最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月

文字の大きさ
上 下
28 / 122

28. アネスタ到着

しおりを挟む
 馬車に揺られながら俺はグレイルに前世の話を伝えていた。

 他の世界の文化に興味を持ったらしく色々と質問が飛び、それに答えていく。
 よその世界の文化などを伝えたりするのはタブーなんじゃ、と一瞬頭を過ったが、聞くところによると前世の記憶持ちの者から他世界の文化を取り入れて足りない部分を補い合うことで他世界とのバランスを保っていると言われてるらしい。仮説だが。
 そんな訳で、この世界のことを聞く俺と他世界のことを聞くグレイルの図が出来上がった。なかなか有意義な時間だった。

 そうして話している間に森から抜け、立派な外壁が見えてくる。

 外壁で囲まれていて中の様子は見れないが、開きっぱなしの門からちらりと覗く人の流れは村にいたら絶対に見ることのなかった景色だとしみじみ実感する。

 周りが薄暗くなり、オレンジ色の空が広がる現在。
 日が傾いてきて門を閉じようとしている。

「待った待った!ちょっと待ったぁ!」

 護衛の一人が叫び、閉じようとした門をぴたりと止めた門番。
 どうにか滑り込みでセーフだった。

 こちらを振り返る門番。黒豹の獣人だ。
 そして無表情だ。

「身分証の提示をお願いします」

「オーク200体とオークキングが現れた。早急に後処理を頼みたい」

 淡々とした口調で事務的に話す黒豹の獣人の言葉を一先ずスルーして、端的に最優先事項を述べるグレイル。
 それに真っ先に反応したのはもう一人の門番だった。
 トカゲの獣人で、捲し立てるようにグレイルに詰め寄る。

「オーク200体?オークキング?どこに現れたんですか!?至急討伐隊を編成しますので……」

「もう倒したよ」

「……は?」

 トカゲの獣人がぽかーんと呆ける。
 黒豹の獣人は変わらぬ無表情。だが背後に雷が落ちたような衝撃を受けている。

「この子が全て討伐してくれたんだよ。オーク200体なんて後処理するのも大変だからそのままにしちゃってね、片付けてくれるかい?」

「はい、それは構いませんが……」

 受け答えしている黒豹の獣人がちらっと俺を見る。
 何を考えているのか分からない顔でじっと見つめられている。
 多分、こんなヒヨコが倒せる訳ねぇだろとかそんな感じの心情かな。トカゲの獣人も半信半疑だし。

 そんな二人を見て悪戯っぽく目を細めるグレイル。

「言っておくが、今回護衛はDランクを雇ったからオーク200体とオークキングなんて到底倒せないよ。信じられないなら現場を見てみるといい。凄いことになってるから」

 グレイルが言い終わると慌ててどこかに走り去ったトカゲの獣人。あとはどうにかしてくれるだろう。

「後処理はお任せ下さい。では身分証の提示をお願いします。身分証がない場合は通行料として銅貨2枚の支払いが義務付けられています」

 おそらく俺のために補足してくれたのだろう。
 俺らが抜けた森の先にはレアポーク領とウルティア領しかない。両方とも身分証を作る概念がないほどのド田舎なので俺が身分証を持ってないことを見越して説明してくれたんだな。
 表情は読めないが、親切な人だ。

 グレイルと護衛は身分証を見せ、俺は銅貨2枚を渡す。

「身分証は冒険者ギルドで発行できます。身分証なしで門の外へ出ると再度訪れたときに銅貨2枚支払い義務が発生しますのでご注意下さい」

「分かりました。ありがとうございます」

「中央の領主館から北に向かうと焦げ茶色の大きな建物があり、そこが冒険者ギルドです。南にも似たような色の建物がありますが、そちらは商業ギルドです。よく間違える人がいるので気をつけて下さい」

「……はい、分かりました」

 親切すぎやしないか。

 感情が全く読み取れないから相手に怖い印象を植え付けそうだが、その実、真面目で親切な人というのが黒豹の獣人の門番に対する第一印象だった。

 色々と説明を受けたあとでようやくアネスタの門を潜る。

 夕暮れの柔らかな光に照らされてややオレンジがかった街並みに様々な種族がごった返している。ウルティア領とは大違いだ。
 色んな建物が所狭しと並び、人の出入りも多い。
 アネスタもどちらかと言ったら田舎寄りなので王都に比べればまだまだ序の口だろうが、田舎暮らしに慣れきった自分にとっては十分都会に感じた。

「早朝に出発したのに、こんなに早く帰ってくるとは思わなかったなー」

「今日はもう休みたい……」

「グレイル様、今日の護衛依頼は未達成になりますよね?本来ならウルティア領まで往復で護衛でしたし」

「いや、今日の分はカウントしないよ。その代わり異常事態に巻き込んでしまったお詫びとして別報酬を出そう」

「えっ!?いや、でも、俺ら役に立たなかったのに……」

「そんなことはないさ。ほれ、仲良く分配しなさい。近々もう一度ウルティア領に行商に行くから、今回の依頼はそのときに消化してくれればいいよ」

「あ、ありがとうございます……!」

 護衛を務めた冒険者達に駄賃を渡すグレイル。気前がいいな。

 グレイルがまた連絡する旨を伝え、宿屋に行く冒険者達。俺とグレイルの二人だけになった。

「フィード君はこれからどうするんだい?」

「先に宿屋を予約して冒険者ギルドに行こうかと。今の時間ならそれほど混んでないでしょうし」

「ふむ、そうか……」

 何やら考え込んでいる様子。
 だがそれも数秒のこと。

「良かったらウチに泊まらないかい?助けてくれたお礼もしたいし」

 朗らかな笑みを浮かべて提案するグレイル。
 有り難い申し出だが、大丈夫なのだろうか。家族の都合とか。

「私は独り身でね。部下が二人泊まり込みで仕事を請け負ってくれているが生活空間は離してるし、身内もいないから、誰も文句は言わないよ。それに、ちょうど話し相手がほしかったんだ。なに、老人の暇潰しとでも思っとくれ」

「まぁ、そういうことなら……」

 正直助かった。
 所持金が少ししかないから宿屋で部屋を借りれるかどうか微妙なところだったんだ。
 オークキングの剣を売れればいいんだが、店仕舞いしてるとこがちらほらと……時間的に無理っぽい。
 商業ギルドでも売れるだろうけど、素材じゃないから武器屋で売るより安くなる。それはちょっとな……

 冒険者ギルドか適当な商会に売るか?
 いや、冒険者ギルドは素材と薬しか買い取ってくれない。武器は専門外である。
 商会は論外だ。
 商会ごとに買い取り価格がピンキリなのだが、ああいうのはまともなとこじゃなきゃ種族や性別で格差が生まれる。差別対象であるノンバード族がのこのこ売りに行ったところでまともに交渉なんぞできないだろう。

 あれ?でもグレイルも商人って言ってたし、買い取ってくれるかな?正当な価格で。
 まぁ、そこんとこは後で聞こう。

「あとで冒険者ギルドに使いを寄越すから、のんびり身分証作っておいで」

「はい。何から何までありがとうございます」

 グレイルと別れ、冒険者ギルドへと向かった。

しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...