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告白
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「ふーっ」
店を出ると、冷たい夜風が気持ち良く、寧々は息を吐いた。
『はぁ~、さっさと帰ろう』
休日前で賑っている街を、人にぶつからないように気をつけながら歩いていると、
「おーい、ネネ~」
名前を呼びながら、本郷が追いかけてきた。
「待てよ! もー、さっさと先に帰っちまって。本当に酔ったのか?」
「そう。酔っちゃったから帰る。本郷君は、二次会行って」
「いや、俺も帰るよ。てか、約束してただろう? 勝手に帰るなって」
「……だって……」
『だって本郷君、若い子紹介してもらうって言ってたじゃない』
そう抗議したいが、そういうわけにはいかない。
『……それはそれ、だもんね。わたしとの事は、同期だからってことで善意で相手してくれていることなんだし。本郷君が合コンしようが彼女つくろうが、わたしは何も言えないってことぐらい、わかっているわよ。でも……』
「気分が良くないの。だから……今日は帰る」
「えっ? 本当に調子悪いのか? 大丈夫か?」
顔を覗き込んでから、本郷は寧々の腰に腕をまわして抱き寄せた。
「疲れが出たのかな。心配だから、送って行くよ」
「……大丈夫だから、離して。一人で帰れる」
「遠慮すんなよ。さっ、行こうぜ」
「遠慮じゃなくっ!」
寧々は、身体を捩って本郷の腕から離れた。
「もう、放っておいてよ!」
「ん? どうしたんだよ、ネネ。何かあったのか?」
「鈴木君に、若い女の子紹介してもらうんでしょう? だから、もう、わたしに付き合ってくれなくていいって事よ。もう、目的は達成したし、充分です!」
「え……ええっ?」
耐えきれなくなり感情をぶちまけると、本郷は驚いて寧々を見た。
「いや……あれは、飲みの席でのちょっとした話題で……本当に紹介してもらおうなんて思ってねーよ? 別に俺、若い女の子と付き合いたいわけじゃないし、ちゃんと断ったじゃん、合コンは行かないって」
「断った?」
「断ったよ! あ、あのときネネ、トイレ行ってたか。いや、ホントに断ったよ? 後でみんなに聞いてみろよ」
「……本当に?」
「本当に! 悪かったよ、確かにちょっと悪ノリした。ネネが、本気にするとは思ってなくて……ちょっとこっち!」
そう言うと本郷は、寧々の手を握って人通りの少ない路地に引き込んだ。
「ごめん、そんなに気分を害するとは思わなかったから……本心じゃないからな、若い子と付き合いたいとか、全く思ってないし」
「……わかった、信じるわよ……でも、もういい。これ以上、本郷君とは……」
「なんで? ネネ、嫌がってなかったじゃん」
「でも、もう嫌なの!」
寧々は、首を横にふりながら言った。
「なんかもう、自分の気持ちがうまくコントロールできなくて、落ち込むし、悲しくなるし。さっきだって、いつもなら全然気にしないで笑う事なのに、ショック受けて、我慢できなくて先に帰ったり……こんなの駄目だって思っても、泣きそうになっちゃうんだもん」
そんな事を言っている今も、涙が溜まってきてしまう。
「そんなねぇ、身体と心とは別だって、割り切って考えられないの。最初は大丈夫だと思ったけど、ダメだったの。だからもう」
「えっ? それって、俺の事好きだってこと?」
「…………」
俯いて無言の寧々に、本郷は戸惑い、そしてハッとしたように言った。
「あ、いや、ちょっと待て! 俺から先に言っとく。俺は、ネネの事好きだ!」
いきなりの言葉に、寧々は顔を上げた。
「はあっ? なにそれっ! 突然何言ってんのよ!」
「確かに突然かもしれないけど、本当の事だし、言ってなかっただけで、前からお前の事好きだし」
「そんなの急に言われても、信じられるわけないでしょう!?」
「信じろよ! ていうか、わかるだろ? 好きじゃない女とセックスするわけないだろう?」
「同期だからって言ってたじゃない!」
「んなわけねーだろ? なんでそっちの方信じるんだよ」
