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22. 旅人と能力の使い方
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痛ぇ。まじで痛ぇ。
ざっくりやられた背中から生温かい血を垂れ流しながら自由落下していく。
油断したわー。能力があればなんとでもなるって思ってた。
でもそれは慢心だったようだ。
魔物相手に久々に深手を負わされてちょい反省。
能力に頼りきりなんてやだなーとか内心ぶちぶち言ってるくせに能力を過信し過ぎるとか一番駄目なやつじゃんかー。
己の力は己が一番理解してるっていうけど、私は私の能力を真に理解できた試しはないな。化け物級にヤバイ能力ってことしか分からん。
ちゃんと理解できてたらこんな事態にはならなかったろうに。言っても栓ないことだけどさ。
「エリー!血が……っ」
「エリーさん……!」
地面へと落ちてゆく私を悲痛な表情で見上げ、どうにか受け止めようと手を伸ばすロイド王子とリック。
ひらりと手を振って大丈夫アピールをし、亜空間鞄の奥底に眠っていた鎖鎌をじゃらんと取り出す。
素早く鎖を腕に巻き付けて鎌を適当な壁にぶん投げると、鎌は見事壁に深く突き刺さり、私の身体は宙ぶらりんになる。
ふぃー。鎖鎌のおかげで命拾いしたぜ。なんでこんなマニアックな武器鞄に仕込んでたのか自分でも覚えてないけども。
宙ぶらりんになったとこは地面から割りと近いので、壁を蹴って着地する。
黒い布を口からずらして微かな声量で「癒せ」と口ずさめば、みるみるうちに身体に深く刻まれた傷が治っていった。
元の色白な肌が露になり、切り裂かれた箇所から冷たい風が侵入してきてぶるっと身体が震えるけど我慢だ我慢。
上を見上げれば、確かに肉を切り裂いた感触があったのに無傷で平然と突っ立っている私に怪訝そうな顔をするドラゴンが。表情豊かなドラゴンさんやね。
つーかよ、お前さん。私は一言物申したい。
ドラゴンなんだから火を吹け火を!!何ブリザード起こしてくれとんのじゃおのれ!!
ドラゴンっつったらあれじゃん、炎のブレス吐いて人間を蹂躙するのがテンプレなやつじゃん。
テンプレ通りブレス吐けよ!期待外れもいいとこだわ!
「いや突っ込むとこそこ!?」
ロイド王子がなんか叫んでるけどスルー。
さぁてどうするかなー。
言霊能力でしか倒せなさそうだけど接近することすらままならないんだもんなー。
仮に接近できてもまたブリザード起こされたら視界最悪、かーらーのー大ダメージになっちゃいそう。なっちゃいそうっつか、なるだろ。絶対。
だからってあのデカブツに接近せずに言霊能力を使おうものなら皆も巻き添えにしちゃうだろうし、使う言葉は慎重に選ばなきゃいけない。
剣で倒せたりしないかなーとも思ったけどあのクッソ硬そうな鱗が邪魔して無理。
腹に鱗はないからそこから斬り込めるかな?いや無理だな。未だ奴は上空で悠々と翼をはためかせている。ブリザードは健在。そんな中突っ込むとか自殺行為だってばよ。
どうやって倒すかなーと悩んでいる間にも彼方さんは待ってはくれない訳で、痺れを切らしたドラゴンが口を大きく開ける。
キュイィィンとまるで何かを吸収するような、あるいは吐き出す前兆のようなそれに頭で考えるより早く口が動いた。
「結界」
半透明な膜が私を覆い隠す。
そして結界と唱えた直後、ドラゴンの口から青白いブレスが放たれた。
国の名前忘れたけどどこぞの寒冷地域で見たような景色に早変わり。辺り一面見事な雪景色に早変わり。
ただしちぃとばかり違うのはブレスが直撃した箇所に氷が張られていること。まるでスケートリンクだ。滑って遊びたい。いやそれは後だ。
結界で防いだおかげで私は無傷。もちろんずっと結界に閉じ込めてるロイド王子達も無傷。
へへーんだ!私を傷付けるなんざ百年早ぇんだよ!
聞こえない。「がっつり怪我負わされたやつが何言ってんの」なんて言葉は聞こえなーい!
