最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月

文字の大きさ
上 下
38 / 122

38. 態度の急変

しおりを挟む
 空が僅かにオレンジに染まり始めた頃。
 アネスタに戻り、冒険者ギルドへと足を運ぶ。

 ちなみにバードランス火山に向かう際門番にステータスカードを提示したら驚かれた。何に驚いたんだろう。
 年齢か、魔力量か、称号か、どれだ。

 ただひとつ気になったのは、行きも帰りも同じ門番だったのだが出ていくときに比べて妙に丁寧に対応されたことだ。
 行きと違って隣にセレーナがいるからかな?セレーナを見た瞬間顔色を変えて「破壊神……」と呟いていたし。

 猫なのに破壊神……
 セレーナ、お前どんだけ物をバリバリぶち壊してるんだ……

 道中差別意識の波に揉まれつつ冒険者ギルドに入ると、沢山の冒険者で溢れかえっていた。

「人多いな」

「このくらいの時間なら皆帰ってくるにゃ」

 様々な視線を浴びながら素材買取カウンターへ。

「すみません。討伐した魔物売りたいんですけど」

 カウンターの男に声をかける。

「は?なんでヒヨコが……ああ、破壊神の方か。付き添いか何かか?坊や」

 セレーナの付き添いと勘違いされた。
 売りにきたのは俺なんだが、まぁいいか。

「魔物の買い取りって言っても、何も持ってねぇじゃねぇか」

 怪訝そうにするカウンターの男。
 手っ取り早くファイヤーバードを異空間収納から出せるだけ出す。カウンターからはみ出しそうなところでストップ。20匹くらいかな?

 大量の魔物が何もないところから出現したことで周りがざわついた。

「収納魔法に入れてあるので」

 さらっと言ったら周りのざわつきが増した。

 カウンターの男が驚きの声を上げる。

「収納魔法だと!?魔力を持たない種族のはずだが……ああ、どっかに優秀な魔法使いがいんだな。駄目だろ坊や、人の魔法をさも自分が使いましたってふうに言うなんて。しっかしまぁよくもこれだけ狩ったなぁセレーナ」

「にゃ?アタシここまで狩ってないのにゃ」

「ははっ、謙遜すんなよ」

 魔力がない、戦闘もからっきしな種族という先入観から明後日の方向に勘違いするカウンターの男。
 それほとんど俺が倒したやつ。あとまだ収納にいっぱい入ってる。

 今のやりとりを見ていた一部の冒険者とギルド職員が顔を青ざめているが、どうしたのか。

「まだ沢山収納に入ってるんですけど」

「まだあるのか?すげぇな……おい!誰か手伝ってくれ!」

 カウンターの奥で暇そうにしてた職員数人を巻き込んでカウンターから魔物の山を退かし、再び異空間収納からファイヤーバード20匹取り出す。
 それを5回ほど繰り返し、最後にレッドドラゴンを出そうとしたところでセレーナから待ったをかけられる。

「ここだと狭すぎるにゃ。カウンターが潰れちゃうにゃ~」

 それもそうか。
 カウンターどころかギルドが半壊しそうだ。どこかに広い場所ないかな?

「なんだ、他にもあるのか?」

「でっかいトカゲ君が一匹いるのにゃ~」

「トカゲ?そんな魔物この辺にいたっけな……」

 トカゲじゃなくてドラゴンな。

「カウンター潰れちゃうから広い場所行くにゃ~」

「じゃあ先にファイヤーバードの買取済ませるか」

 ギルドの奥に引っ込み、しばらくしてから金貨がそれなりに入った布袋を持ってきた。

 ファイヤーバードの買取は銀貨のはずだが、数が数なだけに金貨に換算されたようだ。

 ちなみに銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚となる。前世では金貨の上に白金貨があったが今のところ見かけない。
 あれは王族や高位貴族しか持つことが許されなかったからこっちでもそうなのか、またはこちらの世界には白金貨という貨幣が存在しないのか。どちらにせよ自分が持つことはないから知っても知らなくてもいいか。

 ステータスカードを見せるように言われ、セレーナと一緒に出そうとしたら「坊やは出さなくていいぞ」と言われてしまった。
 セレーナだけステータスカードを出しても討伐数がどう考えても合わないから俺も出さないといけないんだが、完璧スルーされている。

 差別されてる訳ではなく、世間の常識に縛られてる故の勘違いが加速しただけだろう。実際、街の人々のような嫌な視線は向けられないし。

 一部の冒険者とギルド職員の顔色が青を通り越して白になってるんだが、大丈夫か?

