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おまけ 後日談
打診とその結果
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その夜、イーサン邸にて。
「それにしても、このお屋敷の皆さんのウィリアムさんに対するおもてなしの熱量は、すごいですねぇ」
客人として滞在しているドロリスが、感心したように言う。
「私達も本当に良くしてもらっているんですけど、なんかこう別格というか、ご主人様って感じですよね、イーサン様以上に」
「ドリー、それを言っちゃあイーサンが気の毒だろう」
「あっ、すみませんイーサン様」
ひと月ほど前に夫となったエイダン・アローに、あまり心のこもっていない『一応』という感じの注意をされ、ドロリスはペコリと頭を下げたが、自分でもずっと思っている事なので何とも思わないイーサンは「本当の事だから気にするな」と首を振った。
「それよりも、さっきの話だが……」
「ブリュワール公国行きの話だな。俺は、別に構わないが」
「私は是非! お供したいです。今や私達にとってこの王都は、住みにくい場所ですから」
隣りに座るエイダンを見て、ため息をつくドロリス。
「なんだよ、俺が悪いのか?」
「いいえそうではなく……私が旦那様に迷惑かけちゃったと思って……」
「お前のせいだと決まったわけじゃないし、この状況は俺としてはありがたい事だから気にするな。……ほら、そんなすまなそうな顔をするな。可愛い顔が台無しだぞ」
「旦那様♡」
イチャイチャする二人を、無感情、いや『そういうのは二人きりのところでやってくれ』という気持ちで見つめるイーサン。
「本当にエイダン様は、お若くなりましたからね」
感心したように言うウィリアム。
「イーサン様とあまり年齢が変わらないように見えますよ」
「そうだよな、10歳以上若返ったように見える」
「ん~、まあ確かになぁ……気力、体力が一番充実してた頃の感覚がある。これじゃあ、どういう魔法を使ったかと詮索されるのは仕方がないか……」
そう。
ドロリスと結婚して、エイダンは確実に若返った。それは『若い嫁をもらったから張り切って』とニヤニヤされる以上のもので、第三騎士団内だけではなく他の貴族や王族にまで興味を持たれ始めた為、慌てて第三騎士団を辞め、イーサンが自分の屋敷にかくまう事になったほどだ。
「失われた古代の魔術か、それとも聖女の能力か、なんて囁かれていましたからね。……実際のところ、どうなんでしょう」
「んー……どう、だろうな。少なくとも、俺の魔術ではないが」
「私もわからないんですけど……まあ……もしかしてアレかなぁ、っていうのは……ねえ、旦那様?」
「ん? ん~、まあ……だがはっきりしないしな。憶測で口にすれば他の聖女達に迷惑がかかる恐れがあるからな。俺はたぶん、ドリーだけが特別にもってる能力だったと思う。そしてそれはもう、失われたとな」
「……ああ……なるほど……」
「ん? んんっ?」
察したウィリアムと、ピンときていないイーサン。
「ウィル、わかったのか?」
「ええと……なんとなく?」
「俺は全然だ。なんなんだ?」
「あー、それは……いえ、はっきりとわかったわけではありませんし」
「ウィルの考えでいいから」
「ん~、いえ、きっと違います、やっぱりわかりません」
「誤魔化すなよ」
「いえ本当に……」
「あのぉ、処女性ですよ」
はぐらかす事ができずに苦労しているウィリアムを見かねて、ドロリスが言う。
「えっ? ああ!」
やっと気づき、しまった、と思うイーサンだったが、
「あくまでも予想なんですけどね。初夜の翌朝目を覚ましたら若くなっていたので、たぶんそうかと……。でも、これまで聖女と結婚した人が若くなったという話は聞いた事がないので……」
「ドリーの能力が特別だという可能性がある、という事だ。だからこの件は内密に」
エイダンの言葉に、イーサンとウィリアムは真剣な表情で頷いた。
「確かに、若返る事ができると言われたら、どんな手を使ってでも試そうとする不届き者が出て来そうだしな」
「そうですね。乙女じゃなくても試そうとする輩も出てくるかもしれません。聖女を守る為、絶対に感づかれないようにしなければ。そもそも、ドリーだからだと思いますし。なんせ、他の聖女が治す事ができなかったイーサン様の病を治したのですから」
「そうかもしれません。ただ、他の人がしないであろう事をエイダン様がしたから、それが原因かもしれないんですよね。エイダン様ったら破瓜の血を」
「はっ? ドリー! 大丈夫! 言わなくていいから!」
慌ててウィリアムが口を挟む。
「え?」
「本当に大丈夫。エイダン様、貴方が奥様を止めて下さらないと!」
「ドリーを止めるなんて、俺はとっくに諦めてんだよ。それと言っとくが、今回初めてだからな、あんな事をしたのは。今まで一度も……というか、処女相手も初めてだったし。不思議な事に、なんだかそうしなきゃいけないような気がして……」
「ああもう本当にいいですから、エイダン様も。そのあたりの事はお二人の大切な思い出として胸にしまっておいてください!」
「お、おお、そうか……わかった……」
ウィリアムの剣幕にタジタジとなりながらエイダンは頷き、
「ああ、で、話を戻しきちんと返答しておこう。我々二人、ブリュワール公国行き、承った」
