上 下
32 / 84
第二章

キャシーの気持ち

しおりを挟む
 あまり長く泳いでいては体が冷えるので、『そろそろ釣りをしよう』とリュカが提案し、ミッシェルは湖から出た。
「あんなにうまく泳げるようになっているとは思わなかった。去年は、全然進まなかったのに」
「ニックに教えてもらったんです!」
 リュカに褒められて、ニコニコのミッシェル。
「良かったですねぇ、ミッシェル様。頑張りましたものね」
 濡れた髪を拭き、服を着せてあげているキャシーを見ながら、スピカとリリーはひそひそ話す。
『あのネックレス……』
『ええ、間違いないわ。それに見て、キャシーの顔』
『キラキラ輝いて見えます、お姉さま』
『そう、幸せで輝いているわ。声もなんだか、いつもより高いし』
『ニックは……にやけてますね』
『ええ、ものすごくね』

 真剣な顔で釣竿の用意をしているが、すぐ口元が緩んでしまい、ハッとしてまた真面目な顔を作る、を繰り返している。
『悔しいわ、告白の場面を見逃すなんて。どうしてリリーは見ていなかったの!?』
『だってバッタが……。スピカお姉さまこそ、どうして見てなかったんですか!』
『だって、食事の後はお昼寝って決めてるから……』
 二匹が顔を突き合わせ、悔しそうに話しているところにチェイスがやってきた。
『どうしたの? なんかあった?』
『あー、ううん、なんでもないよ』
『そう? あ、リリー、僕が泳ぐとこ見てくれてた?』
『ちゃんと見てたわよ。すごく上手になってた。リュカ様も見てたわよ。わたし水嫌いだから、溺れたら助けてね』
『任せといて! イエーイ!』
 喜び、走り出すチェイス。湖を一周するらしい。
『……水が苦手と言うわりに、最近はしょっちゅうミッシェル様の入浴の時に行って、一緒に洗ってもらっているみたいね。乙女心かしら』
『ちょ、お姉さま! わたしは別に』
『はいはい。さてと、あちらは釣りを始めるようね』
 慌てるリリーの言葉を遮り、スピカが湖の方へ顔を向ける。
 着替えを済ませたミッシェルが、リュカと並んで湖に端に座り、四苦八苦しながらエサを針に付けようとしているところだ。
『ねえリリー、ちょっとキャシーのところに行ってみない?』
 キャシーは木の下で、お茶の準備をしている。
『そうですね、行きましょう、お姉さま』
 二匹はキャシーのところへ行き、両脇から座っているキャシーの膝に前足をかけた。
「あら、どうしたの? おやつが欲しくて来たの? えっ? えっ? なに?」
 二匹はギュウギュウとキャシーの膝に乗り、リリーにいたっては、ネックレスに顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。
「あ、やだ、そっか、うっかり!」
 急いでネックレスを服の中に隠す。
「二人とも、秘密だよ?」
「キャン!」
「ニャーン!」
 返事をし、しかしもっと話を聞き出したいリリーはネックレスを隠した首元を、トトト、と肉球で叩く。
「ん? 気になるの? これはねー」
 一度言葉を切り、辺りを見回して誰も近くにいないことを確認してから、キャシーは小さい声で囁く。
「ニックにもらったんだよー」
 リリーとスピカの頭を撫で、『びっくりだと思わない~?』と言う。
「こんな事があるなんて、驚いちゃった。……好きだって言われたの。びっくりしちゃったけど、すごく嬉しくって……でもね、よく考えたら、ニックって男爵家の人なのよね」
 そして、大きなため息をつき、スピカを抱きあげて頭を撫でた。
「ニックって、あんなじゃない。貴族だなんて忘れちゃってたわよ。男爵家のご子息と、田舎の農家の娘なんて……ねえ。どう思う? スピカ姐さん」
 どこか悲しそうな笑顔で、キャシーはスピカを抱きしめた。
『……リリー、キャシーは何を言っているの? ニックから告白されたって事はわかったけど、ならどうしてこんな顔をしているの?』
『キャシーは、ニックとの身分差を気にしています、お姉さま』
『……そう……』
 表情の訳を聞き、スピカは慰めるようにキャシーの頬を舐めた。
『そんなの、気にしなくていいのよ。だって、ニックがあなたを好きだと言っているのだから。自信を持って。ねえ、キャシー』
「やっ、ちょっとスピカ、舐めすぎ舐めすぎ」
 スピカが舐め続けるので、キャシーが堪らず笑いだす。 
「はー、ありがと、スピカ。元気が出た。リリーもありがとねー」
 撫でられて気持ち良くなり、リリーは敷物の上でコロコロ転がり、そのうちうとうとし始めた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...