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第二章
23 期待外れで役に立たない
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夜の食事会では長兄の夫人と子供達(と言っても、とっくに成年済みだが)も一緒で当り障りのない話をし、朝食事も『昨晩はよく休めたか』というような話をしただけだったが。
「帰る前に、もう一度話しましょう」
アマンダがそう言い、オーウェン、ワイアット、イーサン、ウィリアムが集められての茶会となった。そして、
「ヴァレンタイン家は、二人の交際、そして婚姻を認める」
茶会開始早々、現当主であるワイアットがそう宣言し、イーサンとウィリアムは顔を見合わせた。
「え……と……兄上、それは……?」
「なにを驚いている、当然の事だろう」
そう言われたが、
「当然、ですか?」
前日ウィリアムから「あまり気に入ってもらえなかったようです」と聞かされていたイーサンが、にわかには信じられずに尋ねると、アマンダが大きなため息をつきながら答えた。
「これまで誰とも交際する事がなかった貴方が、結婚まで考えているのです、認めるしかないでしょう。わたくしとしては、もっと扱いやすく役に立つ相手だったら良かったのだけれども、仕方がないわ」
「なっ……そんな言い方酷いのでは!?」
抗議するイーサンに、アマンダは悪びれる様子なく「だってそうでしょう?」と言った。
「もっと欲深くて、イーサンの地位だとかヴァレンタイン家の財産だとか、そういう事に惹かれたのであればいいのに、ただただイーサンを愛しているだけだなんて……本当に、なんの役にも立たない」
「母上、そういう言い方は……すまないね、ウィリアム。これでも母は、君の事をとても気に入っているんだよ」
オーウェンが謝罪しながら説明する。
「我々は、イーサンがさっさと第三騎士団の団長を辞める事を望んでいるんだよ。君は知っているのだろう? イーサンがヴァレンタイン家のやっかいな体質を受け継いでいる事を」
「……はい」
「いくら強くったって、魔獣の毒に弱いのだから早く辞めればいいのに、こいつは第一騎士団や近衛隊への移動も断って、第三に居続けている。我々の言葉には従わないから恋人ができて『私の為に第三騎士団は辞めて。そうでなきゃ別れる』とでも言ってもらえたら、と期待していたのだよ」
「それが、イーサンの考えや決めた事を全て肯定するような人物だから、我々としては思惑が外れたというか……」
「本当にがっかりだわ。でもイーサンが愛する人ですものね、そういう人物なのでしょう」
その言葉に、イーサンとウィリアムは再び顔を見合わせた。
「えーと……じゃあ、俺達の事は認めてもらえるという事で……」
「ああ勿論だ、安心してくれ。だが……今のままじゃあ、結婚はおろか婚約もできないだろう。二人とも、第三騎士団に居続けるつもりなのだろう?」
「あー、ええ、まあ……」
気まずそうに頭をかくイーサンに、オーウェンは大きなため息をつく。
「お前さえ首を縦に振るのであれば、近衛隊にすぐ移動できるぞ。そうすれば魔獣毒の心配もなく、ウィリアムもイーサンを心配して一緒の所にいなくてもいいだろう。ヴァレンタイン家の専属治療師になってもらってもいいんだぞ」
「それを言うなら、二人とも王都からヴァレンタイン領に来てもらっていいのよ? オーウェンもワイアットも城で重要な役目を頂いているから、ヴァレンタイン領に戻るのはだいぶ先になるでしょうし、領地運営を手伝ってもらえると楽になるわ」
そう熱心に言われたが、
「……今は、まだ無理です」
イーサンが首を振る。
「後を任せられる者を育てたら辞めるつもりですが、今はまだ。ウィリアムの事は本当に愛しているし、大切だが……すまん」
そう言って少し頭を下げたイーサンに、ウィリアムは笑顔で言った。
「いいえ、そういう貴方が好きなのですから。……アマンダ様、オーウェン様、ワイアット様、今の私にイーサン様の抱えている問題を解決する力はありません。ですが、イーサン様が第三騎士団を続ける間、私の全てをかけ、イーサン様のお手伝いし支える事をお約束します」
その言葉に、三人は顔を見合わせて苦笑した。
「ほら、やっぱり全然役に立たないわ」
「そうですね。もっと欲深ければ良いのに」
「まあ、仕方がない。これだけ心根が良い相手は滅多に出会えるものじゃないから大切にしなければな」
「ありがとうございます、母上、兄上」
「しっかり感謝なさい。そして……イーサン、貴方のその気概は素晴らしいと思うけれども、愛する人が出来たのであれば、自分の事をもっと大切にしなさい。貴方がいなくなって残されるウィリアムさんの事、ちゃんと考えるのですよ」
「はい。わかっております、母上」
