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第一章
8 謝罪と感謝
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コンコンコン
ノックの音に、ウィリアムは目を覚ました。
(……何時だ?)
カーテンの隙間から明るい光が見える。
「ユージーン・フィンレイです」
「ああ……」
隣りでスウスウ寝息を立てているイーサンを起こさないように気を付けながらベッドを降り、床からグシャグシャになった衣類を拾い、急いで身に付けた。
「……おはよう。悪いね、待たせちゃって」
「いえ。早い時間にすみません。皆さんが起き出す前に、と思って」
「今何時?」
「5時です」
「そう……ありがとう」
しっかりした子だな、と思いながら扉から離れると、ユージーンはスルリと部屋の中に入ってきた。
「清潔」
入ってすぐに部屋全体を清浄にし、ウィリアム、そしてイーサンにもそれぞれ清潔をかける。
「本当にいいね、その魔法」
感心するウィリアムにコクリと頷いてから、ユージーンはローブの下から2本のポーションを取り出した。
「医療師長様からです。昨晩、施錠をかけて自室に向かおうとした時、医療師長様に会って……ウィリアムさんを探していたので、団長の体調が悪いようで治療中と伝えてしまいました。そうしたら、このポーションを渡されて……すみません、勝手に話してしまいました」
「いや、良かったよ。医療師長は団長の事、わかっているはずだから」
ポーションを受け取り、一本はベッド脇のテーブルに、そして一本はグイッと飲み干す。
(……良かった、復活できた……)
全身の痛みが緩和され、ホッとする。イーサンも目が覚めたら気づいて飲むだろう。
「では、私はこれで失礼します」
「ああ、本当に助かったよ、ありがとう」
ユージーンには「この事は他言無用」と言わなくても大丈夫だろうと思いながら、ウィリアムは礼を言った。
「さて、と……」
自分も皆が起き出す前に、自室に戻った方がいいだろう。
イーサンの寝息は穏やかで、大丈夫そうだ。
「……清潔かけてもらったし、夢だと思うかな……裸ではあるけれど」
クシャクシャの黒髪を撫で、いつもより幼く見える顔を見てから、ウィリアムはそっと部屋を出た。
「ウィリアム、今いいか?」
王都に戻って数日、何事もなかったように過ごしていたウィリアムの元にイーサンがやってきた。
「…………」
(良くないと言っていい? いや、そもそも別の件かもしれないし……)
「はい、大丈夫ですよ?」
少し間を置いてニッコリ微笑み答えると、「じゃあ、ちょっと団長室に来てくれ。治療師長、ウィリアム借りてくぞ」と、治療室から連れ出された。
「遅くなったが……助かった。感謝する」
「ん~、はい、まあ、気にしないで下さい」
団長室。向かい合って座っているイーサンにガバリと頭を下げられ、ウィリアムは曖昧な笑顔で答えた。
「俺の体質の事は医療師長にしか言ってなくて、そのせいでお前に迷惑をかけてしまった」
「いえ、本当に気にしないで下さい。あの後、医療師長から聞きました。魔獣の毒に弱いというのは第三騎士団の団長としては不都合ですから。団員達の士気にも係わるので、秘密にするのは当然です」
「……すまない」
「いえ、本当に……かえって不快な思いをさせてしまったかと」
「いや! それは……そんな事は……」
困ったように目を逸らすイーサンに、ウィリアムは少し傷つきながらも、無理に笑顔をつくった。
「では、もうこの話は終わりという事で」
「そうはいかない! せめて何か、礼をさせてくれ」
「いえ、そういうのは結構ですので」
「頼む! 何か……」
「んん……」
(本当に何も要らないんだけど……いや、言った方が団長は安心できるのか)
確かに今回の事が公に知られるところとなれば、色々と都合が悪いだろう。毒を溜め込む体質も、散々問題を起こしてきた自分と、治療のためとはいえ行為に及んだことも。
(……腹が、立つな……)
信用されていないのか。それとも恥ずかしいと思っての事なのか。
「……そう、ですね……そこまで言うのでしたら……」
腕を胸の前で組んで片方の手を口元に持って行き、親指の先を少し噛んで考えて……
「団長の屋敷に、招待してもらおうかな」
「俺の?」
驚いたように声を上げるイーサンに、ウィリアムは笑いながら言った。
「ええ。騎士の方々が、招待されて一緒に酒を飲んだと話しているのを聞いて、羨ましく思っていたんですよ」
「そんな事?」
「ええ。無理ならいいですが」
「いや! 無理ではない、もちろんいいぞ。ウィリアムの次の休みはいつだ? 俺もそれに合わせるから」
「三日後ですが」
「そうか。じゃあ、三日後に」
「はい。ありがとうございます」
そう笑顔で頭を下げ、ウィリアムは部屋を出た。
「……断っても、良かったのに……」
複雑な気持ちで、ウィリアムは仕事に戻った。
ノックの音に、ウィリアムは目を覚ました。
(……何時だ?)