薄い唇の端をクイッと上げ、笑いながらそう言った。
「それにしても、このお屋敷の皆さんのウィリアムさんに対するおもてなしの熱量は、すごいですねぇ」
客人として滞在しているドロリスが、感心したように言う。
「私達も本当に良くしてもらっているんですけど、なんかこう別格というか、ご主人様って感じですよね、イーサン様以上に」
「ドリー、それを言っちゃあイーサンが気の毒だろう」
「あっ、すみませんイーサン様」
ひと月ほど前に夫となったエイダン・アローに、あまり心のこもっていない『一応』という感じの注意をされ、ドロリスはペコリと頭を下げたが、自分でもずっと思っている事なので何とも思わないイーサンは「本当の事だから気にするな」と首を振った。
「それよりも、さっきの話だが……」
「ブリュワール公国行きの話だな。俺は、別に構わないが」
「私は是非! お供したいです。今や私達にとってこの王都は、住みにくい場所ですから」
隣りに座るエイダンを見て、ため息をつくドロリス。
「なんだよ、俺が悪いのか?」
「いいえそうではなく……私が旦那様に迷惑かけちゃったと思って……」
「お前のせいだと決まったわけじゃないし、この状況は俺としてはありがたい事だから気にするな。……ほら、そんなすまなそうな顔をするな。可愛い顔が台無しだぞ」
「旦那様♡」
イチャイチャする二人を、無感情、いや『そういうのは二人きりのところでやってくれ』という気持ちで見つめるイーサン。
「本当にエイダン様は、お若くなりましたからね」
感心したように言うウィリアム。
「イーサン様とあまり年齢が変わらないように見えますよ」
「そうだよな、10歳以上若返ったように見える」
「ん~、まあ確かになぁ……気力、体力が一番充実してた頃の感覚がある。これじゃあ、どういう魔法を使ったかと詮索されるのは仕方がないか……」
そう。
ドロリスと結婚して、エイダンは確実に若返った。それは『若い嫁をもらったから張り切って』とニヤニヤされる以上のもので、第三騎士団内だけではなく他の貴族や王族にまで興味を持たれ始めた為、慌てて第三騎士団を辞め、イーサンが自分の屋敷にかくまう事になったほどだ。
「失われた古代の魔術か、それとも聖女の能力か、なんて囁かれていましたからね。……実際のところ、どうなんでしょう」
「んー……どう、だろうな。少なくとも、俺の魔術ではないが」
「私もわからないんですけど……まあ……もしかしてアレかなぁ、っていうのは……ねえ、旦那様?」
「ん? ん~、まあ……だがはっきりしないしな。憶測で口にすれば他の聖女達に迷惑がかかる恐れがあるからな。俺はたぶん、ドリーだけが特別にもってる能力だったと思う。そしてそれはもう、失われたとな」
「……ああ……なるほど……」
「ん? んんっ?」
察したウィリアムと、ピンときていないイーサン。
「ウィル、わかったのか?」
「ええと……なんとなく?」
「俺は全然だ。なんなんだ?」
「あー、それは……いえ、はっきりとわかったわけではありませんし」
「ウィルの考えでいいから」
「ん~、いえ、きっと違います、やっぱりわかりません」
「誤魔化すなよ」
「いえ本当に……」
「あのぉ、処女性ですよ」
はぐらかす事ができずに苦労しているウィリアムを見かねて、ドロリスが言う。
「えっ? ああ!」
やっと気づき、しまった、と思うイーサンだったが、
「あくまでも予想なんですけどね。初夜の翌朝目を覚ましたら若くなっていたので、たぶんそうかと……。でも、これまで聖女と結婚した人が若くなったという話は聞いた事がないので……」
「ドリーの能力が特別だという可能性がある、という事だ。だからこの件は内密に」
エイダンの言葉に、イーサンとウィリアムは真剣な表情で頷いた。
「確かに、若返る事ができると言われたら、どんな手を使ってでも試そうとする不届き者が出て来そうだしな」
「そうですね。乙女じゃなくても試そうとする輩も出てくるかもしれません。聖女を守る為、絶対に感づかれないようにしなければ。そもそも、ドリーだからだと思いますし。なんせ、他の聖女が治す事ができなかったイーサン様の病を治したのですから」
「そうかもしれません。ただ、他の人がしないであろう事をエイダン様がしたから、それが原因かもしれないんですよね。エイダン様ったら破瓜の血を」
「はっ? ドリー! 大丈夫! 言わなくていいから!」
慌ててウィリアムが口を挟む。
「え?」
「本当に大丈夫。エイダン様、貴方が奥様を止めて下さらないと!」
「ドリーを止めるなんて、俺はとっくに諦めてんだよ。それと言っとくが、今回初めてだからな、あんな事をしたのは。今まで一度も……というか、処女相手も初めてだったし。不思議な事に、なんだかそうしなきゃいけないような気がして……」
「ああもう本当にいいですから、エイダン様も。そのあたりの事はお二人の大切な思い出として胸にしまっておいてください!」
「お、おお、そうか……わかった……」
ウィリアムの剣幕にタジタジとなりながらエイダンは頷き、
「ああ、で、話を戻しきちんと返答しておこう。我々二人、ブリュワール公国行き、承った」
薄い唇の端をクイッと上げ、笑いながらそう言った。
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