スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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おまけ 聖女の秘密

本気なので 

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「……と、まぁ、とんでもない告白をされたんだが……本当なのか?」
「え、ええ……まぁ……」

 エイダンに尋ねられ、少々困ったように頷くノア。
 食事会の翌日。
 夜、部屋にやってきたエイダンは「お前と姉さんは前世の記憶があって、しかも全然違う文化をもつ所で生活していたのか?」といきなり質問してきた。
 ノアとしては、姉がどこまで話したのかわからないし、異世界なんて事を話していいものかどうなのか困ってしまったのだが、

「聖女様には了承をとっている。本当の事か、確かめたいだけなんだ。俺は彼女から聞いた事についてだけ尋ねる。聞いた振りをして新しい事を聞き出そうとは思わん」
「はぁ……えーと……じゃあ、私が答えられる範囲で……言っていい事か迷ったときは、話しませんよ?」
「ああ、それでいい」

 こうして、二人は答え合わせを始めたのだが。

「ドリーとノアの前世での享年は?」
「姉が31で、私が24です」
「くっ……本当なのか……」

 早速、顔を顰めるエイダン。

「だが確かに、ドリーがあれで10代っていうのは精神年齢的に違和感ありまくりだからな……その点ノアは年齢通りだが」
「はあ……まあ、ええ……」

 何とも返しようがなく、曖昧な笑顔をつくるノアに、エイダンは次の質問をしてきた。

「ドリーは絵を描く仕事をしていたと聞いたが」
「そうですね、はい。私はそのアシ、えっと、助手をしていました」
「画家、ってわけではないんだよな?」
「ん~、こっちで同じ職業は無いからなぁ……絵物語、っていうんですかね、絵主体の本を描いていました。だから絵が上手いんですよ」
「んん……で、結婚はしていなかったと」
「そうですね。付き合った人もいなかったと思いますよ、仕事の方が楽しくて。まぁ私もですけど、結婚する年齢がここと比べると遅めで、そもそも結婚しない人もけっこういたのであんまり気にしていなかったと思いますね」
「はぁ……そうか……本当なのか……」

 深いため息をつき考え込んでいるエイダン。
 異世界や自分の描いた話の世界、というような事は話さなかったんだとホッとしながら、ノアは「なんか、すみません」と頭を下げた。

「いや、ノアに謝ってもらうような事ではなく……ただ、信じられない事が本当だったんで驚いてしまってな……」
「ですよね。私自身、驚いてます。前の記憶を思い出したのはけっこう最近で『嘆きの森遠征』の少し前でした。姉は遠征から帰った後だって言ってましたし」
「信じられない話だが、ドリーの言動見ていると妙に納得できるんだよなぁ……はぁ」
「すみません……」
「いやだから、ノアは謝る必要無くて……というか、このため息は、自分の事でついているため息だ」

 苦笑しながら、エイダンはノアを見た。

「ドロリスから話を聞いて、正直迷ってるんだ。ようやく成人したドロリスと俺とでは、親子ほど年が離れている。どうこうなるのはありえない。だが、ドリーに自分は31歳まで生きた記憶があると言われて、31歳だったらまあ有りか、と思ってしまったり……いや、それでも、10歳以上の年の差があるんだがな」
「そうですね。でも2、30歳の差くらい、別に珍しくないですよね? しかも姉がエイダン様の事を本気で好きで望んでいるのだから、俺は交際に賛成ですけど」
「本気か? ノア。お前の姉がこんなジジイと結婚して、本当にいいのか?」
「はい。そもそもエイダン様はジジイじゃないですよ。てか、結婚ですか?」
「ああ。ドロリスが本気だって言うから……こっちだって本気で向き合わないと、だろう?」
「あー、まあ、その方が弟としてもありがたいですけど、姉はそこまで責任とってもらわなくてもいいって言いそうだなって……」
「確かにそう言ってた、俺に負担はかけないとかなんとか。その辺も、ここの考え方と違うんだろうな。……だが俺が嫌なんだよ、素人に遊びで手は出さない。それにあんなに好きだと言われて懐かれちゃ、意識してしまうってもんだろう? 」
「え? あ! じゃあエイダン様、姉ちゃんの事……」
「まあ……それなりには、なぁ。仕事に取り組む姿勢は尊敬するし、性格もいいし、見ていて飽きないよな。……はぁ、参った、こういう感情は慣れなくて持て余す」

