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116. 予兆
しおりを挟む連投2日目ー!
深夜のノリで書きました。後悔はしていない!
――――――
鶏肉解体場に連行される鶏ってこんな気持ちなんだろうか。
レルムはレストに、俺はルファウスに抱っこされて王都に戻る道中、ふとそんなことを思った。
「王宮とー、冒険者ギルドとー、あと他に伝令出さなきゃいかんとこってありましたっけ?」
「薬師ギルドもだな。常備薬に緑の魔花を使っていたはずだから」
「あーそうそう、そうでしたねー。もー天下のヒヨコ様ったら何度地形と生態系をぶっ壊せば気が済む訳?」
「…………地形は元に戻したぞ」
「生態系木っ端じゃん」
明後日の方向に目を逸らしつつ弁明したら逃げ道を塞ぐように現実を叩き付けられた。
はい。俺とレルムがやらかしました。
レルムとの楽しい楽しいワイバーン狩りでテンション爆上げしてひゃっはーした結果、地形は見る影もなくなり、魔物の分布も大幅に変わってしまったのだ。
具体的に言うと、雷魔法や爆炎魔法により地面が抉れたりマグマ化したりガラス化したり渓谷の深さが倍以上になったりした。
そして生き残りワイバーン全員が決死の逃亡を図り、ワイバーンがいなくなった影響で周辺の魔物の動きが少しずつ乱れている。
正確に言えば魔物の分布はまだ変わっていない。しかしそれも時間の問題だろう。
「むぅ。気合いが足りないよワイバーン!もっと積極的に殺す気でかかってこい!」
ちょっとズレたレルムの意見は半ばスルーしつつ王都の検問を抜けて中へ入る。
そこでふと違和感を覚えた。
門の近辺からすでに賑わっているはずのそこには人がいつもより極端に少なく、何故だか妙な緊張感が漂っていた。
張り詰めた空気の中、俺達は全員顔を見合わせる。
「何かあったのか?」
「出てくときはいつも通りだったけどなぁ。俺らが出た後何か事件でも起きたんかね?」
「レスト。情報を集めろ」
「りょーかいっす」
王都民に身バレしないよう魔道具を駆使して姿を隠し気配も遮断したルファウスがレストに指示を出し、レストが抱っこしていたレルムを預かりながら彼の背を見送った。
王族であるルファウスはもちろんのこと、賢者の称号を持つ俺もその身内であるレルムも悪目立ちしてしまうのでこうするしかないのだ。
しばらく身を隠してやり過ごしているとレストが戻ってきた。
その顔は彼にしては珍しくやや険しい。
「どうも、街中で石化した人間が発見されたらしいっすね」
「街中で?外ではなく?」
石化の能力を持った魔物はバジリスクとコカトリスだが、両方王都の近辺には生息していない。
魔の森には生息しているがそれも奥の方だし、石化攻撃を受けても石化解呪ポーションで治せる。
しかしそれは魔の森の中、足を踏み入れられる冒険者のみの話。
発見されたのは王都に本店を構える大商会・クレッセル商会の従業員だ。それも複数。
荒事に慣れた冒険者ではなく、ただの一般人だ。しかも発見されたのが街中。どう考えてもおかしい。
「石化能力持ちの魔物と従魔契約したって話も聞かないし、魔の森から出てくる可能性も低い。万一出てきてもフィードの家族が始末するだろう。その従業員も王都から外へ出ていない」
レストと同じく険しい顔でひとつひとつ可能性を潰していくルファウス。やがて首を横に振り、片手で俺とレルムを抱えながらもう片方の手で眉間のシワを解す。
「不可解な点が多いのは気になるが……被害者はあの商会の者だろう?なら放置でいい」
「この件には関与しないんです?」
「報告は一応する。が、国も積極的には動かんだろう。何せ、被害に遇ってるのは全員我が国を牛耳らんとする強欲商会の手先だからな。流通はフィードの身内で解決できる今、優先順位は低い」
まぁ、原因究明には動くがな。と続けるルファウス。
商会に恨みを持った何者かの仕業だろうとアタリをつけてるっぽい。そんな確証を得られるほどあの商会恨まれてるのか。
民間人に被害が出ないよう最低限の兵士は動かすとのことだが……それ、暗にクレッセル商会の人間は国民認定していませんって言ってない?
