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第一章
14 あの夜の事
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最初の印象は、あまり良くなかった。
ウィリアム・リヨン。イーサンよりも3歳年下。長い金色の髪と、暗い青紫の瞳の美しいその男は、治療師としての能力は高いが素行に問題があり、あちこちたらい回しにされたあげく、第三騎士団へやってきた。
同時に複数人と関係を持つので彼を巡っての諍いが起き、所属したところをグチャグチャにして次に飛ばされているという。
だから治療師は欲しかったが面倒事は困ると思い、街の治療所はどうかと提案したが、ウィリアムは『どこへ行っても同じだから、ここに置いて欲しい』と言い、イーサンはそれを了承した。
『これまでのような問題は起こさないように。第三騎士団の中で複数の人間と付き合うのは禁止、配偶者や婚約者がいる者との付き合いも禁止、独身者だったらいいがその時はどちらか別の所に移動させる』という条件を出して。
(あの時は、それがいいと思ったんだ。なのに……)
気づけば、自分がウィリアムの事を好きになってしまっていた。
……何がきっかけだっただろうか。
第三騎士団の団員に濡れ衣を着せられた時、真実を話そうともせず諦めたあの弱々しい姿を見た時だろうか。
この先こんな可哀想な思いはさせたくないと、ポロポロ涙を零すウィリアムを見て思ったのは、単なる同情だったのだろうか。
初めての遠征で、見た事のない魔獣に恐怖しながらも必死に治療をする姿を見た時だろうか。
疲れていても神経が昂って眠れないウィリアムに茶を入れてやったら、嬉しそうに礼を言い、少しずつ飲んでいる姿が可愛いと思った事に他意は無かったのだろうか。
テキパキと治療をし、団員達にも強気に接する事ができるようになり、安心したのと同時に何か寂しい気がしたのは何故だろうか。
からかって気軽に接していたが、気づけばつい目で追っていた。
それを、心配しているからだとか、部下なのだから気にかけるのは当たり前だとか、そう誤魔化してきた。
だが、 淫魔スライムの毒に侵された時、治療の為にウィリアムと身体を重ね、理性の箍が外れた。
最初のうちはもう、指一本も動かせず、目も開けられず、本当に苦しくて狂いそうだった。
そして遠い意識の中で何か受け答えをして、何度か楽になる瞬間があり……もがいてもがいて、ようやく目覚めた時、ウィリアムが自分を悪夢から引きずり出してくれたのだと知った。
手だけでなく、口でされたという事だけでも動揺するのに、淫魔スライムの毒に侵された際、自分で処理するよりも相手がいた方が治りが良いとされていると、跨ってきた。
「ここに女性はいませんから、私で我慢して下さい」
(我慢だなんて。むしろウィリアムの方が)
「貴方は目を閉じて、女性の姿を思い浮かべていて下さい」
(違う! 俺はずっとウィリアムと!)
金色の長い髪を揺らし、ウィリアムが乱れる姿から目が離せなかった。
ウィリアムの甘い声。切なげな表情。
(愛している愛している愛している!)
隠し、否定していた感情が溢れた。
(ウィリアムが好きだ。ずっとこうしたいと思っていたんだ!)
ウィリアムの動きにあらがう事ができず欲望を吐き出すと、それまでとは比べものにならないくらい身体が楽になった。
「少しは、楽になりましたか?」
そう尋ねながら頬を撫でるウィリアムの手の、なんと優しい事か。
ずっと撫でていて欲しかったが、そうはいかないと「もういい、降りろ」そう言ったのに。
「嘘。まだ、したいでしょう?」
そう言われて腰と少し揺らされただけで、おかしくなるほどの快楽が押し寄せてきたから、慌てて上半身を起こし、自分に跨り続けているウィリアムを押しのけようとしたが、
「はぁ……もう、どうすりゃいいんだ……」
ようやく動けるようになり、だからこそ、自分の方から動きたい欲求でいっぱいになっている事に気付く。
「これは治療の一環です。私で申し訳ありませんが、思うままにして頂いていいですよ。大丈夫です。幸い私は、こういう事は慣れていますし、責任を取れだなんて言いませんから」
駄目だとわかっていながらも、その言葉に甘え、流された。
細くしなやかな身体を抱きしめ、体位を変えて攻め立てた。
愛していると言いたかったが、それだけは駄目だと唇を噛んで我慢した。
「これは治療の一環です」
そう、これは治療なのだから。
ウィリアムは、毒に侵されおかしくなりそうになっている自分を見て、使命感に駆られて身体を貸してくれたのだ。愛しているだなんて、そんな言葉は望んでいないだろうし言われても困るだろう。
泣きたくなりながら、ウィリアムを抱きしめた。
自分の弱さに絶望し、欲深さに呆れ、それでもウィリアムの声が聞きたくて、抑えきれずに声を上げる弱い場所を探した。
「イーサンさまぁ……」
ぐったりとしながら『団長』とではなく名前を呼ばれた時、嬉しさで震えた。
「ウィリアム、ウィリアム……ウィル」
最初で最後だから。
もう触れないようにするから。
だから、今日だけは……。
翌日目を覚ますと、ウィリアムの姿はなかった。
裸でベッドは乱れているが、肌はサラリとしている。
「……夢、か?」
一瞬そう思ったが、むしろこの何事もなかったような状態がおかしいと気付く。
「動けなくて自分でできなくても、自然に射精してしまってドロドロになってるはずだからな」
淫魔スライムの毒は、本当に質が悪いのだ。
「おっ、ポーションがあるな」
サイドテーブルの上にポーションを見つけ、グイッと飲むと、身体のだるさがスッと引いた。
