21 / 122
21. 成長したな、お前達
しおりを挟む
「ううむ……どういうルートで行こうか……」
レアポーク領を抜けた先は広範囲な森が広がっている。徒歩5日で北に進むとアネスタというそこそこ大きな街に出られるし、6日を要して北西に進むとファラダス王国との国境だ。
他の国も気になるところではあるが、まずはエルヴィン王国内で活動したいな。獣人王国と呼ばれているくらいだし、多種多様な獣人がそこかしこに住んでいるだろう。前世には存在していなかった種族というのもあって結構気になっているんだ。
ウルティア領とレアポーク領には動物と人間が混ざった感じの獣人しかいない。
もしかしたら想像を遥かに越えた面白い獣人もいるかもしれないな。
他の国では獣人差別が根付いているから、やむを得ない事情やよっぽどの理由がなければ基本この国に集まっているはずだ。
獣人は魔物ではないので素材にはできないが、未知の種族には興味がある。前世の知識だけでどこまで通用するか分からない以上、知っておいて損はない。
「やっぱりアネスタだな」
大きな街なら情報収集もしやすい。
この世界のことやエルヴィン王国の情勢など、知りたいことは山ほどある。
その後のことは追々決めていくか。
「あらフィード、どうしたの?こんなところで紙広げて……って地図?あなた地図なんて買ったの?いつの間に……」
横からにゅっと表れた母。
両手でいい匂いが立ち上る皿を持ち、床に広げた地図に首を傾げている。
今は夕飯前。ちょうど飯ができたからそれを知らせに来てくれたんだろう。
母が首を傾げたのは俺が地図を持っていることに対してだ。
国の端っこで暮らしてたら地図なんて必要ないからな。
「近いうち村を出るから買っておいたんだ」
母が硬直した。
その手から皿が落ちる。
床にぶちまける寸前でキャッチ。
「母よ。大事な食料をぶちまけるところだったぞ。勿体ない」
「…………ハッ!ちょ、ちょっとフィード!出ていくってどういうことなの!?ちゃんと説明しなさい!」
「旅をしたいから村を出る」
「端的すぎて意味が分からないわ!!」
「もうここに残る理由もないからそろそろ独り立ちしようかと」
「あなたまだ5才よ!?せめて成人してからになさい!」
「成人といっても、俺ずっとヒヨコのままだし。どうせ大人になれないなら何才に出ていっても同じだろ。前世の記憶がある分器用に立ち回る自信はあるぞ」
「でも……っ」
更に言い募ろうとした母を手で制する。
「俺には夢がある。この村にいたら叶えられない夢が。時間を無駄に消費するのは俺の望むところじゃない」
前世の記憶を持っていても所詮は5才児。反対されるのは分かりきっていた。
生き急いでる訳ではないが、時間は有効活用したい。
俺の決意を感じ取り、押し黙る母。
やがて深いため息をついて仕方ないわねぇと言いたげな呆れた笑みを浮かべた。
「全くもう……せめて準備はしっかりしなさいよ」
「……!ありがとう、母よ」
どうやら賛成してくれたようだ。
言われなくても旅の支度はしっかりするさ。
母に皿を渡し、弟妹達を呼びに行き、全員着席したところで改めて村を出る話を打ち明けた。
「な……ななな……なんだってぇ!!?フィードが村を出る……うちの子が旅に……まだ5才なのに……」
父がこれ以上ないくらいに動揺しまくっている。
「うわぁぁぁんっ」
「兄ちゃん行かないでー!」
「やだやだ!さみしいよぅ……」
「ぐすん……わたしたちがきらいになったの……」
弟妹達は号泣している。
いつもは涎を垂らして今か今かと目をぎらつかせているのにテーブルの上に並んだ食事には見向きもしない。
背中にブルーが張り付いて悲しみを表すようにデロンデロンに溶けている。
「ブルー、お前は連れていくぞ?俺が拾ったんだし」
俺が拾ったのに家族に世話を任せるなんてことはしない。
家族とも良好な関係を築いているブルーだが、一等懐いているのは俺だけだしな。
俺の言葉を聞いてデロンデロンに溶けた体が一気にぽよぽよに戻り、元気に俺の頭の上で跳び跳ねている。
「あーっ!ブルーだけズルい!」
「なら僕らも連れていってよ、兄さん!」
涙目で懇願する弟妹達にしかし俺は首を横に振った。
「それは駄目だ。いつまでも俺にくっついてばかりいたら自立できないだろ」
弟妹は可愛いが、それとこれとは別だ。
