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第1章
1-2.迷子と出会い
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仕事の引き継ぎやら何やらで忙しくしていたら、あっという間に入学式が数日前まで迫ってしまった。
「……はぁ、魔石ってなんでこんなに綺麗なんだろう……」
魔導師棟横の宿舎にある自室にて、キラキラと宝石のように輝く石を、特注のショーケース越しにうっとり眺めながらほうっと熱い吐息を溢す僕。
この石は魔物の核、すなわち心臓だ。魔力を帯びていて宝石っぽく輝くのが特徴。
ここにずらりと並んでいる魔石は僕が個人的に集めたものだ。任務で討伐したのは王宮に献上しないといけないので、それ以外で討伐したやつ。
僕にとってそこらの宝石はただの石だけど、魔石は生き物が精一杯生きた証。力強く美しい輝きを放つその生きた証を眺めるのが趣味だ。
魔物の種類によって大きさも形も色も何もかも違うから面白い。
この部屋にある魔石は人質にされてるから持ち出せないけど、持ち出しが駄目なら新たに手に入れればいいよね。
魔石コレクションを眺めて現実逃避していたら父さんの雷が落ちた。
「リオン!!うだうだしてねぇでさっさと仕度しろ!!」
「はいぃっ!」
慌ただしく宿舎を出て魔導師棟を素通りする。
ランツくんに挨拶していきたかったけど、仕事の邪魔しちゃ悪いからね。
「よぉリオン」
王宮関係者用の出入り口に向かうと、そこには魔導師団の副団長こと父の親友のランバルトおじさんがいた。
ひらりと手を振って僕に笑いかける。
「どうしたの、ランバルトおじさん?西の草原の調査から帰って来たばかりでしょ?」
「んー、そうだけど、ヴァルクから話聞いてお前が落ち込んでるんじゃねぇかって気になってな。……その様子だと、来て正解っぽいな」
泣いて赤くなった目元を覗いて苦笑するランバルトおじさん。
この人は昔から細やかな気配りが上手でよく僕の気持ちを汲み取ってくれる、第2の父親みたいな存在だ。
今だって調査帰りで疲れてるはずなのに、それを微塵も感じさせない顔で労るように頭を撫でてくれる。
「一応教えといてやる。ヴァルクはクビって言ったが、実際は休職扱いだぞ」
「え、そうなの!?」
「そりゃあなぁ、白金級の魔導師をおいそれと野に放つことなんてできやしねぇよ。その証拠に、団員証返却しろって言われなかったろ?」
団員証とは、王宮に仕える魔導師団と騎士団のみ所持が許されている身分証だ。
それぞれ階級があって、上から白金級・金級・銀級・等級なしとなっており、団員証の縁に階級の色が記されている。等級なしは新人のみで縁は白。白金級は魔導師団では父さんと僕だけだ。
言われてみれば、もし本当にクビなら団員証を返却しないといけないのに何も言われていない。
「よかったー!また仕事ができるんだぁ」
「つっても、授業優先だけどな」
そうだった……
しょんぼりする僕を元気づけるようにわしゃわしゃ撫でるおじさん。
「なぁに、そう落ち込むな。出禁になる訳じゃねぇんだしよ。困ったことがあったら頼ればいいし、いつでも帰ってきていい。ここはお前の家なんだから」
「おじさん……うん、そうだよね。学園との距離もそんなに遠くないし、いつでも帰ってこれるもんね!」
憂鬱なのに変わりはないけど、おじさんが優しく背中を押してくれたおかげで少しだけ勇気が湧いてきた。
人がいっぱいいる場所に知り合いが誰もいない状態で一人放り出されるのは凄く不安だし怖いけど、ここで逃げたら今までと何も変わらない。
父さんもおじさんもそれはきっと望んでいないはずだから。
おじさんに手を振って、意気揚々と王宮を出た。
しかしこのときの僕はすっかり忘れていた。
仕事で外に出るときは必ず転移を使っていたことを。
街中での仕事は一切引き受けてなかったことを。
そもそもが基本的に王宮から出ないことを。
結果、ものの数分で迷子になった。
最初はちゃんと大通りを歩いてたんだよ?
