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04. 旅人とギルドカード

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 野宿ができる喜びで一頻り興奮しまくってようやく落ち着きを取り戻した頃、理想の生活環境を手に入れるための条件である取引内容について聞いた。

 主な仕事内容はフォルス帝国内を巡回すること。
 なんでお巡りさんの真似事なんぞせにゃならんのだと抗議したところ、低ランク兵士しかいないせいで能力を使った犯罪が増えていて困ってると返されたので渋々納得。
 いるんだよなぁ、自分の能力に酔って嫌な方向にヒャッハーしちゃうやつ。

 それとフォルス帝国周辺を巡回。
 これはあんま意味ないと思うけどね。
 ホワイトシープとか、低ランク兵士でも余裕で倒せる魔物しかいないし。あ、じゃあその間に別の依頼でもして時間潰そうかな。

 ついさっきロイド・フォルスに見つかる前に受けようとした依頼もいい暇潰しになりそうだ。

 王子サマ直々の依頼とあって報酬はかなりの金額である。
 本音を言っちゃうと野宿さえできれば他はどうでもいいんだけど、王族の依頼を直々に受けるなら金は受け取っておかないと不敬に当たるらしいからな。向こうも体裁が悪くなるって言うし。
 わざわざ突っ返すのもアレだしな。もらえるもんはもらっとこう。うん。

 よし、んじゃさっそくギルドカード発行しますか。善は急げって言うしな。

 ソファから立ち上がり、ギルドカード発行窓口に足を運ぼうとしたが、ロイド・フォルスが立ち塞がったことでそれは叶わなかった。

 おいロイド氏よ。邪魔だ退け。

 手でしっしっと野良犬を追っ払う仕草をしても退きやしなかった。
 それどころかしっしっした手を掴み、甲に唇を押し付けた。
 器用にもちゅっと音を立てて。

「ありがとう、エリー。君のおかげで様々な問題が解決できる。本当に、ありがとう」

 ぶわっと全身鳥肌立った。

 わかった。わかったから手ぇ離せや!

「うわぁ俺初めてだよ、虫の死骸を見るような目で見られたの」

 何が面白いのかロイド・フォルスが楽しそうにケラケラ笑ってる間にしゅばっと手を引っ込める。

 用件は済んだな?済んだよな。
 じゃあもう私に構うなよ王子サマ。

「あー待って、俺も一緒に行く」

 なんでだよ!ついてくんな!!

「そんなつれないこと言わないでさぁ、仲良くしよ?」

 肩抱いてんじゃねぇよ。
 耳に囁くんじゃねぇよ!

 すたすたすたとギルド職員に怒られない程度に競歩とも走行とも取れる速度でギルドの受付まで足を運ぶが、何故か王子サマは私に付きまとってきて離れない。鬱陶しい!
 大体王子なんだったら公務とかあんじゃないの!?暇人かよ!

 もういいや。スルーしよう。
 そうだ、私の隣には誰もいないんだ。
 妙にキラキラしてるけど陽の光が反射してるだけだきっと。
 そう思い込んだらほら、姿がぼやけて見えてきた。
 いいぞーその調子だ。奴は……そう、風景だ。風景の一部だ。

「わぁ存在消されたー。こんな扱い生まれて初めてだよ」


 依頼受注や依頼登録の窓口は混雑していたが、ギルドカード発行窓口は空いてたためすんなりと事務作業を終えられた。
 何故かギルドの奥から出て来てからずっとあちこちから視線を感じるが、それは私ではなく私の隣にいる高貴なお方へと降り注いでいるに違いない。

 実際、私を対応してる受付嬢も私の横にいるやつを見てぎょっとしてたし。だが流石は受付嬢と言うべきか、すぐに平静を取り戻して対応してくれたけど。
 筆談で名前と能力を伝えると、受付嬢は怪訝な表情に。

「聞いたことのない能力ですね。どんな力なのでしょうか……水晶を直ちにお持ちしますので少々お待ち下さい」

 ランクを確定する水晶を持ってくるためにカウンターの奥へと引っ込んだ受付嬢の背中をぼんやり眺めていると、ひょいっと筆談用の紙を横から奪われた。

「俺も聞いたことないや。なんなの?この能力」

 思わずはぁ、とため息が漏れる。

 アンタどんだけ暇なんよ。私を追っ掛け回すよりやることあんだろ王子サマ。
 せっかく人が頭の中でだけ存在を消したってのにこのキラキラ男……

 じとぉっと睨めつければ、しゃららんっと効果音がつきそうな素敵な笑顔で反撃されてすっと視線を逸らす。負けた。

 どんな能力って聞かれてもなぁ……
 私自身もよく分かってないし。
 とりあえず能力の名称はここからずーっと東にある小国からきてるもんだよ。

 え、自分の能力すらちゃんと把握してないの?と目線で馬鹿にしてるキラキラ王子からナイスタイミングで戻ってきた受付嬢へと視線を移す。

「それではこちらの水晶に手を乗せて下さい。一瞬で終わりますからねー。楽ーにして下さいねー」

 おいやめろ。その言い方だと人生終了のお知らせみたく感じるだろうが。

 言い方はともかく、時間を無駄使いはしたくないので素直に言われた通りに利き手を水晶に乗せる。
 するとほんの一瞬青白く光ったかと思えばうんともすんとも言わなくなり、本当に一瞬で終わったことを確認。