知識と発明の権威にここまで嫌われるなんて一体何しでかしたんだよクレッセル商会。
とは言いつつ、実はレイン経由で知ってたりするんだけど。あれは本当に胸糞悪かった。
「……――――――ルファウス殿下」
レストが咎めるように、それでいて諭すように呼ぶ。
ルファウスはちらっと見やり、諦めまじりのため息を溢した。
「個人の感情を優先するな。然るべき対処を常に心掛けろ。王族として何を為すべきか考えて行動しろ。……そう言いたいんだろ?」
よく言えましたとばかりに満足げに笑うレスト。
苦々しげに舌打ちしたあと、頭を切り替えたルファウスは王宮へ風の手紙を送った。
「王宮に確認ならびに報告。万一に備えて冒険者ギルドにある石化解呪ポーションの調達。原因究明も並行して行う」
予定通り冒険者ギルドへ行き俺とレルムのやらかし、もとい、魔物の分布が変化することを伝え、被害が拡大した場合に備えて石化解呪ポーションを確保。王宮で事件の詳細を確認し、まだ報告がいってない場合は情報共有。それと同時に原因を調査するんだな。
普段がアレだけど、ここぞというときは王族として的確に動くように教育されているんだろう。
多分、確保したポーションの一部は商会に渡る。
石化解呪ポーションはあまり出回っていないものだし、売るほどの数も需要もないから冒険者ギルドで常備してるものを買い取るしかない。
彼らを助けるのは業腹だろうに、それでも王族の責務としての選択をしたのだ。
「石化解呪ポーション、量産しておくか」
「うっ……僕、ポーション作るのはちょっと……」
「レルムは材料となるバジリスクを取ってきてくれ」
「虐殺だね!それなら任せて!」
「よし、メルティアス諜報部隊も動かすか」
俺達の会話に目を瞬かせるルファウスににやりと笑う。
「さっさと片付けてプリンパーティーするぞ」
彼の大好物の名前を引っ張り出せば、分かりにくくも目をきらっと輝かせた。
「ああ、さっさと片付けよう」
さぁ、大仕事が待ってるぞ。
深夜のノリで書きました。後悔はしていない!
――――――
鶏肉解体場に連行される鶏ってこんな気持ちなんだろうか。
レルムはレストに、俺はルファウスに抱っこされて王都に戻る道中、ふとそんなことを思った。
「王宮とー、冒険者ギルドとー、あと他に伝令出さなきゃいかんとこってありましたっけ?」
「薬師ギルドもだな。常備薬に緑の魔花を使っていたはずだから」
「あーそうそう、そうでしたねー。もー天下のヒヨコ様ったら何度地形と生態系をぶっ壊せば気が済む訳?」
「…………地形は元に戻したぞ」
「生態系木っ端じゃん」
明後日の方向に目を逸らしつつ弁明したら逃げ道を塞ぐように現実を叩き付けられた。
はい。俺とレルムがやらかしました。
レルムとの楽しい楽しいワイバーン狩りでテンション爆上げしてひゃっはーした結果、地形は見る影もなくなり、魔物の分布も大幅に変わってしまったのだ。
具体的に言うと、雷魔法や爆炎魔法により地面が抉れたりマグマ化したりガラス化したり渓谷の深さが倍以上になったりした。
そして生き残りワイバーン全員が決死の逃亡を図り、ワイバーンがいなくなった影響で周辺の魔物の動きが少しずつ乱れている。
正確に言えば魔物の分布はまだ変わっていない。しかしそれも時間の問題だろう。
「むぅ。気合いが足りないよワイバーン!もっと積極的に殺す気でかかってこい!」
ちょっとズレたレルムの意見は半ばスルーしつつ王都の検問を抜けて中へ入る。
そこでふと違和感を覚えた。
門の近辺からすでに賑わっているはずのそこには人がいつもより極端に少なく、何故だか妙な緊張感が漂っていた。
張り詰めた空気の中、俺達は全員顔を見合わせる。
「何かあったのか?」
「出てくときはいつも通りだったけどなぁ。俺らが出た後何か事件でも起きたんかね?」
「レスト。情報を集めろ」
「りょーかいっす」
王都民に身バレしないよう魔道具を駆使して姿を隠し気配も遮断したルファウスがレストに指示を出し、レストが抱っこしていたレルムを預かりながら彼の背を見送った。
