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第二章
キャシーの気持ち
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あまり長く泳いでいては体が冷えるので、『そろそろ釣りをしよう』とリュカが提案し、ミッシェルは湖から出た。
「あんなにうまく泳げるようになっているとは思わなかった。去年は、全然進まなかったのに」
「ニックに教えてもらったんです!」
リュカに褒められて、ニコニコのミッシェル。
「良かったですねぇ、ミッシェル様。頑張りましたものね」
濡れた髪を拭き、服を着せてあげているキャシーを見ながら、スピカとリリーはひそひそ話す。
『あのネックレス……』
『ええ、間違いないわ。それに見て、キャシーの顔』
『キラキラ輝いて見えます、お姉さま』
『そう、幸せで輝いているわ。声もなんだか、いつもより高いし』
『ニックは……にやけてますね』
『ええ、ものすごくね』
真剣な顔で釣竿の用意をしているが、すぐ口元が緩んでしまい、ハッとしてまた真面目な顔を作る、を繰り返している。
『悔しいわ、告白の場面を見逃すなんて。どうしてリリーは見ていなかったの!?』
『だってバッタが……。スピカお姉さまこそ、どうして見てなかったんですか!』
『だって、食事の後はお昼寝って決めてるから……』
二匹が顔を突き合わせ、悔しそうに話しているところにチェイスがやってきた。
『どうしたの? なんかあった?』
『あー、ううん、なんでもないよ』
『そう? あ、リリー、僕が泳ぐとこ見てくれてた?』
『ちゃんと見てたわよ。すごく上手になってた。リュカ様も見てたわよ。わたし水嫌いだから、溺れたら助けてね』
『任せといて! イエーイ!』
喜び、走り出すチェイス。湖を一周するらしい。
『……水が苦手と言うわりに、最近はしょっちゅうミッシェル様の入浴の時に行って、一緒に洗ってもらっているみたいね。乙女心かしら』
『ちょ、お姉さま! わたしは別に』
『はいはい。さてと、あちらは釣りを始めるようね』
慌てるリリーの言葉を遮り、スピカが湖の方へ顔を向ける。
着替えを済ませたミッシェルが、リュカと並んで湖に端に座り、四苦八苦しながらエサを針に付けようとしているところだ。
『ねえリリー、ちょっとキャシーのところに行ってみない?』
キャシーは木の下で、お茶の準備をしている。
『そうですね、行きましょう、お姉さま』
二匹はキャシーのところへ行き、両脇から座っているキャシーの膝に前足をかけた。
「あら、どうしたの? おやつが欲しくて来たの? えっ? えっ? なに?」
二匹はギュウギュウとキャシーの膝に乗り、リリーにいたっては、ネックレスに顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。
「あ、やだ、そっか、うっかり!」
急いでネックレスを服の中に隠す。
「二人とも、秘密だよ?」
「キャン!」
「ニャーン!」
返事をし、しかしもっと話を聞き出したいリリーはネックレスを隠した首元を、トトト、と肉球で叩く。
「ん? 気になるの? これはねー」
一度言葉を切り、辺りを見回して誰も近くにいないことを確認してから、キャシーは小さい声で囁く。
「ニックにもらったんだよー」
リリーとスピカの頭を撫で、『びっくりだと思わない~?』と言う。
「こんな事があるなんて、驚いちゃった。……好きだって言われたの。びっくりしちゃったけど、すごく嬉しくって……でもね、よく考えたら、ニックって男爵家の人なのよね」
そして、大きなため息をつき、スピカを抱きあげて頭を撫でた。
「ニックって、あんなじゃない。貴族だなんて忘れちゃってたわよ。男爵家のご子息と、田舎の農家の娘なんて……ねえ。どう思う? スピカ姐さん」
どこか悲しそうな笑顔で、キャシーはスピカを抱きしめた。
『……リリー、キャシーは何を言っているの? ニックから告白されたって事はわかったけど、ならどうしてこんな顔をしているの?』
『キャシーは、ニックとの身分差を気にしています、お姉さま』
『……そう……』
表情の訳を聞き、スピカは慰めるようにキャシーの頬を舐めた。
『そんなの、気にしなくていいのよ。だって、ニックがあなたを好きだと言っているのだから。自信を持って。ねえ、キャシー』