「だって百回くらい言ってたじゃない! 同期だからって!」
「百回は言ってねーだろ!」
「言葉のアヤよ! そのくらい言ってたって事! 10回は言ってた! あんなに何回も言うんだから、そうだって思うに決まってるでしょ?」
キッと自分を見上げる寧々に、本郷は『あー……』と、バツが悪そうに頭を掻いた。
「……いや、悪かったよ、確かに誤魔化そうとして何回も言ったな。でも俺、本当にお前の事好きで、あのチャンスは絶対にものにしなきゃって思ったんだ。だって、誰でもいいから適当にやろうとしてただろ?」
「あれはちょっとした面白話しのつもりで……」
「いーや、あれは本気だったね。シラフならそんな事しないだろうけど、酔ってたらそのうち絶対ホイホイついていってた! それなら、ちゃんとお前の事を好きな俺の方がいいだろうって思ったんだ。でもネネは、昔っから結婚する気無いとか彼氏もいらないとか、男は女を自分に都合いい様に使う事しか考えてないとか文句言ってたから、好きだとか付き合ってとか言ったら引かれるかと思って、むしろ同期で割り切った関係って言った方が、了承するかと思ったんだ」
「彼氏いらないとか男性と敵視した発言とか、それって、すっごく昔に言った事でしょ?」
「最近も言ってただろうが! そのたびに俺は、ネネの事好きでいてもしょうがねーなって思って、告白しなかったし、諦めて他の女性と付き合った事もあった。まあ、結局別れたけど」
本郷は困ったように前髪をかきあげ……寧々の頬に手をあてた。
「何度も諦めたけど、それでもやっぱりお前の事好きだって思ってきた。なあ、ネネの気持ちも、教えてくれよ」
「……だから……さっき言ったじゃない」
「ちゃんと言ってないだろ?」
「う~……好きよ、本郷君の事」
しばらく唸ってから、寧々はようやく言った。
「本郷君と一緒にいて、楽しかったし、嬉しかったし、ウキウキしたし……で、もう終わりだって思ったら残念だったし、本郷君が若い子紹介してもらおうとしてるのが腹立たしかったし、悲しかった」
「ネネ……俺今、すっげー嬉しい」
そう言い、本郷は寧々を抱きしめた。
店を出ると、冷たい夜風が気持ち良く、寧々は息を吐いた。
『はぁ~、さっさと帰ろう』
休日前で賑っている街を、人にぶつからないように気をつけながら歩いていると、
「おーい、ネネ~」
名前を呼びながら、本郷が追いかけてきた。
「待てよ! もー、さっさと先に帰っちまって。本当に酔ったのか?」
「そう。酔っちゃったから帰る。本郷君は、二次会行って」
「いや、俺も帰るよ。てか、約束してただろう? 勝手に帰るなって」
「……だって……」
『だって本郷君、若い子紹介してもらうって言ってたじゃない』
そう抗議したいが、そういうわけにはいかない。
『……それはそれ、だもんね。わたしとの事は、同期だからってことで善意で相手してくれていることなんだし。本郷君が合コンしようが彼女つくろうが、わたしは何も言えないってことぐらい、わかっているわよ。でも……』
「気分が良くないの。だから……今日は帰る」
「えっ? 本当に調子悪いのか? 大丈夫か?」
顔を覗き込んでから、本郷は寧々の腰に腕をまわして抱き寄せた。
「疲れが出たのかな。心配だから、送って行くよ」
「……大丈夫だから、離して。一人で帰れる」
「遠慮すんなよ。さっ、行こうぜ」
「遠慮じゃなくっ!」
寧々は、身体を捩って本郷の腕から離れた。
「もう、放っておいてよ!」
「ん? どうしたんだよ、ネネ。何かあったのか?」
「鈴木君に、若い女の子紹介してもらうんでしょう? だから、もう、わたしに付き合ってくれなくていいって事よ。もう、目的は達成したし、充分です!」
「え……ええっ?」
耐えきれなくなり感情をぶちまけると、本郷は驚いて寧々を見た。
「いや……あれは、飲みの席でのちょっとした話題で……本当に紹介してもらおうなんて思ってねーよ? 別に俺、若い女の子と付き合いたいわけじゃないし、ちゃんと断ったじゃん、合コンは行かないって」
「断った?」
「断ったよ! あ、あのときネネ、トイレ行ってたか。いや、ホントに断ったよ? 後でみんなに聞いてみろよ」