 頭を掻きながらそう言うエイダンの表情や仕草に『キュートなイケオジ!』とドキッとしてしまうノア。

「よ、よろしくお願いします、お義兄さん」
「お義兄さんは早いだろう」

 口の端を少し上げて笑うエイダンに、キュンとしてしまうノアだった。




「……で、なんだ、つまりエイダンとドリーは、結婚を前提に付き合う事にすると」
「まあ、そういうことだな」
「はい、イーサン団長!」

 飄々としたエイダンと、元気いっぱい幸せいっぱい! といった表情のドロリスに、イーサンは思わず目を瞑り天を仰いだ。

「あー……うん……で、どうするんだ? どっちが移動、もしくは辞める?」

 年齢からいってエイダン、いやしかしドリーは女性で第三は過酷だし、と思いながら目を開けて二人を見ると、

「う~ん……」
「えーと……」

 二人の困った表情に、珍しいな、という感想をもつ。

「どうかした……あっ、もしかして二人とも辞める気か?」
「それは無いです無いです!」

 慌てるイーサンにドロリスも慌てて言う。

「出来ればこれからも二人で第三にいたいんですけど……なんか、付き合ってるとどちらか移動になると聞いて、どうにかならないものかと相談したくて……」
「結婚前提って言っても、まだ先だろう? しばらく秘密にしておくとか考えなかったのか?」

 もう何年も(ある程度ばれているようだが)内緒で交際しているイーサンは首を傾げたが、「それが……」とドロリスがちらちらエイダンを見ながら言う。

「エイダン様が、イイコトは、結婚してからじゃないとダメだって言うので……」
「イイコト……はあっ?」

 彼女の言う『イイコト』の意味がわかり、いきなり何を言い出しているんだ? と慌てるイーサンに気づかず、ドロリスは恥ずかしがる事なくハキハキと話す。

「私はもう、すぐにでもしたいんです! ちゃんと成年済みだし、成年前に結婚する人もいるんだし。でもエイダン様がダメっ言うので、じゃあ結婚するって言ったら、団長に相談してからって……」
「はぁ……なる、ほど?」
「……そんな目で見るな、イーサン。俺だって困ってるんだから」
「ん~~~」

 この場で困っていないのは、ドロリス一人だけである。

「結婚しても一緒に所属し続けられないでしょうか。私は来たばかりだし、できれば結婚してからも働きたいんです。子供が出来たら休むか辞めるかしなきゃいけないとは思いますが、それまでは……」
「ん~~~」
「それか! 団長からエイダン様に言ってもらえないでしょうか、結婚前でも閨事をしていいだろうって」
「いやそれは、俺がどうこう言う事じゃないだろう」
「だって私がいくら言ってもダメだとしか」
「あのなあドリー」

 面倒そうに頭を掻きながらエイダンが口を開いた。

「なんでそう急ぐ? お前、俺の事本気で好きだとか言ってるくせに、やりたいだけなのか?」
「ちっ、違います! 私は本当にエイダン様が好きなんです! だから、エイダン様がお付き合いを了承してくれたこの機会を逃したくないんです! 気が変わったとか、やっぱりやめるとか言われないように、早く既成事実をつくっておきたくてっ!」
「はぁ……」

 両手を握りしめ力説するドロリスに呆れた表情を向け……エイダンは大きく息を吐いた。

「まったく……なんて馬鹿げた心配をしている?」
「馬鹿げたって、そんな……」
「だってなぁ、俺は本気だぞ? お前を抱いて、満足させて、それで終わりにしたくないから結婚するって言ってんだ。気が変わったとか、やっぱりやめるだとか、そういう事を心配してるのはむしろ俺の方だぞ。だから、ちゃんとお前が考える時間を設けるって言ってんのに……まったく……はぁ……まあ、心配して不安なのは、二人とも一緒か」
「……エイダン様……」
「ドリー、誕生日はいつだ?」
「葡萄の月6日です」
「じゃあ、来年のその日、結婚しよう。それまで、本当にこんなジジイと結婚していいのかちゃんと考えるんだ。閨事はそれまでは無し」
「そんなっ! まだまだずっと先」
「一年もないだろ、少し我慢しろ。俺の事を、手に入れたきゃな」

 そう言ってニヤリと笑うエイダンに、パッと頬を染めるドロリス。少しもじもじした後で、コクリと頷いた。

「わかりました。でもそのかわり! エイダン様も娼館遊びを控えていただけませんかっ? 前は気にならなかったけど、付き合うとなったら……私とはしてくれないのに他の女性とするだなんて、悔しくって泣いてしまいます!」
「いや、ここ数年はしてねぇって。酒を飲むだけで」
「でもっ! 何があるかわからないじゃないですか! 金づるを逃さないようにって、酔ったところで上に乗っかられるかもしれませんっ!」
「あーあーわかったよ。娼館行くのはやめる。そのかわり、ドリーが飲みに付き合うんだぞ」
「はい! 喜んで!」

 そんな二人の会話を大人しく聞いていたイーサンが「ハイハイ」と手を叩いた。

「話がまとまったようだな。できれば、二人でその話まとめてから来て欲しかったが……まあいい。じゃあ、とりあえず葡萄の月までは二人の仲は内緒で。あと休みはできるだけ一緒にしてやる」
「ありがとうございます!」
「悪いな、イーサン」

 こうして第三騎士団にまた一組、内緒で付き合っているカップルが誕生したのだった。



 

☆これにて『聖女に秘密』終わりです。今後、全員が関わる『後日談』を書きたいのですが、これはまだ構想段階というか、構想もまださわりだけなので、いつになるか不明です。ここまで読んでいただきましてありがとうございました。またお会いで来たら嬉しいです。

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