王族であるルファウスはもちろんのこと、賢者の称号を持つ俺もその身内であるレルムも悪目立ちしてしまうのでこうするしかないのだ。
しばらく身を隠してやり過ごしているとレストが戻ってきた。
その顔は彼にしては珍しくやや険しい。
「どうも、街中で石化した人間が発見されたらしいっすね」
「街中で?外ではなく?」
石化の能力を持った魔物はバジリスクとコカトリスだが、両方王都の近辺には生息していない。
魔の森には生息しているがそれも奥の方だし、石化攻撃を受けても石化解呪ポーションで治せる。
しかしそれは魔の森の中、足を踏み入れられる冒険者のみの話。
発見されたのは王都に本店を構える大商会・クレッセル商会の従業員だ。それも複数。
荒事に慣れた冒険者ではなく、ただの一般人だ。しかも発見されたのが街中。どう考えてもおかしい。
「石化能力持ちの魔物と従魔契約したって話も聞かないし、魔の森から出てくる可能性も低い。万一出てきてもフィードの家族が始末するだろう。その従業員も王都から外へ出ていない」
レストと同じく険しい顔でひとつひとつ可能性を潰していくルファウス。やがて首を横に振り、片手で俺とレルムを抱えながらもう片方の手で眉間のシワを解す。
「不可解な点が多いのは気になるが……被害者はあの商会の者だろう?なら放置でいい」
「この件には関与しないんです?」
「報告は一応する。が、国も積極的には動かんだろう。何せ、被害に遇ってるのは全員我が国を牛耳らんとする強欲商会の手先だからな。流通はフィードの身内で解決できる今、優先順位は低い」
まぁ、原因究明には動くがな。と続けるルファウス。
商会に恨みを持った何者かの仕業だろうとアタリをつけてるっぽい。そんな確証を得られるほどあの商会恨まれてるのか。
民間人に被害が出ないよう最低限の兵士は動かすとのことだが……それ、暗にクレッセル商会の人間は国民認定していませんって言ってない?
知識と発明の権威にここまで嫌われるなんて一体何しでかしたんだよクレッセル商会。
とは言いつつ、実はレイン経由で知ってたりするんだけど。あれは本当に胸糞悪かった。
「……――――――ルファウス殿下」
レストが咎めるように、それでいて諭すように呼ぶ。
ルファウスはちらっと見やり、諦めまじりのため息を溢した。
「個人の感情を優先するな。然るべき対処を常に心掛けろ。王族として何を為すべきか考えて行動しろ。……そう言いたいんだろ?」
よく言えましたとばかりに満足げに笑うレスト。
苦々しげに舌打ちしたあと、頭を切り替えたルファウスは王宮へ風の手紙を送った。
「王宮に確認ならびに報告。万一に備えて冒険者ギルドにある石化解呪ポーションの調達。原因究明も並行して行う」
予定通り冒険者ギルドへ行き俺とレルムのやらかし、もとい、魔物の分布が変化することを伝え、被害が拡大した場合に備えて石化解呪ポーションを確保。王宮で事件の詳細を確認し、まだ報告がいってない場合は情報共有。それと同時に原因を調査するんだな。
普段がアレだけど、ここぞというときは王族として的確に動くように教育されているんだろう。
多分、確保したポーションの一部は商会に渡る。
石化解呪ポーションはあまり出回っていないものだし、売るほどの数も需要もないから冒険者ギルドで常備してるものを買い取るしかない。
彼らを助けるのは業腹だろうに、それでも王族の責務としての選択をしたのだ。
「石化解呪ポーション、量産しておくか」
「うっ……僕、ポーション作るのはちょっと……」
「レルムは材料となるバジリスクを取ってきてくれ」
「虐殺だね!それなら任せて!」
「よし、メルティアス諜報部隊も動かすか」
俺達の会話に目を瞬かせるルファウスににやりと笑う。
「さっさと片付けてプリンパーティーするぞ」
彼の大好物の名前を引っ張り出せば、分かりにくくも目をきらっと輝かせた。
「ああ、さっさと片付けよう」
さぁ、大仕事が待ってるぞ。
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