「……治療師長に、聞いてみるか……」
ポーションの空き瓶をテーブルに戻し、イーサンは大きくため息を吐いた。
ウィリアム・リヨン。イーサンよりも3歳年下。長い金色の髪と、暗い青紫の瞳の美しいその男は、治療師としての能力は高いが素行に問題があり、あちこちたらい回しにされたあげく、第三騎士団へやってきた。
同時に複数人と関係を持つので彼を巡っての諍いが起き、所属したところをグチャグチャにして次に飛ばされているという。
だから治療師は欲しかったが面倒事は困ると思い、街の治療所はどうかと提案したが、ウィリアムは『どこへ行っても同じだから、ここに置いて欲しい』と言い、イーサンはそれを了承した。
『これまでのような問題は起こさないように。第三騎士団の中で複数の人間と付き合うのは禁止、配偶者や婚約者がいる者との付き合いも禁止、独身者だったらいいがその時はどちらか別の所に移動させる』という条件を出して。
(あの時は、それがいいと思ったんだ。なのに……)
気づけば、自分がウィリアムの事を好きになってしまっていた。
……何がきっかけだっただろうか。
第三騎士団の団員に濡れ衣を着せられた時、真実を話そうともせず諦めたあの弱々しい姿を見た時だろうか。
この先こんな可哀想な思いはさせたくないと、ポロポロ涙を零すウィリアムを見て思ったのは、単なる同情だったのだろうか。
初めての遠征で、見た事のない魔獣に恐怖しながらも必死に治療をする姿を見た時だろうか。
疲れていても神経が昂って眠れないウィリアムに茶を入れてやったら、嬉しそうに礼を言い、少しずつ飲んでいる姿が可愛いと思った事に他意は無かったのだろうか。
テキパキと治療をし、団員達にも強気に接する事ができるようになり、安心したのと同時に何か寂しい気がしたのは何故だろうか。
からかって気軽に接していたが、気づけばつい目で追っていた。
それを、心配しているからだとか、部下なのだから気にかけるのは当たり前だとか、そう誤魔化してきた。
だが、 淫魔スライムの毒に侵された時、治療の為にウィリアムと身体を重ね、理性の箍が外れた。
最初のうちはもう、指一本も動かせず、目も開けられず、本当に苦しくて狂いそうだった。
そして遠い意識の中で何か受け答えをして、何度か楽になる瞬間があり……もがいてもがいて、ようやく目覚めた時、ウィリアムが自分を悪夢から引きずり出してくれたのだと知った。
手だけでなく、口でされたという事だけでも動揺するのに、淫魔スライムの毒に侵された際、自分で処理するよりも相手がいた方が治りが良いとされていると、跨ってきた。
「ここに女性はいませんから、私で我慢して下さい」
(我慢だなんて。むしろウィリアムの方が)
「貴方は目を閉じて、女性の姿を思い浮かべていて下さい」
(違う! 俺はずっとウィリアムと!)
金色の長い髪を揺らし、ウィリアムが乱れる姿から目が離せなかった。
ウィリアムの甘い声。切なげな表情。
(愛している愛している愛している!)
隠し、否定していた感情が溢れた。
(ウィリアムが好きだ。ずっとこうしたいと思っていたんだ!)
ウィリアムの動きにあらがう事ができず欲望を吐き出すと、それまでとは比べものにならないくらい身体が楽になった。
「少しは、楽になりましたか?」
そう尋ねながら頬を撫でるウィリアムの手の、なんと優しい事か。
ずっと撫でていて欲しかったが、そうはいかないと「もういい、降りろ」そう言ったのに。
「嘘。まだ、したいでしょう?」
そう言われて腰と少し揺らされただけで、おかしくなるほどの快楽が押し寄せてきたから、慌てて上半身を起こし、自分に跨り続けているウィリアムを押しのけようとしたが、
「はぁ……もう、どうすりゃいいんだ……」
ようやく動けるようになり、だからこそ、自分の方から動きたい欲求でいっぱいになっている事に気付く。
「これは治療の一環です。私で申し訳ありませんが、思うままにして頂いていいですよ。大丈夫です。幸い私は、こういう事は慣れていますし、責任を取れだなんて言いませんから」
駄目だとわかっていながらも、その言葉に甘え、流された。
細くしなやかな身体を抱きしめ、体位を変えて攻め立てた。
愛していると言いたかったが、それだけは駄目だと唇を噛んで我慢した。
「これは治療の一環です」
そう、これは治療なのだから。
ウィリアムは、毒に侵されおかしくなりそうになっている自分を見て、使命感に駆られて身体を貸してくれたのだ。愛しているだなんて、そんな言葉は望んでいないだろうし言われても困るだろう。
泣きたくなりながら、ウィリアムを抱きしめた。
自分の弱さに絶望し、欲深さに呆れ、それでもウィリアムの声が聞きたくて、抑えきれずに声を上げる弱い場所を探した。
「イーサンさまぁ……」
ぐったりとしながら『団長』とではなく名前を呼ばれた時、嬉しさで震えた。
「ウィリアム、ウィリアム……ウィル」
最初で最後だから。
もう触れないようにするから。
だから、今日だけは……。
翌日目を覚ますと、ウィリアムの姿はなかった。
裸でベッドは乱れているが、肌はサラリとしている。
「……夢、か?」
一瞬そう思ったが、むしろこの何事もなかったような状態がおかしいと気付く。
「動けなくて自分でできなくても、自然に射精してしまってドロドロになってるはずだからな」
淫魔スライムの毒は、本当に質が悪いのだ。
「おっ、ポーションがあるな」
サイドテーブルの上にポーションを見つけ、グイッと飲むと、身体のだるさがスッと引いた。
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