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意気消沈
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金曜日。
プロジェクトがひと段落ついた『お疲れ様、引き続き頑張りましょう』の飲み会。
今回の参加者はチームメンバー6名で、偉い人は不参加だが、金一封を出してくれているという、なんとも理想的な飲み会だ。
「最初の飲み会には水森さん参加できなかったから、みんなで飲むのはこれが初だね」
「はい、楽しみにしていました」
「じゃあ乾杯は、笹原リーダーお願いします」
「はい、では皆さん、皆さんの頑張りのおかげでプロジェクトは順調です、ありがとう。今後もよろしくお願いします。カンパーイ!」
「カンパーイ!」
グラスを合わせ、飲み会が始まった。
和気あいあいと、みんな楽しく飲んでいる。
「いいチームになったよな」
「そうね、チームワークも良いし、ありがたいわ。本郷さんのサポートのおかげです」
「いやいや、笹原リーダーの実力ですよ」
上座、下座など無用! と適当に座った結果、たまたま隣同士になった本郷と寧々はそんな言葉を交わしながら生ビールを飲んだ。
「ここ、笹原リーダーと水森さんで選んだんだろう?」
「前に2人で来て、料理が美味しくてまた来たいねって言ってたのよ」
「5人以上だと飲み放題にできるんです!」
少し離れた席から、紫音がシャッと手を挙げて補足する。
「そうそう。そういう事だから、今日は好きなだけ飲みましょう」
最初はみんな、当たり障りのない話をしていたが、段々と酔いがまわるにつれて、プライベートな話が多くなってきた。
「高梨さん、結婚ってどうですか?」
チームで唯一の既婚者に、紫音の同期の鈴木が尋ねる。
「いいよー、奥さん可愛いし、子供も可愛いし」
「そういえば高梨さん、結婚早かったんだよね?」
年下の彼に、本郷が尋ねる。
「ですねー。俺が25で、妻は23だったんで。上の子はもう3歳で、下は半年、かな? もうちょっと遊びたかった気もしますけど、でもやっぱり良かったって思います。だって俺、頑張れますもん!」
「はー、凄いわー高梨さん。奥様も凄いねー、子育てって大変だろうなぁ……」
妻よりもずっと年上の寧々の言葉に、高梨は『あ、でもでも!』と言う。
「笹原さんのが凄いですよ! 仕事バリバリして! 妻は専業主婦だし、それでも家事あんまりしないし」
「なに言ってんの、子供と一緒だと『家事しない』じゃなくて『できない』でしょ! わたし、姉と弟がいて、どっちも結婚して子供いるんだけど、姪っ子、甥っ子に会うと、数時間でぐったりしちゃうわ。可愛いんだけどね、パワーが凄くて。あれが一日中、毎日、って、大変よ。……仕事の方もようやく落ち着いてきたから、これからは早く帰ってあげてね」
「ありがとうございます。まあ確かに、仕事してた方が楽だって思う時ありますからね~。でも……やっぱり、家庭っていいです」
恥ずかしそうに笑ってそう言った高梨を見て、鈴木は『いいですね~』としみじみ言う。
「俺も早く結婚したいなぁ。そうだ! 本郷さん、合コンしませんか?」
「はっ? なんだって?」
いきなりの言葉に、本郷はビールを吹き出しそうになりながら聞き返した。
「合コンですよ、合コン! 前の部署の後輩に、本郷さんを紹介してくれって言われてるんです。お願いしますよ」
「えー? 俺はいいや」
「そんな事言わないでお願いしますよ。そうすりゃ俺も、友達紹介してもらえるし。本郷さん、今誰とも付き合ってないって言ってたじゃないですか。23歳ですよ、その子」
「10歳も離れてるじゃねーか」
「何言ってるんですか。若ければ若いほどいいじゃないっすか!」
「ハハッ、まあ、それはそうだけど」
