最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月

文字の大きさ
上 下
83 / 122

82. 国王に謁見するヒヨコ

しおりを挟む
「私はアルト・フォン・エルヴィン。この国の国王だ。お主が賢者だな」

 玉座に座る黒ウサギ獣人がメイドに丸洗いされてすこぶる毛づやが良くなった俺を鋭く射抜く。

「賢者の称号を賜っております、フィード・メルティアスです」

 どう返していいのか分からなかったので自己紹介しておく。

 人間、あるいは人型の獣人ならここで片膝をついてこうべを垂れるのだが、あいにく種族的問題で土台無理な話なので軽く頭を下げるのみ。深く下げると、この丸っこい身体は前へとコロコロしてしまうので。

 俺は今、国の重鎮勢揃いで錚々たる顔ぶれに囲まれる中、国王に謁見していた。

 幸いにも事前に根回ししてあったらしく、ノンバード族の、それもヒヨコの賢者がこの場に表れても特に騒ぎにはならなかった。
 隣にはルファウスもいる。根っこの部分が小市民な俺にとって国の重鎮が勢揃いする中国王と一対一とか勘弁してほしかったので非常に助かった。

 にしても、そっくりだなぁ。ルファウスは父親似か。
 ルファウスをチラッと見やると、氷点下の如く冷めた目をしていた。およそ実の父親に向ける眼差しではない。
 予想外なルファウスの態度に内心少しびっくりしたが、それを表に出さないように押し殺す。
 王族なんだし、色々と事情があるんだろう。

「オークキング率いるオークの群れ、レッドドラゴン、そして二万を越えるアントの大群。これら全てお主が討伐したのであろう。一歩間違えば大きな被害が出るところだった。感謝する」

 国王と宰相が頭を下げ、脇に並ぶ臣下がそれに続く。
 目下の者への「ご苦労」ではなく「感謝する」か。ますます賢者という立場がどういうものか嫌でも分かった。

「頭を上げて下さい。大したことはしてませんので」

 国で一番偉い人に頭下げられるとか、心臓に悪いから止めてほしい。

「大したことない、か。さすがは賢者。しかしこれほどの功績、褒美を与えん訳にはいかんな」

「申し訳ありませんが、その話は後程。それよりもいくつかお話したいことがあります」

「一連の騒動を引き起こした頭の弱い連中のことか」

 そう切り出すと、国王が苦い顔をして酷評。

「我が国に手を出す愚か者は少なくない。大抵は些細な嫌がらせレベルのものだったから気にも留めていなかった。しかし今回ばかりは看過できんな」

「戦争で黙らせましょう!」

「何十年も平和が続いて奴らは思い上がっている!もう我慢ならん。滅ぼすべきだ!」

「待て。貿易の要を潰せば周辺国が黙っていないぞ」

「静粛に!」

 騒ぎ始めた臣下にケイオス宰相が一喝する。ざわついていた謁見の間に静寂が訪れた。

「このような些末事で我が国の軍事力をひけらかしてはならん。落とし前をつけられるのは何も戦だけではあるまい。そうだな、ではこうしよう。ファラダス王国との魔物素材の取引を一時停止する」

 経済制裁か。まぁ、妥当だな。

 この国の魔物は他国に比べると数が圧倒的に多く、また強力な魔物も出現しやすい。そういう意味では他国よりも危険だと言えるが、悪いことではない。むしろメリットの方が多い。
 確かに魔物は人々にとっては脅威だが、経済を回す要でもあるのだ。
 生産業に携わる魔物、魔道具や雑貨に使われる魔物の素材、魔道具の心臓部である魔石の確保と、パッと思い付くだけでも結構ある。
 特にエルヴィン王国では多くの魔物の素材を他国へ流しているから、ファラダス王国にとってはかなり痛手だろう。何せ、魔物関連の貿易はエルヴィン王国とが主だからな。それが押さえられるとなると、地理上の問題でファラダス王国を挟んでこの国と貿易を行っている国にも支障が出る訳だ。
 向こうではちょっとした問題になるかもしれないが、自業自得ってことで。

「陛下。実は、アントの大群に襲われたのは俺だけじゃないんです」

 唐突に、そして微妙に逸れた話をしだす俺に訝しげな顔をする面々。いきなり何を、という表情が浮き彫りだ。
 そんな中、国王とケイオス宰相が顔色を変えた。

「まさか、民間人に被害があったのか!?」

「そんな報告はなかったのですが……」

「幸いにも被害はありませんでした」

 俺の言葉にあからさまにホッとする二人。

「ですが、襲われたのは俺の家族です」

 次いで放った言葉に血の気が引いていく二人。俺が家族をいっとう大事にしてることはきちんと伝わっているようだ。

 わざとらしい笑みを顔に張り付ければ、気を取り直した国王が警戒するように目を細めた。
 肌を突き刺す緊迫感と痛いほどの静寂が謁見の間を支配する。
 その空気を切り裂いたのは、ずっと沈黙を貫いていたルファウスだった。

「オークとアントの件は魔素を狂わせる魔道具によって引き起こされました。その魔道具は賢者フィードが回収し、そしてファラダス王国に返しました」

「返しただと?物的証拠になり得るものを何故……」

「そのまま返したのではありません。魔道具の性能を上書きしてから、ファラダス王国側に気付かれぬよう配置したのです」

 ルファウスの説明に内心ほくそ笑む。
 そう、俺が仕掛けたのはまさにこれである。

 元は魔素を狂わせる性能だったものを少し弄って魔物が現れなくなる・近付かなくなる性能にし、隠蔽の魔道具と共にファラダス王国の王都とアネスタ辺境伯領と隣接しているヴェネット伯爵領に埋めたのだ。
 隠蔽の魔道具はうんっと性能を跳ね上げたので、見つけるのは非常に困難だろう。ふふふ。隠蔽魔道具としては最高傑作だ。見破れるものなら見破ってみろ。

 魔道具を埋める仕事はアネスタの冒険者ギルドマスターに頼んだ。
 彼はモグラ獣人と人間のハーフで、見た目は人間寄りだが能力は獣人寄りという少し変わった性質だ。
 モグラ獣人の特徴は土の中を移動できること。今回の作戦にぴったりだったのでお願いしたのだ。

 今回の件はヴェネット伯爵が首謀者だと目星をつけたが、黒幕は別にいる。少なくとも伯爵より上の立場、下手するとファラダス王国の中枢に食い込む地位にいる人物が黒幕かもしれないとのことで、ならば国の中央も巻き込んでしまえと作戦を実行した次第。

 魔道具を量産して国中に埋めようかとも思ったが、ギルマスの負担が増えるのでやめておいた。その分、魔道具の効果範囲は数十倍にしたけどな。
 魔道具の効果範囲内に魔物が産まれなくなるのはもちろんのこと、元々そこにいた魔物は効果範囲外に逃げる寸法。下手したら他国に魔物が流れて問題になるんじゃないかな?

 先に述べた通り、魔物は経済を回す要。
 魔物の脅威がなくなる代わりに経済に大打撃を受けることになる。
 魔物を増やしたりする罠は数多くあれど、その逆を実行するやつはなかなかいないだろう。

 以上の説明をルファウスの口から聞いた面々は、無遠慮に俺へと視線を突き刺す。

 その目は語っている。
 このヒヨコを敵に回してはいけない、と。

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...