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第一部・第三章:これが日常とか拷問だろ!
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学園の森から離れた二人はあちらこちらに氷柱のある普通の妖怪が寄り付かない場所に降り立っていた。
人間には馴染みのある現代風の建築物が大きく聳え立つ岩と岩の間にぽつりと建っていた。
ただでさえ妖怪は近付くことがない場所なのに、二人以外の妖怪が建築物……もとい二人の暮らす家に近付こうとすれば、周りに設置されている氷柱が容赦なく攻撃する仕掛けなためどんな物好きな妖怪でも近付くことはできないのだ。
辺り一面雪の被った岩だらけな場所に佇む豪邸のような一軒家の中に入った二人は、今日の出来事を振り返っていた。
「ねぇ、あなた。まだソウは見つからないの?」
女はベッドに突っ伏している形で男に話を投げかけた。顔面を枕に伏している状態で話しているためもごもごさせているが、男は聞き間違えることなくその問いに答える。
「今朝以来、ずっと気配を辿っているが探知できない」
男はベッドに深く腰掛け、疲れた表情を見せる。ふと顔を見上げ男の方を向いたときにそれを見て女は申し訳なさそうに起き上がる。
「ごめんなさい……私が探知能力に優れていたら、あなたにこんなに負担を負わせることなんてなかったのに……疲れてるでしょ?」
探知能力は、専門の妖怪や人間でもそれなりに負担を生じるもの。神経を研ぎ澄ませて集中しなければ探知ができないうえに集中し通しだと最悪倒れる危険もある。
妖怪に限ってそれはないが、負担がまったくないというほど甘い技術でもない。
……だが、白帝学園には匂いを嗅ぎ分けて探知するという特殊な探知方法を使う女の子がいることをこの二人はまだ知らない。
男は今朝かつての懐かしい妖力を偶然感知した瞬間から神経を研ぎ澄まし、妖力を辿って学園に直行したのだが、今朝以来、同じ妖力を感知することが叶わず、だが時間ギリギリまで神経をすり減らしていたのだ。
「問題ない。じき良くなる」
だが男は疲れた表情を見せても愛する女の前では意地を張るようだ。
意地を張っているのが何となく分かった女だがそれ以上は追求せず、諦めて別の話題を持ち出す。
「そういえば、黒髪のあの子!術を使わずに私についてこれたのにはちょっぴり驚いたわぁ!私はお遊び程度の実力しか発揮してないけど」
「まあそうだな。人間にしてはよくできる方だ」
「あっあと、あの赤い目の子!あの綺麗な瞳は心惹かれるものがあったわぁ!取っておきたいくらいっ」
「……ああ、そうだな」
「あとあと、あの青い髪の子もなかなかのイケメンだったわぁ……妖怪だったら弟子にしたい!」
「………ああ……」
話の跳び方は人間の女も妖怪の女も変わらないな……とつくづく思いながら相槌を打つ男だが、青い髪の子、という単語で思いだした。
「あの青い髪の男、特殊な力を放っていた」
「へ?そうなの?」
熱く語りだす女をよそにぽつりと呟く男。
「あの子からは妖力も霊力も感じとれなかったけど……」
男の呟きが功を奏したのか、熱く語っていた女は男の話に興味を示す。
「どちらとも言えない力だった気がするな。どちらかと言えば神の力に近い」
「それを言ったら私達も神に限りなく近いわよ?もしかして、私達の力に似てた?あの子が、私達の探してたソウ?」
嬉々として目を輝かして聞く女に男は少し考えるそぶりを見せ、
「……今度、時間のある時に調べてみるか」
と言うくらいには興味の対象になっていた。
女は一瞬喜びの表情になり、そしてすぐに暗い表情を見せる。その顔は己を責める顔だった。
「こうなったのは私のせいよね……ごめんなさい」
今にも泣きそうな顔で男と視線を絡ませるが、それは一瞬だけ。すぐさま俯き、唇を噛み締める。
大切なものを盗られたことへの怒りとそんな事態に陥る結果を招いた自分への怒り、そして大事な息子を思っての悲しみが波のように押し寄せ、それら全てを圧し殺した。
視線を逸らされた男は女を抱き寄せて優しい笑みを投げ掛ける。
「あのときは致し方なかった。神達の画策のせいで避難する他に手段がなかったのだから。陽蘭に責任はないよ」
綻んだ笑顔に心が癒される陽蘭は抱き寄せられた身体を男に預ける。優しい温もりを感じ、陽蘭も男の背に手をまわす。
「うん……ありがと。慰めてくれて。いつまでもうじうじ言ってても時間が過ぎるだけだものね。そんな暇があるなら一刻でも早くソウを見つける努力をしなきゃ」
「ああ、その通りだな。だが……」
男は人間界から持ってきた時刻を示す道具、時計に目を移す。そして名残惜しそうにそっと手を放す。
「俺はそんなに時間を作ることはできない。……もう行かないと、遅刻する」
「あっ……」
どうしても外せない大切な用事が男にはある。陽蘭はそれを知っていながら離れていく男の手を掴み、躊躇いがちに発せられる言葉。
「……また、罵られにいくの?」
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