「……本当に?」
「本当に! 悪かったよ、確かにちょっと悪ノリした。ネネが、本気にするとは思ってなくて……ちょっとこっち!」
そう言うと本郷は、寧々の手を握って人通りの少ない路地に引き込んだ。
「ごめん、そんなに気分を害するとは思わなかったから……本心じゃないからな、若い子と付き合いたいとか、全く思ってないし」
「……わかった、信じるわよ……でも、もういい。これ以上、本郷君とは……」
「なんで? ネネ、嫌がってなかったじゃん」
「でも、もう嫌なの!」
寧々は、首を横にふりながら言った。
「なんかもう、自分の気持ちがうまくコントロールできなくて、落ち込むし、悲しくなるし。さっきだって、いつもなら全然気にしないで笑う事なのに、ショック受けて、我慢できなくて先に帰ったり……こんなの駄目だって思っても、泣きそうになっちゃうんだもん」
そんな事を言っている今も、涙が溜まってきてしまう。
「そんなねぇ、身体と心とは別だって、割り切って考えられないの。最初は大丈夫だと思ったけど、ダメだったの。だからもう」
「えっ? それって、俺の事好きだってこと?」
「…………」
俯いて無言の寧々に、本郷は戸惑い、そしてハッとしたように言った。
「あ、いや、ちょっと待て! 俺から先に言っとく。俺は、ネネの事好きだ!」
いきなりの言葉に、寧々は顔を上げた。
「はあっ? なにそれっ! 突然何言ってんのよ!」
「確かに突然かもしれないけど、本当の事だし、言ってなかっただけで、前からお前の事好きだし」
「そんなの急に言われても、信じられるわけないでしょう!?」
「信じろよ! ていうか、わかるだろ? 好きじゃない女とセックスするわけないだろう?」
「同期だからって言ってたじゃない!」
「んなわけねーだろ? なんでそっちの方信じるんだよ」
「だって百回くらい言ってたじゃない! 同期だからって!」
「百回は言ってねーだろ!」
「言葉のアヤよ! そのくらい言ってたって事! 10回は言ってた! あんなに何回も言うんだから、そうだって思うに決まってるでしょ?」
キッと自分を見上げる寧々に、本郷は『あー……』と、バツが悪そうに頭を掻いた。
「……いや、悪かったよ、確かに誤魔化そうとして何回も言ったな。でも俺、本当にお前の事好きで、あのチャンスは絶対にものにしなきゃって思ったんだ。だって、誰でもいいから適当にやろうとしてただろ?」
「あれはちょっとした面白話しのつもりで……」
「いーや、あれは本気だったね。シラフならそんな事しないだろうけど、酔ってたらそのうち絶対ホイホイついていってた! それなら、ちゃんとお前の事を好きな俺の方がいいだろうって思ったんだ。でもネネは、昔っから結婚する気無いとか彼氏もいらないとか、男は女を自分に都合いい様に使う事しか考えてないとか文句言ってたから、好きだとか付き合ってとか言ったら引かれるかと思って、むしろ同期で割り切った関係って言った方が、了承するかと思ったんだ」
「彼氏いらないとか男性と敵視した発言とか、それって、すっごく昔に言った事でしょ?」
「最近も言ってただろうが! そのたびに俺は、ネネの事好きでいてもしょうがねーなって思って、告白しなかったし、諦めて他の女性と付き合った事もあった。まあ、結局別れたけど」
本郷は困ったように前髪をかきあげ……寧々の頬に手をあてた。
「何度も諦めたけど、それでもやっぱりお前の事好きだって思ってきた。なあ、ネネの気持ちも、教えてくれよ」
「……だから……さっき言ったじゃない」
「ちゃんと言ってないだろ?」
「う~……好きよ、本郷君の事」
しばらく唸ってから、寧々はようやく言った。
「本郷君と一緒にいて、楽しかったし、嬉しかったし、ウキウキしたし……で、もう終わりだって思ったら残念だったし、本郷君が若い子紹介してもらおうとしてるのが腹立たしかったし、悲しかった」
「ネネ……俺今、すっげー嬉しい」
そう言い、本郷は寧々を抱きしめた。
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