そんな事を話していると『飲み物ラストオーダーでーす』と、店員が注文をとりにきた。
「あー、じゃあビール」
「梅酒ソーダ割」
「ハイボールを」
それぞれ最後の一杯を注文し、寧々も烏龍茶を頼んでから『ちょっとトイレ行ってくるね』と席を立った。
そして、個室に入って大きなため息をつく。
『……若ければ若いほどいい、かぁ……』
さっきまで楽しかったのに、一気にテンションが落ちてしまった。
『23歳の女子を紹介してもらうですって? 10歳も年下じゃない。あーもー……がっかり。本郷君も、そういう考えなのね』
この飲み会が終わったらホテルに行く、という事で、気合いを入れて新しい下着で来たのが恥ずかしくなる。
『30過ぎのこの間まで処女だった女が浮かれちゃって、痛々しい状況ね。ああもう、すっごく恥ずかしい……』
トイレを出て席に戻ると、皆はこの後どうしようかという話で盛り上がっていた。
「もう一軒いきましょうよ!」
「カラオケ行きましょう、カラオケ!」
その話には参加せず、そっと店員を呼んで会計を済ませてから、寧々はパンパンと手を叩いた。
「とりあえず、ここは締めましょうか。二次会は、行きたい人達で行ってね」
「えっ? リーダーは行かないんですか?」
「うん。楽しくて、ちょっと飲み過ぎたみたい。今日は帰るわ」
「えー、そんな~」
「カラオケ行きましょうよ~」
「またの機会にね。お会計はもう済んだから、いいところで終わりにしてね。わたし、先に帰るから」
「えっ? 会費は?」
「金一封使ったから大丈夫よ」
「え? いや、それだけじゃ足りなかったですよね?」
「足りない分はわたし出したからいいわよ。本当にこれまでお疲れ様。これからもよろしくね。じゃあ、ホントにもう帰らないと、ここで寝ちゃいそう。限界だから帰るね。ごめんね~、また来週~」
そう言うと、紫音が『わたし一緒に行きます!』とバッグと上着を持ったが、
「ひとりで大丈夫。本当に大丈夫だから」
心配そうに自分を見ている紫音に手を振り、寧々は店を出た。
プロジェクトがひと段落ついた『お疲れ様、引き続き頑張りましょう』の飲み会。
今回の参加者はチームメンバー6名で、偉い人は不参加だが、金一封を出してくれているという、なんとも理想的な飲み会だ。
「最初の飲み会には水森さん参加できなかったから、みんなで飲むのはこれが初だね」
「はい、楽しみにしていました」
「じゃあ乾杯は、笹原リーダーお願いします」
「はい、では皆さん、皆さんの頑張りのおかげでプロジェクトは順調です、ありがとう。今後もよろしくお願いします。カンパーイ!」
「カンパーイ!」
グラスを合わせ、飲み会が始まった。
和気あいあいと、みんな楽しく飲んでいる。
「いいチームになったよな」
「そうね、チームワークも良いし、ありがたいわ。本郷さんのサポートのおかげです」
「いやいや、笹原リーダーの実力ですよ」
上座、下座など無用! と適当に座った結果、たまたま隣同士になった本郷と寧々はそんな言葉を交わしながら生ビールを飲んだ。
「ここ、笹原リーダーと水森さんで選んだんだろう?」
「前に2人で来て、料理が美味しくてまた来たいねって言ってたのよ」
「5人以上だと飲み放題にできるんです!」
少し離れた席から、紫音がシャッと手を挙げて補足する。
「そうそう。そういう事だから、今日は好きなだけ飲みましょう」
最初はみんな、当たり障りのない話をしていたが、段々と酔いがまわるにつれて、プライベートな話が多くなってきた。
「高梨さん、結婚ってどうですか?」
チームで唯一の既婚者に、紫音の同期の鈴木が尋ねる。
「いいよー、奥さん可愛いし、子供も可愛いし」
「そういえば高梨さん、結婚早かったんだよね?」
年下の彼に、本郷が尋ねる。
「ですねー。俺が25で、妻は23だったんで。上の子はもう3歳で、下は半年、かな? もうちょっと遊びたかった気もしますけど、でもやっぱり良かったって思います。だって俺、頑張れますもん!」