カーテンの隙間から明るい光が見える。
「ユージーン・フィンレイです」
「ああ……」
隣りでスウスウ寝息を立てているイーサンを起こさないように気を付けながらベッドを降り、床からグシャグシャになった衣類を拾い、急いで身に付けた。
「……おはよう。悪いね、待たせちゃって」
「いえ。早い時間にすみません。皆さんが起き出す前に、と思って」
「今何時?」
「5時です」
「そう……ありがとう」
しっかりした子だな、と思いながら扉から離れると、ユージーンはスルリと部屋の中に入ってきた。
「清潔」
入ってすぐに部屋全体を清浄にし、ウィリアム、そしてイーサンにもそれぞれ清潔をかける。
「本当にいいね、その魔法」
感心するウィリアムにコクリと頷いてから、ユージーンはローブの下から2本のポーションを取り出した。
「医療師長様からです。昨晩、施錠をかけて自室に向かおうとした時、医療師長様に会って……ウィリアムさんを探していたので、団長の体調が悪いようで治療中と伝えてしまいました。そうしたら、このポーションを渡されて……すみません、勝手に話してしまいました」
「いや、良かったよ。医療師長は団長の事、わかっているはずだから」
ポーションを受け取り、一本はベッド脇のテーブルに、そして一本はグイッと飲み干す。
(……良かった、復活できた……)
全身の痛みが緩和され、ホッとする。イーサンも目が覚めたら気づいて飲むだろう。
「では、私はこれで失礼します」
「ああ、本当に助かったよ、ありがとう」
ユージーンには「この事は他言無用」と言わなくても大丈夫だろうと思いながら、ウィリアムは礼を言った。
「さて、と……」
自分も皆が起き出す前に、自室に戻った方がいいだろう。
イーサンの寝息は穏やかで、大丈夫そうだ。
「……清潔かけてもらったし、夢だと思うかな……裸ではあるけれど」
クシャクシャの黒髪を撫で、いつもより幼く見える顔を見てから、ウィリアムはそっと部屋を出た。
「ウィリアム、今いいか?」
王都に戻って数日、何事もなかったように過ごしていたウィリアムの元にイーサンがやってきた。
「…………」
(良くないと言っていい? いや、そもそも別の件かもしれないし……)
「はい、大丈夫ですよ?」
少し間を置いてニッコリ微笑み答えると、「じゃあ、ちょっと団長室に来てくれ。治療師長、ウィリアム借りてくぞ」と、治療室から連れ出された。
「遅くなったが……助かった。感謝する」
「ん~、はい、まあ、気にしないで下さい」
団長室。向かい合って座っているイーサンにガバリと頭を下げられ、ウィリアムは曖昧な笑顔で答えた。
「俺の体質の事は医療師長にしか言ってなくて、そのせいでお前に迷惑をかけてしまった」
「いえ、本当に気にしないで下さい。あの後、医療師長から聞きました。魔獣の毒に弱いというのは第三騎士団の団長としては不都合ですから。団員達の士気にも係わるので、秘密にするのは当然です」
「……すまない」
「いえ、本当に……かえって不快な思いをさせてしまったかと」
「いや! それは……そんな事は……」
困ったように目を逸らすイーサンに、ウィリアムは少し傷つきながらも、無理に笑顔をつくった。
「では、もうこの話は終わりという事で」
「そうはいかない! せめて何か、礼をさせてくれ」
「いえ、そういうのは結構ですので」
「頼む! 何か……」
「んん……」
(本当に何も要らないんだけど……いや、言った方が団長は安心できるのか)
確かに今回の事が公に知られるところとなれば、色々と都合が悪いだろう。毒を溜め込む体質も、散々問題を起こしてきた自分と、治療のためとはいえ行為に及んだことも。
(……腹が、立つな……)
信用されていないのか。それとも恥ずかしいと思っての事なのか。
「……そう、ですね……そこまで言うのでしたら……」
腕を胸の前で組んで片方の手を口元に持って行き、親指の先を少し噛んで考えて……
「団長の屋敷に、招待してもらおうかな」
「俺の?」
驚いたように声を上げるイーサンに、ウィリアムは笑いながら言った。
「ええ。騎士の方々が、招待されて一緒に酒を飲んだと話しているのを聞いて、羨ましく思っていたんですよ」
「そんな事?」
「ええ。無理ならいいですが」
「いや! 無理ではない、もちろんいいぞ。ウィリアムの次の休みはいつだ? 俺もそれに合わせるから」
「三日後ですが」
「そうか。じゃあ、三日後に」
「はい。ありがとうございます」
そう笑顔で頭を下げ、ウィリアムは部屋を出た。
「……断っても、良かったのに……」
複雑な気持ちで、ウィリアムは仕事に戻った。
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