でも予想以上に人がいっぱいで怖じ気づいちゃって、路地裏っぽい細い道に逃げ込んだら今自分がどこにいるのか分からなくなっちゃった。
うぅ……せっかくおじさんに勇気付けてもらったのに、もうそのなけなしの勇気が消し飛びそうだよ……
埃っぽくてどこか陰鬱な場所に出て僅かに足取りが重くなったとき、厳つい顔の見知らぬ男の人に絡まれた。
「よぉそこの怪しい兄ちゃん。ちょっと俺と遊ばねぇか?なぁに、すぐ終わるからよ」
僕は今私服の上に茶色のローブを羽織っており、フードを目深に被っている。
いつもは魔導師団の制服とローブを着ていたから違和感なかったけど、なるほど確かにこの格好だと怪しい。あ、もしかしてさっき大通りで好奇の目で見られてたのもこれが原因かな?
でも仕事着に近い格好してた方が落ち着くんだよね……
「えっと……」
どうしよう?明らかに怪しいよね、この人。
いや僕も怪しい格好だけどそうじゃなくて、こんな薄暗がりの路地裏でわざわざ声をかけてくるなんておかしいよね。
しかもなんか待ち伏せしてたっぽいし、さりげなく逃げ道塞がれたし、嫌な予感しかしない。
「おい、何か言ったらどうなんだよ、え?」
痺れを切らした男の人が胸ぐらを掴んで睨みを効かせてくる。
顔はちょっと厳ついけど父さんほど強面じゃないし、体格はがっしりしてるけど父さんほど大柄じゃないから怖くない。
だから凄まれても平然としていられるんだけど、この状況はまずいかも。
パッと見た感じ動きも鈍いしそんなに強くなさそうだから万が一のときは対処できる。けど問題はそのあと。
悪い人なら捕まえて騎士団に身柄を渡さないといけない。そう、騎士団に。魔導師団ではなく騎士団に。
犯罪者の取り締まりは騎士団の管轄なので当然なのだけれど、果たして対人能力ポンコツな僕なんかがきちんと説明できるだろうか……
震えそうになるのを必死に堪えつつ、なけなしの勇気を振り絞って捕縛に使えそうな魔法を展開しようとしたけど、それは叶わなかった。
「おりゃあぁ!!」
何故なら、男の人の背後から突如現れた黒髪の女の子が彼に飛び蹴りをしたから。
背骨がみしりと嫌な音を立てながら男の人は僕の後ろに吹っ飛ばされる。蹴られた衝撃で胸ぐらを掴まれていた手は離れたので巻き添えをくらうことはなかった。
ふわりと身軽に着地した女の子は苛立たしげに男の人を見下ろす。
「やっと見つけたわよ、違法奴隷商人の飼い犬!大人しく捕まりなさい!」
「くっ、この……っ」
男の人が表情を歪めて自身を傷付けた者を返り討ちにしようとするも、男の人の足元に展開された魔法陣がそれを阻んだ。
植物の蔓が幾重にも連なり男の人を飲み込む。身体の自由を奪い、口を封じ、地面でのたうち回る彼の首にすかさず黒髪の女の子が手刀を落として意識を刈り取った。
「ティアナー!」
黒髪の女の子に続いて金髪の女の子が小走りに近付いてくる。
「もう、いきなり走り出さないでよー!魔法が間に合わなかったらどうするの!」
「仕方ないでしょ。また逃げられたら堪ったもんじゃないし。それに、メルフィの魔法が間に合わなくても返り討ちにしてやったわよ」
ちょっとだけ眉を吊り上げて怒ったふうに言い募る金髪の女の子を宥める黒髪の女の子。
ティアナと呼ばれた女の子は手早く男の人を拘束し、それから僕に視線を向けた。
「で、見るからに怪しいアンタもお仲間だったりすんの?」
疑わしげに目を細める黒髪の女の子に僕は慌てて首を横に振った。
仲間じゃない!むしろ被害者!