「数が合わないな……ああ、収納魔法使ってるやつも一緒なんだったな。そいつのステータスカードも見せてくれ」

 もう一度見せようとしたらまたやんわり断られた。
 俺がステータスカード見せないことには終わらないのに提示させてくれない。

 どうしようかと困っていたら奥からギルマスが姿を現した。

「もう戻ったのか。調査だけしてきたのか?」

「いえ、討伐しましたよ」

「早くないか!?」

「素材取り放題でウハウハでした」

「認識がおかしい!!」

 おかしくない。魔物討伐、それ即ち素材採集。

 俺とギルマスの会話を怪訝そうに聞いていたカウンターの男が恐る恐る水を差した。

「あの、ギルマス。幻聴でしょうか、そのヒヨコが魔物を討伐したと聞こえたのですが……」

 即座にギルマスが答える。

「幻聴じゃないぞ。事実、このヒヨコには討伐依頼を出した。討伐したかはステータスカード見りゃわかるだろ。なんでセレーナだけステータスカード出してるんだ?」

 カウンターの男、狼狽える。

「何度も出そうとしたんですが、俺が魔物討伐したって思わなかったようで断られました」

「ああ……確かに、掌サイズのヒヨコがドラゴンを討伐したっつっても誰も信じないか」

 それもそうか。すんなり信じたら、それはそれで心配になる。

「ドラゴンっっ!!?」

 カウンターの男、驚愕する。

 男が叫んだことで周りもざわついた。

「ドラゴンってぇと、火山のやつか?」

「それしかいないだろ……え、あのヒヨコが倒した?」

「笑えない冗談はよせよ。ノンバード族が倒せる相手じゃねぇって」

「ノンバード族が倒せるやつがこの世にいんのかよ!ははっ」

 奴らはあとでシメるとして、未だに信じられない表情のカウンターの男にステータスカードを提示する。
 魔物の種類や討伐数が記されるのは裏面。なので俺の見える側にはプロフィールが書かれている。それを見たギルマスが固まってるが、また魔力量や年齢に驚かれでもしたか。
 みるみるうちに目を見開くカウンターの男。

「ほ、本当に討伐したのか……しかもファイヤーバードの討伐数が有り得ないんだが……」

 呆然と呟くカウンターの男。冒険者のざわつきが増した。
 ステータスカードは嘘をつかない。だから信じざるをえない。

「収納魔法も俺です。他の誰かが使ってると勘違いしてるようですけど」

「いや、しかし、ノンバード族は魔力が……」

 ステータスカードを裏返して見せる。

「なっ……!?なんだこの魔力量……化け物か……」

 途端に化け物呼ばわりされた。酷い。

 ずっと驚愕していたカウンターの男だが、ついっと目線が下にいき、称号のところでぴたりと止まる。
 ギルマスもカウンターの男も固まっている。どうした?

「た、大変失礼致しました!!」

 いきなり土下座する勢いで謝罪した男。
 びっくりした……なんなんだいったい。

「俺からも謝罪致します。うちの職員がとんだ無礼を働き、誠に申し訳ない」

 ギルマスまで態度が急変したんだが。

「どうしたのにゃ二人とも?なんか気持ち悪ーい」

 セレーナだけは変わらない。そして辛辣。

 本当になんなんだいきなり。
 称号に何かあったか?と思い、自分で確認してみる。

 ……もしかして、賢者に反応した?
 それしか考えられないな。前世の記憶を持つ者はさして珍しいものではないし、永遠のヒヨコや鬼教官という称号で畏まる必要もない。
 前世でも賢者だのなんだの言われていたが、それが称号として残ったんだろう。
 そのせいで畏まられるとは思わなかった。

「あの、普段通りでいいですよ。変に意識されても困りますし」

 俺まで気を張らないといけない気分になるから止めてほしい。

「ですが……」

「……わかった。貴方様がそう言うならば、有り難くそうさせてもらおう」

「ちょ、ギルマス!?」

 まだ少し硬いが、ギルマスは普段通りに近い態度に戻った。
 カウンターの男はまだ畏まってるが、まぁいいか。

 金貨が入った袋を渡され、そこからセレーナの分を抜く。
 本人は金に執着してないがそこはきっちりせねば。

 レッドドラゴンを出すためにギルドの裏手にある解体場へ行く。解体場は大型の魔物を解体することもあるためかかなりの広さだ。

「ここなら問題ないだろう」

 ギルマスから許可が出たので収納からレッドドラゴンを出す。

「うわぁぁぁ!?」

「ど、ドラゴンだ!」

 解体場にいた作業員が騒ぐ。いきなりドラゴン出したのはまずかったか?泡吹いたり、失神してるやつまでいる。

「うぅむ……この目で見ても信じがたいな。ヒヨコがドラゴンを倒すなど……」

 なんかギルマスが呻いてる。

「しかもほとんど傷がありませんよ……いったいどうやったらこんな綺麗な状態で討伐できるのか……」

 中をこんがり焼きました。

 騒ぐ周囲をまるっと無視してレッドドラゴンの討伐報酬を受け取り、グレイルさんの家に戻った。
 何故かセレーナもついてくる気満々だったけどギルマスに捕まった。ギルド破壊の罰則をまだ受けてないそうで……

「嫌にゃ~!フィードと遊ぶにゃ~!」

「暴れるな!作業台を壊すな!解体ナイフをへし折るなぁ!!」

 俺と戦いたかっただけのようだ。

 なんかまた破壊音が聞こえたが、俺は知りません。

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな
ファンタジー
勇者パーティから釈然としない理由で追放された魔女エスティは、自暴自棄になり、酔った勢いで時空魔法の秘宝を使用してしまう。そして転移された先は、なんと長野県茅野市の蓼科高原だった。 そこでエスティは気が付いてしまった。 なんか思っていた人生と違う。戦いや恋愛じゃない。もっとこう、悠々自適な生活を送りたい。 例えば……自宅は美しい森の中にあるような平屋のログハウスで、庭には露天風呂を完備。家電やネット環境はもちろんの事、なんと喋る猫も同―居してくれる。仕事も家で出来るような……そうだ、魔道具作りがいい。あとはアニメや特撮やポテチ。まずは家が必要だ、ちょっと楽しくなってきた。 これは、マイペースな魔女が蓼科で夢の別荘スローライフを叶えにいく物語。 ――でも、滅びゆく世界から逃げたのに、果たしてそんな生活が許されるのか? 「……あれ、何か女神扱いされてません?」 ※フィクションです。 ※恋愛、戦闘はほぼありません。魔女と猫が山の中でぐうたらする現実逃避系です。 ※女主人公ですが、男性の方でも読みやすいように軽めの三人称視点にしています。 ※小説家になろう様で先行して更新しています。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

処理中です...