「はー、凄いわー高梨さん。奥様も凄いねー、子育てって大変だろうなぁ……」
妻よりもずっと年上の寧々の言葉に、高梨は『あ、でもでも!』と言う。
「笹原さんのが凄いですよ! 仕事バリバリして! 妻は専業主婦だし、それでも家事あんまりしないし」
「なに言ってんの、子供と一緒だと『家事しない』じゃなくて『できない』でしょ! わたし、姉と弟がいて、どっちも結婚して子供いるんだけど、姪っ子、甥っ子に会うと、数時間でぐったりしちゃうわ。可愛いんだけどね、パワーが凄くて。あれが一日中、毎日、って、大変よ。……仕事の方もようやく落ち着いてきたから、これからは早く帰ってあげてね」
「ありがとうございます。まあ確かに、仕事してた方が楽だって思う時ありますからね~。でも……やっぱり、家庭っていいです」
恥ずかしそうに笑ってそう言った高梨を見て、鈴木は『いいですね~』としみじみ言う。
「俺も早く結婚したいなぁ。そうだ! 本郷さん、合コンしませんか?」
「はっ? なんだって?」
いきなりの言葉に、本郷はビールを吹き出しそうになりながら聞き返した。
「合コンですよ、合コン! 前の部署の後輩に、本郷さんを紹介してくれって言われてるんです。お願いしますよ」
「えー? 俺はいいや」
「そんな事言わないでお願いしますよ。そうすりゃ俺も、友達紹介してもらえるし。本郷さん、今誰とも付き合ってないって言ってたじゃないですか。23歳ですよ、その子」
「10歳も離れてるじゃねーか」
「何言ってるんですか。若ければ若いほどいいじゃないっすか!」
「ハハッ、まあ、それはそうだけど」
そんな事を話していると『飲み物ラストオーダーでーす』と、店員が注文をとりにきた。
「あー、じゃあビール」
「梅酒ソーダ割」
「ハイボールを」
それぞれ最後の一杯を注文し、寧々も烏龍茶を頼んでから『ちょっとトイレ行ってくるね』と席を立った。
そして、個室に入って大きなため息をつく。
『……若ければ若いほどいい、かぁ……』
さっきまで楽しかったのに、一気にテンションが落ちてしまった。
『23歳の女子を紹介してもらうですって? 10歳も年下じゃない。あーもー……がっかり。本郷君も、そういう考えなのね』
この飲み会が終わったらホテルに行く、という事で、気合いを入れて新しい下着で来たのが恥ずかしくなる。
『30過ぎのこの間まで処女だった女が浮かれちゃって、痛々しい状況ね。ああもう、すっごく恥ずかしい……』
トイレを出て席に戻ると、皆はこの後どうしようかという話で盛り上がっていた。
「もう一軒いきましょうよ!」
「カラオケ行きましょう、カラオケ!」
その話には参加せず、そっと店員を呼んで会計を済ませてから、寧々はパンパンと手を叩いた。
「とりあえず、ここは締めましょうか。二次会は、行きたい人達で行ってね」
「えっ? リーダーは行かないんですか?」
「うん。楽しくて、ちょっと飲み過ぎたみたい。今日は帰るわ」
「えー、そんな~」
「カラオケ行きましょうよ~」
「またの機会にね。お会計はもう済んだから、いいところで終わりにしてね。わたし、先に帰るから」
「えっ? 会費は?」
「金一封使ったから大丈夫よ」
「え? いや、それだけじゃ足りなかったですよね?」
「足りない分はわたし出したからいいわよ。本当にこれまでお疲れ様。これからもよろしくね。じゃあ、ホントにもう帰らないと、ここで寝ちゃいそう。限界だから帰るね。ごめんね~、また来週~」
そう言うと、紫音が『わたし一緒に行きます!』とバッグと上着を持ったが、
「ひとりで大丈夫。本当に大丈夫だから」
心配そうに自分を見ている紫音に手を振り、寧々は店を出た。
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