「ティアナ、この人は違うと思う」
「……根拠は?」
「そこの犯罪者から微妙に距離を取ってるし、引け腰になってる。何より目が怖がってるもん。彼は多分今まさに狙われたとこだったんじゃないかな?ローブも中の服も結構上等なやつだからそれで狙われたんだろうね」
否定しても尚疑うティアナさんって人を今度はメルフィさんって人が宥めた。
この人、洞察力が凄い。ほんの僅かな時間でそこまで見抜くなんて。
彼女の言葉を信じたのか、僕に対する疑いはとりあえず晴れた。
「悪かったわね。でもそんな紛らわしい格好してたら後ろ暗い連中と繋がってるって公言してるようなもんだから気をつけなさい」
「ごめんねぇ、巻き込まれたりしなかった?ティアナってば考えなしに突っ込むところがあるから……」
「ま、巻き込んでないわよ失礼ね!」
ティアナさんは言葉は若干キツいけど心配してくれてるし、メルフィさんも朗らかに笑って茶化しながら僕の顔を覗きこんでいる。
見ず知らずの僕を助けてくれたし、悪い人ではなさそうだ。
絡まれてからずっと詰めていた息を吐き出して肩の力を抜く。
「えっと……だ、大丈夫。ありがとう」
行き場を失ったなけなしの勇気がしゅるしゅると萎んでいく。
結果的には助かったけど、女の子に助けられるなんて情けないなぁ。もっと早く行動を起こしていれば彼女達の手を煩わせることもなかったのに。
「べ、別にいいわよお礼なんて。私達はただこの馬鹿を取っ捕まえに来ただけだもの」
突き放すような言い方に若干尻込みしちゃったけど、メルフィさんがクスクス笑った。
「ふふっ、気にしないでね~。お礼言われて照れてるだけだから」
「ちょっとメルフィ、余計なこと言わないでよ!」
ほんのり朱が差した顔であたふたするけど、否定の言葉は出てこなかった。天の邪鬼な人なのかな?
捕まえた男の人は彼女達が然るべき場所に突き出すから手出し無用と言われて引き下がる。
僕と同じ年頃の女の子が犯罪者を追っていたことに驚いたけど、正義感の強い人達なんだろうなぁ。
再度お礼を言ってその場を去ろうとしたんだけど、自分が迷子だという事実を思い出す。
ここで二人と別れたら更に道に迷う可能性が高い。
正直人気のない道の方が落ち着くけど、また危ない人に絡まれるのは嫌だ。
そんな訳で王立学園までの道を聞いたところ、なんと二人とも僕と同じ新入生だそうで、王立学園まで一緒に行くことになった。
正確には学園まで道案内してくれることになった。お手数おかけしてすみません……
「……はぁ、魔石ってなんでこんなに綺麗なんだろう……」
魔導師棟横の宿舎にある自室にて、キラキラと宝石のように輝く石を、特注のショーケース越しにうっとり眺めながらほうっと熱い吐息を溢す僕。
この石は魔物の核、すなわち心臓だ。魔力を帯びていて宝石っぽく輝くのが特徴。
ここにずらりと並んでいる魔石は僕が個人的に集めたものだ。任務で討伐したのは王宮に献上しないといけないので、それ以外で討伐したやつ。
僕にとってそこらの宝石はただの石だけど、魔石は生き物が精一杯生きた証。力強く美しい輝きを放つその生きた証を眺めるのが趣味だ。
魔物の種類によって大きさも形も色も何もかも違うから面白い。
この部屋にある魔石は人質にされてるから持ち出せないけど、持ち出しが駄目なら新たに手に入れればいいよね。
魔石コレクションを眺めて現実逃避していたら父さんの雷が落ちた。
「リオン!!うだうだしてねぇでさっさと仕度しろ!!」
「はいぃっ!」
慌ただしく宿舎を出て魔導師棟を素通りする。
ランツくんに挨拶していきたかったけど、仕事の邪魔しちゃ悪いからね。
「よぉリオン」
王宮関係者用の出入り口に向かうと、そこには魔導師団の副団長こと父の親友のランバルトおじさんがいた。
ひらりと手を振って僕に笑いかける。
「どうしたの、ランバルトおじさん?西の草原の調査から帰って来たばかりでしょ?」
「んー、そうだけど、ヴァルクから話聞いてお前が落ち込んでるんじゃねぇかって気になってな。……その様子だと、来て正解っぽいな」