 いやぁ、いつ見ても不思議なもんやね。
 端から見たら一瞬光っただけなのにもう計測完了とか。
 どこの国の水晶も優秀すぎるわー。
 その内勝手に知能を取り入れて人類に大きく貢献してくれるんじゃね?
 いやもしかしたら逆に人類の天敵になっちゃったりして。
 そしたらラスボス級やん。人類破滅の危機、なんつってー。

「あ、あのー……もう終わったので手を退けても結構ですよ」

「まーたトリップしてるし。おーいエリー、戻ってきなさーい」

 ロイド・フォルスが私の眼前で手をひらひらしたことで思考は一気に現実へと引き戻される。

 すまんすまん、と心の中で軽い謝罪を告げて水晶から手を離す。
 その瞬間、水晶の上にずらーっと剣術やら頭脳やら能力やらの測定結果が映し出された。空中に文字が浮かんでる状態だ。

「なっ……!?」

「え……?嘘…………」

 それを見た受付嬢は驚愕の声を上げた。
 出会ってからほぼずっとにこにこ笑顔を崩さないロイド・フォルスでさえ信じられないと言いたげにぽつりと溢して私と水晶の文字を交互に見ている。

 水晶にはこのように記されていた。

―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――

名前:エリー・ケラー
年齢:21

体力:S
武術:B
剣術:SS
盾術:F
頭脳:S
知識:S
精神強度:S
状態異常耐性:SS
能力値:測定不能

総合結果:Xover

―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――


 測定結果は冒険者ランクと同じ振り分けだ。上がX、下がF。
 うわー前回と全くこれっぽっちも変化ねぇー!
 盾術だけが最底辺っつーね。まぁ私、攻撃を受け止めるより避ける派だから盾なんて使わねぇもんな。だって盾なんて重くて動きにくいじゃん。ならいらん。

「ななななんなんですかここここの結果はあああ!!?あ、ああありえません!能力が測定不能ってのも信じられないですけど、Xランク、しかもオーバーって!化け物ですか!?」

「頭脳がSなのは納得いかないなぁ。せいぜいCくらいだと思ってたのに」

 受付嬢はリアクションがオーバーだなぁ。
 そんでもってロイド・フォルスは失礼すぎるわ。
 あれか?私の頭脳はせいぜい猿かゴリラ辺りだとでも言いたいのか?
 誰がミジンコ知能だこのやろぉぉぉ!

「だから誰もそこまでは……」

 それにしても、やっぱりここでも目立つなー。
 どんなに腕が立つ冒険者でもせいぜいSランクがいいところだもんな。そのひとつ上のSSランクでさえ極たまーにしか見かけないし、最高ランクのXなんてそうそういないもんな。
 しかもオーバーランクだし。そりゃ受付のお姉さんもそんな反応しちゃうよね。
 期待を裏切らずここでも他と同じ反応ありがとよ。全く嬉しくねぇけどな。

 だって実感沸かないもん。そんなに頻繁に能力使ってないのに測定不能とか意味わかんねぇよ。
 最初は水晶がバグってるのかと思いきや私の方がバグってるって判明したしな。ははは。笑っちゃうぜ。

 少しの間水晶の文字を凝視して口元をひくつかせていた受付嬢はようやく正気を取り戻し、ぎこちない動きながらもどうにか旅人用のギルドカードを発行してくれた。

 てっきり他国と同じように高ランク依頼押し付けられると思ってたけどそんなことはなく、内心首を傾げていたら驚愕から立ち直ったロイド・フォルスが教えてくれた。

「今のとこ、高ランク依頼はフォルス帝国には流れてないよ。少なくとも陛下の外遊が終わるまでは流れないと思う」

 陛下の護衛に連れられてる高ランク兵士が戻ってくるまで高ランク依頼は登録するのも他国から流れてもできなくなってるってことか。妥当な選択だな。

 このギルド内にも強い冒険者がいるにはいるが、せいぜいBランク程度のそこそこできるやつしかいない。
 高ランク依頼ってのは最低でもSランク以上の実力がなきゃ受けれないのだ。
 実力が伴わない輩に受けさせて無駄死にさせる訳にもいかんもんな。
 何はともあれ、国の面倒を背負わされなくて何よりだ。

 出来立てホヤホヤのフォルス帝国旅人用ギルドカードを大事に懐にしまい、ついでに依頼受注もちゃっちゃと済ませて平原へと足を進めた。

 さーてギルドカードも手にいれたことだし、これで心置き無く肉狩りできるぜー!

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