「そんなぁ……」
がっくり肩を落としてポロポロ涙を流す弟妹達に早くも俺の決意が揺らぎはじめる。
俺がいなくなることにこんなに悲しんでくれるとは。もう少しここにいた方がいいだろうか……
隣に座る弟1号を見やれば、何かを堪えるように口を引き結び、強引に涙を拭った。
「皆!にいにのためにも、ここは応援しよう!」
突如そんなことを言い出した弟1号に目を丸くする。
他の子達は「1号兄ちゃんはフィード兄ちゃんがいなくなってもいいの!?」と泣きじゃくっている。
弟1号はくしゃっと顔を歪ませて、再び涙が出そうになるのを堪えた。
「いいわけないじゃん!僕だって寂しいよ!でも、ここでにいにを引き留めたらこの先ずっとにいにが村を出られなくなるかもしれない。そんなのにいにが悲しむよ!僕はにいにに笑っててほしい。寂しいけど、すっごく寂しいけど!にいにの夢を応援するんだっ!」
弟1号の叫びに他の子の涙が止まる。
また出そうになる涙を堪えて、弟1号と俺を交互に見た。
「確かに……兄さんの足を引っ張るのは嫌だ……」
「うう……さみしいけど……お兄ちゃんも、やりたいことがあるんだもんね……」
「ずっと俺達の近くにいる訳じゃないよな……」
「……ごめんなさい、兄さん。我が儘言って困らせちゃって。寂しいのに変わりはないけど、私達も応援する」
次第に他の子達も弟1号の考えに賛同し始めた。
無理やり涙を引っ込めて全員が力強い眼差しで俺を見つめる。
「にいに、安心して行ってきて」
兄弟代表で弟1号がふにゃっと笑いながら後押ししてくれた。
弟妹達の心の成長に俺の涙腺まで緩んでくる。
「……そうだな。まだ子供なんだからって止めようと思ったけど、考えてみればフィードは大人になれないんだったな。そんな理由で引き留めたら死ぬまで好きなことさせてあげられなくなるよな」
「親としては心配だけど、言っても聞かなそうだしね」
父も母も穏やかな表情で俺を見ていることに気付く。
その顔は決して俺が村を出ることに反対してる訳ではなくて。むしろその逆で。
とうとう俺の涙腺が崩壊した。
家族の温かみを心の底から感じた瞬間だった。
レアポーク領を抜けた先は広範囲な森が広がっている。徒歩5日で北に進むとアネスタというそこそこ大きな街に出られるし、6日を要して北西に進むとファラダス王国との国境だ。
他の国も気になるところではあるが、まずはエルヴィン王国内で活動したいな。獣人王国と呼ばれているくらいだし、多種多様な獣人がそこかしこに住んでいるだろう。前世には存在していなかった種族というのもあって結構気になっているんだ。
ウルティア領とレアポーク領には動物と人間が混ざった感じの獣人しかいない。
もしかしたら想像を遥かに越えた面白い獣人もいるかもしれないな。
他の国では獣人差別が根付いているから、やむを得ない事情やよっぽどの理由がなければ基本この国に集まっているはずだ。
獣人は魔物ではないので素材にはできないが、未知の種族には興味がある。前世の知識だけでどこまで通用するか分からない以上、知っておいて損はない。
「やっぱりアネスタだな」
大きな街なら情報収集もしやすい。
この世界のことやエルヴィン王国の情勢など、知りたいことは山ほどある。
その後のことは追々決めていくか。
「あらフィード、どうしたの?こんなところで紙広げて……って地図?あなた地図なんて買ったの?いつの間に……」
横からにゅっと表れた母。
両手でいい匂いが立ち上る皿を持ち、床に広げた地図に首を傾げている。
今は夕飯前。ちょうど飯ができたからそれを知らせに来てくれたんだろう。
母が首を傾げたのは俺が地図を持っていることに対してだ。
国の端っこで暮らしてたら地図なんて必要ないからな。
「近いうち村を出るから買っておいたんだ」
母が硬直した。
その手から皿が落ちる。
床にぶちまける寸前でキャッチ。
「母よ。大事な食料をぶちまけるところだったぞ。勿体ない」
「…………ハッ!ちょ、ちょっとフィード!出ていくってどういうことなの!?ちゃんと説明しなさい!」
「旅をしたいから村を出る」
「端的すぎて意味が分からないわ!!」
「もうここに残る理由もないからそろそろ独り立ちしようかと」
「あなたまだ5才よ!?せめて成人してからになさい!」
