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第一部・第三章:これが日常とか拷問だろ!

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気絶する前までは確かに緑色だったはずの森の一角、S地区のごく一部。

それが今やあの妖怪が放った術で真っ黒に焼け焦げ、煙が立ち込めていた。

「な……なんだ、これ……」

本当に森なのか?この、黒焦げな場所が……

「うふふ、びっくりした?人間には恐怖の対象になりうる恐ろしい力だものね」

 愕然と目を見開いて呟いたら、変わらない口調で、むしろ嬉々としている声が女から聞こえてきた。

 この状況を楽しんでさえいるなんて、やはりこの女も妖怪の端くれか…。

「……って、いけない!こんなところで道草くってる場合じゃなかったわ」

 あなた、この辺りで間違いないはずよね?と、棒立ち状態の男に問いかける。

 男は1回頷くだけで何も言わない。

 何か用があって森に入ってきたのか?

 だとしたら何の用で……

「草木が邪魔で見えないが、この先に人の子が集うガクエンという学舎がある。そこにいる可能性が高い」

 じゃあどこにいるのかしら?と呟きながら首を傾げる女を見て、淡々と述べる男。

 そこにいる、と聞く限り、人探しをしているようだ。

 仲間が潜伏でもしてるのか?

 学園の守備は万全だし、そんなことは万が一にもなさそうだが……過去、妖怪が紛れていた事例もあるからその線も否めない。

 だがもしそうだとしても、わざわざ探しに来るだろうか?

 学園に潜伏、あるいは別の理由で使者を寄越していたとしても、使者から要件を述べるのが一般的。命令主が自ら動くなんてのはまずない。

 そういったことでなく、もっと別の要件か?

 本来の目的を忘れて、興味本意で考えてしまう。

 だが思考と一緒に視線を巡らせたら男と目が合った。

 心身共に凍てつくんじゃないかって思うくらいの鋭く、冷たい瞳。

「人の子に聞けば何か分かるかもしれん」

 冷たい視線はそのままに、またもや淡々と言葉を並べる。

「ああ、そうね!聞けば良いんだわ」

 男の意見に賛成し、改めて俺の方を向く。

「ソウっていう名前の男の子、知らないかしら?私達、その子を探してるの」

「……………え?」

 その名前を聞いた途端、聞き間違えたのかと思った。

 その名前は、今日編入してきたばかりの柳の下の名前と一致したから。

 いや、だがしかし、ソウという名前はさして珍しいものじゃないし、違う生徒の名前なのかも。

 だがそこでふと思い出す。

 出会い頭のあの光景を。

 人間にはかからないはずの術にかかったありえない光景を。

「心当たりがあるの?」

 俺の微妙な表情の変化を読み取ったのか、雰囲気をガラリと変えて問いかけられる。

 さっきの優しさのある瞳が、獲物を捉えるための目付きになってビクリとした。

 笑顔はそのままなのに、目付きが鋭くなっていく。

「……どうしたの?心当たりがあるなら教えて?」

 冷ややかな視線を俺に向けつつ再度問いかけてきた。一瞬ひるんだが、妖怪に情報を与えるつもりは毛頭ない。

 こいつらの探してるやつが柳であってもそうでなくても、妖怪側に利益のありそうな話だと判断した以上、情報をもたらすのは駄目だ。

「……知らないな。よくある名前だから誰のことを言っているのやら」

 よって俺の答えはこれだ。

 俺のこの返答にどう行動するか。

「…………坊や、嘘ついちゃあダメよ?」

「ぐっ……あぁぁっ!!」

 ダァン!!と、勢いよく真後ろの木に叩きつけられた。首をギリギリと締め付ける彼女の顔は笑みなどなく、男同様冷徹な瞳でこちらを見据える。

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