「グルルルルル………」
お得意な必殺技も効果なしと知って苛立ちゲージが目に見えてMAXに近付いているドラゴン。
わぁお。めっちゃ睨んでるーぅ。続けて攻撃してくるかと思いきや手札はあれで全部らしく警戒しつつも近付いてこない。
奴から目線は逸らさないまま私も後方にひとっ跳びで下がる。
「エリーさん!怪我は!?」
優しいなーリックは。真っ先に私の心配をしてくれるなんて。大丈夫だという意味で顔も見ずにひらひら手を振った。
油断大敵。ドラゴンから目は逸らさないぜ。
「どうしましょうか……この部屋から逃げようにも入ってきた扉は開かないし」
「迷宮の最深部に到達したら迷宮主を倒すまで出られないという推測は間違いなさそうですね」
空気と化していた騎士達が顔を突き合わせて思案顔。
その中で一人だけ私に視線を送っているのに気付いた。
「……ケラー殿。ひとつ質問……いえ、確認したいのですが」
私に熱い視線を送ってたのは君か勇者騎士君。
ヘイヘイ質問プリーズ!という意味で背後に向けて人差し指をくいっとな。
「ケラー殿の能力は、言葉に力を乗せて事象を改変する……いわば言霊というものではないですか?」
まぁ普通気付くよね。敵を一瞬で葬ったり結界張ったり怪我治したりと色々見せちゃったもんね。
ロイド王子が僅かに警戒しだしたのが気配で伝わってきた。
ロイドさんや。私の能力を私利私欲に使われるのを警戒してくれんのは嬉しいけど、今は緊急時なんだからそんな些末なこと横に置いといてくれないかい。
そんなことより通訳はよ。
「……ピンポンピンポン大正解ー。言葉を発しようものなら何らかの事象改変が発生しちゃう困ったちゃんな能力だよーん。でも私のこれは強力すぎて一言放つだけで大惨事になっちゃうんだわ」
「一言とは、例えば?」
「眠れとか癒せとか」
ふむ、としばし考えこむ勇者騎士。
「それ、対象物や範囲を絞る言葉を紡いだら制御できませんか?」
ドラゴンの脅威が頭からすっぽ抜けてバッ!と背後を振り返る。今の私の顔は驚きに満ちていることだろう。
目から鱗とはまさにこのこと。完全に盲点だった。
そうじゃん!言霊で範囲を絞ったり対象を指定すれば上手くコントロールできるかもしんないじゃん!
ありがとう勇者騎士!光明が見えてきた!つーか自分の能力なんだからもっと早くに気付けよ私!馬鹿か?馬鹿だ!
私が油断してるように見えたドラゴンさんはまた白いブレスをぶっ放したけど当然結界に阻まれた。
さてどうしよう。範囲と対象物指定っつっても言葉は慎重に選ばないとね。下手すりゃ皆を巻き添えにしちまう。
範囲と対象物指定……範囲と対象物指定……ああもう!考えんのめんどくせー!
ロイドさんや、なんかいい案ないですかい?
「諦めるの早すぎでしょ!?うーん、それじゃあ始めは無難に……」
皆に被害が及ばないようきっちり距離を取ってからロイド王子が口にしたそれを私の声で紡いだ。
「フォルス第3迷宮最深部にいる氷を操る青白いドラゴンを植物で拘束」
念のため声は小さくしたんだけど、よっしゃあああ発動しなかったあああ!!
多分細かく指定したら声が小さいと発動しないとかそんな感じ?
よし、よぉし!んじゃ久々に普通の声量でもういっちょ!
「フォルス第3迷宮最深部にいる氷を操る青白いドラゴンを植物で拘束!」
こんな長文喋ったの初めてだなぁと思ったその瞬間、どこからともなく現れた草木がドラゴンの周りを囲む。
複雑に絡まり合って遠目からは一本の蔓のように見えるそれらは容易くドラゴンの自由を奪った。
おお……!初めてまともに発動した……!
新発見。能力の制御がなってないのは言葉選びが雑すぎたせいだった!ははっ、我ながらなんてアホな……
ま、まぁ、勇者騎士のおかげで能力の使い方も多少は分かったし、結果オーライってことで。
なんか猛毒の花とか混じってるけど、その程度なら誤差だ。多分。
棘がいっぱいある植物が皮膚を傷付け、そこから体内に毒が侵入したのか分かりやすく動きが鈍るドラゴン。
……誤差だ!誤差なんだぁぁぁ!!