こうして、茶会は無事に終わり、せっかくだからと、腰が痛いという執事や木から落ちて怪我をしたという庭師等の治療をウィリアムがしてやってから、二人はヴァレンタイン家を後にした。
「帰る前に、もう一度話しましょう」
アマンダがそう言い、オーウェン、ワイアット、イーサン、ウィリアムが集められての茶会となった。そして、
「ヴァレンタイン家は、二人の交際、そして婚姻を認める」
茶会開始早々、現当主であるワイアットがそう宣言し、イーサンとウィリアムは顔を見合わせた。
「え……と……兄上、それは……?」
「なにを驚いている、当然の事だろう」
そう言われたが、
「当然、ですか?」
前日ウィリアムから「あまり気に入ってもらえなかったようです」と聞かされていたイーサンが、にわかには信じられずに尋ねると、アマンダが大きなため息をつきながら答えた。
「これまで誰とも交際する事がなかった貴方が、結婚まで考えているのです、認めるしかないでしょう。わたくしとしては、もっと扱いやすく役に立つ相手だったら良かったのだけれども、仕方がないわ」
「なっ……そんな言い方酷いのでは!?」
抗議するイーサンに、アマンダは悪びれる様子なく「だってそうでしょう?」と言った。
「もっと欲深くて、イーサンの地位だとかヴァレンタイン家の財産だとか、そういう事に惹かれたのであればいいのに、ただただイーサンを愛しているだけだなんて……本当に、なんの役にも立たない」
「母上、そういう言い方は……すまないね、ウィリアム。これでも母は、君の事をとても気に入っているんだよ」
オーウェンが謝罪しながら説明する。
「我々は、イーサンがさっさと第三騎士団の団長を辞める事を望んでいるんだよ。君は知っているのだろう? イーサンがヴァレンタイン家のやっかいな体質を受け継いでいる事を」
「……はい」
「いくら強くったって、魔獣の毒に弱いのだから早く辞めればいいのに、こいつは第一騎士団や近衛隊への移動も断って、第三に居続けている。我々の言葉には従わないから恋人ができて『私の為に第三騎士団は辞めて。そうでなきゃ別れる』とでも言ってもらえたら、と期待していたのだよ」
「それが、イーサンの考えや決めた事を全て肯定するような人物だから、我々としては思惑が外れたというか……」
「本当にがっかりだわ。でもイーサンが愛する人ですものね、そういう人物なのでしょう」
その言葉に、イーサンとウィリアムは再び顔を見合わせた。
「えーと……じゃあ、俺達の事は認めてもらえるという事で……」
「ああ勿論だ、安心してくれ。だが……今のままじゃあ、結婚はおろか婚約もできないだろう。二人とも、第三騎士団に居続けるつもりなのだろう?」
「あー、ええ、まあ……」
気まずそうに頭をかくイーサンに、オーウェンは大きなため息をつく。
「お前さえ首を縦に振るのであれば、近衛隊にすぐ移動できるぞ。そうすれば魔獣毒の心配もなく、ウィリアムもイーサンを心配して一緒の所にいなくてもいいだろう。ヴァレンタイン家の専属治療師になってもらってもいいんだぞ」
「それを言うなら、二人とも王都からヴァレンタイン領に来てもらっていいのよ? オーウェンもワイアットも城で重要な役目を頂いているから、ヴァレンタイン領に戻るのはだいぶ先になるでしょうし、領地運営を手伝ってもらえると楽になるわ」
そう熱心に言われたが、
「……今は、まだ無理です」
イーサンが首を振る。
「後を任せられる者を育てたら辞めるつもりですが、今はまだ。ウィリアムの事は本当に愛しているし、大切だが……すまん」
そう言って少し頭を下げたイーサンに、ウィリアムは笑顔で言った。
「いいえ、そういう貴方が好きなのですから。……アマンダ様、オーウェン様、ワイアット様、今の私にイーサン様の抱えている問題を解決する力はありません。ですが、イーサン様が第三騎士団を続ける間、私の全てをかけ、イーサン様のお手伝いし支える事をお約束します」
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「ほら、やっぱり全然役に立たないわ」
「そうですね。もっと欲深ければ良いのに」
「まあ、仕方がない。これだけ心根が良い相手は滅多に出会えるものじゃないから大切にしなければな」
「ありがとうございます、母上、兄上」
「しっかり感謝なさい。そして……イーサン、貴方のその気概は素晴らしいと思うけれども、愛する人が出来たのであれば、自分の事をもっと大切にしなさい。貴方がいなくなって残されるウィリアムさんの事、ちゃんと考えるのですよ」
「はい。わかっております、母上」
こうして、茶会は無事に終わり、せっかくだからと、腰が痛いという執事や木から落ちて怪我をしたという庭師等の治療をウィリアムがしてやってから、二人はヴァレンタイン家を後にした。
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