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第一部・第二章:出会いと再会は突然に

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 エレベーターに乗り3階まで上がる。

 降りてすぐ右に俺の部屋があり、女性から自室の鍵を手渡され、「では私は失礼します」と言って女性はカウンターへと戻っていった。

 男子寮も女子寮も二人部屋。つまり、俺が突っ立っている扉の向こうにはもう1人の住人がいるのだ。今は授業中でいないけど、仲良くなれれば良いな。

 鍵穴に鍵を挿し込みカチャリと音が鳴るまで回し、ドアノブに手をかける。

 扉の先には廊下があり、何部屋かあるみたいで個室のドアがいくつか見える。

 玄関で靴を脱ごうと屈んだとき、揃えられた靴が横にあった。

 今は授業中だから誰もいないはず。
 誰がいるんだ?

 廊下をゆっくり歩き耳を澄ませばすぐ隣にある部屋からシャァリ、シャァリ……と、まるで包丁を磨ぐような不快な音が聞こえてきた。

 ………………ん? は?
 包丁を磨ぐ音??

 扉が半開きになっており、部屋の中が見渡せることに気付きチラリと見やる。

 そこには、薄暗がりの中刀を磨ぐ金色の髪の男がいた。

「~~~~っっ!!?」

 声にならない悲鳴をあげる俺。顔面蒼白だよ。

 その間にも部屋だけに留まらず廊下にまで轟く刀の磨ぐ不快音。

 どどどどうしよう!!!??

 授業中なのになんでいるのかな、と思ったけどそんなことよりガチで危ない人が同じ部屋なん!?一生懸命刀磨いでるよあの金髪!!

 ……あれ?あの金髪男子、見覚えのあるシルエットだな。どこで見たっけか……

 思考が頭の中をぐるぐる掻きまわした。そしてそこで浮かぶ1人の男。

 出会い頭に術を放ち、俺を妖怪だと勘違いした見た目ヤクザだけど優しい少年。

「奥ヶ咲!?なんでここにいんのぉ!?」

 まさかの奥ヶ咲だった。

 え、なんでこいつがここにいんの!?奥ヶ咲霊能科だよね!?普通科同士で同室だと思ってたのに!

 俺が思わぬ人物に出くわしたために思わず叫んでしまったことで、奥ヶ咲が俺の存在に気付き振り向く。

「柳!?なんでここに……」

 奥ヶ咲も俺が同じ部屋だと知らされてなかったのか、慌てて刀を磨いでいた手を止める。

「まさか、同室なのか?聞いてないんだが」

「俺も知らなかったよ。学園長なんも言ってくれないし……」

「ああ、あの人はそういう人だから仕方ない。あ、そうだ。罰則かなりヤバイやつなんじゃないか?」

「あー、確かにヤバかったわ。学園内を探検してこいって言われてびっくりした。学園着いたばっかで右も左も分からん生徒に普通言うかねぇ」

 あれ、なんか目ぇ見開いて硬直してる。

「探検……だけ?」

 あ、それだけじゃなかった。南雲のこともあったんだ。

「いんや、探検ついでに入学以来ずっと授業を放棄する問題児の説得も頼まれた。奥ヶ咲と同じ霊能科のやつなんだけど、知ってる?」

 ちょっと見開いた、ってレベルじゃなくこれでもか、ってくらい奥ヶ咲の目が見開かれる。

 え?俺なんか変なこと言ったか?

 マズイこと言っちゃったのか?

「その問題児って、南雲 清流か?」

「え、うん、そうだけど」

 一発でわかるくらい有名なんだなぁ、あいつ。そりゃそうか、入学以来ずっと授業サボってるやつなんてわんさかいないよな。しかもあいつちょっと頭おかしいし。ぼっちだし。目立たないことのほうが珍しいわ。

 奥ヶ咲は俺をじっと見つめて硬直したまま。声をかけようか迷ったが、ようやく我にかえった奥ヶ咲は両手を合わせて「ご愁傷さま」と一言放った。

「ちょおぉぉ!?何今の!?」

 憐れむ目で言われると無性に心配になってくるじゃんか!なんなの!?何に対して憐れむ必要があるの!?俺に対してか!?

「いや、何でもない」

「何でもないって顔じゃないよね?」

「何でもないったら何でもない。まあ、あれだ。南雲は変わったやつだし、お前とは馬が合いそうにないし、縁のない出会いだったな」

「親睦を深めようって言われたんけど」

「………」

「…………」

「……………」

 可哀想なものを見る目で見るな。

「お前、ある意味すごいぞ。誰ともつるまない南雲に気に入られるなんて……いったい何したんだ?」

 誰ともつるまない?

『友人がいないからか、こうして話すだけでも嬉しいんだ』

 ああ、ぼっち宣言してたなそいや。

 でも話すだけでも嬉しいって言ってたし、自ら進んでぼっちになってる訳じゃないのか。じゃあなんで誰も友達になろうとしないんだろう?

 原因のひとつは研究気質なあの性格だと思うけど、それだけでぼっちになるんかなぁ?

「別に何もしてないよ。ただ………」

 南雲の作った強固な結界をすんなり通り抜けたのは不思議だったな、と口走りそうになったのを寸前で止めた。

 これ以上霊能科のやつにやれ特異体質だのやれ謎なやつだの言われてまとわりつく宣言されんのは御免だ。

「何もしないでなつかれる訳ないだろうが。霊能科で最強を誇る南雲 清流なら尚更」

「最強?」

「ああ、編入したてで知らないんだったな。南雲 清流は、学生で使える者はまずいないってくらい上のレベルの術をいくつも使いこなす、学園きっての最強陰陽師なんだよ」

 俺は目が点になった。

 ……え、あいつが最強?

「南雲 清流は結界にしても妖怪討伐にしても右に出る者はいない。陰陽師の名家・南雲流陰陽師を名乗る者だからな、敵う訳がない。おまけに代々近寄りがたい性格をしてるもんだから、仲良くなりたいって思うやつはいない。逆に南雲も俺達他人には心を開いてない」

 淡々と紡がれるありえない言葉の数々。

 てか、え?まじ?

 確かに近寄りがたい性格だとは思うけどそこまでかな?いやそれよりも。

 …………南雲が心開いてないってのが一番信じがたい。

 だって、さっきのアレ、うざいくらい気さくに話しかけてきたんだよ?

 心開いてるかどうかは置いておいて、一生仲良くできないって類の人種ではない気がするけどなぁ……ただの勘だけど。

 まあ俺は仲良くしないけどな。白狐の言い付け守んなきゃだし。

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