あの巨体を弱らせるってどんな毒だよ。私が知りたいわ。
己の能力で出現させたのに中身を知らない女、それがわたくしエリー・ケラー。どやっ。
そうやって内心ふざけてる間にもドラゴンはどんどん動きを鈍らせている。
あ、待って。まだ死なないで。仮にも迷宮主なんだから毒殺は嫌でしょ?嫌だよね?嫌だそうだ。なので私がトドメを刺してあげよう。うんそうしよう!
素人目に見ても弱体化真っ最中なドラゴンを目の当たりにして「うわぁ……」って顔してるロイド王子に構わず言葉を投げる。
ロイド王子ー。ロイドっちー。ロイロイロイちゃーん。エリーちゃんのお願い聞いてくれるー??
「人に頼む態度じゃないけど、いいよ。次はこういうのはどう?」
続けた言葉に、らじゃ!と親指をビッとな。
さぁさぁバトルも佳境に入りました!血肉沸き躍る過酷で熾烈な戦いは観客を楽しませる見事なものでしたね。
エリーさんもドラゴンさんも満身創痍、次の一手が勝敗を決するでしょう。お前バリバリ元気やんけ!ってツッコミは受け付けません。
ありがとうドラゴン。君の尊い犠牲で迷宮完全攻略という偉業を我々は成し遂げられる。君のことは忘れないよ……多分おそらくきっと。
「フォルス第3迷宮最深部にいる氷を操る青白いドラゴンに永遠の眠りを与える」
最後の悪足掻きとばかりにブレスを放とうと大きく口を開けるドラゴンに最後の言葉を贈ってあげると、一瞬だけ目を見開いたあとすぐにその巨体が傾いだ。
地響きと共に地面とこんにちはしたドラゴンの瞳に光はない。念のため呼吸をしてないか確認するも、腹部が動くこともなかった。
……倒した。倒したんだ。
物語の中にしか存在しないと思ってた生き物を、架空の存在と信じていた生き物を、このドラゴンを、倒したんだぁぁぁ!!
「やっ……」
やったー倒したぞおおお!!と叫びそうになって思いとどまる。やっべ。黒布外したままだった。
慌てて黒布で口を覆い隠すも一足遅かったようで、突如異変は訪れた。
ひゅんひゅんっと風を切る音がボス部屋を埋め尽くしたのだ。
「な、なんだ!?急に矢が降ってきたぞ!」
矢じゃないっちゅーねん!!
やったーって言おうとしただけじゃん!なんで矢が雨のように降り注ぐんじゃボケェ!!
明後日の方向に暴走した己の能力に内心憤りつつ、どうにか矢の雨を止めた。
すまん皆。迷宮を完全攻略できた余韻に浸ってたところに水を差して。
ポンコツ能力の暴走というハプニングはあれど、無事迷宮主討伐を成し遂げた私達。
物言わぬ骸となって横たわる伝説の存在がその偉業を物語っている。
「いや、結局俺らなんもしてないし。ほぼエリー1人で倒したでしょ」
苦笑混じりに言うロイド王子に言葉なく賛同する面々。
いやいやいや何言ってんの。皆大いに貢献してくれたっしょ。
ロイド王子が言霊の内容考えてくれたのはもちろんのこと、リックも密かにヘイト管理してドラゴンの意識が私に極力向かないようにしてくれたのもちゃんと見てたんだからな!
それだけじゃなく勇者騎士には言霊能力使いこなすヒントをもらったし、他の皆さんもドラゴンの生態やらなんやら書き留めて情報処理してくれたし。
みーんながいたから倒せたの!
私ひとりじゃ無理だったの!
てな訳でハイ議論終わり!そんなことよりあのクソデカモンスターの後処理手伝え!
「ハイハイ。それはいいけど、この結界解いてくれないと手伝えないよ?」
……そうでした。忘れとった。すまん。
言霊能力で生み出した結界を手短にサクッと解く。
だからぁ、なんで守り方面の言霊さんは長文使わなくても言うこと聞いてくれるんですかぁ。意味不明なんですケドー。
己の能力の仕様に納得できぬままドラゴンを解体していく。全員総出で作業に取り掛かったおかげでわりと早く終わった。
さぁ気持ちを切り替えよう。
肉だぁぁぁぁぁ!!
ざっくりやられた背中から生温かい血を垂れ流しながら自由落下していく。
油断したわー。能力があればなんとでもなるって思ってた。
でもそれは慢心だったようだ。
魔物相手に久々に深手を負わされてちょい反省。
能力に頼りきりなんてやだなーとか内心ぶちぶち言ってるくせに能力を過信し過ぎるとか一番駄目なやつじゃんかー。
己の力は己が一番理解してるっていうけど、私は私の能力を真に理解できた試しはないな。化け物級にヤバイ能力ってことしか分からん。
ちゃんと理解できてたらこんな事態にはならなかったろうに。言っても栓ないことだけどさ。
「エリー!血が……っ」
「エリーさん……!」
地面へと落ちてゆく私を悲痛な表情で見上げ、どうにか受け止めようと手を伸ばすロイド王子とリック。
ひらりと手を振って大丈夫アピールをし、亜空間鞄の奥底に眠っていた鎖鎌をじゃらんと取り出す。
素早く鎖を腕に巻き付けて鎌を適当な壁にぶん投げると、鎌は見事壁に深く突き刺さり、私の身体は宙ぶらりんになる。
ふぃー。鎖鎌のおかげで命拾いしたぜ。なんでこんなマニアックな武器鞄に仕込んでたのか自分でも覚えてないけども。
宙ぶらりんになったとこは地面から割りと近いので、壁を蹴って着地する。
黒い布を口からずらして微かな声量で「癒せ」と口ずさめば、みるみるうちに身体に深く刻まれた傷が治っていった。
元の色白な肌が露になり、切り裂かれた箇所から冷たい風が侵入してきてぶるっと身体が震えるけど我慢だ我慢。
上を見上げれば、確かに肉を切り裂いた感触があったのに無傷で平然と突っ立っている私に怪訝そうな顔をするドラゴンが。表情豊かなドラゴンさんやね。
つーかよ、お前さん。私は一言物申したい。
ドラゴンなんだから火を吹け火を!!何ブリザード起こしてくれとんのじゃおのれ!!
ドラゴンっつったらあれじゃん、炎のブレス吐いて人間を蹂躙するのがテンプレなやつじゃん。
テンプレ通りブレス吐けよ!期待外れもいいとこだわ!
「いや突っ込むとこそこ!?」
ロイド王子がなんか叫んでるけどスルー。
さぁてどうするかなー。
言霊能力でしか倒せなさそうだけど接近することすらままならないんだもんなー。
仮に接近できてもまたブリザード起こされたら視界最悪、かーらーのー大ダメージになっちゃいそう。なっちゃいそうっつか、なるだろ。絶対。
だからってあのデカブツに接近せずに言霊能力を使おうものなら皆も巻き添えにしちゃうだろうし、使う言葉は慎重に選ばなきゃいけない。
剣で倒せたりしないかなーとも思ったけどあのクッソ硬そうな鱗が邪魔して無理。
腹に鱗はないからそこから斬り込めるかな?いや無理だな。未だ奴は上空で悠々と翼をはためかせている。ブリザードは健在。そんな中突っ込むとか自殺行為だってばよ。
どうやって倒すかなーと悩んでいる間にも彼方さんは待ってはくれない訳で、痺れを切らしたドラゴンが口を大きく開ける。
キュイィィンとまるで何かを吸収するような、あるいは吐き出す前兆のようなそれに頭で考えるより早く口が動いた。
「結界」
半透明な膜が私を覆い隠す。
そして結界と唱えた直後、ドラゴンの口から青白いブレスが放たれた。
国の名前忘れたけどどこぞの寒冷地域で見たような景色に早変わり。辺り一面見事な雪景色に早変わり。
ただしちぃとばかり違うのはブレスが直撃した箇所に氷が張られていること。まるでスケートリンクだ。滑って遊びたい。いやそれは後だ。
結界で防いだおかげで私は無傷。もちろんずっと結界に閉じ込めてるロイド王子達も無傷。
へへーんだ!私を傷付けるなんざ百年早ぇんだよ!
聞こえない。「がっつり怪我負わされたやつが何言ってんの」なんて言葉は聞こえなーい!
「グルルルルル………」
お得意な必殺技も効果なしと知って苛立ちゲージが目に見えてMAXに近付いているドラゴン。
わぁお。めっちゃ睨んでるーぅ。続けて攻撃してくるかと思いきや手札はあれで全部らしく警戒しつつも近付いてこない。
奴から目線は逸らさないまま私も後方にひとっ跳びで下がる。
「エリーさん!怪我は!?」
優しいなーリックは。真っ先に私の心配をしてくれるなんて。大丈夫だという意味で顔も見ずにひらひら手を振った。
油断大敵。ドラゴンから目は逸らさないぜ。
「どうしましょうか……この部屋から逃げようにも入ってきた扉は開かないし」
「迷宮の最深部に到達したら迷宮主を倒すまで出られないという推測は間違いなさそうですね」
空気と化していた騎士達が顔を突き合わせて思案顔。
その中で一人だけ私に視線を送っているのに気付いた。
「……ケラー殿。ひとつ質問……いえ、確認したいのですが」
私に熱い視線を送ってたのは君か勇者騎士君。
ヘイヘイ質問プリーズ!という意味で背後に向けて人差し指をくいっとな。
「ケラー殿の能力は、言葉に力を乗せて事象を改変する……いわば言霊というものではないですか?」
まぁ普通気付くよね。敵を一瞬で葬ったり結界張ったり怪我治したりと色々見せちゃったもんね。
ロイド王子が僅かに警戒しだしたのが気配で伝わってきた。
ロイドさんや。私の能力を私利私欲に使われるのを警戒してくれんのは嬉しいけど、今は緊急時なんだからそんな些末なこと横に置いといてくれないかい。
そんなことより通訳はよ。
「……ピンポンピンポン大正解ー。言葉を発しようものなら何らかの事象改変が発生しちゃう困ったちゃんな能力だよーん。でも私のこれは強力すぎて一言放つだけで大惨事になっちゃうんだわ」
「一言とは、例えば?」
「眠れとか癒せとか」
ふむ、としばし考えこむ勇者騎士。
「それ、対象物や範囲を絞る言葉を紡いだら制御できませんか?」
ドラゴンの脅威が頭からすっぽ抜けてバッ!と背後を振り返る。今の私の顔は驚きに満ちていることだろう。
目から鱗とはまさにこのこと。完全に盲点だった。
そうじゃん!言霊で範囲を絞ったり対象を指定すれば上手くコントロールできるかもしんないじゃん!
ありがとう勇者騎士!光明が見えてきた!つーか自分の能力なんだからもっと早くに気付けよ私!馬鹿か?馬鹿だ!
私が油断してるように見えたドラゴンさんはまた白いブレスをぶっ放したけど当然結界に阻まれた。
さてどうしよう。範囲と対象物指定っつっても言葉は慎重に選ばないとね。下手すりゃ皆を巻き添えにしちまう。
範囲と対象物指定……範囲と対象物指定……ああもう!考えんのめんどくせー!
ロイドさんや、なんかいい案ないですかい?
「諦めるの早すぎでしょ!?うーん、それじゃあ始めは無難に……」
皆に被害が及ばないようきっちり距離を取ってからロイド王子が口にしたそれを私の声で紡いだ。
「フォルス第3迷宮最深部にいる氷を操る青白いドラゴンを植物で拘束」
念のため声は小さくしたんだけど、よっしゃあああ発動しなかったあああ!!
多分細かく指定したら声が小さいと発動しないとかそんな感じ?
よし、よぉし!んじゃ久々に普通の声量でもういっちょ!
「フォルス第3迷宮最深部にいる氷を操る青白いドラゴンを植物で拘束!」
こんな長文喋ったの初めてだなぁと思ったその瞬間、どこからともなく現れた草木がドラゴンの周りを囲む。
複雑に絡まり合って遠目からは一本の蔓のように見えるそれらは容易くドラゴンの自由を奪った。
おお……!初めてまともに発動した……!
新発見。能力の制御がなってないのは言葉選びが雑すぎたせいだった!ははっ、我ながらなんてアホな……
ま、まぁ、勇者騎士のおかげで能力の使い方も多少は分かったし、結果オーライってことで。
なんか猛毒の花とか混じってるけど、その程度なら誤差だ。多分。
棘がいっぱいある植物が皮膚を傷付け、そこから体内に毒が侵入したのか分かりやすく動きが鈍るドラゴン。
……誤差だ!誤差なんだぁぁぁ!!
あの巨体を弱らせるってどんな毒だよ。私が知りたいわ。
己の能力で出現させたのに中身を知らない女、それがわたくしエリー・ケラー。どやっ。
そうやって内心ふざけてる間にもドラゴンはどんどん動きを鈍らせている。
あ、待って。まだ死なないで。仮にも迷宮主なんだから毒殺は嫌でしょ?嫌だよね?嫌だそうだ。なので私がトドメを刺してあげよう。うんそうしよう!
素人目に見ても弱体化真っ最中なドラゴンを目の当たりにして「うわぁ……」って顔してるロイド王子に構わず言葉を投げる。
ロイド王子ー。ロイドっちー。ロイロイロイちゃーん。エリーちゃんのお願い聞いてくれるー??
「人に頼む態度じゃないけど、いいよ。次はこういうのはどう?」
続けた言葉に、らじゃ!と親指をビッとな。
さぁさぁバトルも佳境に入りました!血肉沸き躍る過酷で熾烈な戦いは観客を楽しませる見事なものでしたね。
エリーさんもドラゴンさんも満身創痍、次の一手が勝敗を決するでしょう。お前バリバリ元気やんけ!ってツッコミは受け付けません。
ありがとうドラゴン。君の尊い犠牲で迷宮完全攻略という偉業を我々は成し遂げられる。君のことは忘れないよ……多分おそらくきっと。
「フォルス第3迷宮最深部にいる氷を操る青白いドラゴンに永遠の眠りを与える」
最後の悪足掻きとばかりにブレスを放とうと大きく口を開けるドラゴンに最後の言葉を贈ってあげると、一瞬だけ目を見開いたあとすぐにその巨体が傾いだ。
地響きと共に地面とこんにちはしたドラゴンの瞳に光はない。念のため呼吸をしてないか確認するも、腹部が動くこともなかった。
……倒した。倒したんだ。
物語の中にしか存在しないと思ってた生き物を、架空の存在と信じていた生き物を、このドラゴンを、倒したんだぁぁぁ!!
「やっ……」
やったー倒したぞおおお!!と叫びそうになって思いとどまる。やっべ。黒布外したままだった。
慌てて黒布で口を覆い隠すも一足遅かったようで、突如異変は訪れた。
ひゅんひゅんっと風を切る音がボス部屋を埋め尽くしたのだ。
「な、なんだ!?急に矢が降ってきたぞ!」
矢じゃないっちゅーねん!!
やったーって言おうとしただけじゃん!なんで矢が雨のように降り注ぐんじゃボケェ!!
明後日の方向に暴走した己の能力に内心憤りつつ、どうにか矢の雨を止めた。
すまん皆。迷宮を完全攻略できた余韻に浸ってたところに水を差して。
ポンコツ能力の暴走というハプニングはあれど、無事迷宮主討伐を成し遂げた私達。
物言わぬ骸となって横たわる伝説の存在がその偉業を物語っている。
「いや、結局俺らなんもしてないし。ほぼエリー1人で倒したでしょ」
苦笑混じりに言うロイド王子に言葉なく賛同する面々。
いやいやいや何言ってんの。皆大いに貢献してくれたっしょ。
ロイド王子が言霊の内容考えてくれたのはもちろんのこと、リックも密かにヘイト管理してドラゴンの意識が私に極力向かないようにしてくれたのもちゃんと見てたんだからな!
それだけじゃなく勇者騎士には言霊能力使いこなすヒントをもらったし、他の皆さんもドラゴンの生態やらなんやら書き留めて情報処理してくれたし。
みーんながいたから倒せたの!
私ひとりじゃ無理だったの!
てな訳でハイ議論終わり!そんなことよりあのクソデカモンスターの後処理手伝え!
「ハイハイ。それはいいけど、この結界解いてくれないと手伝えないよ?」
……そうでした。忘れとった。すまん。
言霊能力で生み出した結界を手短にサクッと解く。
だからぁ、なんで守り方面の言霊さんは長文使わなくても言うこと聞いてくれるんですかぁ。意味不明なんですケドー。
己の能力の仕様に納得できぬままドラゴンを解体していく。全員総出で作業に取り掛かったおかげでわりと早く終わった。
さぁ気持ちを切り替えよう。
肉だぁぁぁぁぁ!!
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ロイド王子「ストーカーなんて心外だなぁ。珍獣と追いかけっこしてただけだよ(実に爽やかな笑顔)」