最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月

文字の大きさ
上 下
58 / 122

58. 薄幸だけど不屈の精神

しおりを挟む
 監視。それは分かる。
 けど護衛と人質ってどういうことだ?

「俺、護衛が必要なほど弱くはないぞ」

「単純な戦力としてならばそうだろうな。しかし一人では対処できない事態も起こり得るだろう。死角からの急襲とか」

 確かにそうだ。もし魔力と気配を遮断したルファウスが部屋に入った瞬間に俺を襲ったならば対処は困難だったはず。ルファウスみたいなやつがいないとも限らない。そのための護衛か。

「あと、差別の荒波に揉まれないようにという意味合いもある」

「いや、それは俺が自分で対処したい。他人に守られていたらいつまで経っても差別意識がなくならないだろ。そういう意味では俺じゃなく弟妹達を気に掛けてやってほしい」

「了解した。そのように手配しておこう」

 王族ならば必ず護衛がいるはず。姿が見えないということは隠密かな?それらを動かしてくれるのだろう。
 本来の護衛対象であるルファウスはいいのかとも思ったが、賢者に割り当てられる護衛も連れてきていたのかもしれない。

「人質ってのが意味不明なんだが」

「この国が君に対して良からぬことを企んだ場合、私を盾にすれば抑止力になる。万が一良からぬことを仕出かしたなら私を殺して国を脅迫すればいい。賢者の立場を有効活用すればできなくはない」

「やっぱりその手の輩はいるのか?」

「皆無ではない。幸いにも国の中枢にはそういった者はいないから安心しろ。しかし無知な輩や愚かな権力者はどこの世界にも一定数いるからな。それらを抑えるために私という人質がいるし、人質がどうこうされないために国が動く。おそらく賢者の存在が国全体に周知されるはずだ。無知ゆえに馬鹿な行動を取る者を出来る限り減らすためにな。……とはいえ、あちらも今はゴタついてるし、それはまだ先だろうが」

 えらく用意周到だな。
 まぁ、大昔とはいえ、世界を破滅に導いた異端の賢者がいたんだからそれも当然か。不穏分子は極力排除しておきたいのだろう。

 別に俺は多少迷惑かけられても気にしないんだがな。研究の邪魔さえしなければ。あとは家族を害さなければ。

「愚かな権力者の方は?対処できるのか?」

「王族がすぐ近くにいるのに君をどうこうしようとは思わないだろう。君に手を出すなら必然的に監視役の私も巻き込まれる。王族を巻き添えにすれば国が黙っていない。よほどの馬鹿でなければ大人しくしているはずだ」

 そのよほどの馬鹿が何人かいるが、それはこちらでどうにかしておく、と言った黒ウサギ少年は外見に似合わず真っ黒い笑みを浮かべていた。
 冷たい美貌と相まって王子というより悪の親玉と言われた方がしっくりくる顔である。

「ルファウス……お前今何歳だ?とても子供には見えない顔だぞ」

「今世では13歳だ。だが前世全てをひっくるめたら一万歳はゆうに越えてるな」

「………は?」

 驚愕に目を見開いた俺を見て悪戯が成功した子供のような顔でにやりと笑うルファウス。
 そしておもむろに懐から取り出したステータスカードを俺に見せた。


――――――――――――――――――――

ルファウス・フォン・エルヴィン

年齢/13歳  性別/男
種族/マナラビット族

体力/165/170
魔力/12/12

冒険者ランク/-

称号/ループ転生の呪い、31回目の転生者、エルヴィン王国第5王子、不屈の精神を持つ者、冷酷美人、歩く辞書、知識の宝物庫、薄幸人生、苦労人

――――――――――――――――――――


 突っ込みどころが多すぎるんだが。

「魔力少な!」

「だから言ったろう、魔力は極端に少ないって」

「ループ転生の呪いってなんだ!?」

「知らん。神に聞いてくれ」

「30回も記憶引き継ぐなんて聞いたことないぞ!」

「私も聞いたことないな」

 淡々とした態度を崩さずに突っ込みを受け流すルファウス。

 呪いというからには何かしら制約とか制限とかあるのかと思いきやそんなものはなく、延々と記憶と魔力を引き継いでいるだけとのこと。
 人間以外にも転生したことがあるそうで、魔物や魔族、ドラゴンに転生したこともあったなとあっけらかんと言われたときには開いた口が塞がらなかった。

 魔物に転生したときは生まれて間もなく人間に討伐され、魔族に転生したときは魔力が少なすぎるせいで人間どころか同族にも迫害されており、ドラゴンに転生したときは生き物が寄り付かない辺境で暮らしてたので孤独にも慣れっこだと暴露された。
 なんというか……ステータスカードの称号にもあるが、幸の薄い人生を歩んでるんだな、この王子。
 そのくせ全く堪えた様子がない。精神力が強靭すぎる。

 自分を盾にだの、自分を殺して脅迫すればだの、まるで自らの命を軽んじている言動がちらついて少し気になったが、そういう訳か。
 死んでもまた人生をやり直せると分かっていたらそんなふうに考えてしまうもの……なのか?
 記憶を引き継いだのが1回だけだからなんとも言えない。

「私の転生事情はさておき、極力君の近くにいるから、何かあったら呼んでくれ」

 そう言い残して文字通り姿を消したルファウス。
 それとほぼ同時にブルーが部屋に入ってきた。

「ありがとなブルー。えらいぞ」

 褒めて褒めてーと言わんばかりにぐりぐり身体を擦り付けるブルーを撫でながらお礼を言う。

 レルム達を寝かし付けてる間、ブルーにはグレイルさんの方に行ってもらった。
 行商から帰って来たばかりだというのに、諌める部下の目を盗んで仕事に没頭しようとするグレイルさんを心配してブルーを派遣したのだ。
 グレイルさんが書類を手にする度に器用に悲しげな表情をつくるブルーのおかげで彼が無理をすることはなく、グレイルさんの部下の面々には感謝された。
 帰って来た今日くらいはゆっくりしてほしいものだ。

 さっと周囲を見回してみるもルファウスの姿はない。
 言葉通りすぐ近くにいるんだろう。魔力と気配を遮断してるせいで近くにいる気配がないけど。
 ずっと見える場所にいたら色々と面倒だから姿を消したんだろうなこれ。

 ブルーといい、セレーナといい、なんか特殊で個性的なやつが集まってる気がするんだが気のせいか?

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな
ファンタジー
勇者パーティから釈然としない理由で追放された魔女エスティは、自暴自棄になり、酔った勢いで時空魔法の秘宝を使用してしまう。そして転移された先は、なんと長野県茅野市の蓼科高原だった。 そこでエスティは気が付いてしまった。 なんか思っていた人生と違う。戦いや恋愛じゃない。もっとこう、悠々自適な生活を送りたい。 例えば……自宅は美しい森の中にあるような平屋のログハウスで、庭には露天風呂を完備。家電やネット環境はもちろんの事、なんと喋る猫も同―居してくれる。仕事も家で出来るような……そうだ、魔道具作りがいい。あとはアニメや特撮やポテチ。まずは家が必要だ、ちょっと楽しくなってきた。 これは、マイペースな魔女が蓼科で夢の別荘スローライフを叶えにいく物語。 ――でも、滅びゆく世界から逃げたのに、果たしてそんな生活が許されるのか? 「……あれ、何か女神扱いされてません?」 ※フィクションです。 ※恋愛、戦闘はほぼありません。魔女と猫が山の中でぐうたらする現実逃避系です。 ※女主人公ですが、男性の方でも読みやすいように軽めの三人称視点にしています。 ※小説家になろう様で先行して更新しています。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...