「やっ、ちょっとスピカ、舐めすぎ舐めすぎ」
スピカが舐め続けるので、キャシーが堪らず笑いだす。
「はー、ありがと、スピカ。元気が出た。リリーもありがとねー」
撫でられて気持ち良くなり、リリーは敷物の上でコロコロ転がり、そのうちうとうとし始めた。
「あんなにうまく泳げるようになっているとは思わなかった。去年は、全然進まなかったのに」
「ニックに教えてもらったんです!」
リュカに褒められて、ニコニコのミッシェル。
「良かったですねぇ、ミッシェル様。頑張りましたものね」
濡れた髪を拭き、服を着せてあげているキャシーを見ながら、スピカとリリーはひそひそ話す。
『あのネックレス……』
『ええ、間違いないわ。それに見て、キャシーの顔』
『キラキラ輝いて見えます、お姉さま』
『そう、幸せで輝いているわ。声もなんだか、いつもより高いし』
『ニックは……にやけてますね』
『ええ、ものすごくね』
真剣な顔で釣竿の用意をしているが、すぐ口元が緩んでしまい、ハッとしてまた真面目な顔を作る、を繰り返している。
『悔しいわ、告白の場面を見逃すなんて。どうしてリリーは見ていなかったの!?』
『だってバッタが……。スピカお姉さまこそ、どうして見てなかったんですか!』
『だって、食事の後はお昼寝って決めてるから……』
二匹が顔を突き合わせ、悔しそうに話しているところにチェイスがやってきた。
『どうしたの? なんかあった?』
『あー、ううん、なんでもないよ』
『そう? あ、リリー、僕が泳ぐとこ見てくれてた?』
『ちゃんと見てたわよ。すごく上手になってた。リュカ様も見てたわよ。わたし水嫌いだから、溺れたら助けてね』
『任せといて! イエーイ!』
喜び、走り出すチェイス。湖を一周するらしい。
『……水が苦手と言うわりに、最近はしょっちゅうミッシェル様の入浴の時に行って、一緒に洗ってもらっているみたいね。乙女心かしら』
『ちょ、お姉さま! わたしは別に』
『はいはい。さてと、あちらは釣りを始めるようね』
慌てるリリーの言葉を遮り、スピカが湖の方へ顔を向ける。
着替えを済ませたミッシェルが、リュカと並んで湖に端に座り、四苦八苦しながらエサを針に付けようとしているところだ。
『ねえリリー、ちょっとキャシーのところに行ってみない?』
キャシーは木の下で、お茶の準備をしている。
『そうですね、行きましょう、お姉さま』
二匹はキャシーのところへ行き、両脇から座っているキャシーの膝に前足をかけた。
「あら、どうしたの? おやつが欲しくて来たの? えっ? えっ? なに?」
二匹はギュウギュウとキャシーの膝に乗り、リリーにいたっては、ネックレスに顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。
「あ、やだ、そっか、うっかり!」
急いでネックレスを服の中に隠す。
「二人とも、秘密だよ?」
「キャン!」
「ニャーン!」
返事をし、しかしもっと話を聞き出したいリリーはネックレスを隠した首元を、トトト、と肉球で叩く。
「ん? 気になるの? これはねー」
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「ニックにもらったんだよー」
リリーとスピカの頭を撫で、『びっくりだと思わない~?』と言う。
「こんな事があるなんて、驚いちゃった。……好きだって言われたの。びっくりしちゃったけど、すごく嬉しくって……でもね、よく考えたら、ニックって男爵家の人なのよね」
そして、大きなため息をつき、スピカを抱きあげて頭を撫でた。
「ニックって、あんなじゃない。貴族だなんて忘れちゃってたわよ。男爵家のご子息と、田舎の農家の娘なんて……ねえ。どう思う? スピカ姐さん」
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「やっ、ちょっとスピカ、舐めすぎ舐めすぎ」
スピカが舐め続けるので、キャシーが堪らず笑いだす。
「はー、ありがと、スピカ。元気が出た。リリーもありがとねー」
撫でられて気持ち良くなり、リリーは敷物の上でコロコロ転がり、そのうちうとうとし始めた。
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