。うちの母親は親父と長いこと夫婦生活を続けてきたが、俺が覚えている限り一度もそんなことなかったぞ?」
「それはお父さんがちゃんと手加減をして、あっ、やっ、そこは駄目だったらっ」
体の奥深くを抉るような動きに逃れようと体を捩るけど壁と二尉に挟まれて動くことすらままならない。
「あの御大が手加減なんてすると思うか?」
「お、お父さんに向かって、なんてことをっ、だからそこは駄目なんだったらぁっ」
さらに強くなる動きに悲鳴に似た声が口から飛び出した。まったくこの超絶ドS男!!
「事実だからだよ。そのうち音無にも分かるさ、親父が母親を真綿で包んでいるのが、どんなことかって。俺は亀の子だわしなんだよな? なかなか大変そうだ」
「なにを他人事みたいな顔して呑気に笑ってるんですか!! まったくもう、なんでこんな暴れん坊を愛しちゃってるのか、さっぱり分からなくなってきた」
それまで私の中を激しく動いていたモノの動きがピタリと止まった。
「おい」
「なんですか!」
「いま何て言った?」
「なに他人事みたいな顔をして笑ってるんだって!」
「そこじゃない、その後だ」
「知りませんよ、二尉が立ったままで激しくするから忘れちゃいましたよ! ベッドに連れて行ってくれなければ思い出せないかも!」
途端に二尉の顔つきが不穏なものになる。
「じゃあここではさっさと終わらせて、第二ラウンドにとりかかるとしよう」
「ちょっと!!」
言葉通りにその場であっという間にいかされてしまった私を、二尉はしっかりとした足取りでベッドに運んだ。そしてベッドに私を投げ落とすと、すぐに覆いかぶさってきて再び体を繋げてくる。
「さて、時間はたっぷりある。ルームサービスを網羅したいなら、さっさと白状した方が良いぞ、音無」
「もう!! なんでこんな超絶ドSな暴れん坊を愛しちゃったのか分からなーい!!」
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