「成人といっても、俺ずっとヒヨコのままだし。どうせ大人になれないなら何才に出ていっても同じだろ。前世の記憶がある分器用に立ち回る自信はあるぞ」
「でも……っ」
更に言い募ろうとした母を手で制する。
「俺には夢がある。この村にいたら叶えられない夢が。時間を無駄に消費するのは俺の望むところじゃない」
前世の記憶を持っていても所詮は5才児。反対されるのは分かりきっていた。
生き急いでる訳ではないが、時間は有効活用したい。
俺の決意を感じ取り、押し黙る母。
やがて深いため息をついて仕方ないわねぇと言いたげな呆れた笑みを浮かべた。
「全くもう……せめて準備はしっかりしなさいよ」
「……!ありがとう、母よ」
どうやら賛成してくれたようだ。
言われなくても旅の支度はしっかりするさ。
母に皿を渡し、弟妹達を呼びに行き、全員着席したところで改めて村を出る話を打ち明けた。
「な……ななな……なんだってぇ!!?フィードが村を出る……うちの子が旅に……まだ5才なのに……」
父がこれ以上ないくらいに動揺しまくっている。
「うわぁぁぁんっ」
「兄ちゃん行かないでー!」
「やだやだ!さみしいよぅ……」
「ぐすん……わたしたちがきらいになったの……」
弟妹達は号泣している。
いつもは涎を垂らして今か今かと目をぎらつかせているのにテーブルの上に並んだ食事には見向きもしない。
背中にブルーが張り付いて悲しみを表すようにデロンデロンに溶けている。
「ブルー、お前は連れていくぞ?俺が拾ったんだし」
俺が拾ったのに家族に世話を任せるなんてことはしない。
家族とも良好な関係を築いているブルーだが、一等懐いているのは俺だけだしな。
俺の言葉を聞いてデロンデロンに溶けた体が一気にぽよぽよに戻り、元気に俺の頭の上で跳び跳ねている。
「あーっ!ブルーだけズルい!」
「なら僕らも連れていってよ、兄さん!」
涙目で懇願する弟妹達にしかし俺は首を横に振った。
「それは駄目だ。いつまでも俺にくっついてばかりいたら自立できないだろ」
弟妹は可愛いが、それとこれとは別だ。
「そんなぁ……」
がっくり肩を落としてポロポロ涙を流す弟妹達に早くも俺の決意が揺らぎはじめる。
俺がいなくなることにこんなに悲しんでくれるとは。もう少しここにいた方がいいだろうか……
隣に座る弟1号を見やれば、何かを堪えるように口を引き結び、強引に涙を拭った。
「皆!にいにのためにも、ここは応援しよう!」
突如そんなことを言い出した弟1号に目を丸くする。
他の子達は「1号兄ちゃんはフィード兄ちゃんがいなくなってもいいの!?」と泣きじゃくっている。
弟1号はくしゃっと顔を歪ませて、再び涙が出そうになるのを堪えた。
「いいわけないじゃん!僕だって寂しいよ!でも、ここでにいにを引き留めたらこの先ずっとにいにが村を出られなくなるかもしれない。そんなのにいにが悲しむよ!僕はにいにに笑っててほしい。寂しいけど、すっごく寂しいけど!にいにの夢を応援するんだっ!」
弟1号の叫びに他の子の涙が止まる。
また出そうになる涙を堪えて、弟1号と俺を交互に見た。
「確かに……兄さんの足を引っ張るのは嫌だ……」
「うう……さみしいけど……お兄ちゃんも、やりたいことがあるんだもんね……」
「ずっと俺達の近くにいる訳じゃないよな……」
「……ごめんなさい、兄さん。我が儘言って困らせちゃって。寂しいのに変わりはないけど、私達も応援する」
次第に他の子達も弟1号の考えに賛同し始めた。
無理やり涙を引っ込めて全員が力強い眼差しで俺を見つめる。
「にいに、安心して行ってきて」
兄弟代表で弟1号がふにゃっと笑いながら後押ししてくれた。
弟妹達の心の成長に俺の涙腺まで緩んでくる。
「……そうだな。まだ子供なんだからって止めようと思ったけど、考えてみればフィードは大人になれないんだったな。そんな理由で引き留めたら死ぬまで好きなことさせてあげられなくなるよな」
「親としては心配だけど、言っても聞かなそうだしね」
父も母も穏やかな表情で俺を見ていることに気付く。
その顔は決して俺が村を出ることに反対してる訳ではなくて。むしろその逆で。
とうとう俺の涙腺が崩壊した。
家族の温かみを心の底から感じた瞬間だった。
22
お気に入りに追加
1,750
あなたにおすすめの小説

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる