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09. 旅人と帝国の巡回
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ロイド・フォルスと王族専属の料理人達に手料理を振る舞ってから早数日。
帝国を巡回する日々を送っていた。
ロイド王子が言ってたのはマジだったようで、治安の悪い地域では能力を使った犯罪が目白押しだった。
全く。たいして凄い能力でもないのにヒャッハーしやがって。
なんだよ、正規の鍵がなくても鍵を開けれる能力って。
丸っきりピッ○ング特化能力じゃん。
なんだよ、身体の一部を透明化できる能力って。
使い方次第でどんな犯罪も犯せるじゃん。
地味だけど犯罪方面で大いに役立っちゃう能力なんぞ発芽させるなよ。誰しも能力は選べないけどさ。
ロイド・フォルスが手引きした兵士と一緒に巡回した結果、初日だけで57回も現行犯逮捕しちまったよ。
この国大丈夫?犯罪王国になってない?
まぁそんなこんなで犯罪者共をこらしめつつ、野宿生活を満喫してます。
いやぁー極楽極楽。
念願の野宿生活を手に入れた。しかも平原!
文句なんてあるわけがない。むしろお礼言いたいくらいだ。
やっぱ人工の建物より大自然の方が寝心地いいね!
ボロ宿屋もなかなかいい環境だったんだけど、野宿には敵わないぜ。
ちょい悪犯罪野郎共とドンパチやってるもんだから当然私を疎ましく思ってる輩もいる。
犯罪者予備軍な。
そいつらをどうにかする名目で兵士が護衛についてきてくれてるんだけど、ぶっちゃけ必要ないんだよね。
「うわぁぁぁっ!?」
「な、なんだよこのデタラメな強さ……敵わねぇよ……っ」
敵意を持って向かってくる輩は反射的に身体が動いて武力行使しちゃうもんだからさ。
できるだけ怪我させないように注意しながら能力を使ったわりに地味な攻撃を剣でいなして敵の動きを止める。
「ちょっとエリーさぁん! また勝手に!」
全員無力化させたところで私の元に駆け寄ってきたのは早朝のランニングが似合いそうな爽やか青年。
いつぞやの宴会で酔っ払いジジィを介抱してた若い男だ。
「もう!勝手にいなくならないでって何度も言ってるのに!」
『ごめん。こいつら捕まえてた』
困った人を見る目でちょい睨まれたので筆談で言い訳する。
私の足元に転がっている襲撃者を一瞥してなんとも言えない微妙な眼差しを向けられた。
「一応、こういう事態を未然に防ぐために俺がいるんだけど……護衛いらなくない?」
否定できん。
私を狙った襲撃者は全員私自ら制裁下してるからな。
ロイド王子もそれは分かってるだろうに。
あれか?監視の意味もあんのか?
全く。信用ねぇなぁ。ちゃんと期限内は仕事するってぇのに。
あ、もしかしてロイド王子の預り知らぬところで私を利用しようと企む奴ら接触させないようにしてるとか?
公衆の面前で戦ったのって熊野郎倒したときだけだから、私のそれなりに強い剣術を見たのはあの場にいた兵士と一部の民だけ。
それだけで狙われることはないと思う。
狙うとしたら私の能力だ。
だが私の能力を知る者はロイド王子だけ。
あいつが自分から契約違反を侵すとは思わないから、そこから情報が洩れることはないだろう。
けどギルドカード作ったときになー……
対応してくれた人がちょっと騒いでたし、周りも人いっぱいいたから騒ぎを聞いた人もいただろうな。
んで私の実力が一部にバレて、尚且つそれが利己的な人間だったのなら私に接触する機会を伺ってても不思議じゃない。
ロイド王子はそいつらと私が鉢合わせないようにわざわざ護衛兼監視をつけたと。
この数日振り返ってみると、爽快少年が率先して道案内してくれてたけどどこか不自然なときもあった。まるで何か特定のものを避けるような感じ。
はっはーん?なーるほど。
ただの胡散臭いだけの王子サマかと思ってたけど上手く立ち回ってんのね。
「おお…またあの旅人さんか」
「帝国一犯罪の多い町が見違えたわね」
「平和になってくなぁ。あの嬢ちゃんのおかげだ」
「でも不気味よね……全身真っ黒で表情が分からないし、全然喋らないし……」
「お、おい止せ!そんなこと言ってあの旅人がこの国から出ていったらどうする!?」
爽快少年に後処理を任せていると、通行人がそんなことを言い出した。
たったの数日で私も有名になったもんやね。
けどやっぱ得体の知れない人間が突然出入りするようになって警戒してらっしゃる。
町の治安を良くしてくれるのは大いに助かるけど、不気味な出で立ちだから素直に感謝するのは抵抗があるってとこか。
「あ、あの。エリーさん……」
手早く後処理を済ませた爽快少年が気遣うように声をかけてきた。
「気にしないでね?エリーさんが声出せないのも顔隠してる理由も知らないからああ言ってるだけだからね?皆、町を守ってくれてるエリーさんには感謝してるからね?」
ああ、不気味って言われて傷ついたと思ってるのか。
慣れてるから平気なのに。
こくりと頷いて気にしてないアピールするとホッと息を吐いた。
こいつ優しいなぁ。惚れてまうやろー!なんてね。
あ、大丈夫。タイプじゃないから。
―――――――――――――――――――
ある程度巡回を済ませた後、爽快少年を連れてある場所へと足を運んだ。
縦にも横にも何人並べるんだと問いたくなるくらいデカイ門。
その先に仰々しく鎮座する更にデカイ建物。
その建物をきらびやかに飾る装飾。
さてさて本日もやって参りましたフォルス帝国王城。
いつ見てもでっかいわー。
真正面から入るの躊躇するくらい豪華だわー。
庶民平伏せやぁ!って厳かな門が雄弁に物語ってるわー。
流石帝国の城。色々とパネェ。
ここ数日はロイド王子に巡回の報酬を貰うためにこうして城に出入りしている。
他の場所で受け渡しするのも何かと問題あるしね。
てな訳で一番安全な城を選んだのですが、ここでひとつ問題発生。
目がチカチカする装飾のせいで来るたびに目が痛むんだよ。
厳かな城の中に入るたびにメンタルがガリガリ削られるんだよ。
「そこの者、何奴だ!」
これまた来るたびに城の警備兵に止められるんだよ。
あれこれひとつじゃなくないか?
「すみません、ロイド王子のお客様です」
「む?……ああ、この者が例の……失礼した。入っていいぞ」
爽快少年が苦笑混じりに説明してくれたおかげで門を開けてくれる光景もこの数日で少しは慣れてきた。嫌な慣れだ……
城に入ると給仕がロイド王子の私室まで案内してくれて、その部屋の前に爽快少年を待機させてから中へ。
「今日も大活躍だったね」
夜でもないのに星が散りばめられたかのように錯覚するほど輝かしい雰囲気を纏って楽しそうに微笑むロイド王子が出迎えてくれた。
だから無駄にキラッキラになるなっての!
「さてと。知っての通り全部筒抜けだからほぼ無意味だけど、報告を聞こうか」
広範囲の心の声が聞こえるこの男にとっては本当に無意味だが、報告書を纏めるのに当事者の報告が必要不可欠なので仕方ない。
本来は当事者が報告書を纏めなければいけないんだが、それはその国の住人だった場合。
私は旅人なのでそういう煩わしいものは一切やらなくていい。
旅人万歳!
国に留まらない職業ってスバラシイ。
こういうときに言われたことだけをやって、聞かれたことに答えるだけでいいんだもの。
わざわざ机にかじりつかなくてもいいんだもの!
ロイド王子の読心能力のおかげでほとんど確認に近い報告作業も終わり、今日の分の報酬を頂いて、さぁ今日も魔物を狩るぞーと意気込んでいると、ロイド王子に腕を掴まれた。
いきなりのことに少し身構える。
「今日の公務はもう終わったんだ」
静かに告げられた言葉。
ああ、そう。
じゃあごゆっくりしてれば?
「最近公務ばっかりで身体鈍っててさ。少し運動しようかなって思うんだけど……」
ああ、そう。
じゃあ勝手に運動してれば?
わざわざ私に言う意味が分からん。
分からんが、何か良からぬものを察知した。
そしてその予感は当たる。
最早見慣れてしまったキラキラスマイルに輝きが2割増ししたロイド王子の溢れんばかりの笑顔と共に放たれた一言に、黒い布で覆っている口があんぐりと間抜けに開いたのだった。
「俺も一緒に魔物狩りに行きたいな」
帝国を巡回する日々を送っていた。
ロイド王子が言ってたのはマジだったようで、治安の悪い地域では能力を使った犯罪が目白押しだった。
全く。たいして凄い能力でもないのにヒャッハーしやがって。
なんだよ、正規の鍵がなくても鍵を開けれる能力って。
丸っきりピッ○ング特化能力じゃん。
なんだよ、身体の一部を透明化できる能力って。
使い方次第でどんな犯罪も犯せるじゃん。
地味だけど犯罪方面で大いに役立っちゃう能力なんぞ発芽させるなよ。誰しも能力は選べないけどさ。
ロイド・フォルスが手引きした兵士と一緒に巡回した結果、初日だけで57回も現行犯逮捕しちまったよ。
この国大丈夫?犯罪王国になってない?
まぁそんなこんなで犯罪者共をこらしめつつ、野宿生活を満喫してます。
いやぁー極楽極楽。
念願の野宿生活を手に入れた。しかも平原!
文句なんてあるわけがない。むしろお礼言いたいくらいだ。
やっぱ人工の建物より大自然の方が寝心地いいね!
ボロ宿屋もなかなかいい環境だったんだけど、野宿には敵わないぜ。
ちょい悪犯罪野郎共とドンパチやってるもんだから当然私を疎ましく思ってる輩もいる。
犯罪者予備軍な。
そいつらをどうにかする名目で兵士が護衛についてきてくれてるんだけど、ぶっちゃけ必要ないんだよね。
「うわぁぁぁっ!?」
「な、なんだよこのデタラメな強さ……敵わねぇよ……っ」
敵意を持って向かってくる輩は反射的に身体が動いて武力行使しちゃうもんだからさ。
できるだけ怪我させないように注意しながら能力を使ったわりに地味な攻撃を剣でいなして敵の動きを止める。
「ちょっとエリーさぁん! また勝手に!」
全員無力化させたところで私の元に駆け寄ってきたのは早朝のランニングが似合いそうな爽やか青年。
いつぞやの宴会で酔っ払いジジィを介抱してた若い男だ。
「もう!勝手にいなくならないでって何度も言ってるのに!」
『ごめん。こいつら捕まえてた』
困った人を見る目でちょい睨まれたので筆談で言い訳する。
私の足元に転がっている襲撃者を一瞥してなんとも言えない微妙な眼差しを向けられた。
「一応、こういう事態を未然に防ぐために俺がいるんだけど……護衛いらなくない?」
否定できん。
私を狙った襲撃者は全員私自ら制裁下してるからな。
ロイド王子もそれは分かってるだろうに。
あれか?監視の意味もあんのか?
全く。信用ねぇなぁ。ちゃんと期限内は仕事するってぇのに。
あ、もしかしてロイド王子の預り知らぬところで私を利用しようと企む奴ら接触させないようにしてるとか?
公衆の面前で戦ったのって熊野郎倒したときだけだから、私のそれなりに強い剣術を見たのはあの場にいた兵士と一部の民だけ。
それだけで狙われることはないと思う。
狙うとしたら私の能力だ。
だが私の能力を知る者はロイド王子だけ。
あいつが自分から契約違反を侵すとは思わないから、そこから情報が洩れることはないだろう。
けどギルドカード作ったときになー……
対応してくれた人がちょっと騒いでたし、周りも人いっぱいいたから騒ぎを聞いた人もいただろうな。
んで私の実力が一部にバレて、尚且つそれが利己的な人間だったのなら私に接触する機会を伺ってても不思議じゃない。
ロイド王子はそいつらと私が鉢合わせないようにわざわざ護衛兼監視をつけたと。
この数日振り返ってみると、爽快少年が率先して道案内してくれてたけどどこか不自然なときもあった。まるで何か特定のものを避けるような感じ。
はっはーん?なーるほど。
ただの胡散臭いだけの王子サマかと思ってたけど上手く立ち回ってんのね。
「おお…またあの旅人さんか」
「帝国一犯罪の多い町が見違えたわね」
「平和になってくなぁ。あの嬢ちゃんのおかげだ」
「でも不気味よね……全身真っ黒で表情が分からないし、全然喋らないし……」
「お、おい止せ!そんなこと言ってあの旅人がこの国から出ていったらどうする!?」
爽快少年に後処理を任せていると、通行人がそんなことを言い出した。
たったの数日で私も有名になったもんやね。
けどやっぱ得体の知れない人間が突然出入りするようになって警戒してらっしゃる。
町の治安を良くしてくれるのは大いに助かるけど、不気味な出で立ちだから素直に感謝するのは抵抗があるってとこか。
「あ、あの。エリーさん……」
手早く後処理を済ませた爽快少年が気遣うように声をかけてきた。
「気にしないでね?エリーさんが声出せないのも顔隠してる理由も知らないからああ言ってるだけだからね?皆、町を守ってくれてるエリーさんには感謝してるからね?」
ああ、不気味って言われて傷ついたと思ってるのか。
慣れてるから平気なのに。
こくりと頷いて気にしてないアピールするとホッと息を吐いた。
こいつ優しいなぁ。惚れてまうやろー!なんてね。
あ、大丈夫。タイプじゃないから。
―――――――――――――――――――
ある程度巡回を済ませた後、爽快少年を連れてある場所へと足を運んだ。
縦にも横にも何人並べるんだと問いたくなるくらいデカイ門。
その先に仰々しく鎮座する更にデカイ建物。
その建物をきらびやかに飾る装飾。
さてさて本日もやって参りましたフォルス帝国王城。
いつ見てもでっかいわー。
真正面から入るの躊躇するくらい豪華だわー。
庶民平伏せやぁ!って厳かな門が雄弁に物語ってるわー。
流石帝国の城。色々とパネェ。
ここ数日はロイド王子に巡回の報酬を貰うためにこうして城に出入りしている。
他の場所で受け渡しするのも何かと問題あるしね。
てな訳で一番安全な城を選んだのですが、ここでひとつ問題発生。
目がチカチカする装飾のせいで来るたびに目が痛むんだよ。
厳かな城の中に入るたびにメンタルがガリガリ削られるんだよ。
「そこの者、何奴だ!」
これまた来るたびに城の警備兵に止められるんだよ。
あれこれひとつじゃなくないか?
「すみません、ロイド王子のお客様です」
「む?……ああ、この者が例の……失礼した。入っていいぞ」
爽快少年が苦笑混じりに説明してくれたおかげで門を開けてくれる光景もこの数日で少しは慣れてきた。嫌な慣れだ……
城に入ると給仕がロイド王子の私室まで案内してくれて、その部屋の前に爽快少年を待機させてから中へ。
「今日も大活躍だったね」
夜でもないのに星が散りばめられたかのように錯覚するほど輝かしい雰囲気を纏って楽しそうに微笑むロイド王子が出迎えてくれた。
だから無駄にキラッキラになるなっての!
「さてと。知っての通り全部筒抜けだからほぼ無意味だけど、報告を聞こうか」
広範囲の心の声が聞こえるこの男にとっては本当に無意味だが、報告書を纏めるのに当事者の報告が必要不可欠なので仕方ない。
本来は当事者が報告書を纏めなければいけないんだが、それはその国の住人だった場合。
私は旅人なのでそういう煩わしいものは一切やらなくていい。
旅人万歳!
国に留まらない職業ってスバラシイ。
こういうときに言われたことだけをやって、聞かれたことに答えるだけでいいんだもの。
わざわざ机にかじりつかなくてもいいんだもの!
ロイド王子の読心能力のおかげでほとんど確認に近い報告作業も終わり、今日の分の報酬を頂いて、さぁ今日も魔物を狩るぞーと意気込んでいると、ロイド王子に腕を掴まれた。
いきなりのことに少し身構える。
「今日の公務はもう終わったんだ」
静かに告げられた言葉。
ああ、そう。
じゃあごゆっくりしてれば?
「最近公務ばっかりで身体鈍っててさ。少し運動しようかなって思うんだけど……」
ああ、そう。
じゃあ勝手に運動してれば?
わざわざ私に言う意味が分からん。
分からんが、何か良からぬものを察知した。
そしてその予感は当たる。
最早見慣れてしまったキラキラスマイルに輝きが2割増ししたロイド王子の溢れんばかりの笑顔と共に放たれた一言に、黒い布で覆っている口があんぐりと間抜けに開いたのだった。
「俺も一緒に魔物狩りに行きたいな」
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