泣いて赤くなった目元を覗いて苦笑するランバルトおじさん。
この人は昔から細やかな気配りが上手でよく僕の気持ちを汲み取ってくれる、第2の父親みたいな存在だ。
今だって調査帰りで疲れてるはずなのに、それを微塵も感じさせない顔で労るように頭を撫でてくれる。
「一応教えといてやる。ヴァルクはクビって言ったが、実際は休職扱いだぞ」
「え、そうなの!?」
「そりゃあなぁ、白金級の魔導師をおいそれと野に放つことなんてできやしねぇよ。その証拠に、団員証返却しろって言われなかったろ?」
団員証とは、王宮に仕える魔導師団と騎士団のみ所持が許されている身分証だ。
それぞれ階級があって、上から白金級・金級・銀級・等級なしとなっており、団員証の縁に階級の色が記されている。等級なしは新人のみで縁は白。白金級は魔導師団では父さんと僕だけだ。
言われてみれば、もし本当にクビなら団員証を返却しないといけないのに何も言われていない。
「よかったー!また仕事ができるんだぁ」
「つっても、授業優先だけどな」
そうだった……
しょんぼりする僕を元気づけるようにわしゃわしゃ撫でるおじさん。
「なぁに、そう落ち込むな。出禁になる訳じゃねぇんだしよ。困ったことがあったら頼ればいいし、いつでも帰ってきていい。ここはお前の家なんだから」
「おじさん……うん、そうだよね。学園との距離もそんなに遠くないし、いつでも帰ってこれるもんね!」
憂鬱なのに変わりはないけど、おじさんが優しく背中を押してくれたおかげで少しだけ勇気が湧いてきた。
人がいっぱいいる場所に知り合いが誰もいない状態で一人放り出されるのは凄く不安だし怖いけど、ここで逃げたら今までと何も変わらない。
父さんもおじさんもそれはきっと望んでいないはずだから。
おじさんに手を振って、意気揚々と王宮を出た。
しかしこのときの僕はすっかり忘れていた。
仕事で外に出るときは必ず転移を使っていたことを。
街中での仕事は一切引き受けてなかったことを。
そもそもが基本的に王宮から出ないことを。
結果、ものの数分で迷子になった。
最初はちゃんと大通りを歩いてたんだよ?
でも予想以上に人がいっぱいで怖じ気づいちゃって、路地裏っぽい細い道に逃げ込んだら今自分がどこにいるのか分からなくなっちゃった。
うぅ……せっかくおじさんに勇気付けてもらったのに、もうそのなけなしの勇気が消し飛びそうだよ……
埃っぽくてどこか陰鬱な場所に出て僅かに足取りが重くなったとき、厳つい顔の見知らぬ男の人に絡まれた。
「よぉそこの怪しい兄ちゃん。ちょっと俺と遊ばねぇか?なぁに、すぐ終わるからよ」
僕は今私服の上に茶色のローブを羽織っており、フードを目深に被っている。
いつもは魔導師団の制服とローブを着ていたから違和感なかったけど、なるほど確かにこの格好だと怪しい。あ、もしかしてさっき大通りで好奇の目で見られてたのもこれが原因かな?
でも仕事着に近い格好してた方が落ち着くんだよね……
「えっと……」
どうしよう?明らかに怪しいよね、この人。
いや僕も怪しい格好だけどそうじゃなくて、こんな薄暗がりの路地裏でわざわざ声をかけてくるなんておかしいよね。
しかもなんか待ち伏せしてたっぽいし、さりげなく逃げ道塞がれたし、嫌な予感しかしない。
「おい、何か言ったらどうなんだよ、え?」
痺れを切らした男の人が胸ぐらを掴んで睨みを効かせてくる。
顔はちょっと厳ついけど父さんほど強面じゃないし、体格はがっしりしてるけど父さんほど大柄じゃないから怖くない。
だから凄まれても平然としていられるんだけど、この状況はまずいかも。
パッと見た感じ動きも鈍いしそんなに強くなさそうだから万が一のときは対処できる。けど問題はそのあと。
悪い人なら捕まえて騎士団に身柄を渡さないといけない。そう、騎士団に。魔導師団ではなく騎士団に。
犯罪者の取り締まりは騎士団の管轄なので当然なのだけれど、果たして対人能力ポンコツな僕なんかがきちんと説明できるだろうか……
震えそうになるのを必死に堪えつつ、なけなしの勇気を振り絞って捕縛に使えそうな魔法を展開しようとしたけど、それは叶わなかった。
