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第一部・第三章:これが日常とか拷問だろ!

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〈雪side〉


 南雲 清流と柳がそんな話をしているより少し前に遡る。

 俺は今日最後の授業を終わらせてから担任の先生に許可をもらって妖怪討伐をする予定だった。

 それというのも、南雲流陰陽師の一族がますます力をつけているとの報告があったから。

 俺の実家の流派・奥ヶ咲流と南雲清流の実家の流派・南雲流は、実質敵対している。

 両家が近いためにどこからどこまでが自分達の縄張りにするかとか、問題は大昔から永きにわたって続いてる。今も尚現在進行形だ。

 静かな争いが続いているからこそ、力では負けまいと両家は独自の陰陽術を磨いて日々鍛練に勤しんでいる。

 だが先ほど述べた通り、最近南雲家がますます力をつけたことにより一族に焦りが出てきた。そして数十分前、父親からこなす依頼をもっと増やし、より鍛練を積めと連絡があった。

「はあ……」

 先生に妖怪討伐の許可をもらって準備するために一旦寮へと戻っている途中、父親の威圧的な物言いと先ほどの命令を思い出し、思わずため息をもらす。

 一族同士がいがみ合ってるだけであって、俺と南雲 清流が個人で争っているわけではない。

 だが、現時点で学園最強と謳われる南雲に対抗心がないわけでもない。

 ……この気持ちをライバル心というのだろうか?

 そうこう考えているうちに寮の入り口まで着いていた。

「お帰りなさい、奥ヶ咲さん。これから討伐の依頼消化ですか?」

「ああ」

 カウンターの受付にいる女性と目があったとたんに声をかけられたので短く返し、エレベーターに向かう。

 部屋の鍵を開け中に入ると、空き部屋のひとつが扉全開になっていたことに気づいた。

 中を覗いてみれば、今日同室になったばかりのやつ……柳がベッドに大の字になって爆睡していた。

 柳は今日普通科に編入してきたばかりのやつで、出会い頭に対妖怪用の術に引っ掛かった変わり種の人間だ。

 普通は対妖怪用の術に人間が引っ掛かるなんてあり得ないのに、何故柳だけが引っ掛かったのか……イオリが匂いを嗅いで人間だと言ったんだから人間なんだろうが、いまだ人間に扮した妖怪なのでは、という考えも捨てきれずにいる。

 それはともかくとして、目の前のそれを目の当たりにした瞬間思わず吹き出してしまった。

 柳のやつ、大の字で寝てたと思ったら両手両足を動かしてカエルのそれに似た動きするんだから、吹き出して当然だ。

 夢の中ではいったい何をしてるんだか。

「……と、こんなもんで良いか」

 いつまでも柳の寝ている部屋の前で声を押し殺して笑っているほど時間に余裕もないのでさっさと準備を済ませた。

 時間に余裕がない、とは、校則で夜6時以降の妖怪討伐が禁じられているから。

 その理由は、暗くなり始める逢魔が時に妖怪が沢山現れるから。その中には、俺達霊能科の生徒じゃ太刀打ちできないようなやつもごく稀にいるらしい。

 今の時刻は夕方4時。

 移動の時間を含めたら、せいぜい5件くらいしか依頼はこなせない。

 なので、こんなところでのんびりしてる暇なんてない。

 俺は若干急ぎ足で部屋を出て鍵を閉め、エレベーターに乗り1階へと向かう。

 そこでまた受付の女性に改めて外出する旨を伝えて学園の正門に行く。

 森の中に入るには正門から出ないといけない。

 誰がどこの区域に外出しているかを学園側が把握するため。正門から出ないと把握するための装置が作動しない。

 ちなみにひと括りに森といっても細かく区域分けされている。俺が今から行くのは普通の霊能科生徒じゃ討伐するのは難しい地区、S地区だ。

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