「おりゃあぁ!!」
何故なら、男の人の背後から突如現れた黒髪の女の子が彼に飛び蹴りをしたから。
背骨がみしりと嫌な音を立てながら男の人は僕の後ろに吹っ飛ばされる。蹴られた衝撃で胸ぐらを掴まれていた手は離れたので巻き添えをくらうことはなかった。
ふわりと身軽に着地した女の子は苛立たしげに男の人を見下ろす。
「やっと見つけたわよ、違法奴隷商人の飼い犬!大人しく捕まりなさい!」
「くっ、この……っ」
男の人が表情を歪めて自身を傷付けた者を返り討ちにしようとするも、男の人の足元に展開された魔法陣がそれを阻んだ。
植物の蔓が幾重にも連なり男の人を飲み込む。身体の自由を奪い、口を封じ、地面でのたうち回る彼の首にすかさず黒髪の女の子が手刀を落として意識を刈り取った。
「ティアナー!」
黒髪の女の子に続いて金髪の女の子が小走りに近付いてくる。
「もう、いきなり走り出さないでよー!魔法が間に合わなかったらどうするの!」
「仕方ないでしょ。また逃げられたら堪ったもんじゃないし。それに、メルフィの魔法が間に合わなくても返り討ちにしてやったわよ」
ちょっとだけ眉を吊り上げて怒ったふうに言い募る金髪の女の子を宥める黒髪の女の子。
ティアナと呼ばれた女の子は手早く男の人を拘束し、それから僕に視線を向けた。
「で、見るからに怪しいアンタもお仲間だったりすんの?」
疑わしげに目を細める黒髪の女の子に僕は慌てて首を横に振った。
仲間じゃない!むしろ被害者!
「ティアナ、この人は違うと思う」
「……根拠は?」
「そこの犯罪者から微妙に距離を取ってるし、引け腰になってる。何より目が怖がってるもん。彼は多分今まさに狙われたとこだったんじゃないかな?ローブも中の服も結構上等なやつだからそれで狙われたんだろうね」
否定しても尚疑うティアナさんって人を今度はメルフィさんって人が宥めた。
この人、洞察力が凄い。ほんの僅かな時間でそこまで見抜くなんて。
彼女の言葉を信じたのか、僕に対する疑いはとりあえず晴れた。
「悪かったわね。でもそんな紛らわしい格好してたら後ろ暗い連中と繋がってるって公言してるようなもんだから気をつけなさい」
「ごめんねぇ、巻き込まれたりしなかった?ティアナってば考えなしに突っ込むところがあるから……」
「ま、巻き込んでないわよ失礼ね!」
ティアナさんは言葉は若干キツいけど心配してくれてるし、メルフィさんも朗らかに笑って茶化しながら僕の顔を覗きこんでいる。
見ず知らずの僕を助けてくれたし、悪い人ではなさそうだ。
絡まれてからずっと詰めていた息を吐き出して肩の力を抜く。
「えっと……だ、大丈夫。ありがとう」
行き場を失ったなけなしの勇気がしゅるしゅると萎んでいく。
結果的には助かったけど、女の子に助けられるなんて情けないなぁ。もっと早く行動を起こしていれば彼女達の手を煩わせることもなかったのに。
「べ、別にいいわよお礼なんて。私達はただこの馬鹿を取っ捕まえに来ただけだもの」
突き放すような言い方に若干尻込みしちゃったけど、メルフィさんがクスクス笑った。
「ふふっ、気にしないでね~。お礼言われて照れてるだけだから」
「ちょっとメルフィ、余計なこと言わないでよ!」
ほんのり朱が差した顔であたふたするけど、否定の言葉は出てこなかった。天の邪鬼な人なのかな?
捕まえた男の人は彼女達が然るべき場所に突き出すから手出し無用と言われて引き下がる。
僕と同じ年頃の女の子が犯罪者を追っていたことに驚いたけど、正義感の強い人達なんだろうなぁ。
再度お礼を言ってその場を去ろうとしたんだけど、自分が迷子だという事実を思い出す。
ここで二人と別れたら更に道に迷う可能性が高い。
正直人気のない道の方が落ち着くけど、また危ない人に絡まれるのは嫌だ。
そんな訳で王立学園までの道を聞いたところ、なんと二人とも僕と同じ新入生だそうで、王立学園まで一緒に行くことになった。
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